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5章・大鷲、白鳩、黒烏、それと二匹の子梟
大勝
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二つの軍が衝突する。
とはいえ、互いに持久戦型の陣形なので、激しくぶつかるものでもなければ、乱戦が起こるものでもなかった。
しかし、兵数の差は如実に現れ、国王軍はじわりじわりと後退していく。
さらに、サリオンはカイエンと同等かそれ以上の用兵の持ち主であり、カイエンの得意とする引いて押しての戦法に対応されたのである。
国王軍がカイエンの指揮で退けば、サリオンは無理に追わずに矢を射かけ、ルカオット軍が進んでくれば、槍を構えて迎え撃つ。
また、カイエンお得意の戦法もこう兵隊の数が多いとスムーズに命令が行き渡らず、どうしてもうまく機能しなかった。
こうして、国王軍はジワリジワリと押されていく。
国王軍側のオルバーニ率いる東方諸侯の救援は望めない。
彼らが丘の上に陣取っているため、反乱軍のノバーダ軍は逆落としを警戒して動けないからだ。
もしもオルバーニがサリオン軍へ逆落としを駆けると、この時を待っていたとばかりにノバーダは騎兵突撃をオルバーニの横っ腹へ仕掛けるだろう。
ゆえに、オルバーニは丘の上から睨み続けるしかなかったので、カイエン達は自力でサリオン軍を何とかせねばならないのである。
このくらいの不利は、カイエンも覚悟の上であったが、さすがに兄サリオンの用兵は強い。
何とか耐え忍び、睨み合いの状態まで戻さねばならないのであるが、果たして出来ようか。
カイエンの額を汗が一筋流れた。
その様子をサニヤは山の中で見ていたのであるが、何を思ったか、配下へここで戦争を眺めていたいから先に物資を運びに行くよう言ったのである。
「着替えの衣服は後回しで良いからさ。先に食糧持っていきなさい」
なんだ自分ばかり見物してと兵達は思うのであるが、サニヤに限らず指揮官の気まぐれなんて良くあること。
不満顔のまま食糧と油を積んだ輜重車を押して山道を進んでいった。
その輜重車が山頂へ付いたとき、ガラナイは相変わらず戦場を眺めている。
「ガラナイ様、弁当をお持ちしました」
「おう。ご苦労」
配下の兵が、大きな葉っぱの弁当を持ってきた。
この葉っぱにパンと干し肉、それと甘く煮込んだ豆が入っているのだ。
「それと水袋を」と、兵が水袋を渡してきた時、ガラナイは輸送隊にサニヤが居ないのに気付いた。
輸送隊の所には、ガラナイ隊やルーガ隊の兵が弁当を貰おうと集まっていたのであるが、幾ら見てもサニヤが居ない。
「おうい。サニヤはどこに居るんだ?」と、輸送隊へ呼ばわれば、輸送隊は「中腹で戦見学してます」と答える。
中腹で? と、山頂から見下ろすと、山に生える森の木々に、何かが走っているのが見えた。
群青と深緑が半々に、金糸で剣が描かれた旗。
ルーガ軍の旗である。
それが山を駆け下りて、真っ直ぐとサリオン軍へ進んでいた。
ガラナイは状況から鑑みて、サニヤじゃないかと思う。
いや、サニヤだろう。間違いない。
サリオン軍へ向かっている?
