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十一章
終章
俺は、翠子さんの腕の中でごろごろと喉を鳴らすエリスを眺めていた。
うちでエリスを預かることになって、琥太兄と猫が距離を置くことになって、ちょうど良かったのかもしれない。
カルピスは初恋の味だというが。
琥太兄は来るもの拒まずで女性とつきあっていたが、誰でも付き合うということは裏を返せば、誰のことも本気で好きではないということだ。
「欧之丞は初恋を引きずりすぎやで」と、高等学校の頃も大学生の頃も、琥太兄にはよく言われたが。
もしかしたら、今が琥太兄にとっての初恋なのかもしれない。
だよな、これまで自分から女性に声をかけに行くこともなかったし。
通学路で女学生を待っている姿なんてのも、初めて見る。
むしろ、学生時代は琥太兄が通りがかるのを、女学生が待ち構えているのが当たり前の光景だった。
考えてみれば、あの人は短歌を手紙やら伝言代わりにする面倒くさいところがあるが。
女性に対して、和歌を送るのも初めてじゃなかろうか。
「本気、か」
それにエリスの自由な外出を認めるということは、深山さんに対しても、ちゃんと一定の距離を保つということだろう。
俺の受け持ちの生徒だから、さすがに妙なことはしないだろうが。
情熱が暴走しすぎたら、深山さんを三條邸に軟禁くらいはしかねない。
まぁ、今回エリスにその点を嫌われたのだから。
今は琥太兄も落ち込んでいるかもしれないが。長い目で見たら、きっといいんだよ。
それにうちも、翠子さんが喜んでくれるから、ちょうどいい。
「あら、もう一枚手紙がありますよ」
翠子さんが、エリスの首の毛に埋まっていた輪にした紙をほどいた。
しわくちゃになった紙を丁寧に開くと、中には夜色のインクで文字がしたためられていた。
「『あんまり束縛しすぎたら、あかんで』だそうです。なんのことでしょうね」
その言葉、そっくりそのまま琥太兄に返すよ。
俺は、あんたのことを心配してたところなんだ。
しかしまぁ、三十を過ぎての本気の恋か。興味深くはあるが、見初められた深山さんはちょっと可哀想かもな。
なんせ、相手が食えない琥太兄だから。
「苦労しそうだよな」
「何がですか?」
「まぁ、いろいろだ」
俺は翠子さんの横に腰を下ろして、彼女のすべらかな髪を撫でた。その髪を手にすくい、接吻する。
凪の時間が終わったのか、涼しい風が吹きはじめる。潮の香りは消え、今は夜に咲く花の甘い香りと……土で汚れた猫用の布団の匂い。
今一つ色気には欠けるが。俺は翠子さんの肩を抱いて、その唇にくちづけた。
柔らかな唇が応じてくるから、いっそそのまま押し倒したくなったけれど。
俺は胸の辺りを、小さな四つの足の裏で突っぱねられた。
エリスは「あたしの番よ。あんたは我慢なさい」とでも文句を言いたげに俺を睨みつけてくる。
しょうがないな。明日は別荘へ出かけるんだ。今夜のところは、我慢しておいてやるとしよう。
俺は分別のある大人だからな。
ーーーーーーーー
第一部完。
第二部へと続きます。
うちでエリスを預かることになって、琥太兄と猫が距離を置くことになって、ちょうど良かったのかもしれない。
カルピスは初恋の味だというが。
琥太兄は来るもの拒まずで女性とつきあっていたが、誰でも付き合うということは裏を返せば、誰のことも本気で好きではないということだ。
「欧之丞は初恋を引きずりすぎやで」と、高等学校の頃も大学生の頃も、琥太兄にはよく言われたが。
もしかしたら、今が琥太兄にとっての初恋なのかもしれない。
だよな、これまで自分から女性に声をかけに行くこともなかったし。
通学路で女学生を待っている姿なんてのも、初めて見る。
むしろ、学生時代は琥太兄が通りがかるのを、女学生が待ち構えているのが当たり前の光景だった。
考えてみれば、あの人は短歌を手紙やら伝言代わりにする面倒くさいところがあるが。
女性に対して、和歌を送るのも初めてじゃなかろうか。
「本気、か」
それにエリスの自由な外出を認めるということは、深山さんに対しても、ちゃんと一定の距離を保つということだろう。
俺の受け持ちの生徒だから、さすがに妙なことはしないだろうが。
情熱が暴走しすぎたら、深山さんを三條邸に軟禁くらいはしかねない。
まぁ、今回エリスにその点を嫌われたのだから。
今は琥太兄も落ち込んでいるかもしれないが。長い目で見たら、きっといいんだよ。
それにうちも、翠子さんが喜んでくれるから、ちょうどいい。
「あら、もう一枚手紙がありますよ」
翠子さんが、エリスの首の毛に埋まっていた輪にした紙をほどいた。
しわくちゃになった紙を丁寧に開くと、中には夜色のインクで文字がしたためられていた。
