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3章・明日への一歩
会議
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三年後。
王都近辺では変化が起こっていた。
この三年でカイエンの父、ニルエドが死んだのだ。
そして、長男サリオンが防府太尉の位とその財産を受け継ぐ。
しかし、サリオンの受け継ぎは必ずしも滑らかに行われたものではなかったのである。
と、言うのも、ニルエドの死は急であった。
前日まで元気に鷹狩りに興じていたのに、翌朝には冷たくなっていたのである。
王都では、ニルエドが急死し、跡継ぎの指名が無かったためにガリエンド家の跡継ぎの問題で少々議題になった。
当然、長男のサリオンは内政も外交も戦争も、全てにおいて優秀なのだから、ニルエドの跡を継いでガリエンド家の当主となるべきであろう。
しかし、時に人は合理的に行動するわけでは無い。
それは見栄や名誉のためだ。
王侯貴族の中には、サリオンがこのままニルエドの跡を継ぐのが都合の悪い連中も居る。
「サリオンが順当に当主となっても、それは当然の結果であり、王都の権力バランスは変化しない。別の者をガリエンド家の当主にするのだ」
自分達の権力争いの為に、サリオンを当主に据えたくない連中である。
何せガリエンド家はマルダーク国の名家であり、ニルエドが防府太尉に任命されてからは名実ともにマルダークの重鎮の家となったのだ。
その当主と太いパイプが欲しいのである。
彼らは当初、ルーガを防府太尉の地位へ付けるべきだとした。
しかし、ルーガは政治が分からぬ。
ガリエンド家の本家宗家を含め、最も領主に任命されたのが遅かったのはルーガであり、その理由は政治力の欠如にあったのだ。
なので、ルーガがガリエンド家の当主などとはなはだおかしいと口々に言われた。
しかし、ルーガはサリオンよりも武に優れ、兵を良く率い、多大な戦果を挙げる男だ。
ゆえに防府太尉として重視すべくは政治力よりも武功だと主張するのである。
それに、ルーガに足りない政治力なぞ、我々が補佐してやれば良いのだとも言う。
確かに、現在のルーガは、町の治政、外交を配下の騎士連中に任せて、自身は兵を率いて動く事が多いので、その方法も出来なくは無いであろう。
しかし、それは長男のサリオンを降ろしてまで、三男のルーガを当主に据え置く理由にはならない!
ゆえに、ルーガをガリエンド家の当主にするという馬鹿げた議題はすぐに終わったのだ。
だが、権力を得たい。地位を得たいと言う見栄はそんな簡単に終わらず、彼らがすぐさま目を付けたのはカイエンであった。
そう、王侯貴族のメンツに泥を塗り、左遷されたあのカイエンである。
最初こそ、あのような不届き者を防府太尉にするなどと正気かと議論にすらならなかったのであるが、しかし、カイエンが七年間も辺境伯として王の勅命を実施している忠誠心を説くと、誰であろうマルダーク王が「ふむ。確かに」と悩んだのだ。
このマルダーク王の態度に、権力は欲しいが表だって主張しない消極的連中が、カイエン支持へ動いたのである。
しかし、王都の貴族で特に権力を持つ者、利権を有する者、発言力の高い者がサリオン支持であり、同時に王へ接する機会も多い者なので、サリオン派は王へいかにサリオンが素晴らしいかを常に説いたのだ。
王もまた、カイエンが防府太尉でも悪くは無いと思いもしたが、サリオンで妥当だと考えていたので、このままサリオンが防府太尉で良いだろうと言った。
しかし、カイエン派は、王が決断を下す最終採決の前に、民意を訪ねてみてはどうかと提言したのである。
これにサリオン支持者は焦った。
なにせカイエンは下々からの信用篤い男なのだ。
吟遊詩人などはカイエンが民草に食糧を分け与え、王にそれを咎められると、剣を抜き大立回りを演じるという脚色された歌を口にするほどだ。
なので、サリオン派はカイエンの軍功をあげへつらった。
