天使様の愛し子

東雲

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プティ・フレールの愛し子

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フォルセの果実として、初めて役目を果たした日から早一週間。あの日から今日に至るまで、フレールの庭へは二度足を運んだ。
自室の扉から繋がる庭へと向かい、果実を実らせ、赤ん坊達に与えながら、暖かな陽射しと柔らかに吹く風を楽しむ…そんな穏やかな時間を過ごした。


「あーん」
「んぁ~」
「美味しい?」
「ん~!」

一度目の時は初めてのことばかりで、次から次へと現れる赤子達に果実を与えるだけで精一杯だったが、三度目ともなれば多少は落ち着いて過ごせるようになった。

(慌てないように…)

自分が一日に実らせられるフォルセの果実は一個だけだ。
限られた分しか用意できないからこそ、一人一人に果実を与える時間も大切にすべく、ゆっくりと時間をかけて接することを心掛けた。
それが赤子達にも伝わったのか、初めての時のように揉みくちゃになりながらせがむことは無くなり、行儀良く順番待ちをしながら周囲で遊び回るようになった。
絨毯の上に寝転び昼寝をする子、双樹の花の中で遊ぶ子、宙を飛び回り、どこで作ったのか花の輪を持ってきてくれる子…そうやって好き好きに遊んでいる様子は、自室で過ごしている時の姿と同じで、次第に力んでいた体からも力が抜けていった。

「はい、あーん」
「あ~」

美しい庭で、愛しい子達に果実を食べさせる役目はただただ楽しく、小さな口を一生懸命大きく開ける愛らしい姿に、頬はずっと緩んでいた。
大切な役目であることは重々理解しながら、与えてもらえた素晴らしい役目に、日々感謝するばかりだった。

とはいえ、まったく問題が無い訳ではない。
身体的理由により、体内の聖気量が少ないのは変わらず、どうしても聖気を消費する毎に、即座に回復しなければいけなかった。
故に、こまめに食物を摂取することが必要だったのだが───…

「さぁ、アニーもあーんして下さい」
「…ぁ」
「はい、良い子ですね」

にっこりと微笑むイヴァニエの手にある瑞々しい果実。口元に差し出された果汁の滴るそれを口に含むと、静かに咀嚼しながら、そっと瞳を逸らした。

(慣れないよぉ…)

漏れそうになる弱音をグッと堪え、熱くなる頬を押さえながら、もくもくと口を動かす。
初めてフォルセの果実として務め始めたあの日から…正確に言えばその前日から、何故か食事を摂る時には、イヴァニエかルカーシュカに手ずから食べさしてもらうのが当たり前になっていた。


それに気づいたのは、初めてフレールの庭へと向かった日の翌日のことだ。
日課となっている食事の時間に訪れたルカーシュカが、突然のように用意されていた果実を手に取ったのだ。

『ほら、アニー』
『へ?』
『食べるんだろう?』
『…食べる…けど…でも…』
『じゃあほら、あーん』
『あの、自分で、食べれ…』
『アニー、あーんだよ』
『…うぅ』

有無を言わさぬ「あーん」に負け、なし崩しのまま食べさしてもらうことになってしまった。
その翌日、今度はイヴァニエとも同じやりとりがあり、そんな毎日が繰り返され、今に至る。
「自分で食べられるよ」と伝えても、「知ってる」と返されてしまい、それ以上何も言えなかった。
決して嫌ではないのだ。むしろ二人と触れ合う時間が増えているのだと思えば、嬉しいことではあるのだが、どうやっても湧き上がる羞恥心に慣れず、食事の時間は常に体が熱かった。


そんな変化もありながら過ごした一週間だったが、その中で多くのことも学んだ。
赤ん坊達が摂取できるフォルセの果実は、一人一日一個までと決まっている。
赤子達が成長する為に必要な特別な果実は、たくさん食べたからと言って急激に成長するものではなく、逆に過度な摂取は赤子達の体への負担となり、毒となる。
それが分かっているからか、赤ん坊達も決められた数以上は欲しがらないのだが、そもそも口にしたがらない子がいるのだ。

理由は簡単で、フォルセの果実を欲しがらない子は、成長することを望まず、純天使赤ん坊のまま生きることを望んでいるからだ。
最初は果実を口にしないことに疑問を抱いていたが、フォルセの果実は赤子達を成長させる為の物であり、成長を望まないのなら欲しがらないのは当然のことだった。
ただそれも様々で、絶対に食べる子、まったく食べない子、普段は食べないけどたまに食べる子等々、食べるも食べないも彼らの自由なのだ。
他にもフォルセの果実一個で、赤子八十人分の小さな実が作れることや、天使に成長できるまでは約三千粒の果実を摂取することが必要で、凡そだが二十年以上の年月が掛かること等を知った。

