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第一章
安定期(宇月琴音)
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食べ物を美味しいと感じたのは久しぶりだった。
退院して、ようやく「安定期」と呼ばれる時になった。その後の検診は順調でお腹が少し大きくなり、胎動も少しずつ感じ始めていた。
しかし、一つの問題は解決されないままだった。
いつも通りスーパーに買い物に出かけた帰りだった。
「琴音・・・」
聞き覚えのある声に振り返ると、きっちり着こなしたスーツ姿の男が息を切らしながら現れた。
「課長・・・」
私は思わずそう呟く。仕事を退職しているのに課長って・・・結局名前を呼べないままだった。
課長は、私が持っていたスーパーの袋を持つと「話できる?」と優しく聞いた。
一歩前をゆっくりのペースで歩く彼の背中を見ていると涙が出るのはどうしてだろう。
妊娠中は涙もろくなってしまうせいだよね。
「降ろしてくれ」と言われたらどうしよう。不安が一気に襲う。
私のアパートへ着くなり課長は、何も言わずに私を抱きしめた。
私も振り払うことなくその腕の中に収まった。
本当は、妊娠したことを一番に伝えたかった。
つわりも苦しくて辛くてそばに居て欲しかった。
大きくなっていくお腹を撫でて欲しかった。
会いたかった・・・
「俺の子・・・なんだよね?」
私は、頷いた。
「不安だったよね・・・一番辛かった時に、一人にさせてごめんね・・・・」
「私がいけないんです。課長から私が離れたのはリーさんに嫉妬したのもそうだし、高校の先輩と浮気しました。」
「いや・・・それに関しては俺が琴音を不安にさせたからだよ。当然の報いだよ・・・本当にごめん・・・
ミンとはキスをしたというか強引にされたというか・・・それ以外は何もないしもう恋愛感情は一切ないから・・・
あとは、俺たちがくっつくことをよく思っていない女が全部ハメたんだよ。」
課長は、今までの経緯を話してくれた。
まずリーさんと課長が再会する前に、峯岸雅とリーさんが手を組んで課長との復縁を計画した。
それは失敗に終わるが、リーさんから強引にキスをした写真や、具合が悪いとホテルへ呼び出し、あたかも二人でホテルで過ごしたかのような写真を撮り私に課長が浮気をしているかのように見せかけていた。
私の作成したファイルが削除されていたことも、梨々香に枕営業をさせて私から顧客を奪ったのは私に会社を辞めさせるため。
私が司先輩と再会したのは偶然だが、プールで強引に襲われそうになったことやお酒の中に睡眠薬を入れられてホテルに連れて行かれセックスをしたのも全て峯岸雅の計画だったというわけだ。
これに関しては、課長がいろんな人から情報を集めたのだが、その中でも部長が内容をよく知っていたらしい。
そして驚くべきは、彼女が逮捕されたということ。
「それに俺が子供いらないっていうのも傷ついたよね。ミンは病気で子宮をなくしているから子供を産めないんだ。
だから付き合っているころ、常に子供がいなくても幸せになる方法をずっと考えてた。
子供なんていらないって思い込んでた。でも、洗脳されていただけなんだと思う。
俺、本当は子供ちょーーー好きだし、やっぱり・・・父親になれるのって嬉しいな・・・琴音との子供ならなおさら・・・・」
課長は私のお腹を優しく撫でた。
「今まで本当にごめん・・・もう絶対傷つけないし、これからは琴音のこともお腹の子も俺が守る・・・・
だから、俺と結婚して下さい。」
私は、すぐに答えを返せずにいた。
「さっきから聞いてれば、まあいいようにまとめてくれて・・・・」
そう言ったのは寝室から出てきた妹の鈴音だった。
私が入院してからというもの気にかけてよく東京遊びに来てくれている。しかし、マイペースな鈴音は連絡なしに母に預けてある合鍵を使って私の部屋にいることがよくあった。
「お兄さんさ、自分イケメンだからって調子乗ってない?自信ありすぎじゃない?ことねぇのこと裏切って散々傷つけて放置しておいて、それで妊娠してるのわかったらプロポーズですか!!私そんなの認めないからね!
認知だけして、養育費たっぷりよこせ!!」
「こら鈴音・・・・」
私は暴走する鈴音を止めに入る。私と正反対の性格の鈴音は怒り出すと止まらない。
姉妹で喧嘩をしたことはほとんどなかった。というよりも鈴音にかなわない私はいつも自分から折れていた。
こんな風にはっきりとものが言える性格だったら、課長とはもっとうまくできたのだろうか。
「ことねぇもことねぇだよ!この男に騙されてるだけだって。どうせ都合よく利用されて捨てられるだけだよ。一回目醒ましなよ!!!だから、とりあえず今日のところはお引き取りください。」
鈴音は、背の高い課長を強引に外に追い出した。我が妹ながら尊敬する。
課長がいなくなると、鈴音はすぐに「ああ~腹立つ。これだからことねぇはダメな男にしか縁がないんだって、ってゆーかことねぇがダメにしてるよね、男を・・・」
おっしゃる通りです。
「それに一人で育てるって言い張ってたくせに、ブレすぎでしょ!マタニティブルーですか?