ガラナイは即座に、まずいと呟いた。
「そりゃ保存食ですからね。まずいですよ」と笑う配下の兵へ、すぐにルーガへ伝言するように言う。
「サニヤが勝手にサリオン軍へ突撃している!」
そのガラナイの言葉はすぐにルーガへ伝えられた。
ルーガは仰天してガラナイの元へと向かうと「どこだ!」と聞く。
ガラナイが指し示した先には、確かにサニヤが逆落としにてサリオン軍へ突撃しているでは無いか。
「サニヤの奴、何人か兵を連れてるけど、どこの兵だ? 輸送隊の奴じゃ無いよな」
木々の合間から見えるサニヤは十名近い歩兵を引き連れている。
フードやボロやらで顔を隠している様子でどこの隊の者か判別つかぬが、輸送隊では無い。
おおよそ手柄欲しい兵達を扇動して、身勝手な突撃を敢行したという所であろうか。
顔を隠しているのは、悪いことだと分かっている確信犯だからだ。
ルーガは怒りの眼で、誰が従っていようがどうでも良い。あいつは何をしているのか、と怒鳴った。
これはさすがに軍紀違反が過ぎる。
もはや叱責としてサニヤの首を斬るしか道は無いほどの命令違反であろう。
「だけれど親父、このままじゃサニヤは伯父さん所へ突撃かましちまうぜ」
当然、ルーガ軍の旗を掲げた隊が突撃すれば、サリオンはルーガが裏切ったと思うだろう。
ただでさえ反抗的にも命令を突っぱねて弁当なんて食べているのであるからして、間違いない話だ。
まったくもってなんたる事をするのかとルーガは激怒した。
もっとも、ガラナイに言わせれば、弁当なんて食べてなければ疑われなくて済んだだろう。これはルーガの優柔不断が招いた事態だとも言えたところだ。
「で、どうする? 裏切ったけど付いてきてくれた兵だ。今さらもう一回寝返った所で誰も非難しねえさ」
味方兵達はルーガを信じて付いてきてくれた人達だ。
確かに、今一度国王軍へ出戻りすると言って非難するものは、味方にはおるまい。
もっとも、世間の人々は何というか分からぬが。
そして、サニヤはルーガの親愛する弟子である。
生意気で、横柄で、礼儀も知らずに歯に衣着せぬ、年相応と言えば年相応に元気な子供だ。
とても見捨てる事など出来ない。
ルーガは溜息をついた。
結局の所、サリオンかカイエンか、後回しにしていた決断せねばならない問題が早まったに過ぎない。
全くもって、自分は道化だと思う。
「ガラナイはどっちが良い?」
「国王軍に付いて勝てたら、サニヤの軍紀違反は途端に大手柄に変わるな。親父?」
ルーガはガラナイの言葉に「そうだな」と頷くと、兵達へ戦闘準備と叫んだ。
兵達が食い物も地面に投げて、兜や槍を持って隊列を作ると、ルーガは戟(ハルバード)を振った。
「敵はサリオン軍だ! 逆落としにてサリオン軍の横っ腹を打ち砕く!」
突撃と号令すれば、兵達は戸惑う事なくサリオン軍へ向けて進軍を開始するのだ。
ガラナイを先頭に山を降っていくルーガ軍。
彼らが山の中腹へ到着した時、サニヤが先にサリオン軍の横へ突撃した。
サニヤ自身、戦争に対する恐怖はあったが、お父様を私が守るんだという思いで克己したのである。
八年前の誓いを今こそ!
サニヤが騎馬で突撃する。
また、サニヤに随伴する歩兵もその突撃に追いすがると、棍棒を奮って敵兵を薙ぎ倒した。
サニヤは槍が使えぬ。
剣の稽古しかやってなかったのも理由であるが、槍というものは存外重く、小さな体躯で槍を振るうと、体が軽いせいで逆に槍に振るわれてしまうのだ。
なので、サニヤは剣を抜いて馬上より敵兵へ斬り掛かった。
剣はその重量と遠心力を用いて、鎧の上から叩っ切る事が目的である。
しかしながら、馬に乗っていると踏ん張りがあまり効かぬため、馬上から斬り掛かる場合、鎧と兜の隙間を突いて首を刺したりする必要があった。
なので、予想以上に戦いづらいと言うのがサニヤの感想である。
前回の戦いの時にはすぐ落馬したから気付かなかったが、鎧や兜を剣で叩いても敵は怯むばかりで倒れはしないし、左右前方あらゆる所から敵は来るしで、当然ながら一対一の剣稽古と全く違うのだ。
しかし、サニヤがその剣で敵兵を怯ませれば、サニヤに随伴していた歩兵が彼らを棍棒で殴打して止めを刺すので、何とか戦えた。
「ありがと」と彼らへ言うと、唸り声で返答し、敵軍へ攻撃を仕掛ける。
