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九章
16、彼が王の証
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「アズレット」
エラがあごをアフタルの方に向けて、騎士団長の名を呼んだ。それだけでアズレットは、ずかずかとアフタルに向かってくる。
アフタルとアズレットの間に、ラウルが立ちはだかった。
だが次の瞬間、剣を抜いた騎士団長にラウルは斬りつけられた。
左の肩から右の胸にかけて。
「ラウル!」
アフタルは悲鳴を上げた。ティルダードは声を上げることもできずに、がくがくと震えている。
ラウルはよろめいたが、血を流してはいなかった。
足元へ落ちていくのは、薄青い破片。
とっさにラウルが張った結界だ。
「貴様……まさか」
「私が負傷するようなことがあっては、姫さまをお守りする者がおりませんから」
床に落ちた破片をエラが拾い上げた。
硬く薄いかけらをしげしげと眺めて、眉根を寄せる。きついしわが寄るほどに。
「昔、見たことがあるわ。赤毛の精霊がタフミネフを庇おうとして、緑の壁を作った。あの時も、こんな風に緑の破片が散らばって」
「伯母さま、まさか母さまのことを」
なぜ百年ほども前にサラーマに届けられた宝石が、似たような時期に精霊として現れたのか。アフタルはやっと分かった。
王家に危機が訪れたからだ。
だから王族であるのに、エラには精霊がついていない。彼女が禍そのものであるからだ。
本来ならば王である父につくはずだったラウル。
父の急逝にエラが関わっていることは明白だ。
だが、エラにとってほんの半年ほど前まで、父は邪魔な存在ではなかったのだろう。
闘技場での儲け、ワインと引き換えに人身売買を行っていたこと。それらを父に指摘され、禁止されたのだとしたら。
そのせいで実の弟である王を恨み、消したのなら。
アフタルは、指の関節が白くなるほどに拳を握りしめた。
ぎり、と奥歯を噛みしめ、エラを睨みつける。
「あんたが……蒼氷のダイヤモンド? 王の証なのね」
確認するような問いかけだった。
ラウルは答えない。
突然、甲高い笑い声が室内に反響した。
「いいわ。いいわよ、アフタル。素敵なことを考えたわ」
さも楽しそうに、エラが赤い唇を歪めながら笑う。
「池に大潮の蓮を咲かせましょう。タフミネフの時は失敗したけれど。娘のあなたは成功させてあげましょうね」
鼓膜が痛むほどの笑い声を立てながら、エラは閉じた扇をアフタルの方へ向けた。
「さぁ、皆の前で美しい花を咲かせなさい」
「……大潮の蓮」
その言葉を口にしたアフタルは、鳥肌が立った。
顔を真っ青にしたティルダードが、アフタルにしがみつく。
エラがあごをアフタルの方に向けて、騎士団長の名を呼んだ。それだけでアズレットは、ずかずかとアフタルに向かってくる。
アフタルとアズレットの間に、ラウルが立ちはだかった。
だが次の瞬間、剣を抜いた騎士団長にラウルは斬りつけられた。
左の肩から右の胸にかけて。
「ラウル!」
アフタルは悲鳴を上げた。ティルダードは声を上げることもできずに、がくがくと震えている。
ラウルはよろめいたが、血を流してはいなかった。
足元へ落ちていくのは、薄青い破片。
とっさにラウルが張った結界だ。
「貴様……まさか」
「私が負傷するようなことがあっては、姫さまをお守りする者がおりませんから」
床に落ちた破片をエラが拾い上げた。
硬く薄いかけらをしげしげと眺めて、眉根を寄せる。きついしわが寄るほどに。
「昔、見たことがあるわ。赤毛の精霊がタフミネフを庇おうとして、緑の壁を作った。あの時も、こんな風に緑の破片が散らばって」
「伯母さま、まさか母さまのことを」
なぜ百年ほども前にサラーマに届けられた宝石が、似たような時期に精霊として現れたのか。アフタルはやっと分かった。
王家に危機が訪れたからだ。
だから王族であるのに、エラには精霊がついていない。彼女が禍そのものであるからだ。
本来ならば王である父につくはずだったラウル。
父の急逝にエラが関わっていることは明白だ。
だが、エラにとってほんの半年ほど前まで、父は邪魔な存在ではなかったのだろう。
闘技場での儲け、ワインと引き換えに人身売買を行っていたこと。それらを父に指摘され、禁止されたのだとしたら。
そのせいで実の弟である王を恨み、消したのなら。
アフタルは、指の関節が白くなるほどに拳を握りしめた。
ぎり、と奥歯を噛みしめ、エラを睨みつける。
「あんたが……蒼氷のダイヤモンド? 王の証なのね」
確認するような問いかけだった。
ラウルは答えない。
突然、甲高い笑い声が室内に反響した。
「いいわ。いいわよ、アフタル。素敵なことを考えたわ」
さも楽しそうに、エラが赤い唇を歪めながら笑う。
「池に大潮の蓮を咲かせましょう。タフミネフの時は失敗したけれど。娘のあなたは成功させてあげましょうね」
鼓膜が痛むほどの笑い声を立てながら、エラは閉じた扇をアフタルの方へ向けた。
「さぁ、皆の前で美しい花を咲かせなさい」
「……大潮の蓮」
その言葉を口にしたアフタルは、鳥肌が立った。
顔を真っ青にしたティルダードが、アフタルにしがみつく。
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