これらの知識だが、役目を担う前に知らなかったのには訳がある。
そもそも新しいことを学ぶ時は、実際その物事に接し、そこで生まれた疑問の答えを知ることで、知識を増やしていくのが通例なのだと教わった。
それまでは『知識が欠如してしまった』という感覚の元、皆から様々な知識を与えられてきたのだが、そもそもその覚え方や教え方が異例だったのだ。

「アニーの場合は、最初が真っ新過ぎて、どうしようもなかったからな…とにかく基礎知識を教えることから始めるしかなかったんだ」

困った顔で笑うルカーシュカに言われ、ようやく自分が正規の手順で学び始めたのだと気づかされた。
思い返せば、それまではフォルセの果実を実らせる方法や、役目を果たす上での心構えについては教えてもらっていたが、双樹の存在や、フォルセの果実の名前に関する由来については、実際その場に向かうまで知らなかった。
それとなく教える情報を制限しながら、自分が疑問を抱くまではそれを口にはしないという、知らない所で徹底されていた彼らの指導に、自分のことなのに感心してしまった。

そうした流れから、初めてフォルセの果実を口にすることもできた。
自分はフォルセの果実を食べることも無く、成長過程すら体験しないまま、成長しきった肉体で生まれてしまった。
当然のことながら果実の味も知らず、「食べてみたい」と恐る恐るお願いし、一個だけ食べさせてもらったのだ。
ドキドキしながら初めて食べたフォルセの果実は、驚くほど甘く、蕩けるような口溶けの非常に美味しい実だった。
口に入れた瞬間、薄皮がプチュリと破け、中からは蜜のようなとろりとした液体が溢れた。果実という名だが、そこに果肉はなく、果汁だけをギュッと濃縮したような不思議な実は、瞬時に舌の上で溶け、コクリと喉の奥へと消えていった。
赤ん坊達の為に実った果実は、やはり赤ん坊達の口に入ることを想定した口当たりなんだな…と改めて感動した。

そうして過ぎていった一週間はとても充実しており、とても満たされていたのだが───満足していたのは、自分だけの様だった。




「アニー、そろそろ私達の部屋にも遊びに来ませんか?」

それは三度目の役目を終えた日のことだった。
両腕で腰を引き寄せられ、ほとんど抱き締められている形の状態でこちらを見つめるイヴァニエの顔には、ハッキリと不満の色が浮かんでいた。

「う…と…」
「アニーの体調も見て、一週間は様子を見るって話だっただろう」
「ええ、その一週間を我慢したから言ってるんです」
「…まぁ、お前にしては頑張ったと思うよ」

「はぁ」と溜め息を吐きながら、繋いだ手の指先を絡めるルカーシュカと、ぎゅうぎゅうと体を抱き締める腕に力を籠めるイヴァニエに、困惑から視線が泳いだ。

イヴァニエとルカーシュカの離宮への誘いを受けてから早七日。実はあれから一度も、二人の部屋に足を踏み入れたことは無い。

最大の理由は他にあるのだが、まずこの一週間は、自分がフォルセの果実を務める為、身体にどれだけの負担が掛かるか、どの程度の回復期間が必要か等を見極める為に設けられた時間だった。
普段通りの生活をしながら、睡眠時間の増加や、疲労の蓄積具合から、今後の活動できる範囲を知らなければいけなかったのだ。
結果、聖気の消費量を考慮し、フォルセの果実としての務めは週に二日が妥当、ということに決まった。

七日間の内の二日だけというのはあまりにも少ないのでは…と思ったのだが、慣れない内から無理をすべきではないと揃って言われてしまった。
まずは無理のない範囲で、聖気を扱うことに慣れてから、少しずつ日数を増やしていこうと言われ、頷く他なかった。
実際、三人の意見は正しいのだ。フォルセの果実を実らせた後は疲労感が強く、睡眠時間も増えていた。
翌日になれば疲労感は消えているものの、聖気までは回復せず、再び果実を実らせるには、二日は空けなければ身体への負担が大き過ぎるのだそうだ。

因みに、聖気の回復具合までどうして分かるのか、甚だ疑問だったのだが、どうやら二人から贈られた腕輪に付いている石は、自分の聖気に反応して輝いているらしく、『光が鈍い=体内に宿している聖気量が少ない』と一目で分かる仕様なのだと、初めて教えてもらった。