「『あんまり束縛しすぎたら、あかんで』だそうです。なんのことでしょうね」
その言葉、そっくりそのまま琥太兄に返すよ。
俺は、あんたのことを心配してたところなんだ。
しかしまぁ、三十を過ぎての本気の恋か。興味深くはあるが、見初められた深山さんはちょっと可哀想かもな。
なんせ、相手が食えない琥太兄だから。
「苦労しそうだよな」
「何がですか?」
「まぁ、いろいろだ」
俺は翠子さんの横に腰を下ろして、彼女のすべらかな髪を撫でた。その髪を手にすくい、接吻する。
凪の時間が終わったのか、涼しい風が吹きはじめる。潮の香りは消え、今は夜に咲く花の甘い香りと……土で汚れた猫用の布団の匂い。
今一つ色気には欠けるが。俺は翠子さんの肩を抱いて、その唇にくちづけた。
柔らかな唇が応じてくるから、いっそそのまま押し倒したくなったけれど。
俺は胸の辺りを、小さな四つの足の裏で突っぱねられた。
エリスは「あたしの番よ。あんたは我慢なさい」とでも文句を言いたげに俺を睨みつけてくる。
しょうがないな。明日は別荘へ出かけるんだ。今夜のところは、我慢しておいてやるとしよう。
俺は分別のある大人だからな。
ーーーーーーーー
第一部完。
第二部へと続きます。
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真風様、通算200話お疲れ様です!
毎日の更新ありがとうございます!
毎日9時少し前の更新が楽しみで、待ち遠しいです。
翠子さんと旦那さまの日常は、微笑ましかったり、ドキドキしたり。
映像が思い浮かび、時には香りまでしてきそうです。
お清さんのご飯は、いつもとても美味しそう。
文子さんと琥太兄のロマンスも気になりますし、二人の出会いのキッカケ(?)になったらしい(?)おネコのエリスは、琥太兄は文学青年みたいだから、森鴎外の舞姫からきたのかしら、とか想像をめぐらし、銀司さんは南国出身らしいけど、それは鹿児島かしらとか、色々推理しては楽しんでおります。
これからも楽しみにしています!
johndoさま、いつも応援してくださり、ありがとうございます。
もう200話に到達していましたか。道理で目次が長いと……。
細かな部分まで読み取ってくださり、本当に嬉しいです。お察しの通り、エリスは『舞姫』からですし、銀司は鹿児島の離島の出身です。さすが、鋭いですね。
小説を書くのが好きとはいえ、こうして読んでくださっているからこそ、日々続けられるのだと思っています。なので毎日欠かさず読んでくださることを感謝しています。
本当にありがとうございます。
気分転換に、名前だけ出ている琥太兄の両親の出会いの話を書いていて、それのストックが溜まってきたので直近で連載を開始したいと思います。
もしよろしければ、そちらもお付き合いいただければ幸いです。
小説は書きやすいんですけど、あらすじが苦手なもので。これがなかなか面倒です。
うっふっふ。
まわりくどい琥太兄のアプローチは、このことですね。
確かに、これはまわりくどい。
いやいや、まわりくどすぎる(笑)。
琥太兄と文子さんの未来が遠すぎて、ゴールが見えません!
琥太兄の(私の中での)イメージは、浅野忠信さんなんです。
白系の着流しにパナマ帽、もしくはカンカン帽なんかピッタリだと思うんですよね。
johndoさま、いつもありがとうございます。
琥太兄はまわりくどすぎるんですが、今現在、書いている部分では「ちょっと強引すぎるんちゃうん?」
というくらい、ようやく積極的に動くようになりました。
ただ、その部分が公開になるのが随分先になるので。
ゴールは遠いんです。
いつもキャラを、素敵なイメージで見てくださって恐縮です。ありがとうございます。
白系の着流しにパナマ帽やカンカン帽、夏っぽくて最高の組み合わせですね。
洒落てて、大人の男性の色気を感じます。
知らぬは文子さんばかりなり。
翠子さんも、旦那さまも、読んでいる私も、琥太兄の想いを知っているので、今回の展開にニヨニヨぐふふが止まりません!
この二人の今後にも、旦那さまと翠子さんのような未来があるのでしょうか?
更新のお楽しみが更に増えました!
毎日の更新が愛読者としては、本当にありがたいです!
johndoさま。感想ありがとうございます。
確かに組員にまで知れ渡っているので、気づいていないのは、張本人の文子さんだけなんですよね。
琥太兄と文子さんは徐々に接触していきますが、琥太兄のアプローチがまわりくどいので……。
毎日読んでくださり、本当にありがとうございます。
時間のある時に書き溜めをしているので、二か月ほどとても忙しかったのですが、
なんとか更新が途切れる事なく乗り越えることができました。
これも日々、読んでくださっているお陰です。本当にありがとうございます。