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父親が横領の罪で捕まらなかったIFバージョン

第6話  対戦

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入隊から二週間が過ぎた。
新兵の20人のうち、なんと既に5人が姿を見かけなくなってしまった。

まだ新兵は、付いていくのにやっとで、・・・・いや、リタイアしないだけで精いっぱいで、任務に就くどころか実技訓練すら行っていない。
先輩騎士達が実技訓練をしている時間は、ひたすら体力づくりか、素振り、型をなぞったりしていた。



「ユージーン・フェルクス。イルゼ・シュナイツ。2人は今日から実技訓練にも混ざるように。」

よし!

イルゼは内心で叫んだ。
体力づくりの基礎訓練は、イルゼに少々不利だった。まあだからこそ、逆に訓練が必要であることは、分かっていたが。
イルゼの本領が一番発揮されるのは、その剣技だった。

物心つくまえから、父と打ち合いをしていたのだ。
それが父との唯一の遊んだ記憶。
・・・・遊びだか訓練だか分からないほど激しかったらしいが。


歩くのや走るのと変わらないくらい、体に馴染んでいる。
少なくとも同年代には、負けた事がない。


この2週間、基礎訓練だけでさすがに参りかけていたイルゼは、思いっきり鬱屈を晴らすべく、練習用の刃の潰した剣を受け取った。



「順番に並べ。笛が鳴ったら、次の相手と交代するように。それでは始め!!」

5分毎に相手を変えて、順番に打ち合いをしていくらしい。
訓練の打ち合いで、当然体には当てない。打って良いのは相手の剣だけ。その条件であっても、騎士団に入るような実力者同士だと、勝敗は自分たちで分かる。


――――この人は少し背筋が弱い。打ち合った時、もう一押しすればバランスを崩す。

――――この人は左利きか。活かしきれていないな、もったいない。

――――勝ち気が足りない。お上品な、試合会場じゃ、ないんだぞ!!!!




「――――ッ!そ、そこまで!!!」


あれ。もう終わりか。
打ち合ったのは8人。一人5分で、交代と交代の間が2分だったので、1時間弱。あっと言う間に過ぎ去っていった。

この集中した時間が、なんとも言えず、イルゼは好きだった。




ユージーンとの順番は回ってこなかった。残念だ。
騎士学校に通っていた時は、実力順で必ず相手していたのに。


「8戦全勝した者だけ立て。」

部隊長の言葉に、殆どの者が座る。

立っている人物を見て、訓練場に驚愕が広がった。

訓練する者と、職務に就くもので分かれているので、今日の実技訓練に参加しているのは、イルゼとユージーンを加えて20人。
そのうち、全勝したのは、イルゼを含め2人。


もう1人は、ユージーンだ。





――――おいおい、マジかよ。卒業したばかりのひよっこだぞ。
アレフのやつ、2敗してたぞ。
マジかよ。
俺は負けてないね。
お前、ラッキーで当たらなかっただけだろ!




「静かに。それでは立っている2人は前に出ろ。せっかくだ。白黒つけておけ。」

「「はい!!」」

部隊長の言葉に、ユージーンと向き合う。
鋭く冷たい目が、イルゼを射抜く。

これだ。これがイルゼの知っているユージーンだ。

ここ2~3週間のユージーンの言動で、もしかしたら何かと中身が入れ替わっているのかと、本気で考え始めていたイルゼだった。


変わっていない。
女だからと手加減する気など一切ない、好敵手と認めた相手を食い殺す勢いの目。

この目と対戦することが嬉しくて、イルゼは笑った。
獲物を見つけた狼のように。




――――体中、素晴らしい筋肉が付いている。

――――バランスが良い。ここ2週間だけで大分変った。

――――気力も申し分ない。負ける事など微塵も考えていないな。



では、この相手にどうしたら勝てるだろうか。
とうに5分は過ぎているが、笛はならなかった。




―――――そんなの決まっている。技で、実力で、押して、押して、押して、押して、押して、押して、押しまくる!!!!!!!





「そこまでぇ!!勝負あり!勝者イルゼーーーー!!!!!」


うおおおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーーー!!!!



固唾をのんで見守っていた隊員たちが、興奮して雄たけびの声をあげる。
気が付けば他の団の者も集まってきていた。

何かの大会の決勝戦が行われたのかと勘違いするほどの歓声の中、座り込んでいるユージーンに手を貸すイルゼ。


「・・・・・・恐ろしい女だな。」
「誉め言葉だ。」




素直にイルゼの手を取る負けたユージーンの顔は、悔しさを感じさせずさっぱりとしたものだった。



次は、勝つ。それだけのことだ。






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