そうした話し合いの末、一先ひとまずは週に二日という頻度から始めることで話がまとまり、それならば…と、フレールの庭へ向かう日を固定したいと願い出た。
一週間の内、決まった日だけ庭へ向かうようにすれば、それ以外の日は他の人達も庭への出入りが可能になると思ったのだ。
自分ばかりがあの美しい庭を独り占めしているのは心苦しく、なによりフォルセの果実として務められる日が一週間の内にたった二日しかないのであれば、尚更独占すべきではないだろう。
そう伝えるも、どうしてかイヴァニエとルカーシュカには渋い顔をされてしまい、なかなか首を縦に振ってくれなかった。
それでも…! と懇々切々と訴え、ようやく了承してもらえたのがつい今しがたのことで、ならば何の日に割り振ろうか───と、話し始めた所での先ほどのイヴァニエの発言だった。



「ご、ごめんね…」
「アニー、謝る必要はないよ。俺達もあえて言わなかったんだからな」
「…アニーから言ってくれても良かったんですよ?」
「おい、イヴァニエ」
「あ、う、う…」

ピリリと走った緊張感に、オロオロと目が泳ぐ。
何を言えばいいのか、どうすればいいのか、二人の間で泣きそうになっていると、側に控えてくれていたエルダがスッと手を挙げた。

「お二人とも、アドニス様が泣きそうになっていらっしゃいますので、それ以上はお控え下さい」
「! ああ、ごめんなさい、アニー。怒ってる訳ではないんですよ?」
「悪い。怖がらせるつもりじゃなかったんだが…」
「ひゃっ…! う…だ、だいじょうぶ…!」

左右から頬に口づけを受け、ビクリと肩が跳ねる。
恋仲になってから、抱擁や頬への口づけは日常茶飯事になっていたが、まったく慣れる気配はなく、むしろ日を追うごとにドキドキする頻度は増えるばかりだった。
チュッと小さなリップ音が響き、柔らかな唇が頬に触れる。擽ったいその感触に縮こまっていると、すぐに唇は離れていった。

「…ありがとう、エルダ」
「恐れ入ります。…アドニス様、アドニス様も、言い出せなかったことがございますでしょう? まずはそれを、きちんとお二人にお話ししてみましょう?」
「…うん」
「…なんだ? 何かあったのか?」
「アニー、遠慮せず言って下さい」

ふんわりとした微笑みと、幼な子に言い聞かせるようなエルダの声音とは反対に、イヴァニエとルカーシュカの表情は強張っていた。そこに滲んだ緊張感と不安に気づき、慌てて首をブンブンと横に振った。

「あ…ち、ちがうの…! 何かあったんじゃなくて…!」
「うん、どうした?」
「あの…そう、じゃなくて…」
「ええ、そうじゃなくて?」
「あの……、…っ、い、いつ、遊びに行っていいのか…わ、分かんなくて…!」

意を決して告げた告白に、イヴァニエもルカーシュカも、キョトンとしていた。

各所へと繋がる扉が、自分にしか開けられない不思議な扉であることは、初めて触れたその日に教えてもらった。
イヴァニエとルカーシュカの部屋へと繋がる扉も、からなら二人にも開けることが可能な様だが、それとて簡単なことではないらしい。
皆に言われた通り、自分の意思で、好きな時に、好きな所へ向かう為に用意された扉なのだが、「いつでも遊びにおいで」と言われたその『』が自分には難しく、遊びに行く勇気が出なかったのだ。

扉が行き先によって色形を変えると同時に、向こう側では自分の来訪を告げる鐘が鳴るらしく、ノックすら不要で、いつだって好きに行き来していいと言われていた。だがその自由度の高さと、なんの制限も無いことに、逆に戸惑い、二の足を踏んでしまった。
何かしらの理由で開けられない時は施錠が成され、そもそも扉に変化が起きない仕組みらしく、裏を返せば、扉に変化があれば『いつでも』遊びに行っていいということになるのだが…

(二人ともいなかったら、どうしたらいいか分からないし…)

扉を開いて、そこに誰もいなかったら、怖くて中に入れない。
逆に知らない誰かがいても、自分は逃げてしまうだろう。
もしかしたら、忙しくしているかもしれないし、邪魔をしてしまうかもしれない───そう考え出したらキリが無くて、レリーフに触れる勇気も出ないまま、今日まで来てしまった。
エルダは「心配なさらずとも、大丈夫ですよ」と言ってくれたのだが、二人から何も言われないのをいいことに逃げていたのがバレてしまい、申し訳なさと居た堪れなさに縮こまった。

「…ごめんなさい。いつでも、いいよって…言ってくれたけど…でも、ちょっとだけ…難しくて…」
「…いや、そうだな。急に好きにしろって言われても困るよな」
「こ、困らないよ…! 困らない、けど…でも…」
「…難しかったんですよね?」
「……ぅん」
「アニー、そんな顔をしないで。私もルカーシュカも、アニーの自主性の邪魔をしないようにと、何も言わないようにしていたのですが…少し急ぎ過ぎてしまいましたね」
「ん…っ」

