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九章

8、まぁ、可愛い

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「これが王宮の見取り図です。参考になると思います」

 アフタルが一枚の紙をカイに手渡す。
 カイは真剣に目を通すと、見取り図の上を何度も指でなぞった。
 表門に衛兵は何人いるのか、裏門の警備状況や、近衛騎士団について事細かに説明を求められる。

 アフタルだけでは分からない部分は、ラウルが補足してくれた。
 ティルダードに仕えていただけあって、近衛騎士団に関しては、ラウルの方が詳しい。

「あの、ありがとうございます」
「別にあなたの為だけではない。俺達としてもこれ以上の犠牲は避けたいんだ」

 紙から視線を外さずに、カイが答える。

「カイは熊みたいに図体が大きいから、体力馬鹿だと誤解されやすいんですけどね。どちらかというと偵察や索敵が得意なんですよ」

 ミーリャの説明に、人は見かけによらないものだと、アフタルはうなずいた。

 剣闘士達が、闘技場を抜け出すのは簡単だったらしい。これまで剣闘士が従順だったせいで、まさか一斉に蜂起するとは思わなかったようだ。

 信仰の自由を餌に、身体を拘束されて理不尽な闘いを強いられていたのだから。
 その自由が約束されたなら、彼らには従う理由もない。

 闘技場の支配人がどうなったかは、聞かない方がいいだろう。そんな気がする。

「裏門から侵入するとして、表門の衛兵を足止めしたいところだ」
「いい考えがあります。囮を使いましょう」

 ぱん、とアフタルが手を叩いた。
 そして茂みの方へと向かう。むろん、すぐにラウルが後を追いかける。

「姫さま、何をなさるのですか?」
「可愛い侵入者を、まず捕獲しましょう」

 地面に開いた穴を確認すると、アフタルは紙を丸めた。筒にした紙を、穴に当てている。

「説明していただいてもよろしいでしょうか?」
「しーっ。静かに」

 アフタルは、唇の前で人差し指を立てた。
 しばらく待っていると、のそのそと筒の中に目的のものが入ってきた。

「捕まえました」

 そっとてのひらに載せたのは、ハリネズミだった。
 ハリネズミは可愛い。
 とくに小さなハリネズミが道をうろついていたりすると、つい抱き上げて保護したくなるほどに。

「でも、ハリネズミ派だけではないでしょうから」

 ラウルにハリネズミを預けると、アフタルは周囲に視線を走らせた。

「あ、あの。私は、こういう珍妙な怪物に触れるのは初めてなのですが。噛みませんか?」
「怪物ではありませんよ。でも、驚かせば、噛みますよ」
「あの、背中一面に針が……」
「刺されないように、気を付けてくださいね」
「……っ」

 ラウルが声にならない悲鳴を上げる。
 次にアフタルが見つけたのは、猫だ。白くてしなやかで、なのにもふもふ。

(ああ、なんて綺麗なんでしょう)

 うっとりしながら抱き上げると、猫の胴が伸びる。
 そうそう、猫はこうでなくては。

「姫さま。これも怪物ですか?」
「まぁ、失礼ですね。こんなに可愛い猫なのに」
「ですが、ありえないほど伸びています。そのまま、にょいーんと伸びて、うねうね地面を這って進みそうです」
「……面白いことを考えるんですね」

 どこまでも長く胴を伸ばして、両手両足を地面にぺたりとつけて、蛇のようにうねる猫とは。
 ラウルの発想は、なかなか独創的だ。
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