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狙った獲物を効率よく狩るのであれば、相手の動きを『鈍く』させてしまうのが一番の方法と言えるだろう。

吸血鬼の唾液には催淫効果がある。
舐ればそこが熱を持つし、飲み込ませれば身体の内側から快楽で浸してしまうことができる。
よく動く手足とよく回る頭はそうしてさっさと封じてしまえばいい。
いざ喰べようとした時に喚かれたり暴れられたり、挙句の果てに逃げられるなど堪ったものではないのだから。

それに、口にするものはどうせなら美味い方がいい。
吸血鬼にとって人間の血は大層なご馳走ではあるのだが、性的に興奮した獲物の血はより甘く、美味く感じる。
空腹時なら尚のこと。

吸血鬼は得てして見目が良いこともあり、餌の方から寄ってくる事さえあるのでカミルもミラークも餌が見つからずに困るといった事はなかった。
──そう餌自体は見つかるのだが。

「クソ不味ぃ」
「そんな我が儘言わないでよ、もう。これでも頑張って口に合いそうなご飯を見繕って来てるんだからね」
「まともな飯はねぇのかよ」
「カミルの口に合うご馳走なんてそうそうないでしょ。ほんと偏食なんだからウチの子は」
「アンタも似たようなもんだろ」

人間に出来の良い悪いがあるように、吸血鬼にもそれがある。
カミルとミラークは、吸血鬼でありながら人間の血を受け付けない個体だった。
特にカミルは選り好みが激しく、ミラークの用意した餌に一切口を付けぬ事もままある。
食事をせねば姿を保つこともできなくなるので、そうなる前には渋々口にするのだが、カミルが美味いと思えた血は過去の一度もなかった。
不味いだけならまだいい、血の相性が悪かったりなどしたら逆に寝込んでしまう。
これなら飢えた方がマシではとカミルは思わずにいられない。
親子にとって食は優先順位の最も低い欲求に成り下がっていた。

そんな二人がクリスという男に出会えた事は本当に幸運だったと言えよう。



「ンっ、ん…ぅ、あッ…カ、ミル…っ」

ぢゅ、ぢゅうと汗ばむ背中に吸い付きながら、カミルはクリスの尻のあわいに親指を這わせる。
数度入口をなぞってから尻臀を鷲掴み、穴を晒すようにぐにりと左右に広げてやれば、クリスの身体にさらに赤みが増した。
まだ誰にも押し入られた事のないであろうそこが、空気に触れてひくつくのがいやらしい。
クリスにもそれがわかったのだろう、やめてくれと言いたげに頭を振ってカミルの名を呼ぶ。
顔を枕に押しつけながら腰を上げて悶える姿は、雄を誘う雌そのものだ。
「先生、顔…見せてくれないんですか…?」
「あッ…ひ、ぅっ」
「先生」
カミルとクリスの様子を傍らで愉しそうに眺めていたミラークが、そのやりとりを聞いてニヤァと笑みを作った。
カミルは相手を困らせたり恥ずかしがらせたりする事に特別興奮を覚えるわけではない。
それをミラークは知っているので、珍しい息子の姿を見てしまったとでも思っているのだろう。
カミルとしては辱めるために言ったのではなく、単純にクリスの淫らに善がる姿を死ぬほど見たいと思ってしまっただけなのだが。

「…ッ、いま…ぁ、見せ られる、っ…ん、顔じゃッ、ない…から…ぁ、っ」

そう溢しながらいやいやと頭を振るクリスは健気でいじらしい。
だが指の先が白くなるほど強く枕の端を握っているのを見るに、その言葉の中に「だから見てくれるな」という彼にしてはどこか珍しい怒気の色を孕んでいるようにも思えた。
カミルの言葉は思いの外クリスに恥ずかしさを与えてしまったのかもしれない。
拗ねたように下唇を噛み締めながら、眉根を寄せてあのように言っているのだとしたら───なるほど、確かに。ミラークではないがクるものがあるなとカミルは思った。

そんなクリスのプライドと暴力的な快楽がぶつかり合い、彼の全身に纏う濃厚な匂いが甘さと強さを増していく。
カミルは熱い息をハアとこぼしながら、その香りを噛み締めるように吸い込んだ。
目の前にはうっすらと汗ばんだクリスの首筋が無防備に差し出されている。
(……美味そう)
カミルはもう何度クリスに思ったかしれないその欲望を、唾と共にごくりと飲み込んで隠した。

