不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺

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番外編など

子供を宿した彼女との出会い。順調な旅路。 <イクス視点③>

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受付に声を掛けて上の階に上がる。
昨日俺たちの受付をした店員は会釈をして俺を通した。

「あ、イクスさん。 おはようございます」

まだ朝早い時間だというのにしっかり身支度を済ませた彼女が俺を迎える。

「ああ、おはよう。 よく眠れたかな?」

「ええ、とても。
でも、私だけこんな広い宿に泊まって良かったんでしようか、なんだか申し訳ないです」

彼女を俺が泊まってるような冒険者向けの宿で休ませるのは無理があると思ったので、昨日は街で一番良い宿に部屋を取って朝合流することにしていた。
よく眠れたようでよかった。睡眠不足は体調不良に直結するから。
身重の体で無理はさせられないし、よく休める環境を整えるのは当然だ。

「いや、このくらいの宿でないと心配で離れられないからこれで良いんだ」

良い宿は部屋の待遇が良いだけでなく安全面でもしっかりしている。
女性一人で泊めるなら本当にこのくらいの宿でないと心配だ。特にこの街では。
屋敷の主の気が変わって彼女を取り戻そうとしたときに防ぐことができる程度の宿を選べば自然、格も上がる。
次の街ではそこまで良い宿でなくても良いだろう、粗末な宿というわけにはいかないが。



昨日話した通り服屋に寄って旅にも出れる服を買う。
意外だったのは彼女の着ていたワンピースがかなりの値段で売れたことだ。
これからの季節向きではないが、春になったら絶対に高値で売れると店員は自信ありげに言っていた。服飾には詳しくないがそういうものなのか。
彼女は部屋着なんですけれどと不思議そうに呟いていた。
厚手の服に着替え足元もブーツと、昨日とは打って変わって暖かそうな格好になった彼女は店員に渡された金をしまう場所に困っていた。
どうやらポケットの場所がわからないようで店員に教えてもらっている。便利ですねと目を輝かせている姿はどこか幼く可愛らしい。
馬車の中で身体が冷えないよう厚めのショールをもう一枚買って服屋を後にした。

ようやく外を歩ける格好になった彼女に外套を返してもらい、馬車を探しに向かう。
運よく彼女の兄が住む地方に繋がる街道を進む馬車に乗せてもらうことができた。
馬車の主は年かさの夫婦で、彼女が身重だと知るとあれやこれやと世話を焼いてくれた。
なんとも運の良いことだ。
おかげで予想より先の街まで進むことができた。

順調な旅の始まりに表情を緩めたのも束の間、身体が痛いと言い出した彼女を大慌てで馬車に乗せてくれた夫婦に教えてもらった宿で休ませる。
まさか腹の子に異変があったのか、医者を呼ぶかと慌てたが、慣れぬ馬車の揺れに足や腰が痛くなっただけだという。
これが世に言う筋肉痛というものですかと苦笑する彼女に脱力を覚えた。
聞けば荷馬車に乗るのは初めてだという。
あの屋敷に向かうときはどうしていたのかと思えば、向かうときは馬車が迎えに来ていたので、揺れもそれほどではなかったとか。
使用人を雇う際にわざわざ馬車を迎えに出すなんて随分良い待遇に思える。突然屋敷を追い出すような非道な人物像と重ならないな。
まあ、雇うときは執事や使用人頭が手配をすることも多いし、不思議ではないか。
彼女の体調が整うまで休むかと思い外には食べに出ず俺が食事を運んでいたら、身重の妻を気遣う夫だと思われていた。どうもあの夫婦が何か言っていったらしい。
わざわざ否定するのもおかしなことなのでそれを利用して気を付けることなどを教えてもらう。
部屋を一つにされそうになったのは困ったが、小さな宿だったのが幸いしベッドが狭くゆっくり休んでもらえないからと言えば納得してもらえた。善意だろうが、困ってしまうな。
体調が整うまで数日足止めになるかもしれないと思ったが、彼女は次の日にはケロッとしていた。
意外に体力があるらしい彼女にも助けられ、旅路はその後も順調に進んだ。


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