「バレないようにしっかりと顔は隠してね」
フードの影より覗く鋭い牙を隠すように、彼はフードをグイッと目深に被った。
実を言うと、彼らは魔物だ。
輜重の衣服で正体を隠しているが、サニヤに従って付いてきたのである。
もちろん、本来は魔物が人に従うなんてあり得ない事であるが、サニヤは今までの出来事からそうできると思ったし、実際に彼らはサニヤに従って戦ってくれたのである。
とはいえ、サニヤと十名の魔物で敵軍に入ったところで、獅子のねぐらへ突撃するようなもの。
最初こそ敵軍は想定外の攻撃に慌てたものの、すぐに武器を構えて対応を始めた。
しかし、サニヤが作った陣形の穴へ、ルーガ軍五千と後詰めの五千、合わせて一万がサリオン軍へと突撃してきたのである。
先鋒を務めるガラナイがサニヤの元へ駆けてくると、サニヤも馬を走らせた。
「よくやったなサニヤ。おかげで親父が動いた」
「冗談。あんたが説得してくれたんでしょ。お陰で助かったよ」
二人は馬を並べて武器を構えると、突撃兵を率いて共に敵軍を突っ切っていく。
ガラナイ隊はあまりにも簡単に、そのままサリオン軍の真反対へ突き抜けた。
そう、あまりにも簡単に、誰も被害無くサリオン軍の反対の草原へと飛び出ると、反転して再び突撃を敢行する。
なぜここまで簡単に突撃が成功したのか。
実のところ、ルーガ軍の裏切りは誰も予想していなかった事だからだ。
確かにこの戦争は裏切りが勝利の鍵だと誰もが睨んでいたが、カイエンもサリオンも、ハリバーもラキーニも、誰しもがルーガが裏切る等と思いもしなかったのだ。
想定外の道化(ジョーカー)である。
そのため、サリオン軍はルーガ軍側の部隊に若くて戦闘経験の少ない騎士の隊を配置していた。
そのため、突撃に対応出来ず、全く綺麗にルーガ軍の突撃によって分断されてしまったのだ。
そして、ルーガ軍裏切りの報はカイエン達の耳にも入り、カイエンとハリバーは互いに顔を見合わせてしまった。
まったく想定外であるが、まさに嬉しい誤算である。
今こそ攻めるときと断じ、カイエンは「キュル・ル・ウィ」と高らかに叫ぶと、騎士が一斉にキュル・ル・ウィと叫び、その指示が端から端まで駆け巡った。
すると、方円陣の最右左翼に位置していたロイバック隊とキュレイン隊が前進。
見事に鶴翼陣を形成したのである。
分断されたサリオン軍の半分は、後方にルーガ軍、前方にガツィ、オーグィック、シュレンの三連隊、
左右にロイバックとキュレインという包囲網に包まれた!
これはもう無理だと思ったか、サリオン軍は直ちに撤退の太鼓を鳴らし、撤退を始める。
孤立した部隊も太鼓の音を聞いて撤退しようと後方に居るルーガ軍へ攻勢をかけた。
しかし、この時代において、兵は包囲されて戦うことを想定していない。
指揮官を中心に固まって前進し、正面からぶつかり合うのがこの世界の一般的な戦いである。
一部の騎兵による奇襲というものはあったが、これほど大規模な包囲は史上稀に見る出来事だ。
つまりは、前後左右から攻撃されると全くの混乱となってしまったのである。
騎士達が必死に後方を示して居るのだが、兵達は右か左か分からずにおろおろするばかり。
サリオンの三番目の息子、サナリーもこの包囲網に孤立した部隊の一人であり、必死に兵達の混乱を収めようと声を出していた。
父上の隊はあっちだ! 後ろはあっちだ!
サナリーがそう言うのに、まともな勉学も受けていない兵というのは愚かなもので、やれあっちに敵の旗があるからあっちは後ろじゃ無いとか、やれこっちに敵の旗があるからこっちは後ろじゃ無いと、訳の分からぬ飛語が四方八方に流れて、方向すらも見失うのだ。
なぜ兵どもはこうも無教養で馬鹿なのだとサナリーはイラつき、そして焦燥しながら、「だからあっちが後ろなんだよ!」と怒鳴るのである。
そんな彼の前に二人の騎士がやって来た。
背につけているは敵の旗。
サナリーは驚き構えると、まずは剣を持った騎士が攻撃を仕掛けてくる。
サナリーもガリエンド家の者として剣の訓練は積んだ男。
しかし、敵騎士は予想以上の手練。
一瞬の隙に顔面へ剣が叩き込まれた。
何とか体を逸らして紙一重の回避。
兜が宙を舞う。
その瞬間、敵騎士が「あれ。あんた……」と動きを止めた。
好機!
