不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺

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番外編など

子供を宿した彼女との出会い。子供たちとの出会い。 <イクス視点⑤>

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依頼を終えて宿に戻ると領主レイン様の兄から言伝が届いていた。
差し支えなければ屋敷に顔を出してくれないかと。
日付や時間の指定はない。
急ぎではないようだが、どうしたのだろうか。
この前会ったときはレイン様の腹はずいぶん膨らんできていて、それでもまだすぐ生まれるわけではないと聞いて驚いたものだった。
もしかして子供が生まれたのか?
いや、それならそうと書くんじゃないか?
まさか生まれた子に何かあったか……。
一度悪い想像が浮かんでしまうとダメだった。
気になった俺はその足で領主の屋敷に押しかけていた。





話を通してあったのか門番は俺の姿を見てすぐに門を開けて通した。
それがまた不安を煽る。

出迎えた彼の顔を見て杞憂だったのは理解したが、続いた言葉に若干の怒りが湧いたのは仕方ないと思う。

「随分早い登場だが、余程気になったんだな」

理由を書かなかったのはわざとか。
早く来てほしいのならそう書けば良いものを。

「ええ、理由のわからない呼び出しは心を騒がせますからね」

俺の嫌味に口を釣り上げる。その表情がふいに真剣なものになった。

「急ぎでないからいつでも良いのも本当だが、できるなら早く来てほしかったからな。
すまない」

「レイン様の身に何か?」

「いや? あいつはぴんぴんしてる。
なんならこの屋敷に戻ってきてから一番気力が充実してるくらいじゃないか?」

楽し気な口調に不可解なものを感じた。あの時と似た気配がする。
レイン様を追い出した夫を追い詰める証拠固めをすると言っていた時の。
また何かあったのだろうかと巡らせる思考は彼の言葉で途切れた。

「まずは子供たちに会ってくれ」

やはり生まれていたのか。
自ら案内してくれる彼の後ろについてレイン様の部屋まで向かう。
ノックの音に応える、どうぞの声が明るくてほっとした。

「レイン、イクスが来てくれた」

俺の姿に目を丸くしたレイン様が彼の方を向いて困った顔で笑う。

「お兄様また急いで来てほしいとか無理を言ったんじゃありませんか?」

流石兄妹だからかよくわかっている。

「俺は急いでほしいとは一言も言ってないぞ」

「急いでとは言わなかった、ということですね。
ごめんなさい、イクスさん」

「いえ、俺が勝手に慌てただけなので」

彼女に謝られてしまうと申し訳ない。

「イクスさん、子供たちの顔を見てあげてもらえませんか?
あなたのおかげで無事生まれてきた子供たちです」

子供のためだろう小さなベッドへ近づくと、銀色の髪を持った赤子が寝ていた。

「双子だったんですか?」

「ええ、驚いたでしょう?」

女の子がリオン、男の子がルイスですと微笑むレイン様はとても穏やかな顔で赤子たちを見つめている。
その表情にはあの夜の悲愴な面影は欠片もない。
頼もしい兄の下で心穏やかに過ごせているのだろう。
見つめているとぱちりと赤子の目が開いた。
現れたのは澄んだ紫の瞳。一瞬目が合ったかと思ったらそのまま視線をさ迷わせている。

「銀の髪と紫の瞳は夫譲りなの。
顔立ちは私に似ている気がするわ」

なるほど、これで不貞疑惑は晴れたわけか。
子供たちが手を上げるような仕草をしているのが可愛らしい。
何か訴えているんだろうか。

「あら、イクスさんが気になるのかしら」

「せっかくだから抱き上げてみるか?」

「いえ、それは遠慮しておきます。
出先から来てしまったので、赤子に触れるのはちょっと……」

汚れはできるだけその場で落としているつもりだが、外から戻ってきた身で赤子に触れるのは躊躇われた。
せっかく来たのに何故だと不服そうな彼にレイン様が呆れた口調になる。

「お兄様のせいではないですか、急がせるから」

「イクスの協力を取り付けるには早い方が良いと思ったからな」

「協力? 何かありましたか?」

俺の協力が必要なことなどこうして無事に戻って子供も生まれた今、何もないはずだが。

「ええ、離婚することに決めたのです」

決意を宿した瞳のレイン様へ疑問を返す。

「何故、不貞疑惑は晴れたのですよね?」

元々追い出されたのは不貞の子を身籠ったと夫が誤解したことからのはずだ。
誤解が解けてもやり直すことは望まないということだろうか。
俺の疑問に歯切れ悪く返事をするお二人に首を傾げる。

「阿呆が自身の行為を認めないから拗れそうなんだ」

生まれてすぐに夫に連絡はしたらしい。
しかし夫はそんなわけがないと言い張って会いにも来ない。
しかも屋敷にはすでに愛人を住まわせているという。

「戻ったところで愛人を前にした夫が子供を認めることはないと思います。
こんなにはっきりした証拠があっても。
もう離婚してお兄様の元で育てた方が良いと思ったのです」

彼女の顔はすっきりしていて、今が一番気力が充実しているといった意味がわかる。
未来のことを考えて彼女が決めたのならそれで良いと思う。
けれど俺の協力は関係ないような。

「それでイクスさんへ協力してほしいことなんですけれど、子供たちが生まれてから不思議なことがいくつもあって……」

レイン様から聞かされたのはまさかと思う内容だった。
子供たちが『精霊のいとし子』である可能性がある。
そうであれば絶対に夫の家に親権を渡すわけにはいかない。
利用価値があるとわかれば身勝手に親権を主張するかもしれない。そのようなことが起こらないように国に夫がしたことを訴えるという。
俺に求める協力はその証言。
それくらいならお安い御用ですと快諾する。
あったことをそのまま伝えるだけだからな。

辞去するときに今度来たときは子供たちを抱いてくださいと言われてつい頷いてしまう。
次来るときは身綺麗にしてから来ようと心に決めるのだった。


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