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自分は①
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薄暗い中で、モニターを通して見ている。そんな感覚。何時ぐらいか見ているか、わからないけど、疑問も持たずに、ずっとそうしていた。
『ウィンティア、院長先生がお呼びですよ』
と、中年のシスターが声をかけてきた。
『えーっ、ティアお姉ちゃん、ご本読んでよーっ』
小さな女の子の声。モニターが動き、写し出したのは、熊の絵が表紙の絵本を抱えた5歳くらいの女の子が映える。視線が女の子の位置に移動する。
『後で読んであげるからね』
そう、モニターの主は、優しく女の子に声をかけている。優しい声は心地がいい。女の子は、ぶうっ、と頬を膨らませたが、しぶしぶ納得してくれている。
きっと、モニターの主は、話の後で女の子の為に絵本を読んであげるんだろう。
景色が移動する。
石造りの建物内を移動して、ある扉の前に。
ノック。
『院長先生。ウィンティアです』
『入りなさい』
『失礼します』
扉の向こうには、書類の束が重なっている机に着いている穏やかな老女。そして、表情が硬い茶髪の中年シスター。
『ウィンティア、さあ、座って』
穏やかな老女、院長先生がソファーに着席を促す。
『失礼します』
対面のソファーに院長先生が、足を少し引きずりながら移動して座る。モニターを通して、この主の沸き上がる不安と緊張が伝わる。ゆっくりと、院長先生が切り出す。
『落ち着いて聞いてちょうだい。貴女を、ローザ伯爵家に返すことになりました』
ドクンッ
モニターの主の心臓が破裂するような音が響く。それは継続して響き渡る。モニターの向こうでは、困ったような院長先生と、更に表情を硬くしたシスター。
『院長先生、私はやはり反対です。また、あのような場所にウィンティアを返すなんて。どのような仕打ちを受けるか』
『ですが、これ以上引き伸ばす訳には。学園に通えば、ウィンティアの視野が広がり、将来の可能性が広がります』
『ウィンティアが苛められたらどうするのですかっ。外の世界は、彼女には優しくありませんっ』
院長先生とシスターの話が、他人事の様に通り抜けていく。モニターの内側は、激しい音が鳴り響いて止まらない。モニターの映像がブレ始める。こんなの、初めてだ。
『貴女の心配は分かりますが、相手側もウィンティアとの接見を求めています。ウィンティアの事情を汲んでのこのお話です。きっと、ウィンティアを守ってくれるはずです』
『そんなのっ、向こうがウィンティアをいいように利用したいだけですっ』
シスターの口調が激しくなる。モニターの内側に響く音が激しくなる。ブレが激しくなる。止まらない。
『そうなれば、ウィンティアの意思で、ここに戻って来ればいいだけ。ローザ伯爵家はそれだけは絶対に避けたいはず。定期的にこちらと連絡を取る手筈にしています。ウィンティアを粗雑には決して扱えないのです』
『しかし、院長先生っ、ウィンティア、どうしました? ウィンティア、ウィンティアッ』
鳴り響く音が、ぷつん、と途切れた。
そして、初めて、モニターが光を失った。
『ウィンティア、院長先生がお呼びですよ』
と、中年のシスターが声をかけてきた。
『えーっ、ティアお姉ちゃん、ご本読んでよーっ』
小さな女の子の声。モニターが動き、写し出したのは、熊の絵が表紙の絵本を抱えた5歳くらいの女の子が映える。視線が女の子の位置に移動する。
『後で読んであげるからね』
そう、モニターの主は、優しく女の子に声をかけている。優しい声は心地がいい。女の子は、ぶうっ、と頬を膨らませたが、しぶしぶ納得してくれている。
きっと、モニターの主は、話の後で女の子の為に絵本を読んであげるんだろう。
景色が移動する。
石造りの建物内を移動して、ある扉の前に。
ノック。
『院長先生。ウィンティアです』
『入りなさい』
『失礼します』
扉の向こうには、書類の束が重なっている机に着いている穏やかな老女。そして、表情が硬い茶髪の中年シスター。
『ウィンティア、さあ、座って』
穏やかな老女、院長先生がソファーに着席を促す。
『失礼します』
対面のソファーに院長先生が、足を少し引きずりながら移動して座る。モニターを通して、この主の沸き上がる不安と緊張が伝わる。ゆっくりと、院長先生が切り出す。
『落ち着いて聞いてちょうだい。貴女を、ローザ伯爵家に返すことになりました』
ドクンッ
モニターの主の心臓が破裂するような音が響く。それは継続して響き渡る。モニターの向こうでは、困ったような院長先生と、更に表情を硬くしたシスター。
『院長先生、私はやはり反対です。また、あのような場所にウィンティアを返すなんて。どのような仕打ちを受けるか』
『ですが、これ以上引き伸ばす訳には。学園に通えば、ウィンティアの視野が広がり、将来の可能性が広がります』
『ウィンティアが苛められたらどうするのですかっ。外の世界は、彼女には優しくありませんっ』
院長先生とシスターの話が、他人事の様に通り抜けていく。モニターの内側は、激しい音が鳴り響いて止まらない。モニターの映像がブレ始める。こんなの、初めてだ。
『貴女の心配は分かりますが、相手側もウィンティアとの接見を求めています。ウィンティアの事情を汲んでのこのお話です。きっと、ウィンティアを守ってくれるはずです』
『そんなのっ、向こうがウィンティアをいいように利用したいだけですっ』
シスターの口調が激しくなる。モニターの内側に響く音が激しくなる。ブレが激しくなる。止まらない。
『そうなれば、ウィンティアの意思で、ここに戻って来ればいいだけ。ローザ伯爵家はそれだけは絶対に避けたいはず。定期的にこちらと連絡を取る手筈にしています。ウィンティアを粗雑には決して扱えないのです』
『しかし、院長先生っ、ウィンティア、どうしました? ウィンティア、ウィンティアッ』
鳴り響く音が、ぷつん、と途切れた。
そして、初めて、モニターが光を失った。
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