サナリーがそう思った時、もう一人の騎士がサナリーの胴鎧の隙間に槍を突き立てて突進する。
脇腹より肩口へかけて槍が貫通し、サナリーは絶命した。
「サニヤ。乱戦で気ぃ抜いたら死ぬぞ」
「わ、分かってる」
サニヤは面甲を外し、サナリーの死体を一瞥する。
八年前、ガリエンド家の屋敷で出会った少年によく似ている。
顔の知った相手が死んだと思うと、自然と恐ろしい気持ちと哀しい気持ちが湧いてきた。
サニヤはこれが戦争だと分かっていた事じゃ無いかと自分を説得し、「手柄首だ」と喜ぶガラナイと共に戦場を駆けたのであった。
「ところで、サニヤの連れていた兵はどうした?」
サニヤはガラナイと一緒に突撃騎兵の先陣を切っているが、最初に連れていた兵達の姿が見えないので、その指揮をしなくて良いのかと聞く。
「あいつら? 還ったわ」
「帰った?」
「うん。多分、還ったわ。そんな気がする」
魔物は土より出でて土に還るのだと、どういうわけかサニヤは直感したのである。
そして、現にあの魔物達は、ルーガ軍の突撃の混乱の中、地面へ潜って土くれへ還っていた。
地面を掘り返せば、彼らの着ていた衣服が出てくるかも知れない。
もちろん、サニヤは彼らが土へ還った事を知らないし、見たことも無かったし、よく分からないが、だがそんな感じがした。
ガラナイは全くもって、兵達は帰ったとは何を言っているのか分からず混乱してしまう。
よく分からなかったが、きっと原隊に復帰したという意味だろうと、無理矢理納得した。
そんな二人に、一人の騎士が走ってきた。
口元が開けている面甲から、白いヒゲを覗かせている老将だ。
彼は槍をしごき、「よくもサナリー様を!」と言うのである。
敵将である。
ガラナイとサニヤ、二人がかりで彼へ挑むも、中々の手練れ。
恐らくはルーガと同じくらいの強さであろうか。二人の攻撃を、その槍で見事にしのぐのだ。
なんで当たらないんだとやきもきする二人を、いつの間にやら敵兵が槍を向けて四方八方に立っていた。
つまり、敵陣に深く食い込んだ二人が足を止めれば、それすなわち、敵兵に包囲された形となる。
油断するなと言いながら、全く二人は油断したと言わざる得まい。
後方から騎馬突撃隊が来ているが、振り向けば彼らと離れている。
突撃隊が追いつくまでしのがねばならないが、しのげるとは思えない。
完全にやってまった。
戦いはあまりに優勢で、敵軍が混乱していたため、サニヤとガラナイはついつい足並みを揃えるという基本を忘れていたのだ。
が、その時、無数の槍衾(やりぶすま)が横合いから敵軍を突き刺した。
白い髭の敵将は横からの攻撃に恐れ戦いた。
次の瞬間、青い甲冑に身を包んだ騎士にその隙を突かれて、首を斬られる。
青い甲冑の騎士は声を張り上げて「ルーガ軍の手助けありがたし。このまま包囲殲滅でもって決着をつけよう!」と言うのだ。
サニヤはその声をよく覚えている。
彼は愛すべき父、カイエンだ!
