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第1章

目に見えるものが全てとは限らない

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「なぁ、アレックス。あのマリオンって言う、アルミンの命の恩人をスカウトしたって本当なのか?」

護衛達が借りている宿の一室で寛いでいると、目の前に座ったマイクが唐突に尋ねてきた。その質問に、アレックスは何でも無い様に頷く。

「あぁ」
「へ~、マジなんだな」

そう言ってマイクは、数刻前まで孤児院で一緒に朝食を取っていた黒髪に黒い瞳の青年を思い浮かべる。

青年の纏う色は、ここら辺では滅多に見ない黒だ。顔は中性的で、どちらかと言えば整った容姿だろう。背は、女性とほぼ変わらない。16歳と言っていたから、こちらはまだ成長期に期待出来る。こちらの正体に気が付いてはいる様だが、萎縮したり媚を売ってくる様子は見られない。

(そこは、それなりに評価出来るな)

だが、それだけの人間に見える。
それなのに、何故己の主人は彼を自らスカウトしたのだろう…?

「それほど、私が彼をスカウトしたのか不思議か?」

顔に疑問が出ていたのだろう。
アレックスが微かに笑いながら尋ねてくる。

「………まぁな。俺たちの招待に気が付いていながら、萎縮したり媚を売ってこない所は評価出来る。それに、アルミンを助けてくれた命の恩人だ。それには、本当に感謝しているさ」
「本当に、お前はアルミンが好きだな」
「当たり前だろう。俺にとっても、可愛い弟みたいなものだ。………話を戻すが、それだけだ。アレックス…お前は、弟の命の恩人だからと言って使えない人間を側に置く様な甘い人間じゃ無いだろ?」

その言葉に、アレックスは満足そうに笑う。

「私の事をよく知っているじゃないか」
「何年、お前の側に居ると思ってるんだ」
「少なくとも、私とお前が秘密の恋人だと噂される位には一緒に居るよ」
「……その話はするな」

その不名誉な噂のせいで、一時期マイクは両親達に何週間も嘆かれた事があるのだ。あの時は、鬱になりかけたものだ。

「それ位、長く共に居るんだ。それなら、私が彼をスカウトした理由が分かるだろ?」
「そこが分からないから聞いてるんだ。正直、彼は使える人間には見えない。何処にでも居る、普通の平民だ」

その言葉に、アレックスは頷く。

「そうだな、彼は何処にでも居る普通の平民だ」
「なら…」
「そう、

アレックスは、マイクの話に言葉を被せる。

「なぁ、マイク。この世には、己の常識を超える存在が幾つもある。魔力や魔法、あの魔女だってそうだ」

マイクは、アレックスの言葉に静かに耳を傾ける。彼が何を言いたいのか分からない。

「だが、目に見えるものが全てじゃ無いんだ。人が信仰する神や悪魔、御伽噺の妖精、…そう言った人智を超えた存在も我々には見えないだけで存在するかもしれない」
「………一体、何が言いたいんだ?」

その言葉に、アレックスは微笑む。

「つまり彼…マリオンも、我々の目には見えない想像を超えた不思議な力を持っているって事さ」
「不思議な力…?彼がか?」
「あぁ。私は、確かに彼の力を確認した。確かに、彼の力は本物だった」
「………それは、お前の役に立つんだな?」
「勿論だ。彼の力は、あの魔女を追い詰めるのに役に立つと確信している」

そう、力強く断言するアレックス。暫し考え込んでいたマイクは、徐にアレックスを見る。

「お前がそう断言するのなら、俺は反対しない。………だが、もしも彼がお前に危害を加える事があったら…その時は容赦しない」
「わかっている。だが、心配無用だと思うがな」

そんな話をしているうちに、ある人物との待ち合わせの時間が迫っていた。二人は、そこで話を終わりにして、待ち合わせの場所に向かうのだった。









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