「ごめんね」という言葉と共に、こめかみに触れた唇にきゅっと目を瞑る。反射的に瞑ってしまった瞼を開くと同時に、ルカーシュカが口を開いた。

「やっぱり、最初は遊びに来る日も決めてしまった方がいいのかもな」
「そうですね。その方がアニーも行動し易いでしょう」
「…ん?」

彼らの間では通じ合っている会話についていけず、左右に目を配った。

「フレールの庭に行く日を決めるのと同じように、俺達の部屋に来る日も決めておこうって話だよ」
「遊びに来てもいい日を決めておけば、アニーも困らないでしょう?」
「…うん」

確かにそれなら困らない…が、二人の都合はいいのだろうかと心配になる。
今でも頻繁に会いに来てくれるが、二人も大天使としての務めや役目があり、時間の制限だってあるはずだ。

「でも…二人とも、忙しいでしょう?」
「アニーが思ってるほど忙しくないし、時間に余裕もあるよ。俺の役目は特に、夜の内に動くものだしな」
「日取りさえ決まれば、その日を安息日にしてしまえばいいだけです。これならお互いにすれ違うこともありません。アニーも安心ですし、私達も安心です」
「…うん」
「ああ、日取りは決めますが、その日以外に来てはダメということではありませんよ? いつでも遊びに来ていいというのは変わりませんからね」
「そうだな。まずは互いの部屋を行き来することに慣れて、アニーが気兼ねなく遊びに来れるようになるのが一番だ。…それに、元々そういう話でもあったしな」
「元々…?」

はて? と首を傾げれば、ルカーシュカが苦笑を零した。

「エルダの休みの日は、アニーは俺達の部屋に遊びに来るっていう話だっただろう?」
「あっ」

パチンと弾けるように思い出した、数週間前の会話。
反射的にエルダを見遣れば、その眉根には薄く皺が寄っており、その表情にヒュッと喉が鳴った。
今日に至るまで、自分自身や周囲の変化が大きく、その分やらなければいけないことも多くあり、エルダの休みについてすっかり忘れていた…その事実に、ザッと血の気が引いた。

(お休みしてって、自分でお願いしたのに…!)

正式にエルダの主となったのに、約束も忘れ、休息も満足にあげられず、怒らせてしまったかもしれない…そんな動揺と焦りから、アワアワと取り乱した。

「ご、ごめんね、エルダ…! お休み…っ、お休み、しなきゃ…!」
「アドニス様、落ち着いて下さいませ。私は大丈夫です。…必要が無かったので、言わなかっただけですから」
「エルダ、それではいけないと言ったでしょう? それに、エルダばかりアニーと過ごす時間が長くなるのは、平等ではないでしょう?」
「それは…、……はい…」

(…平等?)

渋々返事をするエルダの言葉に、ふと引っかかるものを感じ、首を捻った。
確か、以前も似たようなことを言っていなかっただろうか?
その疑問が顔に出ていたのか、ルカーシュカが簡単に説明してくれた。

要約すると、複数人と恋仲となる場合、特定の誰かに偏るような付き合い方は良しとされないのだそうだ。
そうと決まっている訳ではないが、接する時間等はなるべく平等であることが望ましく、互いに均衡を保つのが最善とされているらしい。

「エルダの場合は、アニーの従者として側にいるから、過ごす時間が長くなるのは当然だし仕方ないんだがな。そうでなくても、俺達がアニーと二人きりで過ごす時間が欲しいと思うのは当然だろう?」

『二人きり』の単語にトクリと心臓が跳ねるも、エルダと夕刻時には二人きりで過ごしていることを思い出し、知らずに知らずの内に彼らの求める均衡を崩していたのでは…と焦りが滲んだ。

「あ、あの…、私…ずっと…エルダと…その…」
「アニーの心配してることは、エルダから聞いてるから安心しな。律儀に全部報告してくれてるからな。それに、俺達がこうしてアニーの側にいる時は、エルダの方が離れてるだろう? 俺達なりに折り合いをつけて調整してるから、心配しなくていいよ」

そう言われ、またもや驚く。
彼らの間でどういったやりとりがあったのかは知らないが、いつの間にか彼らの中では話し合いが済んでおり、それぞれが納得した上で今の関係が成り立っているのだと初めて知った。

「私…知らないよ…?」 
「言う必要がなかったからな」
「アニーに…というより、恋人相手に話すことでもありませんからね。で話しを済ませるものです」
「でも…」
「いいんだ。アニーは気にしないで…今のままでいておいで」
「っ…!」