サニヤとガラナイでさえ手こずった敵将を一瞬で殺害せしめるとは、こういう乱戦混戦でこそ、カイエンはその観察力と機転を用いた実力を発揮出来るのだ。
が、そのカイエンはサニヤがフルフェイスの兜を被っていたので、サニヤに気づかず、そのまま部隊を指揮して前進していった。
サニヤは今すぐにでも、お父様! 私だよ! と駆け寄りたかったが、サニヤももう子供では無い。
さすがにそこは分別くらいつく。
「ガラナイ、行こう」
「おう。俺達はもっと敵軍を混乱させるために、こっちへ行くぞ」
感情をグッとこらえて、ガラナイと共に再び敵軍へ攻撃をしかけた。
激しい乱戦に、とうとうカイエンとサニヤは出会う事が出来ないのである。
それからこの戦いが終わるのに幾ばくも無く。
結局、サリオン軍は包囲された味方を助けること無く王都へ撤退。
包囲されていた兵達も、サリオンに見捨てられたと分かると続々と投降したため終局となった。
ノバーダ率いる反乱軍の別動隊も、サリオン軍が撤退したと知り、いつの間にやら撤退していた。
ルカオット軍の勝利だ。
まさかまさかの勝利に……しかも大勝に兵達は歓声にわいた。
振り返って見れば、殆ど被害が無い状態である。
カイエンはルカオットに、兵達が一日中宴会の出来るよう酒を解放させる指示を出すように言った。
それから、勝利の演説も一つと伝えたが、ルカオットは、多数の兵の前に立つと、萎縮して演説なんぞ出来なかったのである。
仕方ないので、カイエンがルカオットの代弁として勝利の演説を行うのであった。
演説というものは大事だ。
勝利の高揚感。満たされる射幸心。動物として持ちうる生存欲求。
これらの多幸感が演説によって、組織と結びつき、ひいてはマルダーク国王たるルカオットの忠誠心にも繋がるのである。
カイエンが手短に勝利の宣言を行い、鬨の声を上げれば、兵達も大きな声で鬨の声を上げるのであった。
こうして兵達は勝利の余韻と酒に酔い痴れて、飲めや歌えの大騒ぎを始めた。
しかし、カイエンやルカオットはそんな兵達の声を聞きながら、幕舎の中へ戻ると、重い顔をした。
幕舎の中にはハリバーとラキーニがルカオットの横に立ち、ロイバックやシュエン、キュレイン等も剣の柄に手を掛けて立っていた。
実を言うと、ルカオット軍はルーガへ使者を出しているのである。
なぜ、唐突に裏切ったのか、その真意を確かめるため、出向するように。と。
ルーガもさすがにいきなり殺しに来る事も無いだろうが、コロコロと掌を返す相手だという印象もあるため、護衛として幕舎にいるシュエンや騎士達は警戒の色が強まった。
特に、シュエンはルーガの事を身の保身の為に陣営を変えるとんだコウモリ野郎だ。と言うほどで、個人的な嫌悪もあってか表情は硬い。
外の歓声と打って変わって重い幕舎の空気。
幕舎の中に聞こえる音は、シュエンのぶつくさとした文句だけだ。
すると、兵が一人入ってきて「ルカオット様。カイエン様。ルーガが来ました」と言う。
来たか……。
カイエンが「通せ」と言った瞬間、入り口の垂れ幕がそよぐ。
直後、黒い影が疾風の如く幕舎へ入ってきた。
――速い!
誰もが反応できず、その黒い影は跳躍し、カイエンへと飛び掛かったのである。
「お父様!」
直後、サニヤがカイエンの首へ思いっきり抱き付いたので、カイエンは首を絞められる事になった。
とはいえ、互いに持久戦型の陣形なので、激しくぶつかるものでもなければ、乱戦が起こるものでもなかった。
しかし、兵数の差は如実に現れ、国王軍はじわりじわりと後退していく。
さらに、サリオンはカイエンと同等かそれ以上の用兵の持ち主であり、カイエンの得意とする引いて押しての戦法に対応されたのである。
国王軍がカイエンの指揮で退けば、サリオンは無理に追わずに矢を射かけ、ルカオット軍が進んでくれば、槍を構えて迎え撃つ。
