60 / 60
第60話 私の息子 ※七沢美紀視点
しおりを挟む
まさか、1人目で男の子を授かるなんて予想していなかった。
子育ての事なんて何も分からなくて、特に男の子の育て方なんて知らない。今まで生きてきた中で、夫以外の男性と関わることが一切なかったから。男性に関しては、参考にできるような知識が少なすぎる。男の子の母親になったら、どうしていいのか分からない。
不安だった。ちゃんと母親として出来るかどうか、自信がなかった。せめて何人か女の子を出産して、子育ての経験を積んでから臨みたかった。
お腹の赤ちゃんの性別が男の子だと判明してからは、すぐに育児するための準備を始めた。子育てのための用品を買い集めたり、子育て経験のある人達に話を聞いて。そうやって色々と準備を進めていた。けれど、それでも不安は拭いきれない。
私の知り合いで、男の子を出産した経験があるのは1人だけしか居なかった。その人に、男の子の育て方に関する話を聞いてみた。
女の子と比べて、男の子は繊細で気まぐれで、意欲を把握するのが難しかったり、反抗期や思春期なども大変らしい。
話を聞いてみた結果、実際にやってみないと分からないというような結論しか出てこなかった。どんなに経験があっても、難しいものは難しいらしい。実体験が少ないので、どれが正解なのかも判断できない。
そもそも、1人目で男の子を授かったというのが非常に珍しいことだった。参考にできそうな情報が少ないので、手探りでやっていくしかない。
そんな不安を抱えながら、出産の時を迎えた。そして無事、男の子が生まれた。
生まれた瞬間は、とても感動した。この時は、男の子とか女の子とか関係なくて、ただ無事に自分の子供が生まれてきてくれたことが嬉しかった。
私の子になってくれて、生まれてきてくれて本当にありがとう。これからよろしくね。心の中でそう呟いて、生まれたばかりの我が子を抱きしめた。
3日後には私の体は回復して、退院できるようになった。しかし、赤ん坊のほうはまだ入院が続く。男の子なので、綿密な検査や様々なケアが行われて生後2週間ほど経過するまでは、病院で過ごすことになった。
女の子の場合だと、母親と一緒に退院することが多いらしいけれど。
毎日必ず病院に通って、直人の様子を見ていた。そして、どんどん不安が膨らんでいった。
どうやら息子の直人は、他の男の子に比べて元気のようだ。体調も良くて、体重も増えているし健康状態も良いらしい。これからの成長に何の不安もなかった。それはとても嬉しい。健康に育ってくれることが、何よりも大事。
だからこそ、私の育て方が重要になってくる。このまま順調に育ってくれればいいのだけれど、もしも失敗してしまったら私の責任は大きい。
プレッシャーだった。直人の育児を失敗しないように、とにかく私は気をつけた。
しかし、予想に反して子育ては非常に順調だった。私の育児が上手かったわけじゃない。とにかく直人が、手のかからない良い子だったからだ。
ちゃんと言うことを聞いて、トラブルも起こさない。他の子とすぐに仲良くなって争ったりしない。私は見守っているだけで、直人はすくすく育っていった。私が手を焼くようなことを、直人は全くしなかった。
育児の経験がない私でも分かるぐらい、親にとって理想的な子供。手がかからなさ過ぎて、少し寂しいくらい。
それが、正しかったのか分からない。だけど、ちゃんとした男に育ってくれたのは間違いないだろう。魅力的で、賢くて、優しい子に育ったと思う。
ちょっとだけ気になることもある。普段からスキンシップが過剰で、小さい頃から女性に興味津々だった。それは、母親である私に対しても。そういう時だけ、直人はワガママを言ったりする。愛情表現としてそうしてくれることは嬉しい。息子からの愛情を感じることができるから。だけど、男性とのふれあいを今まで経験していない私には、刺激が強すぎた。
悪いことじゃない。世間とは少し違うのは分かっていた。だけど、何も言わない。私が口出しすると、良くないと思っていたから。口出しする必要もないし、今のままで良かったから。
あっという間に直人は育って、学校にちゃんと通って、仕事も始めて。おそらく、もう彼1人でも自立して生活していけるだろう。
仲良くなった女性に支援してもらって、何もしないで悠々自適な生活を送ることも出来ると思う。夫のように。
でも、まだ直人は私と一緒に暮らしてくれている。この生活が、いつまで続くのか分からない。いつまでも続いてほしいと、私は思っていた。この先、どうなるのか。それは彼の気持ち次第。私は、今までと同じように静かに見守るだけ。
家を出ていくと言われる日が来るのを、覚悟して備えていた。もうちょっとだけ、たった一人しかいない私の子である直人と2人だけの生活を楽しんでいたい。