そっと持ち上げられた片手に、チュッと口づけを受ける。
柔らかな唇が喰むように指先に触れ、ぶわりと体温が上がるも、上がった熱が鎮まる前に、今後の過ごし方について、緩やかに話の流れが戻っていった。
それからイヴァニエとルカーシュカ、エルダの三人で話し合いが成され、自分の一週間の過ごし方が決まった。

火の日イグニはフレールの庭へ
風の日アイレは半日エルダと共に過ごし
水の日ローはイヴァニエの離宮へと向かう
土の日スエラはフレールの庭へ
星の日シュティはルカーシュカの離宮へと向かい
月の日モネ太陽の日ヘリオは安息日───となった。

話し合いを終え、三人から「勝手に決めてしまい…」と何故か謝罪されてしまったが、自分は少しだけワクワクしていた。

(決まった日に、やることが決まってるのって、不思議な感じ…)

今まで日にちの感覚など皆無で、ただ日々が過ぎていくだけだった。
いつか教えてもらった日の数え方や名前も、自分には関係のないものだと思っていたのだが、こうして「この日はこれをしましょう」と言ってもらえると、まるで毎日が特別な日のように思えた。

「イヴとルカのお部屋に、遊びに行くの…楽しみ」

「遊びにおいで」の言葉だけでは行けなかった自分が情けないが、自分の日常の中に『遊びに行く日』ができたことは喜ばしく、その日を迎えるのが純粋に楽しみだった。

「ええ、私達も、とても楽しみです」
「楽しみだな」

にっこりと華やかに笑む二人に、笑みを返す───が、その傍らで憂い顔で瞳を伏せるエルダに、浮き立っていた感情は一瞬で焦燥に変わり、反射的に彼の名を呼んでいた。





「エルダ…フレールの庭に、お散歩に行く?」
「…んぅ」
「行かない?」
「ん…」
「…お外、行きたくない?」
「ん…」
「…そっかぁ」

胸元に顔を埋め、ぐりぐりと額を押し付ける小さな頭を撫でると、柔らかな体を抱き締めた。

話し合いをした翌日、ちょうど風の日アイレであった今日は、エルダと二人きりで半日過ごす日だ。
朝はいつもと変わらぬ様子で、赤ん坊達も側にいたのだが、昼過ぎになると赤子達は部屋から出され、約束通りエルダと二人きりになった。
そうして何か声を掛けるよりも早く、赤ん坊の姿になったエルダが、真っ直ぐ腕の中に飛び込んできたのだ。
突然のことに驚いたものの、小さな体はそれからずっと離れず、気づけば空の色も変わり始めていた。

エルダを抱いたまま、ゆらゆらと揺れる椅子に腰掛け、ゆったりと過ぎる時間を共に過ごす。
ぎゅうっと胸元にしがみつき、少しでも腕の力が緩むと薄い眉をきゅっと寄せる顔が可愛くて、「ごめんね」と謝りながら、再びその身を抱き締めた。
その様子は、ぐずる子が甘える時の仕草そのもので、あやすように赤く染まった頬を撫でながら、時たまその額に唇を落とした。
ふわふわとした毛先の甘い匂いを吸い込みながら、昨日のことを思い出す。


エルダも、話し合った内容には納得していた。
それはイヴァニエとルカーシュカの『二人きりになりたい』という気持ちが分かるからこそ、そこに不満がある訳ではないとのことだった。
エルダは朝から晩まで自分の側におり、共に過ごす時間は二人よりもずっと長い。
今はまだフレールの庭へ向かう時も、イヴァニエとルカーシュカが側にいてくれるが、今後は彼らの予定が合わなくなることもあるだろう。そうすると必然的に、エルダと二人だけで過ごす時間も増える。

普段から二人きりになる機会も多く、共に過ごす時間も長いからこそ、一週間の内でエルダに割り当てられた時間は半日だけであり、これはエルダ本人が望んだことだった。
エルダ曰く、イヴァニエやルカーシュカと共に過ごす時間を邪魔するつもりもなければ、その日を安息日に当てるのも納得し、頭では理解できているのだそうだが───感情を飲み込むのは、少しばかり難しかったようだ。

(大丈夫かな…)

すぐに消化できない感情だからこそ、ささやかな抵抗のような不満顔で、拗ねたように甘えているのだろう。
それが分かるだけに、何も言うことができず、今はただエルダが満足するまで甘やかそう…と、柔らかな体を愛でながら揺り籠役に徹した。


程なくして陽が落ち、部屋の中も薄暗くなった。
いつもなら、そろそろエルダも部屋を出る頃合いだが、小さな体は相変わらず胸元にくっついたままだ。

「……ん?」

ふと、微動だにしないエルダが気になり、そろそろと様子を窺えば、小さな寝息の音が聞こえてきた。

(…寝ちゃった?)