つまり、カイエンはこの七年間、援軍も無しにオルブテナ王国と戦い、勝ったり負けたりを繰り返しながらも三つの町を攻め落として、オルブテナ王国侵攻の拠点となる地を手に入れていると。
そうサリオン派が言ったのである。
「援軍も無しにこれほどの戦果は脅威! カイエンが裏切ればたちまち国家は転覆ですぞ!」
カイエンのその恐るべき戦果で反乱の危険性を説いたのである。
それにカイエン派は「なればこそ、全ての罪を赦し、今までの罰を詫び、防府太尉の地位につけておいた方が反乱の危険も無くなるでしょう」と主張した。
両者一歩も譲らぬ舌戦が何日も行われたが、最後は王の一言にて決まったのである
「サリオンをガリエンド家当主として防府太尉に、カイエンを赦免して防府候に任命するのはどうだろう」
防府候とは、カイエンの現爵位である辺境伯より一段階上の爵位であり、サリオンの現爵位だ。
国防の三番目で、前線にて全部隊を指揮監督する役職である。
つまり、国防の最高責任者がサリオンで、その現場責任者がカイエンなのであるからして、カイエンは完全に許されたと言えよう。
王がこう言ってはもはや議論の余地は無し
結局、長男のサリオンがその跡を継ぐという事で異論無く決まったのである。
カイエン派の連中としても、ベストな結末とは言えなかったが、カイエンに相当な地位が約束された以上、及第点だと言えよう。
こうして、ニルエドの死は王都にて大きな影響を与えたのであるが、なんにせよ、まず新たな辺境伯を任命してハーズルージュへ派遣し、カイエンを王都へ呼び戻さねばならなかった。
ひとまずはカイエンへ父ニルエドの死と、昇進及び赦免の通達、そして七年間の長きに渡る戦働きの労いを伝える使者をカイエンの元へと送ろうかと言う状況。
しかし、今度はそれに不服な者が出てきた。
つまり、カイエンのような生意気な男が高い地位に就くなど、個人的な感情から許せぬという者達だ。
貴族の顔に泥を塗ったカイエンが許されるなどと認められなかった彼らは、カイエンを貶めるため、他領主の領民をカイエンが誘拐している。と、告発したのであった。
それと同じ頃、王都近くの、それもガリエンド家の治める西方に居たリーリルとサニヤはカイエンの実父であるの死を知る事が出来たのであるが、さすがにカイエンが赦免される情報や、カイエンが誘拐で訴えられたという話までは流れて来なかった。
ゆえに、まだ王侯貴族から、メンツを潰した存在として命を狙われていると思っていたので、ノコノコとニルエドの葬式へ出るわけにいかなかったのである。
もっとも、カイエンの実父の葬式とは言え、危険を冒してまで葬式に参加する程、ニルエドに義理があったわけではないが。
さて、そのサニヤ達であるが、彼女達は村を出て、また別の村へ居た。
名目上は、ラーツェとデズモグが村人と折り合いが悪くなって引っ越したと言う体である。
ご近所トラブルというものだ。
しかし、その実体は、リーリル達が王都の連中に見つからないよう、居場所を転々としていたのである。
三年前に、あの村を出るとき、ザインとラジートは泣きわめいて、出て行きたくないと駄々をこねたものだが、サニヤが「泣くな!」と無理矢理連れ出した。
しかし、そう言うサニヤ自身も名残惜しい思いで、村を出て行きたく無かったのである。
開拓村を出て行く時は、こんな寂寥とした気持ちなど無かったものだ。
今、開拓村に戻ったら、五、六歳の時とはもっと違う気持ちになれるんだろうか。と思う。
サニヤ、十四歳である。
リーリル二十四歳。
ザインとラジートは七歳。
つまり、カイエンと分かれて七年。
そんなある日、サニヤ達が移り住んだ村に、吟遊詩人がカイエンの噂を歌にしたことがあった。
あの日、東の英雄の話をしようと言う吟遊詩人が村に訪れると、ラーツェは彼を家へ招き入れて歌をお願いした。
適当な音楽に適当な歌詞を無理矢理に当てはめた酷い歌だったのであるが、しかし、その内容は、カイエンが三人の忠臣を伴い、七年間もオルブテナ王国と対等以上の戦いを繰り広げているというものであった。
カイエンはまだ生きてる!
