不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺

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番外編など

子供を宿した彼女との出会い。護衛依頼。 <イクス視点②>

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話している間に彼女の心は決まっていたようだ。
しっかりと顔を上げて自身の願いを口にする。

「兄と会いたいです。
子供のことも、今後のことも、まず兄と話さないと」

そうすると迎えに来てもらうか彼女が自分で戻るかだが、いずれにせよ時間が掛かるか危険が伴う。

「あの、イクスさんは冒険者とおっしゃっていましたが護衛依頼についてお詳しいですか?」

「それなりには」

長く冒険者をやっているので護衛依頼も受けたことはある。
彼女が護衛依頼を出すとなると懸念は二つ。
一つは費用。
おそらく彼女は金を持っていない。本当に身一つで追い出されたように見える。
彼女の兄が払うと依頼を出してもそれが本当に支払われるのかと警戒する冒険者は多い。せめて半分でも先払いする金があれば良いんだが。
二つ目は距離。
護衛依頼を主に出すのは商人で短~中距離が多い。
彼女の兄が住んでいる街ほど遠い場所だと戻ってくるのにも時間がかかるため、敬遠されやすく依頼を受けてくれる者を見つけるまで時間がかかる可能性がある。
護衛依頼について説明をしながら気になったことを聞いてみる。

「荷物は一切持たされなかったようだけど、取りに行くことは可能なのかな?」

「いえ……、屋敷の主人が何を言われても中には入れるなと。
かなり厳しく他の者に命じていましたので、取ってきてもらうことも難しいかと……」

せっかく少し明るくなった顔が沈んでしまった。
しかし荷物の持ち出しも許さないとは、とんでもないな。
まるで野垂れ死にしろと言っているみたいだ。
あるいは本当に何も考えていないからそんなことができるのか。
どちらにせよ本当に不愉快だ。
顔を俯けて考え込んでいた彼女が顔を上げた。

「あの! 身勝手なお願いだとは重々承知ですが、私を兄の元まで連れていってくれませんか?」

「いいよ」

俺から切り出そうとしたことを先に言われてしまった。
追い込まれているとはいえ、気持ちの切り替えも早く気丈なことだ。不安でたまらないだろうに。
俺の簡単な了承に彼女は驚いた様子だった。

「よろしいの、ですか?
図々しいお願いだと思っているんですが……」

「いや、丁度他の街へ移動しようと思っていたところだし、その行先が自然に囲まれた明媚な土地で有名な場所なら俺にとっても悪い話じゃない」

昔に冒険者仲間に聞いた話では人の手が入っていない場所も多く希少な素材が見つかることもあるという。
ただ他に何があるでもない田舎なので冒険者はそこで少し稼いだら別の町へ行ってしまうことが多いそうだ。
移動の手間を考えたらもっと旨味のある町があるからとその冒険者は言っていた。
居つくかどうかは別として一度行ってみるのもいい。

「じゃあ、これからギルドへ行こうか。
早い方が良い」

ギルドを通してちゃんとした依頼の形を取った方が彼女も安心だろう。
ギルドがつける記録には俺が彼女をちゃんと送り届けたかどうかも残されるので、かどわかしではないかとの不安も少しは軽減されるはずだ。

「ほ、本当に良いのですか?
私、お金も何も持っていませんし……。
兄の元へたどり着ければ兄が払ってくれることは間違いないですが。
その、こういうのは口先だけでは信用できないのでは?」

自分に都合が良過ぎるので本当にいいのかと不安になっているんだろうか。

「あっさり受け入れたように見えただろうし君が不安になるのも当然だけど、君が俺を騙そうとしているとは思わない。
踏み倒そうと考えてるヤツは口だけは殊勝だけど目は違ってるからね。
君はそれとは違う」

彼女を放っておけないと思ったのは俺だ。
その結果がなんであれ自分の選択に責任は持つ。

「それから、お金の話も少ししておくよ。
今君の着ている服は旅には向いていないからできれば着替えてもらいたい。
その際今の服は売って少しでも路銀を持っていた方が良いと思う。
旅の間の金は出すけれど、全くないのとでは気持ちが違うだろうから」

別にその金で報酬を払えというわけではない。
不測の事態が起こったとき手持ちが全くないと困ることになる。保険に持っていた方が良いだろう。
目を瞬いて不思議そうな顔をする彼女が首を傾げながら口を開いた。

「売れるのですか? これが」

「ああ、俺は布には詳しくないからどのくらいでかはわからないが。
ほつれも擦れもないワンピースだから売れるのは間違いないよ。色も綺麗だ。
上着は、どうなんだろう。
俺が知っている物より薄手に見えるけれど、編み目が綺麗だからまったく値が付かないってことはないんじゃないか?」

そうなのですね、と不思議そうな顔をしていたが売ることに反対はないらしい。
方針が決まったところで会計を済ませギルドへ向かうことにした。


吹いた風の冷たさに身をすくめた彼女に外套を貸すと恐縮しながらも受け取った。
やっぱり寒いよな。
先に服を買いに行ければよかったが、日が沈んだ後もやっている服屋など無いため諦めてギルドに向かう。
ギルドに着いて指名依頼として護衛を受ける旨を伝えるとカウンターから一枚の用紙を出される。
依頼書と書かれた紙には依頼内容、期間、報酬などの項目が書いてある。
用紙を受け取った彼女は一緒に差し出されたペンですらすらと依頼内容を書いていく。
あんな大きな屋敷で働いていたからそうだろうと思ったけれど、やはり読み書きはできるようだ。
主人の近くで働けるほどの能力があるから目を付けられてしまったんだろう。
ここに来る前に商業ギルドには行くか聞いてみたが後々面倒なのでいいと言っていた。
まあ絶対必要なわけではないし、兄を頼れるのならそれで良い。
そんなことを考えているとイクスさん、と声を掛けられる。

「ん?」

「報酬はどう書けばいいのかしら?
兄のところまでいくらかかるかわからないし、どのくらいが適切なの?」

彼女のペンが止まったのは報酬の欄。
俺も行ったことのない土地だから大まかにしかわからないな。

「旅の間に掛かった金額と後は応相談で良いんじゃないか。
期間は体調のこともあるし余裕を見て2週間くらいでいいと思う」

まだ天候で足止めをされる時期ではないし護衛依頼の場合はアクシデントで旅程が延びることもある。
あくまで受けるときの目安のために書いてあるだけだ。
書き終えた用紙を提出しギルドの印を押した紙へ俺のサインを入れる。これで受付完了だ。

手続きを終えてギルドを後にする。
次の問題は、宿か。


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