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ヴァンパイア編。
25.火は苦手だ。
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船旅って、やること無い。
いや、無いことはないと思うんだけどさ?
掃除とか? 自分の部屋以外は掃除するなって、カイルに言われた。まあ、カイルは屋敷妖精だし? 掃除なんかの家事をするのは、彼らの本能に染み付いた働きというやつ。仕事を盗るのかと言われれば、そこまでの思い入れが家事にあるワケじゃないオレとしては、引き下がるしかない。
忙しくしているヒトの邪魔はできない。
ジンとヒューはなぁ・・・
ぶっちゃけ、まだ信用してない。
アマラは割と好きだが、邪険にされた。人魚の加護のお陰で、オレにはアマラの領域内での移動制限やら、アマラの魔術諸々が掛けられないらしい。だからこそ、アマラの意志は尊重しなければいけないだろう。
で、雪君のとこでだらだらしているワケだ。料理の仕込みをしながら適当に相手してくれるし。
今も、野菜や果物の鮮度を回復させたばかりだ。そして、暇だと訴えたら、料理の仕込みが終わったら相手してやると言われたので、終わるまで待っているところだ。
暇なら、自分の仕事するか。と言いたいが・・・
ダイヤ商会関係の仕事は、脳内で捏ねくり回せばできるし。つか、基本オレの仕事は口出しだけ・・・
一応、材料の加工なんかも仕事なんだけどね。それは現物が無いことには、どうにもできない。
加工というのは、素材の硬度や強度を変えること。例えば、鉄鉱石なんかだと、結晶配列に干渉して結晶の均一化や不純物の除去などで硬度を増したりとかね。そうした良質の素材を弟へ渡す。
熱や圧力を加えずに結晶構造を弄れるのは、地水火風に適性を持つオレの特性。なんて表現すればいいだろうか? お願いしたら、鉱物が言うことを聞いてくれる…というのが近いかな。
勿論、大規模なことは無理だが、少量の鉱物の結晶配列を弄るくらいはできる。まあ、中には言うことを聞いてくれない気難しい鉱物もあるけどさ。
まあ、水を弄るのが、オレには一番簡単だけどね。不定形で形を変え、分子結合が弱い。柔らかいが故に、どんな隙間にも入って行けて、引っ張ればどんな風にも姿を変えられる。とても面白い。
これは風も同様。飛ぶときに多用する。
火は・・・苦手だな。怖い。熱いのは嫌いだし。火傷は痛くて、非常に辛い。
それに、弟が火属性…焔の申し子だ。アイツを越える程の適性は、オレには無い。
というか…昔、奴がまだ自分で焔の制御ができなかった頃、燃やされたな・・・奴の肩にぽんと触って、手の平の皮膚が炭化した。非常に痛かった。びっくりして泣いたし。まあ、一瞬の高温だったから皮膚だけで済んだのが不幸中の幸いだが・・・
治るまでの地獄の痛み・・・
因って、火は苦手だ。
あれは、怖い…
とても、怖かった・・・
手足に走る鋭い痛みと熱。自分の顔面がじわじわ焼かれる感触と、その臭い・・・『ホント、君って学習しないよね? 馬鹿にも程があるでしょ』冷たい少年の声。『いい加減覚えろよ。僕から逃げるなんて、赦さない』暴れるオレを押さえ付けるのは…『あれ? やり過ぎた? 死ぬ? 全く、これだから脆弱な混血は・・・ねえ、×××? 君さ、勝手に死んでいいとでも思ってるの?』酷薄な金色の『そんなの、赦さない』…瞳、で・・・
あ、れ? ・・・炭化したことあるのは、手の平だけ…の筈なのに、なぜか手足や…顔面に火傷したような覚えが・・・? っていうか、なに今の? 冷たい声?酷い痛み?なんで、そんなこと…が・・・『アレクシア、忘れろ。奴を思い出すな』父上の声が、脳裏に響く。『もう大丈夫だから、アレク』どこか辛そうな、声で・・・
・・・だから、忘れないと・・・『そう。思い出しちゃ駄目だよ? 忘れてなよ。ね、アル?』甘く、艶やかな声が脳裏に・・・そしてなにかが、深く沈んで行く。
あ、れ? なにを…考えてたんだっけ?
…なんか・・・気分悪いな。
「アル?」
呼ばれた声に、ハッと顔を上げる。
「…雪、君?」
「お前顔色悪ぃぞ? どうした?」
「いや・・・なんだろ?」
よくわからない。けど、気分が悪い。
胸がざわつく。
「なんだ、調子悪ぃのか?」
「いや…」
調子は、悪くない…筈だ。
「…一応、仕込みは終わったが・・・今日はやめとくか?」
「いや、大丈夫。やろう。身体動かせば治る。っていうか、動かしてないから調子悪いんだよ」
「いや、お前それ、自分の顔見て言えよ」
「嫌だ! 遊ぼう、雪君」
じりじりとした焦燥感が胸に募る。
「・・・ジンを呼ぶ。ストップが掛かったら、そこで終わりだ。いいな? アル」
溜息混じりの雪君に頷く。
「それでいいよ」
弱いと、駄目だ。
抵抗すら、できない。
そんなのは、嫌だ。厭だ。絶対に厭。
なら、どうする?