サニヤ達の喜びはひとしおであろう。
しかし、サニヤに不満があるとすれば、歌の忠臣にリーリルの兄サマルダが出なかった事であったが。
ちなみにザインとラジートはなぜサニヤ達が喜んでいるのか全く分かってなかったのである。
生まれてこの方、父の事を見たことが無いせいだ。
さてさて、そんな弟達と違い、カイエンがまだ生きているならとサニヤは木剣を持って家を飛び出した。
強くなってお父様のもとへ行くんだ!
お父様待ってて! 私が助けてあげるから!
この時すでにカイエンは赦されているが、サニヤはいまだにカイエンの立場は危ういものだと思っていたのである。
そんな十四歳のサニヤの体は大分大人びていた。
訓練しか積んでは居ないが、体付きはいよいよ大人になり、日々鍛えられた肉体は、猫科を思わせるしなやかな筋肉で美しく締まっていた。
サニヤが向かう先は丘だ。
彼女達が移り住んだ村は小高い丘の斜面に出来た村で、段々畑が特徴的な平穏な村である。
その丘の頂上までひといきに駆け上がると、涼やかな風が吹き抜ける草原となっていた。
「早くして」
サニヤが見下ろすと、デズモグが肩で息をしながら必死に丘を登ってくる。
情けない話だが、デズモグはもう騎士とは呼べないかも知れない。
生来ノンビリ屋の彼はすっかり平和ボケして、あまり自己鍛錬に励まないのだ。
かつてはサニヤの計画につきっきりだから良かったものの、ここの所はラーツェとデズモグで交代にサニヤの相手をしているので、体を動かす機会も減り、すっかり鈍ってしまったのである。
もはや、技術も身体もサニヤに劣ってしまっていた。
とは言え、サニヤ一人で訓練するより相手がいる方がマシなので、デズモグを呼ぶが。
その日も、やはりサニヤより先にデズモグの方がバテてしまい、デズモグは休憩するので、サニヤはデズモグが休憩する間に素振りなどの自己鍛錬をするのである。
大体デズモグとの稽古はこのようなものであった。
しかし、サニヤはこのようなデズモグを情けないとは思わなかった。
彼は彼なりにリーリルやサニヤの正体を村の人達に隠すよう動いていたし、村の人達とゴタゴタしないように農作業をしたり、会合に参加したり、波風立たぬように、いわば大人の面倒くさい人付き合いと言うものに日々参加していたのである。
そして、そう言う苦労の上でサニヤとの稽古に励むのであるから、自己鍛錬している暇も無いというものなのである。
「ちょっと席を外します」
その日、デズモグは用を足しにサニヤから離れた。
サニヤが「早く戻ってきてね」と言いながら、気にも留めずに剣を振っていると、デズモグは丘を下りて姿を隠す。
そろそろ自分も休憩しようかなとサニヤは思うが、いやいやそう思ってからが本番だと、さらにラッシュをかけて剣を振り回した。
すると、足音が近付いてくる。
もうデズモグが戻ったのかと足音の方を見ると、違った。
あの吟遊詩人がサニヤの方へ歩いてくるのである。
「まだお若い女性なのに、格好良く剣を振り回しますね」
「女とか関係ないわよ」
サニヤが吟遊詩人を無視して、剣を振ろうと構え直すと「まあまあ、少々お話、よろしいですか?」と吟遊詩人が言うのだ。
唐突に何を言い出すのだろうか。
サニヤ達は何か奇妙だと思い、剣を杖にして「何か?」と吟遊詩人を見る。
吟遊詩人は羽根飾りのついた、つばの広い緑の帽子を取ると「ガラナイ様からの言伝です」と言った。
実は、彼はルーガ麾下の密偵兼密使であるのだという。
今回この村へ来たのは、リーリル達にルーガの掴んだカイエンの無事を報せるため、そして、もう一つが……。
「ガラナイ……」
なぜガラナイが言伝をしてくるのだろうか。
ふと、ガラナイとの日々を思い出す。
例えば耳元で顔を寄せてきて、背中がむずがゆくなるような言葉を囁くガラナイ。
