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2章 ファナエル=???

超能力者は孤独がゆえに その1

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 「俺はコーヒーかな」
 「私はココアとショートケーキをお願いするのです。お兄さんも好きな物注文して良いのですよ、お代はこちらで持つので」
 「えっと……ありがとう?」

 俺はぎこちない返事をしながら氷雨に渡されたメニュー表を手に取った。

 まだ太陽が空で輝く午前中、通常なら学校に居るはずのこの時間に町中のカフェにいるというのはどうも落ち着かない。

 少し耳を済ませれば、店に居る他の客たちがヒソヒソと俺達の事を話しているのが分かる。
 修道服を来た小さい女の子、制服姿の男子高校生、ゴリゴリにピアスを開けたいかにもな成人男性。

 このメンツが一つのテーブルに座ってるならまぁ……注目するのも仕方ないのかもしれない。

 「迷ってるならチーズケーキがオススメだな、昼過ぎに此処に来るといつも売り切れになってる大人気商品だ。まぁ高校生だしガッツリ食べたいって感じならこのオムライスもオススメだぜ、卵を5つ使ってる」
 「アンタ、この店詳しいんだな」
 「まぁな、ナンパした女の子を誘うにはお店の情報を知っとくのがーってイテテ」
 「またナンパ関連なのです?!雄二ゆうじはもっと節操を持つことを覚えた方が良いのです」

 氷雨が雄二の頬をつねって引っ張る。
 その様子を見て内心ざまーみろと思いながらも、今度ファナエルとこの店に来た時のためにさっき彼が言っていた事をこっそりメモする。

 注文の方はと言うと、実は特にお腹がすいてるわけじゃ無い。
 それどころか口の中には未だファナエルから貰った黒いガムが入っている。

 今から食事をするというのだからガムを口から出すのが当たり前の事だとは分かってるんだけど……これを噛んでる間はなんか妙に落ち着くし、出来ることならこのままが良いんだよなぁ。

 結局、俺はメニューに載っている写真の中で一番小さいかったクッキーを一つだけ注文した。

 店が空いていた時間帯であったため、俺たちの頼んだ料理は数分も立たないうちに配膳される。

 丁度目の前に座る氷雨は届いたショートケーキを一口食べるとスゥっと一呼吸を置く。
 それはこれから重く真面目な話し合いが始まる合図でもあった。

 「今日お兄さんを強引にでも呼んだ理由は一つ。あなたがちゃんと現状を把握出来る手伝いに来たのです」
 「……それならまずアンタ達に聞きたいことがある。なんであそこまでファナエルの事を警戒する、アンタ達はファナエルの何を知ってるんだ」

 ファナエルと出会ってから確かに色々なことが合った。
 他人の心の声が聞こえるだとか妙な頭痛が起こるようになったとか、そんな不思議なことが起こるようになったのは彼女と付き合ってから起こった事だ。

 でも、今までなんの接点もなかった赤の他人がそんな俺の個人的事情を知っているわけがない。
 ファナエルと一緒に鳥頭の化け物を見たのも、彼女の髪の毛が入ったオムライスを食べた事も、現状俺しか知らない情報のハズだ。

 『あなたの身体と未来を守るため、あなたの幸せな日常を壊しに来たのです』

 氷雨が初めて夢の世界に現れたあの時、彼女は確信していた。

 俺の身体が変質している事を、その原因を起こしたのが『幸せな日常』を起こしている身近な人間である事を、それを確信して彼女はあの日俺の前に立った。

 きっと俺が知らない何かを、目の前の二人は知っている。

 「私達はお兄さんの恋人であるファナエルさんが超能力者であると考えているのです」
 「ファナエルが超能力者?アンタ達と同じ?」

 俺の言葉に対し、氷雨は小さくうなずく。
 彼女は隣に座る雄二ゆうじにチラっと目配せをする。
 それを見たは雄二ゆうじ小綺麗なカバンの中から一つのクリアファイルを取り出した。

 「まぁその子が超能力者だって言う確実な証拠はまだ掴めてない。でも、今お前の体に起こってる変化が俺たちの知ってる超能力者絡みの現象によく似てるんだ」

 まぁ見てみろよ、と言いながらクリアファイルが渡される。
 そこに入っていた数枚の紙は全て一枚の写真と数行の説明文の構成で出来ており、雰囲気は刑事ドラマに出てくる事件現場の報告書そのものだった。

 「これは一体……」
 「驚くよなそりゃ。勘違いするなよ、これはCGや加工なんかは全くしていない生の写真だ」

 ゴクリとつばを飲み込む。
 写真に写っている人物たちは皆、奇形としか呼べない姿をしていた。

 
ー 被害状況、額に新たな目が2つ生成。加害者の超能力者とは血の違う姉妹だった。犯行動機は本物の姉妹になりたかったというもの。食事に爪と血を混ぜたことが原因と思われる。暴れる妹を取り抑えた上で氷雨の能力を駆使し、夢の中から治療。妹にはこの行為の危険性を解いた上で2ヶ月かけて説得。


ー 被害状況、体の至るところから鋭利な棘が出現。加害者と思われる超能力者とは気の合う親友だった。今回は完全な事故で体の一部が被害者に混入。しかし、親友が超能力者となることで自分の苦悩を分かってもらえると大喜びした彼は後に被害者を軟禁、棘を生やす能力を使いこなす手伝いをしていたと証言をしている。彼を説得するのには時間を要せず、スムーズに治療を行うことが出来た。


ー 被害状況、髪と目の色の変質、及び肉体年齢の変化。加害者の超能力者は同じ部活の後輩だった。彼女は明確な意思を持ち、1年間を掛けて作戦を決行している。動機は密かに思いを遂げていた被害者が他の女性と付き合ったためだ。
彼女はこちらの説得を聞き入られなかったため、気絶させた後に氷雨の能力を駆使し、被害者と過ごした記憶の一部を切除した後に治療。髪色の変化は後遺症として残ってしまった。


 一枚、二枚と紙をめくっていく。
 やけにリアルでグロテスクな写真を見て、考えるのを辞めたくなっている頭と一緒にぼんやりと文字を見つめていた。

 「私達も意地悪でお兄さんに詰め寄ってるわけじゃ無いのです。ただ知ってほしかったのです、基本は孤独な超能力者が持つ愛とはどういう物なのかを」

 その内容を理解し始めたところで血の気がサーッと引いていくのを感じていくのだった。
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