また、カイエンお得意の戦法もこう兵隊の数が多いとスムーズに命令が行き渡らず、どうしてもうまく機能しなかった。
こうして、国王軍はジワリジワリと押されていく。
国王軍側のオルバーニ率いる東方諸侯の救援は望めない。
彼らが丘の上に陣取っているため、反乱軍のノバーダ軍は逆落としを警戒して動けないからだ。
もしもオルバーニがサリオン軍へ逆落としを駆けると、この時を待っていたとばかりにノバーダは騎兵突撃をオルバーニの横っ腹へ仕掛けるだろう。
ゆえに、オルバーニは丘の上から睨み続けるしかなかったので、カイエン達は自力でサリオン軍を何とかせねばならないのである。
このくらいの不利は、カイエンも覚悟の上であったが、さすがに兄サリオンの用兵は強い。
何とか耐え忍び、睨み合いの状態まで戻さねばならないのであるが、果たして出来ようか。
カイエンの額を汗が一筋流れた。
その様子をサニヤは山の中で見ていたのであるが、何を思ったか、配下へここで戦争を眺めていたいから先に物資を運びに行くよう言ったのである。
「着替えの衣服は後回しで良いからさ。先に食糧持っていきなさい」
なんだ自分ばかり見物してと兵達は思うのであるが、サニヤに限らず指揮官の気まぐれなんて良くあること。
不満顔のまま食糧と油を積んだ輜重車を押して山道を進んでいった。
その輜重車が山頂へ付いたとき、ガラナイは相変わらず戦場を眺めている。
「ガラナイ様、弁当をお持ちしました」
「おう。ご苦労」
配下の兵が、大きな葉っぱの弁当を持ってきた。
この葉っぱにパンと干し肉、それと甘く煮込んだ豆が入っているのだ。
「それと水袋を」と、兵が水袋を渡してきた時、ガラナイは輸送隊にサニヤが居ないのに気付いた。
輸送隊の所には、ガラナイ隊やルーガ隊の兵が弁当を貰おうと集まっていたのであるが、幾ら見てもサニヤが居ない。
「おうい。サニヤはどこに居るんだ?」と、輸送隊へ呼ばわれば、輸送隊は「中腹で戦見学してます」と答える。
中腹で? と、山頂から見下ろすと、山に生える森の木々に、何かが走っているのが見えた。
群青と深緑が半々に、金糸で剣が描かれた旗。
ルーガ軍の旗である。
それが山を駆け下りて、真っ直ぐとサリオン軍へ進んでいた。
ガラナイは状況から鑑みて、サニヤじゃないかと思う。
いや、サニヤだろう。間違いない。
サリオン軍へ向かっている?
ガラナイは即座に、まずいと呟いた。
「そりゃ保存食ですからね。まずいですよ」と笑う配下の兵へ、すぐにルーガへ伝言するように言う。
「サニヤが勝手にサリオン軍へ突撃している!」
そのガラナイの言葉はすぐにルーガへ伝えられた。
ルーガは仰天してガラナイの元へと向かうと「どこだ!」と聞く。
ガラナイが指し示した先には、確かにサニヤが逆落としにてサリオン軍へ突撃しているでは無いか。
「サニヤの奴、何人か兵を連れてるけど、どこの兵だ? 輸送隊の奴じゃ無いよな」
木々の合間から見えるサニヤは十名近い歩兵を引き連れている。
フードやボロやらで顔を隠している様子でどこの隊の者か判別つかぬが、輸送隊では無い。
おおよそ手柄欲しい兵達を扇動して、身勝手な突撃を敢行したという所であろうか。
顔を隠しているのは、悪いことだと分かっている確信犯だからだ。
ルーガは怒りの眼で、誰が従っていようがどうでも良い。あいつは何をしているのか、と怒鳴った。
これはさすがに軍紀違反が過ぎる。
もはや叱責としてサニヤの首を斬るしか道は無いほどの命令違反であろう。
「だけれど親父、このままじゃサニヤは伯父さん所へ突撃かましちまうぜ」
当然、ルーガ軍の旗を掲げた隊が突撃すれば、サリオンはルーガが裏切ったと思うだろう。
ただでさえ反抗的にも命令を突っぱねて弁当なんて食べているのであるからして、間違いない話だ。
まったくもってなんたる事をするのかとルーガは激怒した。