調子の良いことを言って一緒に居ようとするガラナイ。
無意識に胸元の指輪をいじりながら、なんだか顔が赤くなる気がする。
サニヤが聞くわ。と言うと、吟遊詩人に扮した密使が言う。
その内容は、ガラナイが成人を迎えて一年経ったが、いまだに戦争に行ってない事。
だけど、そろそろ戦争が起こりそうだから、初陣も近いだろうと言うこと。
そして、何があっても村の中で静かに暮らし、良い相手を見つけて、自分の事を忘れて結婚して欲しいと言うことであった。
その話を聞いたサニヤは「自分の事を忘れて結婚して欲しい」と言う所が、いかにもガラナイらしくて笑ってしまう。
相変わらず自信家なんだから。誰もあんたのことなんて想って無いんだから、忘れるも何者無いわよ。バぁカ。
以前と変わらないその言伝に、ガラナイの事を懐かしく思った。
しかし、果たして本当に変わってないのだろうか。
妙な違和感にサニヤは笑みを消して考えた。
そうだ、確かにガラナイらしい雰囲気のする言伝だが、よくよく考えれば、ガラナイが言うわけのない言葉では無いかとサニヤは思う。
本来のガラナイならば、きっと、「君を必ず迎えに行くよ。絶対に俺のことを忘れるなよ」と言うところでは無いだろうか。
だが、ガラナイはサニヤに自分の事を忘れろ。良い相手を見つけて結婚しろなどと言うのである。
よくよく考えればガラナイらしくない。
「ねえ。近いうちに戦争があるの?」
自然、初陣と言っていた事と関連付けられたのである。
しかも、その初陣はあの自信家なガラナイが弱気な発言をするものなのであろうか?
サニヤは嫌な予感がしたのだ。
しかし、密使は「戦争なんてそこらでありますよ」と平然とした顔で言う。
はぐらかされている気もする。
しかし、密使がそんな簡単にバレるような顔をするわけ無いので、サニヤには分からなかった。
なにせ貴族の言伝を専門に行うお抱え密使だ。
表情から本音を読まれるような真似はしないのである。
「おっと。それでは失礼しました」
サニヤは色々と聞きたかったが、彼は緑の帽子を被り、背負ったリュートを揺らして丘を下りていった。
間髪入れずにデズモグが「お待たせしました」とやって来るのがサニヤには見えた。
「それでは、稽古の続きを……サニヤ様? どうしました?」
考え込むサニヤを不思議に思い、デズモグが聞いた。
しかし、サニヤは頭を振ると「なんでもない。やろっか」と構えたのである。
考えても分かんない事を自分が考えても無駄だと、サニヤは思ったのだ。
それに、何が起ころうと、その時に皆を守れる力があればそれで何とかなるさとも思うのである。
グダグダ悩むのはライが死んでから止めたのだ。
だから、サニヤは吟遊詩人の言ったことなんて数日もすれば殆ど忘れてしまったのである。
――しかし、その時は一週間も経たなかった。
数日後、村にいる人の親戚だと言う人達が、ラムラッドの方から十数名やって来たのである。
彼らは逃げて来たのだという。
何から逃げてきたんだと村の人達が聞けば、「戦争からさ」と言う。
バカな話である。
ラムラッドはこのマルダーク国の内地側であるのだから、戦争なんて起こりようもあるまい。
しかし、彼らは頭を振って「反乱だよ」と言うのだ。
サリオンが各地の諸侯と連盟してマルダーク王国に反旗を翻したのだという。
そして、ルーガはサリオンの方へ付き、先鋒としてマルダークを攻めたのだと言った。
王都近辺では変化が起こっていた。
この三年でカイエンの父、ニルエドが死んだのだ。
そして、長男サリオンが防府太尉の位とその財産を受け継ぐ。
しかし、サリオンの受け継ぎは必ずしも滑らかに行われたものではなかったのである。
と、言うのも、ニルエドの死は急であった。
