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一章
10、旦那さま
先生のくちづけは、まるで食べられてしまいそうなほどに激しいものでした。
箸につままれて、先生の口でかみ砕かれる海老の気持ちが少し分かったような気がします。
もどかしすぎる快感は終わることがなく、拷問のようです。
座ることも許されず、わたくしは立ったままで先生の愛撫を受け入れていました。
「先生……」
「そう呼ぶようには教えていない」
「旦那……さま」
「まぁ、いいだろう。いずれ俺を名前で呼びなさい」
なぜわたくしが先生を呼んだのか、それを問い詰められることはありませんでした。でも、きっと先生、いえ旦那さまは分かっておいでです。
このもどかしい熱を、体を支配する火照りをなんとかしてほしいと願っていることを。
けれど、旦那さまは口の中は犯すほどに激しいのに、体へ与えられるのはそよ風が撫でるほどの隔たりがあるので。
わたくしは何度も達しそうになりながらも、それが叶わずに旦那さまにしがみつきました。
「も、無理です。立っていられません」
「立っていられないなら、やめようか」
思いがけない返答に、わたくしは首を小さく振りました。
そんな反応をする自分に、驚いたほどです。こんな無体な仕打ちは、一刻も早くやめてほしかったのに。
心も体も、今はそれを求めていません。
このまま放り出されたら、きっと苦しくて自ら淫らなことをしてしまいそうです。
それならば、旦那さまにしていただく方が。
そう考えるわたくしは、すでに少しおかしくなっているのかもしれません。
「やめないでください。苦しいのです」
わたくしは旦那さまの胸に顔をうずめました。
「やはり、ここまでにしておこう」
「いやです……いや、もっと翠子に触れてください」
もっと近くで訴えたいと思ったわたくしは、背伸びをして旦那さまの耳の近くで囁きました。
先生のことを旦那さまと呼ぶだけで、不思議と背徳感が薄れます。
だから、こんな浅ましいことをお願いできたのかもしれません。
わたくしは旦那さまの愛玩物。ならば甘えてもいいはず。
今、この方は高瀬先生ではないのですから。
「翠子さん」と呼ぶ旦那さまの声がかすれています。
それが何を意味するのか、わたくしには分かりませんし、考える余裕もありません。
旦那さまの手が、わたくしの下肢に伸ばされました。ためらいがちに一度手を引こうとして、しばらくの後「いいのだな」と問いかける声が聞こえました。
わたくしは無言でうなずきます。
「あ、あぁ……ん……んんっ」
長く節くれだった指が、わたくしの秘された箇所をまさぐります。
塗れた音が聞こえ、どれほどにわたくしが感じているのか思い知らされます。
もう立っていることもできなくなり、わたくしは旦那さまにもたれかかりました。
そのまま畳に寝かされて、執拗な愛撫を受け入れます。
「や……あぁ、ああっ」
甘くて鋭い痺れが一気に背筋を駆け抜け、頭の中が白く弾けました。
わたくしは短い息を繰り返し、汗ばんだ胸を上下させました。
旦那さまは、びくびくと痙攣を起こしているわたくしの体を抱きしめてくださいました。
そう、この方は高瀬先生ではなく、旦那さま。
わたくしが今日、初めて出会ってお仕えする人。
でなければ、心が壊れてしまいます。
◇◇◇
翠子さんは、俺の腕の中で果てた。
両手で顔を隠し、けれど口元までは隠し切れずに、彼女は絶頂の際に悲鳴に似た声を上げた。
「もう休みなさい」
「……はい、旦那さま」
こんな時も、律儀に呼び名を守ろうとする。
汗ばんだ彼女の頬を撫でてやると、柔らかな笑みを浮かべた。
教室では友人に笑顔を見せるが、担任である俺には一度も笑いかけたことがない。朗らかな表情も見せてはくれない。
数学という教科がいけないのだろうか。
もし俺が国語を担当していたのなら、少しは打ち解けてくれていたのだろうか。
まだ快楽の余韻が彼女を支配している。
もし、今すぐにでも正気に戻れば、こんな風に彼女を追い詰めた俺のことを嫌悪するだろう。
