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しおりを挟むある国の第三王子に生まれた俺は、両親からも民からも期待されず、替えの替えとして王族ての必要最低限の勉強をしながら退屈な日々を過ごしていた。
そんな城の人間にも軽んじられている俺にも、一人だけ心を許せる、友達…とは公言できないが傍仕えがいた。
俺にとってただ一人の大切な人間だった。ぶっきらぼうだが優しい彼がいるのだから、俺は独りじゃない。恵まれている。
これ以上なんて、望んでいなかった。――望んで、いなかったのに。
「お前も災難だよな、やりたくもなかった王子の子守りさせられてよ」
たまたまだった。
授業が終わり、部屋に戻っても彼がいなくて王城の中を探していたとき、彼と彼の知り合い思われる人間が話しているところに出くわした。
俺が出ていくと強制終了になってしまうし、戻ろう。そう思ったときに聞こえてきた言葉に、足がとまってしまった。
「もうすぐ成人なのにまだやらされてよ」
「第三王子の傍仕えじゃ、立場的にも旨くないしな」
「お前は訓練生の中でも腕が立ったから、きっと立派な騎士になれたのに」
「ただの傍使えなんて勿体ねぇよ」
気付かれないよう音を立てずにその場から離れ、早足で自室に戻り寝室に逃げ込んだ。
――やりたくなかった、王子の子守り。
先ほどの言葉がぐるぐると頭の中を巡り、気付いたら涙が溢れていた。
……そうか。彼は俺の傍になんていたくなかったんだ。きっと、命令だったから仕方なく。物心ついたときには傍に居た彼を、俺はどれだけの時間縛り付けてしまっていたのだろう。
「(…本心では俺のこと、嫌いだったのかな…)」
彼は聡明だから、誰が聞いているかもわからない王城のあんなところで好き放題言っていた人間の言葉に肯定も否定もしなかった。――つまり、そういうことだろう。
嫌われてはいない…と、思いたいが。彼は俺よりも大人だ。感情を隠すのだって、俺よりも得意だろう。
「無知は罪だっていうけど…」
俺よりも罪深い人間は、いるのだろうか。
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