子育ての事なんて何も分からなくて、特に男の子の育て方なんて知らない。今まで生きてきた中で、夫以外の男性と関わることが一切なかったから。男性に関しては、参考にできるような知識が少なすぎる。男の子の母親になったら、どうしていいのか分からない。
不安だった。ちゃんと母親として出来るかどうか、自信がなかった。せめて何人か女の子を出産して、子育ての経験を積んでから臨みたかった。
お腹の赤ちゃんの性別が男の子だと判明してからは、すぐに育児するための準備を始めた。子育てのための用品を買い集めたり、子育て経験のある人達に話を聞いて。そうやって色々と準備を進めていた。けれど、それでも不安は拭いきれない。
私の知り合いで、男の子を出産した経験があるのは1人だけしか居なかった。その人に、男の子の育て方に関する話を聞いてみた。
女の子と比べて、男の子は繊細で気まぐれで、意欲を把握するのが難しかったり、反抗期や思春期なども大変らしい。
話を聞いてみた結果、実際にやってみないと分からないというような結論しか出てこなかった。どんなに経験があっても、難しいものは難しいらしい。実体験が少ないので、どれが正解なのかも判断できない。
そもそも、1人目で男の子を授かったというのが非常に珍しいことだった。参考にできそうな情報が少ないので、手探りでやっていくしかない。
そんな不安を抱えながら、出産の時を迎えた。そして無事、男の子が生まれた。
生まれた瞬間は、とても感動した。この時は、男の子とか女の子とか関係なくて、ただ無事に自分の子供が生まれてきてくれたことが嬉しかった。
私の子になってくれて、生まれてきてくれて本当にありがとう。これからよろしくね。心の中でそう呟いて、生まれたばかりの我が子を抱きしめた。
3日後には私の体は回復して、退院できるようになった。しかし、赤ん坊のほうはまだ入院が続く。男の子なので、綿密な検査や様々なケアが行われて生後2週間ほど経過するまでは、病院で過ごすことになった。
女の子の場合だと、母親と一緒に退院することが多いらしいけれど。
毎日必ず病院に通って、直人の様子を見ていた。そして、どんどん不安が膨らんでいった。
どうやら息子の直人は、他の男の子に比べて元気のようだ。体調も良くて、体重も増えているし健康状態も良いらしい。これからの成長に何の不安もなかった。それはとても嬉しい。健康に育ってくれることが、何よりも大事。
だからこそ、私の育て方が重要になってくる。このまま順調に育ってくれればいいのだけれど、もしも失敗してしまったら私の責任は大きい。
プレッシャーだった。直人の育児を失敗しないように、とにかく私は気をつけた。
しかし、予想に反して子育ては非常に順調だった。私の育児が上手かったわけじゃない。とにかく直人が、手のかからない良い子だったからだ。
ちゃんと言うことを聞いて、トラブルも起こさない。他の子とすぐに仲良くなって争ったりしない。私は見守っているだけで、直人はすくすく育っていった。私が手を焼くようなことを、直人は全くしなかった。
育児の経験がない私でも分かるぐらい、親にとって理想的な子供。手がかからなさ過ぎて、少し寂しいくらい。
それが、正しかったのか分からない。だけど、ちゃんとした男に育ってくれたのは間違いないだろう。魅力的で、賢くて、優しい子に育ったと思う。
ちょっとだけ気になることもある。普段からスキンシップが過剰で、小さい頃から女性に興味津々だった。それは、母親である私に対しても。そういう時だけ、直人はワガママを言ったりする。愛情表現としてそうしてくれることは嬉しい。息子からの愛情を感じることができるから。だけど、男性とのふれあいを今まで経験していない私には、刺激が強すぎた。
悪いことじゃない。世間とは少し違うのは分かっていた。だけど、何も言わない。私が口出しすると、良くないと思っていたから。口出しする必要もないし、今のままで良かったから。
あっという間に直人は育って、学校にちゃんと通って、仕事も始めて。おそらく、もう彼1人でも自立して生活していけるだろう。
仲良くなった女性に支援してもらって、何もしないで悠々自適な生活を送ることも出来ると思う。夫のように。
でも、まだ直人は私と一緒に暮らしてくれている。この生活が、いつまで続くのか分からない。いつまでも続いてほしいと、私は思っていた。この先、どうなるのか。それは彼の気持ち次第。私は、今までと同じように静かに見守るだけ。
家を出ていくと言われる日が来るのを、覚悟して備えていた。もうちょっとだけ、たった一人しかいない私の子である直人と2人だけの生活を楽しんでいたい。
38
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
読ませて頂きましたー
とても素晴らしいお話でした、いつか続きが読めると嬉しいです!
続き楽しみに待っています~頑張って下さいね~
祝 初の十万文字!
kona様
お祝いメッセージありがとうございます!
まだまだ頑張っていきます。