前日まで元気に鷹狩りに興じていたのに、翌朝には冷たくなっていたのである。
王都では、ニルエドが急死し、跡継ぎの指名が無かったためにガリエンド家の跡継ぎの問題で少々議題になった。
当然、長男のサリオンは内政も外交も戦争も、全てにおいて優秀なのだから、ニルエドの跡を継いでガリエンド家の当主となるべきであろう。
しかし、時に人は合理的に行動するわけでは無い。
それは見栄や名誉のためだ。
王侯貴族の中には、サリオンがこのままニルエドの跡を継ぐのが都合の悪い連中も居る。
「サリオンが順当に当主となっても、それは当然の結果であり、王都の権力バランスは変化しない。別の者をガリエンド家の当主にするのだ」
自分達の権力争いの為に、サリオンを当主に据えたくない連中である。
何せガリエンド家はマルダーク国の名家であり、ニルエドが防府太尉に任命されてからは名実ともにマルダークの重鎮の家となったのだ。
その当主と太いパイプが欲しいのである。
彼らは当初、ルーガを防府太尉の地位へ付けるべきだとした。
しかし、ルーガは政治が分からぬ。
ガリエンド家の本家宗家を含め、最も領主に任命されたのが遅かったのはルーガであり、その理由は政治力の欠如にあったのだ。
なので、ルーガがガリエンド家の当主などとはなはだおかしいと口々に言われた。
しかし、ルーガはサリオンよりも武に優れ、兵を良く率い、多大な戦果を挙げる男だ。
ゆえに防府太尉として重視すべくは政治力よりも武功だと主張するのである。
それに、ルーガに足りない政治力なぞ、我々が補佐してやれば良いのだとも言う。
確かに、現在のルーガは、町の治政、外交を配下の騎士連中に任せて、自身は兵を率いて動く事が多いので、その方法も出来なくは無いであろう。
しかし、それは長男のサリオンを降ろしてまで、三男のルーガを当主に据え置く理由にはならない!
ゆえに、ルーガをガリエンド家の当主にするという馬鹿げた議題はすぐに終わったのだ。
だが、権力を得たい。地位を得たいと言う見栄はそんな簡単に終わらず、彼らがすぐさま目を付けたのはカイエンであった。
そう、王侯貴族のメンツに泥を塗り、左遷されたあのカイエンである。
最初こそ、あのような不届き者を防府太尉にするなどと正気かと議論にすらならなかったのであるが、しかし、カイエンが七年間も辺境伯として王の勅命を実施している忠誠心を説くと、誰であろうマルダーク王が「ふむ。確かに」と悩んだのだ。
このマルダーク王の態度に、権力は欲しいが表だって主張しない消極的連中が、カイエン支持へ動いたのである。
しかし、王都の貴族で特に権力を持つ者、利権を有する者、発言力の高い者がサリオン支持であり、同時に王へ接する機会も多い者なので、サリオン派は王へいかにサリオンが素晴らしいかを常に説いたのだ。
王もまた、カイエンが防府太尉でも悪くは無いと思いもしたが、サリオンで妥当だと考えていたので、このままサリオンが防府太尉で良いだろうと言った。
しかし、カイエン派は、王が決断を下す最終採決の前に、民意を訪ねてみてはどうかと提言したのである。
これにサリオン支持者は焦った。
なにせカイエンは下々からの信用篤い男なのだ。
吟遊詩人などはカイエンが民草に食糧を分け与え、王にそれを咎められると、剣を抜き大立回りを演じるという脚色された歌を口にするほどだ。
なので、サリオン派はカイエンの軍功をあげへつらった。
つまり、カイエンはこの七年間、援軍も無しにオルブテナ王国と戦い、勝ったり負けたりを繰り返しながらも三つの町を攻め落として、オルブテナ王国侵攻の拠点となる地を手に入れていると。
そうサリオン派が言ったのである。
「援軍も無しにこれほどの戦果は脅威! カイエンが裏切ればたちまち国家は転覆ですぞ!」
