上 下
8 / 9
一章 ゲームスタート

第8話 現実世界②

しおりを挟む

「じゃあ、クラス委員が決まったからお次はお前らが好きな席替えだ」
「「………」」
「おい、反応が薄いな。喜べよ」

 思った反応と違うのか、担任の教師がツッコむが誰も反応しない。
 それも当然だ。まだ僕達は、入学してから二日目。小学校から中学校は大勢の知り合いがいるけど、中学から高校は殆どが初対面。二日目なんてまだ手探りの段階である。喜ぶ奴らの方が稀有だろう。

「まぁ、いいや。ほれくじ引きだ。出席番号が早いやつからこっちに来い。有田」
「はい」
「……(クマと近くになれたら良いなぁ)」

 くじ引きが開始したところで、僕は唯一の知り合いであるクマと一緒になることを祈った。
 中学校からの友人である彼と近くになれれば、話し相手が居なくて困ることはないだろう。
 なんてことを、考えて引いたくじは三十番。窓際の一番後ろという当たりを引いた。けど、クマとはかなり離れてしまい、僕の思うようにはならなかった。
 クラスの全員がくじを引き終えところで移動を開始。各々が引いた番号の席に移動する。
 窓際の席は日当たりがよく、春のこの季節は日差しは穏やかでついつい眠ってしまいそうだ。
 小さな欠伸を噛み殺し、眠気を堪えつつ教科書をしまっていると「ねぇ」と隣の席から声を掛けられた。
 声のした方を向くと、そこには美少女が。茶髪のふわふわとしたショートカットで、垂れ目でおっぱいが凄く大きくて、学生なのに物凄い母性を感じる。
 ふむ、これはGよりのHだと!デカい、デカ過ぎるぞ。高校生パイカウンターが限界を迎えようとしている。恐るべきものをお持ちだ。

「……なんですか?」
「えっと、隣の席になったのでご挨拶でもしようかと思って。私は、対馬つしま 香奈かな。趣味は料理と読書。部活はテニス部の予定です。親が転勤族で、高校入学と同時にこっちへ越してきたから全然知り合いがいなくて、仲良くしてくれると嬉しいです」
「……これはこれは、ご丁寧にどうも。僕は双葉ふたば 紫音シオン。趣味は睡眠と読書(マンガとラノベ)。部活は帰宅部予定。こちらこそ仲良くしてくれると嬉しいです」

 お互いの自己紹介を終え、軽くペコリと頭を下げる。その動きのぎこちなさと、全くタイミングで頭を下げたのが可笑しくて、対馬さんと僕は思わず笑みを溢した。

「……これからよろしくね、対馬さん」
「うん。よろしく。双葉君」

 クラスで一番レベルの可愛い対馬さんと隣になれた僕は、とても良い席が引けたなと思うのだった。


 数分後。

「よし、今日の授業は終わり。お前らもう帰って良いぞ。お疲れー」

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴ったところで、先生は急かすように下校するよう指示を出した。その言葉の端からは今すぐに帰りたいという欲求が滲み出ている。
 何だか気が合いそうな先生だと思いながら、帰りの準備を始める。と言っても、荷物は殆どない。何故なら、僕が今日大量に持ってきた教科書は置き勉するために持ってきたからだ。彼らは僕の机とロッカーの中に置いてきた。
 僕は唯一持って帰る必要がある連絡プリントの入ったファイルと、筆箱を鞄に入れると足速に一人で教室を出た。
 クマと一緒に帰らないのは、今日はこの後に部活見学があるから。クマは野球部に行くので、ここでおさらばというわけである。
 ちなみに、対馬さんも知り合いがいないと言いつつも、昨日仲良くなった女の子と一緒に部活見学に行くらしい。

 これが現実。美少女と隣の席になったからと言って特別なことは何も起きないのだ。

 僕が教室を出て階段を降りようとすると、下の階からドタドタとおびただしい足音が聞こえ、様子を見ていると階段の幅一杯に広がった上級生達が上がってきた。

「……は?」

 何が起きているのか分からない僕は、その場に立ち尽くすことしかできず、当然人波に呑み込まれた。
 そのまま僕は先輩達に押し戻されていき、ようやく僕が抜け出せるようになったのは、僕が所属する一組の隣。二組の前だった。

「……なるほどね。凄い人気だな。何ちゃかって人」

 それを見て、今日クマが女優さんが隣のクラスにいると言う話を思い出し、先輩達が必死の形相で階段を駆け上がっていた理由を得心した。
 この大勢の人だかりは、有名女優を一目見ようとやってきたのだと。
 日々刺激の少ない日々を送っている学生にとって、有名女優の入学は刺激が強く一目見たいと思うのも仕方ないだろう。

 けど、邪魔だなぁ。

 目の前に立ち塞がる先輩の壁を見て僕はそう思った。
 共感はできるけど、だからといって納得できるわけではない。通行の邪魔をされて普通に苛ついている。

「……どうしようかな?これ」

 なので、今の僕に先輩だから遠慮するという気持ちはない。普通にど真ん中を突っ切てやりたいけど、非力な僕ではそんなことは不可能だ。突撃した瞬間弾き飛ばされるだろう。
 何が良い案がないかと考えていると、突然先輩達が騒ぎ出し、人だかりが急に割れた。
 そこから顔を覗かせたのは、目を見張るような絶世の美少女。整いすぎた顔立ちと、サラサラとしていて、艶めかしい黒い髪。胸は対馬さんに比べると控えめだけど、それでも平均よりは大きい。足はすらっとしていて長く、腰も細く誰もが羨むモデル体型だ。
 これは確かに騒ぐのも仕方ないと思わせるほどに、彼女は綺麗だった。
 僕は彼女に目を奪われていると、不意に彼女がこちらを向き視線が合った。
 
「あっ!昨日の小さな男の子」

 彼女が顔を驚愕に染め、僕に対してそう告げた。

 うそーん。

 一瞬にして集まる大勢の視線。
 それに晒されている中、僕は思い当たる節があり思わず顔を引き攣らせた。
 まさか、こんな漫画みたいな偶然があるのかと。



 


 

 

 

 

 
 

 

 
 
 

 

 

 


 

 
しおりを挟む

処理中です...