いつから眠っていたのか、まったく気づかなかった。
腕の力を緩め、胸元の服を握り締める小さな手をそっと外すも、くぅくぅと聞こえる穏やかな寝息が途切れることはなかった。
そのまま椅子から立ち上がり、そろりそろりと寝室へと向かう。
照明を点けないままベッドの脇まで来ると、起こさないようにエルダの体をゆっくりベッドに横たえ、ほぅっと息を吐いた。

(…起こしちゃったら、可哀想だよね)

本当は起こした方がいいのかもしれないが…自分が起こしたくないのだ。
静かにベッドの反対側へと回ると、マットの上に慎重に乗り上げ、エルダの隣に寝転んだ。
小さな体に布団を掛けると、やんわりと抱き寄せ、穏やかな寝息を立てる顔を覗き込む。
ふさふさとした長い睫毛に、薔薇色のふくふくとした頬。愛らしい寝顔に、自然と頬が緩んだ。

(…寂しくなっちゃうのかな)

ずっと一緒にいたからこそ、離れることに不安はある。心当たりのある感覚は、それを想像するだけで胸が締め付けられた。
自分自身、エルダと一日離れるのは寂しいが、それはイヴァニエやルカーシュカと「また明日」と言って別れる時と似た気持ちで、寂しいけれど、明日また会える喜びと安心感も共に含んでいた。
きっとエルダの抱いている感情とはまったくの別物で、エルダからしたら一人残された…という気持ちになってしまうのかもしれないが…

(本当の気持ちは、エルダにしか分からない…)

憶測でしか心情を測れないもどかしさを感じながら、すべらかな頬を指の背でそっと撫でた。
擽ったいのか、うにうにと動く唇は可愛らしく、ふっと漏れる笑いを押さえつつ、小さな体に寄り添った。



「…ぅ……?」

(…あ、起きた)

深夜も過ぎた頃だろう。眠気を感じないのをいいことに、ずっとエルダの寝顔を眺めていると、ふと小さな声と共に大きな瞳がうっすらと開いた。
天井から降り注ぐ星明かりで照らされた室内は明るく、目を凝らさずともその表情がハッキリと見えていた。
パチリ、パチリと緩く瞬きを繰り返したエルダが、不意に首を動かし、こちらを見た───瞬間、それまでの寝ぼけ眼が嘘のように、大きな瞳が更に大きく見開かれた。

「いっぱい寝たね」

キョトンとした可愛らしい表情に、声量は抑えたものの、どうしても顔は笑ってしまう。
小さな顔に鼻先を寄せ、ふにふにと指先で頬を突けば、みるみる内にエルダの顔が真っ赤に染まっていった。

「やぁー!」
「え!? わっ…、エルダ…!?」

突然大きな声を発し、手足をバタつかせるエルダに驚き、慌てて起き上がる。
咄嗟に抱き上げようとするも、布団の中に潜ってしまったエルダに手を出せず、躊躇したその一瞬の間に、布団の中の膨らみが大きくなった。

(……あれ?)

ベッドの上に座り込み、布団の膨らみを眺めること数秒、もぞりと動いた布団の頭から顔を出したのは、少年の姿に戻ったエルダだった。

「………」
「……えっと…」

流れる沈黙に、なんと声を掛けるべきか悩む。
俯き、黙ったままのエルダの表情は見えないが、その耳がほんのりと赤く染まっているところを見るに、怒っている訳ではなさそうなことに少しだけ安堵した。

「……申し訳ございません。ご迷惑を…」

長い沈黙の後、頬を赤くしたまま消え入りそうな声で謝るエルダに、首を傾げた。

「…どうして謝るの? 自分が一緒に寝たいから…一緒に寝てただけだよ?」
「そ、ちらではなく……いえ、そちらもですが…その……色々と、ご面倒を…」

しどろもどろで語るエルダは、どうやら昼間の件を言っているらしい。だがエルダが申し訳なさそうにする理由も、『面倒』の意味も分からず、頭には疑問符が浮かんだ。

「エルダが謝ることなんて、なかったよ?」
「………」
「…可愛かったよ?」
「う…っ」

(あ、可愛いはダメだった?)