もっとも、ガラナイに言わせれば、弁当なんて食べてなければ疑われなくて済んだだろう。これはルーガの優柔不断が招いた事態だとも言えたところだ。
「で、どうする? 裏切ったけど付いてきてくれた兵だ。今さらもう一回寝返った所で誰も非難しねえさ」
味方兵達はルーガを信じて付いてきてくれた人達だ。
確かに、今一度国王軍へ出戻りすると言って非難するものは、味方にはおるまい。
もっとも、世間の人々は何というか分からぬが。
そして、サニヤはルーガの親愛する弟子である。
生意気で、横柄で、礼儀も知らずに歯に衣着せぬ、年相応と言えば年相応に元気な子供だ。
とても見捨てる事など出来ない。
ルーガは溜息をついた。
結局の所、サリオンかカイエンか、後回しにしていた決断せねばならない問題が早まったに過ぎない。
全くもって、自分は道化だと思う。
「ガラナイはどっちが良い?」
「国王軍に付いて勝てたら、サニヤの軍紀違反は途端に大手柄に変わるな。親父?」
ルーガはガラナイの言葉に「そうだな」と頷くと、兵達へ戦闘準備と叫んだ。
兵達が食い物も地面に投げて、兜や槍を持って隊列を作ると、ルーガは戟(ハルバード)を振った。
「敵はサリオン軍だ! 逆落としにてサリオン軍の横っ腹を打ち砕く!」
突撃と号令すれば、兵達は戸惑う事なくサリオン軍へ向けて進軍を開始するのだ。
ガラナイを先頭に山を降っていくルーガ軍。
彼らが山の中腹へ到着した時、サニヤが先にサリオン軍の横へ突撃した。
サニヤ自身、戦争に対する恐怖はあったが、お父様を私が守るんだという思いで克己したのである。
八年前の誓いを今こそ!
サニヤが騎馬で突撃する。
また、サニヤに随伴する歩兵もその突撃に追いすがると、棍棒を奮って敵兵を薙ぎ倒した。
サニヤは槍が使えぬ。
剣の稽古しかやってなかったのも理由であるが、槍というものは存外重く、小さな体躯で槍を振るうと、体が軽いせいで逆に槍に振るわれてしまうのだ。
なので、サニヤは剣を抜いて馬上より敵兵へ斬り掛かった。
剣はその重量と遠心力を用いて、鎧の上から叩っ切る事が目的である。
しかしながら、馬に乗っていると踏ん張りがあまり効かぬため、馬上から斬り掛かる場合、鎧と兜の隙間を突いて首を刺したりする必要があった。
なので、予想以上に戦いづらいと言うのがサニヤの感想である。
前回の戦いの時にはすぐ落馬したから気付かなかったが、鎧や兜を剣で叩いても敵は怯むばかりで倒れはしないし、左右前方あらゆる所から敵は来るしで、当然ながら一対一の剣稽古と全く違うのだ。
しかし、サニヤがその剣で敵兵を怯ませれば、サニヤに随伴していた歩兵が彼らを棍棒で殴打して止めを刺すので、何とか戦えた。
「ありがと」と彼らへ言うと、唸り声で返答し、敵軍へ攻撃を仕掛ける。
「バレないようにしっかりと顔は隠してね」
フードの影より覗く鋭い牙を隠すように、彼はフードをグイッと目深に被った。
実を言うと、彼らは魔物だ。
輜重の衣服で正体を隠しているが、サニヤに従って付いてきたのである。
もちろん、本来は魔物が人に従うなんてあり得ない事であるが、サニヤは今までの出来事からそうできると思ったし、実際に彼らはサニヤに従って戦ってくれたのである。
とはいえ、サニヤと十名の魔物で敵軍に入ったところで、獅子のねぐらへ突撃するようなもの。
最初こそ敵軍は想定外の攻撃に慌てたものの、すぐに武器を構えて対応を始めた。
しかし、サニヤが作った陣形の穴へ、ルーガ軍五千と後詰めの五千、合わせて一万がサリオン軍へと突撃してきたのである。
先鋒を務めるガラナイがサニヤの元へ駆けてくると、サニヤも馬を走らせた。
「よくやったなサニヤ。おかげで親父が動いた」
「冗談。あんたが説得してくれたんでしょ。お陰で助かったよ」
二人は馬を並べて武器を構えると、突撃兵を率いて共に敵軍を突っ切っていく。