「旦那……さま」
「ここにいるよ」
箸につままれて、先生の口でかみ砕かれる海老の気持ちが少し分かったような気がします。
もどかしすぎる快感は終わることがなく、拷問のようです。
座ることも許されず、わたくしは立ったままで先生の愛撫を受け入れていました。
「先生……」
「そう呼ぶようには教えていない」
「旦那……さま」
「まぁ、いいだろう。いずれ俺を名前で呼びなさい」
なぜわたくしが先生を呼んだのか、それを問い詰められることはありませんでした。でも、きっと先生、いえ旦那さまは分かっておいでです。
このもどかしい熱を、体を支配する火照りをなんとかしてほしいと願っていることを。
けれど、旦那さまは口の中は犯すほどに激しいのに、体へ与えられるのはそよ風が撫でるほどの隔たりがあるので。
わたくしは何度も達しそうになりながらも、それが叶わずに旦那さまにしがみつきました。
「も、無理です。立っていられません」
「立っていられないなら、やめようか」
思いがけない返答に、わたくしは首を小さく振りました。
そんな反応をする自分に、驚いたほどです。こんな無体な仕打ちは、一刻も早くやめてほしかったのに。
心も体も、今はそれを求めていません。
このまま放り出されたら、きっと苦しくて自ら淫らなことをしてしまいそうです。
それならば、旦那さまにしていただく方が。
そう考えるわたくしは、すでに少しおかしくなっているのかもしれません。
「やめないでください。苦しいのです」
わたくしは旦那さまの胸に顔をうずめました。
「やはり、ここまでにしておこう」
「いやです……いや、もっと翠子に触れてください」
もっと近くで訴えたいと思ったわたくしは、背伸びをして旦那さまの耳の近くで囁きました。
先生のことを旦那さまと呼ぶだけで、不思議と背徳感が薄れます。
だから、こんな浅ましいことをお願いできたのかもしれません。
わたくしは旦那さまの愛玩物。ならば甘えてもいいはず。
今、この方は高瀬先生ではないのですから。
「翠子さん」と呼ぶ旦那さまの声がかすれています。
それが何を意味するのか、わたくしには分かりませんし、考える余裕もありません。
旦那さまの手が、わたくしの下肢に伸ばされました。ためらいがちに一度手を引こうとして、しばらくの後「いいのだな」と問いかける声が聞こえました。
わたくしは無言でうなずきます。
「あ、あぁ……ん……んんっ」
長く節くれだった指が、わたくしの秘された箇所をまさぐります。
塗れた音が聞こえ、どれほどにわたくしが感じているのか思い知らされます。
もう立っていることもできなくなり、わたくしは旦那さまにもたれかかりました。
そのまま畳に寝かされて、執拗な愛撫を受け入れます。
「や……あぁ、ああっ」
甘くて鋭い痺れが一気に背筋を駆け抜け、頭の中が白く弾けました。
わたくしは短い息を繰り返し、汗ばんだ胸を上下させました。
旦那さまは、びくびくと痙攣を起こしているわたくしの体を抱きしめてくださいました。
そう、この方は高瀬先生ではなく、旦那さま。
わたくしが今日、初めて出会ってお仕えする人。
でなければ、心が壊れてしまいます。
◇◇◇
翠子さんは、俺の腕の中で果てた。
両手で顔を隠し、けれど口元までは隠し切れずに、彼女は絶頂の際に悲鳴に似た声を上げた。
「もう休みなさい」
「……はい、旦那さま」
こんな時も、律儀に呼び名を守ろうとする。
汗ばんだ彼女の頬を撫でてやると、柔らかな笑みを浮かべた。
教室では友人に笑顔を見せるが、担任である俺には一度も笑いかけたことがない。朗らかな表情も見せてはくれない。
数学という教科がいけないのだろうか。
もし俺が国語を担当していたのなら、少しは打ち解けてくれていたのだろうか。
まだ快楽の余韻が彼女を支配している。
もし、今すぐにでも正気に戻れば、こんな風に彼女を追い詰めた俺のことを嫌悪するだろう。
「旦那……さま」
「ここにいるよ」
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