拗ねて甘えるエルダはとても愛らしかったのだが、そこに触れてはいけないらしい。慌てて口を噤むも、エルダもそのまま黙ってしまい、また沈黙が流れた。

そこでふと、異変に気づく。
いつものエルダなら、今いる場所が自分のベッドの上だと気づいたなら、すぐさま飛び降りていただろう。
気づいていて、分かっている上でそうしないということは、エルダ自身、そうする余裕がないのかもしれない。
向き合い、黙ったまま、それでもそこから動かないということは、もっと何か言いたいことがあるのでは───そう思い、エルダの側ににじり寄ると、俯いてしまった顔を覗き込んだ。

「…エルダ、何か…お話ししたいこと、ある?」
「…ッ」

途端にバッと顔を上げたエルダに、もう一度問い掛ける。

「お話し…言いたいことがあったら、言って…? その…ちゃんと、答えられないことも、あるかもしれないけど…お話し、してみない?」
「………」

そう言って、エルダの手を両手でぎゅっと握り締めた。
そのまま沈黙が続くも、ほどなくして、躊躇いがちにエルダが口を開いた。


「……自分の我が儘だと分かっています」


ポツリと呟かれた声は、酷く掠れていた。

「イヴァニエ様も、ルカーシュカ様も、本当はずっとアドニス様のお側にいたいのだと知っています。ずっとお側にいられる私は、とても幸せだと、理解しております」
「……うん」
「アドニス様が、お二人と良きお時間を過ごせることは、私も喜ばしく思いますし、決してそれが嫌だという訳ではないんです」
「…うん」

「……ただ、アドニス様のお側を離れるのは嫌だと、我が儘を言う自分がいるのです…」

そう言って、泣きそうな顔で悄気しょげるエルダに、なんと言葉を返せばいいのか分からず、握った手に力が籠った。
できることなら、エルダの我が儘を聞いてあげたい。目一杯甘やかしたい。
だがその願いを叶えることは難しいと、エルダも分かっているし、なにより感情とは別に、そうなることを彼自身望んでいる訳ではないのだと分かる。

(……きっと、ここで自分が謝るのも、違うんだよね…)

望みを叶えられないことに対し、自分が謝ることも彼の負担になるのだろう。
本当に何も答えられない自分が情けなくて、歯痒くて、唇を噛んだ。

「……自分から…お話ししてって、お願いしたのに…」
「いいえ。いいえ、アドニス様。…私も、自分の気持ちを吐き出したかったのです。矛盾した願いだと、理解しております。叶えてほしかった訳でもありません。…ただ、どうしようもない気持ちを、言いたかっただけなんです」

そう言って微笑むエルダは、どこか安堵している様にも見えて、もしかしたら本当に、胸の内を吐き出したかっただけなのかもしれない。
でもそれも、自分がそう思ってるだけの「そうなら良いな」という、ただの願望なのかもしれない。
…結局のところ、自分がエルダの為にできることは少なく、エルダの気持ちは、エルダにしか分からないのだ。
きゅうっと苦しくなる胸に、堪らず握っていた手を解くと、細い体を強く抱き締めた。

「っ…」
「…エルダと、一緒にいる時間も大切で、大事だけど…イヴとルカのことも、同じくらい…大事なの」
「…はい。存じております」
「…エルダが…嫌だなって、気持ちになるのも嫌だけど…でも、エルダと一緒にいるみたいに…二人とも一緒にいたい…と、思う」
「そのように思われるのは、自然なことです」
「…イヴや、ルカと一緒にいたいのは…でもそれは…エルダを寂しい気持ちにさせたいんじゃ、なくて…、…っ」
「…! アドニス様、違うのです! これは私の勝手な…どうしようもない我が儘で、そのように悩ませたかった訳では…!」

抱き締めた腕の中、エルダが大きく身じろいだが、腕にグッと力を込めれば、ささやかな抵抗はすぐに治まった。

「…我が儘じゃない。それは…我が儘じゃないよ。だって…一緒にいたいって思うのは、自然なことなんでしょう?」
「…!」
「我が儘じゃないよ」
「…ッ」

エルダの吐く息が、微かに震えているのが分かり、抱き締めたまま言葉を続けた。

「エルダも、ルカも、イヴも、大好きだよ」
「…はい」
「好きだから、一緒にいたいし…エルダと二人でいる時間も大好きだし……それは、イヴとルカも、同じだよ」
「…はい」
「……一緒にいたいなって思うと…一緒にいられなくなるのは……寂しいね」
「……はい」

なんて当たり前で、当然のことだろう───そう思いながら言葉にすれば、『矛盾した願い』と言ったエルダの気持ちに、少しだけ触れられたような気がした。

(…みんな一緒って…難しいんだな…)

ふと思い出した『平等』という言葉の重さ。
複数人と恋仲になるということは、喜びや愛しさも倍増だが、それと同じくらい難しいこともあるのだと、今更になって痛感した。

「…アドニス様、ご心配をお掛けしてしまい……いえ、ご心配して頂き、ありがとうございます。もう、大丈夫です」
「……大丈夫って、言わなくてもいいよ?」
「いいえ、本当に…本当にもう、大丈夫です。お話しを聞いて下さり、ありがとうございました」

腕の力を緩めれば、ゆっくりとエルダが顔を上げた。そこには先ほどまでの悲壮感はなく、幾分落ち着いている様に見えた。

「…また、お話ししたいことがあったら、教えてね?」
「はい」
「『我が儘』も、言ってね?」
「アドニス様、それは…」
「…たぶんだけど、イヴも、ルカも、言ってるよ?」
「………」
「みんな一緒だから…エルダも、言っていいんだよ?」
「……甘え過ぎて、しまいます…」
「? 甘えていいよ?」

(あれ? 前もおんなじようなお話しした…?)