鍛えるしかないだろう。自分を。
いや、無いことはないと思うんだけどさ?
掃除とか? 自分の部屋以外は掃除するなって、カイルに言われた。まあ、カイルは屋敷妖精だし? 掃除なんかの家事をするのは、彼らの本能に染み付いた働きというやつ。仕事を盗るのかと言われれば、そこまでの思い入れが家事にあるワケじゃないオレとしては、引き下がるしかない。
忙しくしているヒトの邪魔はできない。
ジンとヒューはなぁ・・・
ぶっちゃけ、まだ信用してない。
アマラは割と好きだが、邪険にされた。人魚の加護のお陰で、オレにはアマラの領域内での移動制限やら、アマラの魔術諸々が掛けられないらしい。だからこそ、アマラの意志は尊重しなければいけないだろう。
で、雪君のとこでだらだらしているワケだ。料理の仕込みをしながら適当に相手してくれるし。
今も、野菜や果物の鮮度を回復させたばかりだ。そして、暇だと訴えたら、料理の仕込みが終わったら相手してやると言われたので、終わるまで待っているところだ。
暇なら、自分の仕事するか。と言いたいが・・・
ダイヤ商会関係の仕事は、脳内で捏ねくり回せばできるし。つか、基本オレの仕事は口出しだけ・・・
一応、材料の加工なんかも仕事なんだけどね。それは現物が無いことには、どうにもできない。
加工というのは、素材の硬度や強度を変えること。例えば、鉄鉱石なんかだと、結晶配列に干渉して結晶の均一化や不純物の除去などで硬度を増したりとかね。そうした良質の素材を弟へ渡す。
熱や圧力を加えずに結晶構造を弄れるのは、地水火風に適性を持つオレの特性。なんて表現すればいいだろうか? お願いしたら、鉱物が言うことを聞いてくれる…というのが近いかな。
勿論、大規模なことは無理だが、少量の鉱物の結晶配列を弄るくらいはできる。まあ、中には言うことを聞いてくれない気難しい鉱物もあるけどさ。
まあ、水を弄るのが、オレには一番簡単だけどね。不定形で形を変え、分子結合が弱い。柔らかいが故に、どんな隙間にも入って行けて、引っ張ればどんな風にも姿を変えられる。とても面白い。
これは風も同様。飛ぶときに多用する。
火は・・・苦手だな。怖い。熱いのは嫌いだし。火傷は痛くて、非常に辛い。
それに、弟が火属性…焔の申し子だ。アイツを越える程の適性は、オレには無い。
というか…昔、奴がまだ自分で焔の制御ができなかった頃、燃やされたな・・・奴の肩にぽんと触って、手の平の皮膚が炭化した。非常に痛かった。びっくりして泣いたし。まあ、一瞬の高温だったから皮膚だけで済んだのが不幸中の幸いだが・・・
治るまでの地獄の痛み・・・
因って、火は苦手だ。
あれは、怖い…
とても、怖かった・・・
手足に走る鋭い痛みと熱。自分の顔面がじわじわ焼かれる感触と、その臭い・・・『ホント、君って学習しないよね? 馬鹿にも程があるでしょ』冷たい少年の声。『いい加減覚えろよ。僕から逃げるなんて、赦さない』暴れるオレを押さえ付けるのは…『あれ? やり過ぎた? 死ぬ? 全く、これだから脆弱な混血は・・・ねえ、×××? 君さ、勝手に死んでいいとでも思ってるの?』酷薄な金色の『そんなの、赦さない』…瞳、で・・・
あ、れ? ・・・炭化したことあるのは、手の平だけ…の筈なのに、なぜか手足や…顔面に火傷したような覚えが・・・? っていうか、なに今の? 冷たい声?酷い痛み?なんで、そんなこと…が・・・『アレクシア、忘れろ。奴を思い出すな』父上の声が、脳裏に響く。『もう大丈夫だから、アレク』どこか辛そうな、声で・・・
・・・だから、忘れないと・・・『そう。思い出しちゃ駄目だよ? 忘れてなよ。ね、アル?』甘く、艶やかな声が脳裏に・・・そしてなにかが、深く沈んで行く。
あ、れ? なにを…考えてたんだっけ?
…なんか・・・気分悪いな。
「アル?」
呼ばれた声に、ハッと顔を上げる。
「…雪、君?」
「お前顔色悪ぃぞ? どうした?」
「いや・・・なんだろ?」
よくわからない。けど、気分が悪い。
胸がざわつく。
「なんだ、調子悪ぃのか?」
「いや…」
調子は、悪くない…筈だ。
「…一応、仕込みは終わったが・・・今日はやめとくか?」
「いや、大丈夫。やろう。身体動かせば治る。っていうか、動かしてないから調子悪いんだよ」
「いや、お前それ、自分の顔見て言えよ」
「嫌だ! 遊ぼう、雪君」
じりじりとした焦燥感が胸に募る。
「・・・ジンを呼ぶ。ストップが掛かったら、そこで終わりだ。いいな? アル」
溜息混じりの雪君に頷く。
「それでいいよ」
弱いと、駄目だ。
抵抗すら、できない。
そんなのは、嫌だ。厭だ。絶対に厭。
なら、どうする?
鍛えるしかないだろう。自分を。
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