カイエンのその恐るべき戦果で反乱の危険性を説いたのである。
それにカイエン派は「なればこそ、全ての罪を赦し、今までの罰を詫び、防府太尉の地位につけておいた方が反乱の危険も無くなるでしょう」と主張した。
両者一歩も譲らぬ舌戦が何日も行われたが、最後は王の一言にて決まったのである
「サリオンをガリエンド家当主として防府太尉に、カイエンを赦免して防府候に任命するのはどうだろう」
防府候とは、カイエンの現爵位である辺境伯より一段階上の爵位であり、サリオンの現爵位だ。
国防の三番目で、前線にて全部隊を指揮監督する役職である。
つまり、国防の最高責任者がサリオンで、その現場責任者がカイエンなのであるからして、カイエンは完全に許されたと言えよう。
王がこう言ってはもはや議論の余地は無し
結局、長男のサリオンがその跡を継ぐという事で異論無く決まったのである。
カイエン派の連中としても、ベストな結末とは言えなかったが、カイエンに相当な地位が約束された以上、及第点だと言えよう。
こうして、ニルエドの死は王都にて大きな影響を与えたのであるが、なんにせよ、まず新たな辺境伯を任命してハーズルージュへ派遣し、カイエンを王都へ呼び戻さねばならなかった。
ひとまずはカイエンへ父ニルエドの死と、昇進及び赦免の通達、そして七年間の長きに渡る戦働きの労いを伝える使者をカイエンの元へと送ろうかと言う状況。
しかし、今度はそれに不服な者が出てきた。
つまり、カイエンのような生意気な男が高い地位に就くなど、個人的な感情から許せぬという者達だ。
貴族の顔に泥を塗ったカイエンが許されるなどと認められなかった彼らは、カイエンを貶めるため、他領主の領民をカイエンが誘拐している。と、告発したのであった。
それと同じ頃、王都近くの、それもガリエンド家の治める西方に居たリーリルとサニヤはカイエンの実父であるの死を知る事が出来たのであるが、さすがにカイエンが赦免される情報や、カイエンが誘拐で訴えられたという話までは流れて来なかった。
ゆえに、まだ王侯貴族から、メンツを潰した存在として命を狙われていると思っていたので、ノコノコとニルエドの葬式へ出るわけにいかなかったのである。
もっとも、カイエンの実父の葬式とは言え、危険を冒してまで葬式に参加する程、ニルエドに義理があったわけではないが。
さて、そのサニヤ達であるが、彼女達は村を出て、また別の村へ居た。
名目上は、ラーツェとデズモグが村人と折り合いが悪くなって引っ越したと言う体である。
ご近所トラブルというものだ。
しかし、その実体は、リーリル達が王都の連中に見つからないよう、居場所を転々としていたのである。
三年前に、あの村を出るとき、ザインとラジートは泣きわめいて、出て行きたくないと駄々をこねたものだが、サニヤが「泣くな!」と無理矢理連れ出した。
しかし、そう言うサニヤ自身も名残惜しい思いで、村を出て行きたく無かったのである。
開拓村を出て行く時は、こんな寂寥とした気持ちなど無かったものだ。
今、開拓村に戻ったら、五、六歳の時とはもっと違う気持ちになれるんだろうか。と思う。
サニヤ、十四歳である。
リーリル二十四歳。
ザインとラジートは七歳。
つまり、カイエンと分かれて七年。
そんなある日、サニヤ達が移り住んだ村に、吟遊詩人がカイエンの噂を歌にしたことがあった。
あの日、東の英雄の話をしようと言う吟遊詩人が村に訪れると、ラーツェは彼を家へ招き入れて歌をお願いした。
適当な音楽に適当な歌詞を無理矢理に当てはめた酷い歌だったのであるが、しかし、その内容は、カイエンが三人の忠臣を伴い、七年間もオルブテナ王国と対等以上の戦いを繰り広げているというものであった。
カイエンはまだ生きてる!
