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 ぼそりと、低い声でレザンが聞いて来た。

 走る緊張感。

 彼らがどこの家の子弟かは判らないけど、態度からすると、子爵より上……そうでなければ嫡男だろうか? まぁ、セディーが相手にするに値しないと判断している辺りで、程度が知れるけど。

 テッドとリール、他にも平民と思われる生徒達が、気まずそうな顔で黙ってしまった。喧騒が消え、聞き耳を立てられているのが判る。

 さて、とりあえずは穏便に――――

「あのお優しい先輩が継ぐなら、ハウウェル家もどうなることやら?」
「そう言えば、ハウウェル先輩の方は身体が弱いんだったな」

 ・・・潰すっ!?

 この野郎共、わたしの前でセディーの悪口を言いやがったっ!!!!

 人が、折角せっかく、穏便に済ませてやろうと思ったのに・・・もう許してやらん。

 こうなったらその喧嘩、高く買って絶対ぇ恥掻かせてやらぁっ!!!!

「・・・兄はもう健康ですが、知らないようですね。今更何年も前のご心配と、為になるご忠告をありがとうございます。そうですね。付き合う相手は、ちゃんと選ぶ・・べき・・ですよねぇ?」

 荒ぶる内心を押し隠し、にっこりと口の端を吊り上げて貴族的な笑みを浮かべる。と、馬鹿共の顔が赤く染まってにやけた。気色悪ぃ。まずはジャブで情報遅れてるっつってやったんだがな?

「まあ、わたしはなに・・と付き合うかではなく、と付き合うかは自分の裁量で選んでいますけど。先輩方は、本当にいい子・・・ですよねぇ?」
「は?」
「なにを?」

 なにを言われているのかわからなくて怪訝そうな顔だ。勿論、いやみを言ったんだが?
 まぁ、相手がいやみをいやみだと認識して理解できないなら、こっちとしても言い甲斐がない。

 もっとわかり易く解説してやろうじゃないか。

「だって、先輩・・方はわたしよりも年上なのに、比較的安全が約束されているこの学園で、『誰々と仲良くしてはいけません』だなんてお家の方の言い付けを、ちゃんと律儀に守っているんですから。とてもいい子・・・だと思いますよ? ですが、折角学園に通っているんですから。もっと人脈や了見、見識を広げる上でも、友人を増やしてみては如何でしょう?」

 にこにこと話して行くうちに、馬鹿共の顔色が怒りに染まる。

「ああ、すみません。お家が厳しいのでしたら、ご意向を伺ってからじゃないと叱られてしまいますよね? でも、丁度明日から週末ですよ? 帰省がてら、ご家族の方に伺ってみては如何でしょうか? ……なんて、差し出口だったかもしれませんね。すみません」

 わかっていますから……という風に、若干の同情を滲ませる表情で馬鹿共を見詰める。無論、作った表情で。

 あれを下町風に意訳すると……『友人は自分で選ぶから口出しするな? 手前ぇらなんぞお呼びじゃねぇし。つか、わたしよりも年上のクセに未だに家の人の言い付けを守って、自分で友達も選べないのか? 人脈も了見も見識も狭いことだな? 幾つのガキだよ? いい子・・・にも程があるな? 叱られんのが怖くて友人が選べないってんなら、家に帰って家族に友人を選んでもらって来いよ? いい子・・・ちゃん共(笑)』と言ったところか。

「ぷっ、ハハハハハハっ!? 言うじゃないかハウウェル!! 確かに、学園は交友関係を広げる絶好の場だからなっ!? それを、この年になってまで家の言い付けを律儀に守って、その機会をふいにするのは勿体無いからなっ!? いい子でいるにも程があるっ!!」


__________


 穏便に……とか思っといて、セディーの悪口言われて即行でキレるネイサン。(笑)

 意訳をぶつ切りにするのもあれなんで、久々に長めです。
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