私のキャバの友達なんてみんなシングルだけど立派に子供育ててるわ。って妊婦に説教するのはよくないか・・・胎教に悪いね・・・ごめん・・・でも、こんなんで折れるような男なら本気でやめてほしい。ことねぇには幸せになってほしいもん・・・」
「鈴音・・・ありがとう」
私にも、鈴音のような強さがあればこんなことにはならなかったのかもしれない。
もしも、この場に鈴音がいなければそのまま彼を許して流されて多分結婚していたのだと思う。
私だって母親になるんだから変わらなきゃ・・・
強くならなきゃ・・・
退院して、ようやく「安定期」と呼ばれる時になった。その後の検診は順調でお腹が少し大きくなり、胎動も少しずつ感じ始めていた。
しかし、一つの問題は解決されないままだった。
いつも通りスーパーに買い物に出かけた帰りだった。
「琴音・・・」
聞き覚えのある声に振り返ると、きっちり着こなしたスーツ姿の男が息を切らしながら現れた。
「課長・・・」
私は思わずそう呟く。仕事を退職しているのに課長って・・・結局名前を呼べないままだった。
課長は、私が持っていたスーパーの袋を持つと「話できる?」と優しく聞いた。
一歩前をゆっくりのペースで歩く彼の背中を見ていると涙が出るのはどうしてだろう。
妊娠中は涙もろくなってしまうせいだよね。
「降ろしてくれ」と言われたらどうしよう。不安が一気に襲う。
私のアパートへ着くなり課長は、何も言わずに私を抱きしめた。
私も振り払うことなくその腕の中に収まった。
本当は、妊娠したことを一番に伝えたかった。
つわりも苦しくて辛くてそばに居て欲しかった。
大きくなっていくお腹を撫でて欲しかった。
会いたかった・・・
「俺の子・・・なんだよね?」
私は、頷いた。
「不安だったよね・・・一番辛かった時に、一人にさせてごめんね・・・・」
「私がいけないんです。課長から私が離れたのはリーさんに嫉妬したのもそうだし、高校の先輩と浮気しました。」
「いや・・・それに関しては俺が琴音を不安にさせたからだよ。当然の報いだよ・・・本当にごめん・・・
ミンとはキスをしたというか強引にされたというか・・・それ以外は何もないしもう恋愛感情は一切ないから・・・
あとは、俺たちがくっつくことをよく思っていない女が全部ハメたんだよ。」
課長は、今までの経緯を話してくれた。
まずリーさんと課長が再会する前に、峯岸雅とリーさんが手を組んで課長との復縁を計画した。
それは失敗に終わるが、リーさんから強引にキスをした写真や、具合が悪いとホテルへ呼び出し、あたかも二人でホテルで過ごしたかのような写真を撮り私に課長が浮気をしているかのように見せかけていた。
私の作成したファイルが削除されていたことも、梨々香に枕営業をさせて私から顧客を奪ったのは私に会社を辞めさせるため。
私が司先輩と再会したのは偶然だが、プールで強引に襲われそうになったことやお酒の中に睡眠薬を入れられてホテルに連れて行かれセックスをしたのも全て峯岸雅の計画だったというわけだ。
これに関しては、課長がいろんな人から情報を集めたのだが、その中でも部長が内容をよく知っていたらしい。
そして驚くべきは、彼女が逮捕されたということ。
「それに俺が子供いらないっていうのも傷ついたよね。ミンは病気で子宮をなくしているから子供を産めないんだ。
だから付き合っているころ、常に子供がいなくても幸せになる方法をずっと考えてた。
子供なんていらないって思い込んでた。でも、洗脳されていただけなんだと思う。
俺、本当は子供ちょーーー好きだし、やっぱり・・・父親になれるのって嬉しいな・・・琴音との子供ならなおさら・・・・」
課長は私のお腹を優しく撫でた。
「今まで本当にごめん・・・もう絶対傷つけないし、これからは琴音のこともお腹の子も俺が守る・・・・
だから、俺と結婚して下さい。」
私は、すぐに答えを返せずにいた。
「さっきから聞いてれば、まあいいようにまとめてくれて・・・・」
そう言ったのは寝室から出てきた妹の鈴音だった。
私が入院してからというもの気にかけてよく東京遊びに来てくれている。しかし、マイペースな鈴音は連絡なしに母に預けてある合鍵を使って私の部屋にいることがよくあった。
「お兄さんさ、自分イケメンだからって調子乗ってない?自信ありすぎじゃない?ことねぇのこと裏切って散々傷つけて放置しておいて、それで妊娠してるのわかったらプロポーズですか!!私そんなの認めないからね!
認知だけして、養育費たっぷりよこせ!!」
「こら鈴音・・・・」
私は暴走する鈴音を止めに入る。私と正反対の性格の鈴音は怒り出すと止まらない。
姉妹で喧嘩をしたことはほとんどなかった。というよりも鈴音にかなわない私はいつも自分から折れていた。
こんな風にはっきりとものが言える性格だったら、課長とはもっとうまくできたのだろうか。
「ことねぇもことねぇだよ!この男に騙されてるだけだって。どうせ都合よく利用されて捨てられるだけだよ。一回目醒ましなよ!!!だから、とりあえず今日のところはお引き取りください。」
鈴音は、背の高い課長を強引に外に追い出した。我が妹ながら尊敬する。
課長がいなくなると、鈴音はすぐに「ああ~腹立つ。これだからことねぇはダメな男にしか縁がないんだって、ってゆーかことねぇがダメにしてるよね、男を・・・」
おっしゃる通りです。
「それに一人で育てるって言い張ってたくせに、ブレすぎでしょ!マタニティブルーですか?
私のキャバの友達なんてみんなシングルだけど立派に子供育ててるわ。って妊婦に説教するのはよくないか・・・胎教に悪いね・・・ごめん・・・でも、こんなんで折れるような男なら本気でやめてほしい。ことねぇには幸せになってほしいもん・・・」
「鈴音・・・ありがとう」
私にも、鈴音のような強さがあればこんなことにはならなかったのかもしれない。
もしも、この場に鈴音がいなければそのまま彼を許して流されて多分結婚していたのだと思う。
私だって母親になるんだから変わらなきゃ・・・
強くならなきゃ・・・
応援ありがとうございます!
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