まだだ、まだ今ではない。

そうしてカミルは体の位置を少しずらすと、ゆっくりとクリスの隠れた窄まりに顔を近づける。
それを見ていたミラークも、カミルが何をしようとしているのか気付いたのだろう。さらに笑みを深くさせるとクリスの耳にそっと唇を寄せた。
「ねぇ先生、気持ちいですね?」
「ぁ、ん…ン、ふッ…ぅ」
「だから安心して僕らに身を委ねて下さい。ね?」
ミラークは耳元でそう囁くと、クリスの腹を撫でその下にある陰茎にわざと指を掠めた。
それは本当に一瞬触れたという程度であったが、彼の身体は律儀にも敏感に拾ってしまったらしい。
クリスの昂った先端から雫が滴り落ちる。
カミルと言いミラークと言い、男のプライドをやたらと刺激してくる親子に流石のクリスも物言いたげに顔を上げた。悪戯に触れてくる男に向かってクリスが口を開こうとした、その瞬間──

「…ッあっ、ぁあ!?あう…っ、ひ、ぁ…な、に…ッ?」

彼は驚いたように悲鳴にも似た声を上げた。
熱く滑る何かが窄まったそこをこじ開けるようにつんつんと叩いたと思えば、今度は宥めるように表面を撫でる。
ぬるぬるとしたその感触にクリスは思い当たるものがあったのだろう。まさかと言わんばかりに目が見開いた。

そう、カミルの舌がクリスの後ろの孔を美味しそうに舐っているのだ。

侵入を拒むその入り口が次第に湿り気を帯びていく。
男のそこが勝手に濡れていくなどあり得ないので、びちゃりと聞こえる音も太腿を伝っていく雫も、すべてカミルの唾液によるものだ。
だがともすればクリスが悦んで股を濡らしているようにも見えなくもない。
カミルは一度そう思ったらむしろそのようにしか見えなくなってきてしまい、すっかり怒張した熱棒をまた一段と大きくさせながら、夢中で舌を動かした。

「先生、今カミルがあなたの恥ずかしいところを舐めてくれてますからね」
「…っ!ぁ、や やだ、やだ…ッ、ぁ!ひ、んッ…」
枕から顔を上げた体勢のまま言葉を失っていたクリスにミラークが追い討ちを掛けている。
こういうところがカミルに『性悪』と言われる要因なのだが、当のミラークは治す気などさらさらない。クリスに対しては特に──いや、何なら悪化しているまである。
そんな事を思いながら、カミルはひくひくと誘うように口開けるその穴に舌をつぷりと挿れた。
「あ、ぁッ、あう…っ、ひ、あっ…ゃ、やだ、ぁ、あ」
当然クリスは嫌がって暴れようとするが、カミルは構わず中へ唾液を送り込む。
丹念にほぐすように、暴くように、じゅっ、じゅるっと音を立てて出し入れをすれば、次第にクリスの身体から力が抜けていく。
カミルの唾液による催淫効果だが、今のクリスには手に余るものだったのかもしれない。
「──~ッ、!」
空気をヒュッと吸い込んだような、声なき声がクリスの口から放たれたる。
びくんと腰が跳ね、何かの余韻に耐えるように震えていたと思うと、それからへたりと尻を下げてしまった。
仕方なしにカミルがクリスの中から舌を抜けば、ちゅばッという何とも下品な音と共にクリスの内腿につうと涎の糸が垂れていく。
クリスから放たれる甘美な香りがこれまでになく濃いものになっている。

「ああ、先生。カミルにお尻を舐められてイッてしまったんですね」

はしたない先生、と言いながら興奮しているミラークに「やっぱ悪化してんなこのジジイ」とカミルは呆れを抱いた。
だがそう思いつつもカミルもしっかりとクリスの股の間は確認しておく。
クリスは腹を抱えて蹲るような姿勢になってしまっていたが、その下のベッドシーツは濡れてシミが出来ていた。
控えめに言って淫猥で最高である。

「…おい、ミラーク」
「いいよ。先にしたいんでしょ」
ミラークの返事とほぼ同時にカミルはクリスの尻にこれでもかと昂った己を擦り付けた。
先ほどたっぷりほぐして可愛がった場所を指の腹で撫でれば、歓迎するようにちゅうと吸い付いてきて堪らない。
カミルは自分がどんな顔をしているのかなど気付きもしないが、唯一ミラークだけは獰猛な獣と化した少年をしっかりと見ていた。
尖った牙を剥き出して今にもクリスの肌に齧り付かんとしている。

だが、まだ駄目だ。あともう少し──

ミラークはそんなカミルと同じものを心に抱きながら、すっかり顔を隠してしまったクリスの頬に指で触れた。
そこから差し込むように顎を取るとくいと顔を持ち上げる。
「僕にはこっち、お願いしますね」
ミラークはそう言って人並外れた大きさのそれを取り出し、クリスの唇に先端を押し当てた。

「夜になってからが本番ですよ、先生」

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