サニヤ達の喜びはひとしおであろう。
しかし、サニヤに不満があるとすれば、歌の忠臣にリーリルの兄サマルダが出なかった事であったが。
ちなみにザインとラジートはなぜサニヤ達が喜んでいるのか全く分かってなかったのである。
生まれてこの方、父の事を見たことが無いせいだ。
さてさて、そんな弟達と違い、カイエンがまだ生きているならとサニヤは木剣を持って家を飛び出した。
強くなってお父様のもとへ行くんだ!
お父様待ってて! 私が助けてあげるから!
この時すでにカイエンは赦されているが、サニヤはいまだにカイエンの立場は危ういものだと思っていたのである。
そんな十四歳のサニヤの体は大分大人びていた。
訓練しか積んでは居ないが、体付きはいよいよ大人になり、日々鍛えられた肉体は、猫科を思わせるしなやかな筋肉で美しく締まっていた。
サニヤが向かう先は丘だ。
彼女達が移り住んだ村は小高い丘の斜面に出来た村で、段々畑が特徴的な平穏な村である。
その丘の頂上までひといきに駆け上がると、涼やかな風が吹き抜ける草原となっていた。
「早くして」
サニヤが見下ろすと、デズモグが肩で息をしながら必死に丘を登ってくる。
情けない話だが、デズモグはもう騎士とは呼べないかも知れない。
生来ノンビリ屋の彼はすっかり平和ボケして、あまり自己鍛錬に励まないのだ。
かつてはサニヤの計画につきっきりだから良かったものの、ここの所はラーツェとデズモグで交代にサニヤの相手をしているので、体を動かす機会も減り、すっかり鈍ってしまったのである。
もはや、技術も身体もサニヤに劣ってしまっていた。
とは言え、サニヤ一人で訓練するより相手がいる方がマシなので、デズモグを呼ぶが。
その日も、やはりサニヤより先にデズモグの方がバテてしまい、デズモグは休憩するので、サニヤはデズモグが休憩する間に素振りなどの自己鍛錬をするのである。
大体デズモグとの稽古はこのようなものであった。
しかし、サニヤはこのようなデズモグを情けないとは思わなかった。
彼は彼なりにリーリルやサニヤの正体を村の人達に隠すよう動いていたし、村の人達とゴタゴタしないように農作業をしたり、会合に参加したり、波風立たぬように、いわば大人の面倒くさい人付き合いと言うものに日々参加していたのである。
そして、そう言う苦労の上でサニヤとの稽古に励むのであるから、自己鍛錬している暇も無いというものなのである。
「ちょっと席を外します」
その日、デズモグは用を足しにサニヤから離れた。
サニヤが「早く戻ってきてね」と言いながら、気にも留めずに剣を振っていると、デズモグは丘を下りて姿を隠す。
そろそろ自分も休憩しようかなとサニヤは思うが、いやいやそう思ってからが本番だと、さらにラッシュをかけて剣を振り回した。
すると、足音が近付いてくる。
もうデズモグが戻ったのかと足音の方を見ると、違った。
あの吟遊詩人がサニヤの方へ歩いてくるのである。
「まだお若い女性なのに、格好良く剣を振り回しますね」
「女とか関係ないわよ」
サニヤが吟遊詩人を無視して、剣を振ろうと構え直すと「まあまあ、少々お話、よろしいですか?」と吟遊詩人が言うのだ。
唐突に何を言い出すのだろうか。
サニヤ達は何か奇妙だと思い、剣を杖にして「何か?」と吟遊詩人を見る。
吟遊詩人は羽根飾りのついた、つばの広い緑の帽子を取ると「ガラナイ様からの言伝です」と言った。
実は、彼はルーガ麾下の密偵兼密使であるのだという。
今回この村へ来たのは、リーリル達にルーガの掴んだカイエンの無事を報せるため、そして、もう一つが……。
「ガラナイ……」
なぜガラナイが言伝をしてくるのだろうか。
