【第一部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花

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一章

8、眠れぬ夜

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 背後から腕を回して、先生がわたくしの胸元を結ぶ紐を解きました。
 するりとかすかな音を立てて、着ているものが肩から落ちていきます。わたくしは羞恥に両手で顔を覆いました。

「見ないでください」
「無理を言うな」

 かろうじて背中を向けておりますが、今のわたくしは一糸まとわぬ姿です。こんな風に弄ばれるために、わたくしは売られたのでしょうか。

 濡れ縁へと続く障子を開け放っているせいで、わたくしの素肌が夜風にさらされます。
 ふるっと震えると、大きな手が背中に触れられました。

「寒いか?」
「いえ」

 本当は肌寒いのですが、わたくしにも矜持はあります。ですが、先生は脱がせたばかりの浴衣で、わたくしの体を包みました。

 肩をつかまれて先生の方を向かされます。てっきりわたくしの裸を眺めて面白がるのかと思ったのですが。強く抱きしめられました。

「あ、あの……」
「すまない。あなたが我が家に来てくれて、浮かれてしまったようだ」
 
 浴衣で包まれてはいるのですが、わたくしの体はそのまま先生に密着しています。
 先生がお召しになっている浴衣の生地は、ざらりとしています。
 ふいに先生の腕の力が弱まりました。わたくしが体を離そうとしたとき、胸の先に先生の浴衣が触れました。

「あ……やっ」

 思わず発した声に、自分で驚いてしまいました。
 なぜなら、その感覚が甘くて背筋が痺れてしまったからです。

「翠子さん?」
「いえ、何でもありません。ええ、何でもないんです」
「そんな声を出して、何でもないということはないだろう」
「いいえ。気になさらないでください」

 ですが、わたくしの申し出など先生は無視なさいました。
 夜風に当たらないように、今も肩には浴衣を羽織らせていますが。でもわたくしを柱にもたれさせ、指先でわたくしの素肌を撫でました。

「やめてください、恥ずかしいです」
「恥ずかしい声を出したのは、あなただ」

 その指摘が図星だっただけに、わたくしはもう何も言えませんでした。ただ先生の浴衣が、わたくしに触れただけだったのです。

「男を煽るような嬌声を、これまでも出したことがあるのか?」
「いいえ、ありません」
「誰かに触れさせたことがあるのだろう?」
「ありえません」
「……まぁ、嘘ではないだろうが」

 先生の言葉に、わたくしはほっとしました。そうです、結婚前の娘が男性と不埒なことをするはずがありません。
 これで先生も分かってくださるはず。
 けれど、先生は思わぬことを仰いました。

「ほかの男に触れさせたりはしない。あなたは俺だけのものだ」

 肩にかけられた浴衣でほとんど隠れた胸に、先生がくちづけました。

「いやです、やめてください」

 「案ずるな。まだあなたの初めては奪わない。だが、慣れてもらおう。初夜に痛さで泣き崩れられては、こちらも興醒めだ」

 先生の舌が、わたくしの胸の尖りを舐めました。

 背筋も下腹部も痺れるようで、立っていられなくなりました。膝を折ろうとしたわたくしの腰を先生の手が支えます。
 
「慣れなさい」
「無理です。こんな……」

 胸に舌を這わせられることも、裸身を担任の教師にさらすことも。すべてが恥ずかしくて惨めで、思わず涙があふれました。

 唇を噛みしめて泣くのをこらえたのですが、涙は止まることがありません。

「男を煽るとどうなるか、覚えておいた方がいい。ほかの男に甘い声を聞かせぬよう、あなたに教えておかなければならない」

 先生の声は冷淡で、さっき「すまない」と謝ってくれたのが空耳かと思えるほどでした。
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