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一年目 ~学園編~

学費がない!

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 週末、男爵に会いに行くために寮を出る。
 学園を出てから辻馬車を使うつもりで門に向かい歩いているとレオンとすれ違う。

「本当に一人で出かけるのか?
 珍しいな、連れて行けとごねられないとは」

 俺の後ろにレイチェルがいないのを確認しているのがわかり動揺を押し込める。
 レオンは勘が良いというのか、相手の心を読むのが上手い。
 得難い友人だといつも実感している。
 まだ一緒にいたい。この学園でもまだ学びたいことがある。

 だからどうか、俺から奪わないでくれ。
 そう、誰にともなく祈る。

 外出理由を誤魔化してレオンと別れると足早に学園を出て男爵家へ向かう。
 きっと大丈夫なんて楽観視はできなかった。



 突然の訪問だったが手紙で知らせていたこともあり、男爵は俺の訪れを待っていてくれた。
 執務室ではなく応接室に通され向かい合って座る。
 それすらも今までとの立場の違いを思い知らされた。
 前置きを入れず訪問の目的を話す。
 慰謝料の一部を学費として学園に納めてもらえないかと。
 しかし、男爵から返ってきたのはまさかの返答だった。


「そんな……」

 男爵の前だというのに全身から力が抜けるのを止められなかった。
 座っていなければみっともなく崩れ落ちていただろう。

「すまないね、アラン君。
 すでに慰謝料は君の実家に払っている」

「なぜ、ですか」

 早すぎる。
 婚約解消を言い渡されてからまだ一週間も経っていない。

「いつから決まっていたのですか」

 通常なら慰謝料の額すら決まっていないはずだ。それがすでに支払いまで済んでいるという。
 ならば婚約の解消は昨日今日の話ではないということだ。
 気まずそうに口ごもる男爵。
 未来の義父として共に暮らし、実父よりも長く接してきた人だ。
 なのに今、何を考えているのか全くわからない。

「夏季休暇の前くらいかね。
 レイチェルが紹介したい人がいると連れてきてね」

 絶句した。
 夏季休暇の前ということは、俺が資格試験を受ける前だ。
 そのときからそっけなかったり、資格なんて意味がないと言われたりしていたけれど、その時にはもう彼を男爵に会わせていた。

「なぜ、教えてくれなかったのですか?」

 先に話をしてくれてもよかったはずだ。

「私は君でも良かったと思う。
 だからレイチェルを説得していたんだがね、どうしても彼が良いと言うんだ。
 彼の方が家格が高く、君には劣るが学園の成績も申し分ないものだと聞く。
 レイチェルをより幸せにしてくれると誓ってくれた彼と、彼が側にいることが幸せだと訴えるレイチェルに絆されてしまってね。
 君には悪いことをした。
 幼い頃よりよく我が男爵家にも仕えてくれたと思う。
 しかし私はレイチェルの父として、より娘が幸せになる道を選びたい」

 もう、反論する気力すら浮かばなかった。
 子供の頃から今まで必死にやってきたことはなんだったんだろう。
 男爵も夫人もよくしてくれた。
 役に立たなければならないと気を張っていた俺に肩の力を抜いて大丈夫だと言い、導くのは自分たちの役目だと安心させてくれて。
 家族と離れて暮らす寂しさに泣きそうになったときは夜が更けるまで話をしてくれた。
 あの温かさ全てが嘘だとは思いたくない。
 けれど、こんなに簡単に捨てられる存在だったことがショックだった。


 どうにか辞去の意を伝えて男爵家を後にする。
 蹲っていられない。実家に行ってお金がどうなっているか確かめないと。
 今期の学費は一括で払ってあると言っていたので数ヶ月は大丈夫、あとはその金があれば来期の分は払えるだろう。
 卒業できる。そうすれば、何とかなる。
 卒業さえできれば、得た資格で王宮に勤めることもきっとできる。そう奮い立たせ急いで実家に向かった。


 しかし、実家に行った俺を待っていたのはさらなる絶望だった。


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