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一章 ゲームスタート

第6話 テンプレ展開① あれどこ?

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 紫音視点

「………ふわぁ~~。よく寝た」

 ゲームを終えそのまま眠りについた僕が、次に目を覚ましたのは夜の九時。完全に夕飯の時間を過ぎていた。

「……まぁ、いっか」

 けど、だからといって問題はない。現在、僕の家には僕しか住んでいないからだ。親が居ないとかそういうシンミリしたものではない。単純に、親が二人海外へ赴任しているだけの話。
 期間は五年。僕が中学三年になった時からなので、残り期間は約四年。つまり、高校生の間は僕一人だ。

 寂しいという気持ちはない。高校の入学式は来れなかったけど、中学の卒業式とか運動会は顔を見せに来てくれるし、生活費は五万と普通に生活すれば一、二万はお小遣いとして残るので普通の学生よりも金が手に入るから。
 だけど、面倒だとは思う。この広い家を僕一人で管理し、家事炊事に加え、学校の勉強をしなければならないのだ。
 自ら自立を希望したのならまだしも、別に僕はそんなことを望んでいない。普通にお母さんやお父さんに甘えて、程々に手伝い、ゴロゴロしていたい。
 
「……コンビニ行こ」

 いつもは、小遣いを増やすためにケチろうと自炊をするけど、今日は色々あってそんな気力は残っていない。
 僕は寝巻きからパーカーとチノパンというラフな服に着替え、財布を持って家を出た。

「……さむ。もう一枚上着でも羽織れば良かった」

 冬が終わり暖かくなってきたから、パーカー一枚でもいけると思ったけど夜は意外と寒く、出てすぐに後悔した。
 でも、取りに戻る方が面倒なのでこのまま行くことにする。
 寒さを堪えながら、歩いて数分の場所にあるコンビニを目指す。
 この時間帯は、部活終わりの学生も流石にもう家に帰っており、歩いているのは仕事終わりのサラリーマンくらい。知り合いに会うことはなさそうだ。
 ここいらに住んでいる友達のことが嫌いなわけではないけじゃいけれど、会うと猫みたいに撫でられるからダルいんだよね。……早く身長伸びないかな。五センチくらい。そうすれば、百五十センチ台を抜け出せるのに。
 てか、今思い出したけど、ゲーム越しに見たシオンは僕よりも十センチ大きかったな。何で同じ人間なはずなのに、身長差が生まれているんだろう?
 しっかり、毎日十時間寝て健康的な生活を送ってるはずなのに。分からん。

「……ついに、禁断のアイテムセノビッキュに手を出す時が来たかもしれないな」

 僕もドーピングをすれば、少なくともあの高みにはいけるはずだ。今まで飲んでも意味がないと諦めていたけど、シオンという実例があるならば話は変わる。あっ、スマホ家に置いてきちゃった。明日アマズンで注文をしておこう。

「なぁ、そこのお嬢ちゃん。十万あげるからおじさんにおっぱい触らせてくれない?」

 僕がスマホを家に忘れたことを思い出しところで、横から中々ショッキングなワードが聞こえてきた。
 そちらを向いてみると、酒を飲んで酔っ払ってベロンベロンになっているおじさんが、僕と同い年くらいの女の子に絡んでいるところだった。
 
 うん?なんかあの制服見覚えあるな。どこで見たっけ。

「い、嫌です。な、何ですか。貴方は!?」
「いいじゃん俺が誰だって~。あっ、もしかしてお金足りない?じゃあ、もう五万払うよ」
「キャッ!やめてください」

 思考が脇にそれそうになったところで、おじさんが無理矢理少女の肩に手を置き事態は一変。
 制服云々を考える暇はなくなった。すぐに対処しなければ不味いだろう。
 スマホが有れば警察に通報で終わるんだけど、残念なことに家に忘れている。
 仲裁に入るか?いや、あの酔っ払いを相手するのは面倒だ。ていうか、そもそも僕にあれを宥めれる自信はない。
 
 となれば、僕の取る手は一つ。

「……逃げるよ」
「えっ?ちょ……」
「おい!待て!」

 僕はおじさんの手をずらして拘束を解き、少女の手を取る。そして、後ろへ逃亡を開始した。
 土地勘がある僕は最短で、おじさんをまくルートを少女を連れて駆ける。
 その際、「ちょっと………」と聞こえたけど、逃げ切ることに集中していた僕は何も答えることなく走り続けた。
 四つ目の角を曲がったところで、僕はようやく逃げ切ったと確信し後ろを振り返り固まった。

「………あれ?」

 いつの間にか、一緒に逃亡していたはずの少女の姿が消えていたのだ。
 自分で言うのもなんだけど、僕は怠け者で運動が嫌いで自慢じゃないけど足が遅い。
 そんな僕に、少女が追いつけていないことはあり得えないのだ。

「……途中で別れたのかな?」

  考えられるのは、知らない少年に手を引かれてどこ危ないところに連れてかれるのではないかと危惧し、何処かで手を振り解いて別れた。

 まぁ、あの子がおじさんからある程度距離が取れたなら問題ないだろう。別に礼を言われたくてしたわけでもない。見てしまったから、なんとなくやったことだ。

「……コンビニ行こう」

 終わったことを考えるのも面倒なので、思考を放棄。
 僕は当初の予定通りコンビニを再び目指すことにした。



「あの子は一体?」

 その頃、黒髪の少女はその場で呆然としていた。自分のことを途中で置き去りにして走り去っていった少年の方を眺めながら。





 


 

 
 
 

 
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