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第一話
しおりを挟む「――さっさと出て行きなっ‼︎」
「きゃあっ!」
背中を突き飛ばされ、床に倒れ込みました。
「お、お義母様、お許しください……っ」
床に這ったまま頭を下げれば、頭上から怒号が聞こえます。
「朝までに、アビゲイルのドレスを手直しするように言っておいただろう!なんで出来てないんだっ‼︎このグズがっっ‼︎」
「シンシアお姉様って、ほんっっとグズね。なんで言われたことが出来ないのかしら!」
下げた頭をアビゲイルに踏みつけられ、地面に押しつけられました。
「申し訳、ありませんっ……!」
この義母と義妹は、他にもやることを色々と言いつけておいて、私がとても間に合うはずがないのをわかっていながら、理不尽に怒っているのです。
「お前みたいなグズはうちにはいらないんだよ!わかったら早く出て行きな‼︎」
うちには、ですか。
この邸は私の父、カーティス・ダルトリー伯爵のものです。
母を幼い頃に亡くし、後妻として父が五年前に連れ子のいるキャロリンを迎え入れるまで、父と私が仲良く暮らした邸。
初めは良かった。
義母は優しく、義妹のアビゲイルも私を慕い懐いていたから。
でも、二年前、父が事故で亡くなってから態度が一変しました。
キャロリンとアビゲイルの二人は、私を使用人以下として扱い、部屋や持ち物を奪い屋根裏へ追いやり、雑務を押し付け、食事も減らし、執事とは名ばかりの愛人と御者一人だけを新たに雇い、私を庇ってくれた以前からの使用人みんなを解雇してしまいました。
そのせいで、邸の仕事は全部私がしなければならなくなり、当然、時間が足りるはずもなく、毎日怒鳴りつけられています。
でも、それも今日で終わり。
「……わかりました。今までお世話になりました」
……色々、ね。
「あら、ようやく出て行ってくれるの?良かったわ」
「お母様ー!新しいドレス欲しーい!」
「そうね、来月の舞踏会のために今から買いに行きましょう!」
来月、お城で舞踏会が開かれます。
レナルド王子の結婚相手を探すための催しです。
この国オールポートの王家には、代々、恋愛結婚をするという珍しい習わしがあり、王子と歳の近い国中の令嬢が招待されます。
私にも招待状が届いたのですが、義母に燃やされました。
「まだいるの?早く出てってちょうだい」
「ばーいばーい!」
虫を追い払うように手を振る義母と、笑顔で手を振る義妹。
いえ、出て行くのだから、もう義理の母でも妹でもありません。
もうこちらを見てもいない二人に一礼して邸をあとにしました。
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