妙に馴染む会話に意識が一瞬逸れるも、ゆらりと揺れたエメラルド色の瞳がひたりとこちらを見据え、互いの視線が絡み合った。

「……その…」
「うん」
「……もう一度…」

───その先は聞かずとも分かった。
真っ赤に染まった頬と、緩く広げられた両腕。
その仕種だけで伝わったエルダの望みに、クスリと笑みを零すと、細い体を再び抱き寄せた。


その後、渋るエルダを引き留め、一緒のベッドで眠りについた。
エルダは何かと口籠っていたが、このまま帰してしまうのもなんだか違う気がして、「一緒に寝よう?」と『我が儘』を言いつつ「さっきまで一緒に寝てたよ」と説得し、なんとか了承してもらえた。

「おやすみ、エルダ」
「…おやすみなさいませ、アドニス様」

大きなベッドはエルダと共に横になってもまだまだ余っていたが、互いに体を寄せ合い、一塊になって布団に潜った。
寄り添うエルダの高い体温は心地良く、誘われるように、すぐに眠気が訪れた。
赤子の姿の名残りなのか、ほんのりと香る甘いミルクのような匂いに気持ちは安らぎ、ふっと目を閉じた瞬間、コトリと眠りの世界へと落ちていた。




「おはようございます。アドニス様」
「…ぉはよぉ」

翌日、眠るのが遅かったせいか、目が覚めてからも頭はぽやぽやと半分寝ぼけていた。
対してエルダはと言えば、いつもと変わらぬ様子で、その顔はどこかスッキリとしているように見えた。
もう大丈夫なのかな? と、その顔を見つめていると「今日はイヴァニエ様のお部屋に向かう日ですよ」と言われ、パチリと目が醒める。と同時に、エルダの安息日であることも思い出し、慌てて休んでほしいとお願いするも、首を横に振られてしまった。

「アドニス様の身支度を整えてから、お休みを頂きますね」

着替えるだけなら自分で出来る…と言いかけたのだが、これがエルダなりの『我が儘』なのだと察し、大人しく口を閉じた。
その後はミルクを飲み、いつもと変わらぬ朝の時間を過ごした。それから一休みすると、休むエルダを見送る為、手を取り合って部屋の出入り口である扉へと向かった。
従者の個室は、本来なら各離宮内に用意するものらしいが、自分の部屋ではそれも難しく、エルダの部屋は壁を隔てたすぐ隣に用意されていた。
そうして扉の前まで辿り着くと、どちらともなく顔を見合わせ、微笑み合った。

「…いってきます、エルダ」
「いってらっしゃいませ、アドニス様。お帰りを、お待ちしております」
「うん。…また明日ね」

昨夜、言葉を交わしたことで落ち着いたのか、エルダの纏う空気は、普段と変わらぬ柔らかなものに戻っていた。
穏やかな気持ちで互いに一時の別れを告げると、扉の向こう側へと消えていく背中を見送った。


パタンと静かに閉じた扉を暫く見つめてから、くるりと室内を振り返る。
誰もいない部屋は随分と久しぶりで、その静けさにほんの少しだけ怯むも、くっと顔を上げるとイヴァニエの元へ向かう為、転移扉へと足を向けた。

すっかり見慣れた扉の前に立ち、深く深呼吸を繰り返すと、鯨のレリーフを見つめ、そっと手を翳す。
瞬間、パッと色形を変えた扉に、徐々に現実感は増していき、心臓の鼓動が速くなっていくのが分かった。

(よし…!)

ドキドキと高鳴る鼓動は、緊張か、高揚か…再度深呼吸を繰り返し、心の中で小さく呟くように気合いを入れると、鈍く金色に光るドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開いた。


「お、お邪魔…します…!」










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前話にて書き忘れていたフォルセの果実についてのぷち補足です。
・元の果実は林檎サイズ。見た目もそれっぽい。
・ギュッてやって粒になった時のサイズは卵ボーロ。
・プティ達にとっては美味しいご飯だけれど、天使以上になると食べても味を感じない。
・アドニスくんは器も肉体も大天使だけれど、魂がほぼ純天使なので美味しいと感じました(ガバ設定)
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