ふと、ガラナイとの日々を思い出す。
例えば耳元で顔を寄せてきて、背中がむずがゆくなるような言葉を囁くガラナイ。
調子の良いことを言って一緒に居ようとするガラナイ。
無意識に胸元の指輪をいじりながら、なんだか顔が赤くなる気がする。
サニヤが聞くわ。と言うと、吟遊詩人に扮した密使が言う。
その内容は、ガラナイが成人を迎えて一年経ったが、いまだに戦争に行ってない事。
だけど、そろそろ戦争が起こりそうだから、初陣も近いだろうと言うこと。
そして、何があっても村の中で静かに暮らし、良い相手を見つけて、自分の事を忘れて結婚して欲しいと言うことであった。
その話を聞いたサニヤは「自分の事を忘れて結婚して欲しい」と言う所が、いかにもガラナイらしくて笑ってしまう。
相変わらず自信家なんだから。誰もあんたのことなんて想って無いんだから、忘れるも何者無いわよ。バぁカ。
以前と変わらないその言伝に、ガラナイの事を懐かしく思った。
しかし、果たして本当に変わってないのだろうか。
妙な違和感にサニヤは笑みを消して考えた。
そうだ、確かにガラナイらしい雰囲気のする言伝だが、よくよく考えれば、ガラナイが言うわけのない言葉では無いかとサニヤは思う。
本来のガラナイならば、きっと、「君を必ず迎えに行くよ。絶対に俺のことを忘れるなよ」と言うところでは無いだろうか。
だが、ガラナイはサニヤに自分の事を忘れろ。良い相手を見つけて結婚しろなどと言うのである。
よくよく考えればガラナイらしくない。
「ねえ。近いうちに戦争があるの?」
自然、初陣と言っていた事と関連付けられたのである。
しかも、その初陣はあの自信家なガラナイが弱気な発言をするものなのであろうか?
サニヤは嫌な予感がしたのだ。
しかし、密使は「戦争なんてそこらでありますよ」と平然とした顔で言う。
はぐらかされている気もする。
しかし、密使がそんな簡単にバレるような顔をするわけ無いので、サニヤには分からなかった。
なにせ貴族の言伝を専門に行うお抱え密使だ。
表情から本音を読まれるような真似はしないのである。
「おっと。それでは失礼しました」
サニヤは色々と聞きたかったが、彼は緑の帽子を被り、背負ったリュートを揺らして丘を下りていった。
間髪入れずにデズモグが「お待たせしました」とやって来るのがサニヤには見えた。
「それでは、稽古の続きを……サニヤ様? どうしました?」
考え込むサニヤを不思議に思い、デズモグが聞いた。
しかし、サニヤは頭を振ると「なんでもない。やろっか」と構えたのである。
考えても分かんない事を自分が考えても無駄だと、サニヤは思ったのだ。
それに、何が起ころうと、その時に皆を守れる力があればそれで何とかなるさとも思うのである。
グダグダ悩むのはライが死んでから止めたのだ。
だから、サニヤは吟遊詩人の言ったことなんて数日もすれば殆ど忘れてしまったのである。
――しかし、その時は一週間も経たなかった。
数日後、村にいる人の親戚だと言う人達が、ラムラッドの方から十数名やって来たのである。
彼らは逃げて来たのだという。
何から逃げてきたんだと村の人達が聞けば、「戦争からさ」と言う。
バカな話である。
ラムラッドはこのマルダーク国の内地側であるのだから、戦争なんて起こりようもあるまい。
しかし、彼らは頭を振って「反乱だよ」と言うのだ。
サリオンが各地の諸侯と連盟してマルダーク王国に反旗を翻したのだという。
そして、ルーガはサリオンの方へ付き、先鋒としてマルダークを攻めたのだと言った。
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