ガラナイ隊はあまりにも簡単に、そのままサリオン軍の真反対へ突き抜けた。
そう、あまりにも簡単に、誰も被害無くサリオン軍の反対の草原へと飛び出ると、反転して再び突撃を敢行する。
なぜここまで簡単に突撃が成功したのか。
実のところ、ルーガ軍の裏切りは誰も予想していなかった事だからだ。
確かにこの戦争は裏切りが勝利の鍵だと誰もが睨んでいたが、カイエンもサリオンも、ハリバーもラキーニも、誰しもがルーガが裏切る等と思いもしなかったのだ。
想定外の道化(ジョーカー)である。
そのため、サリオン軍はルーガ軍側の部隊に若くて戦闘経験の少ない騎士の隊を配置していた。
そのため、突撃に対応出来ず、全く綺麗にルーガ軍の突撃によって分断されてしまったのだ。
そして、ルーガ軍裏切りの報はカイエン達の耳にも入り、カイエンとハリバーは互いに顔を見合わせてしまった。
まったく想定外であるが、まさに嬉しい誤算である。
今こそ攻めるときと断じ、カイエンは「キュル・ル・ウィ」と高らかに叫ぶと、騎士が一斉にキュル・ル・ウィと叫び、その指示が端から端まで駆け巡った。
すると、方円陣の最右左翼に位置していたロイバック隊とキュレイン隊が前進。
見事に鶴翼陣を形成したのである。
分断されたサリオン軍の半分は、後方にルーガ軍、前方にガツィ、オーグィック、シュレンの三連隊、
左右にロイバックとキュレインという包囲網に包まれた!
これはもう無理だと思ったか、サリオン軍は直ちに撤退の太鼓を鳴らし、撤退を始める。
孤立した部隊も太鼓の音を聞いて撤退しようと後方に居るルーガ軍へ攻勢をかけた。
しかし、この時代において、兵は包囲されて戦うことを想定していない。
指揮官を中心に固まって前進し、正面からぶつかり合うのがこの世界の一般的な戦いである。
一部の騎兵による奇襲というものはあったが、これほど大規模な包囲は史上稀に見る出来事だ。
つまりは、前後左右から攻撃されると全くの混乱となってしまったのである。
騎士達が必死に後方を示して居るのだが、兵達は右か左か分からずにおろおろするばかり。
サリオンの三番目の息子、サナリーもこの包囲網に孤立した部隊の一人であり、必死に兵達の混乱を収めようと声を出していた。
父上の隊はあっちだ! 後ろはあっちだ!
サナリーがそう言うのに、まともな勉学も受けていない兵というのは愚かなもので、やれあっちに敵の旗があるからあっちは後ろじゃ無いとか、やれこっちに敵の旗があるからこっちは後ろじゃ無いと、訳の分からぬ飛語が四方八方に流れて、方向すらも見失うのだ。
なぜ兵どもはこうも無教養で馬鹿なのだとサナリーはイラつき、そして焦燥しながら、「だからあっちが後ろなんだよ!」と怒鳴るのである。
そんな彼の前に二人の騎士がやって来た。
背につけているは敵の旗。
サナリーは驚き構えると、まずは剣を持った騎士が攻撃を仕掛けてくる。
サナリーもガリエンド家の者として剣の訓練は積んだ男。
しかし、敵騎士は予想以上の手練。
一瞬の隙に顔面へ剣が叩き込まれた。
何とか体を逸らして紙一重の回避。
兜が宙を舞う。
その瞬間、敵騎士が「あれ。あんた……」と動きを止めた。
好機!
サナリーがそう思った時、もう一人の騎士がサナリーの胴鎧の隙間に槍を突き立てて突進する。
脇腹より肩口へかけて槍が貫通し、サナリーは絶命した。
「サニヤ。乱戦で気ぃ抜いたら死ぬぞ」
「わ、分かってる」
サニヤは面甲を外し、サナリーの死体を一瞥する。
八年前、ガリエンド家の屋敷で出会った少年によく似ている。
顔の知った相手が死んだと思うと、自然と恐ろしい気持ちと哀しい気持ちが湧いてきた。
サニヤはこれが戦争だと分かっていた事じゃ無いかと自分を説得し、「手柄首だ」と喜ぶガラナイと共に戦場を駆けたのであった。
「ところで、サニヤの連れていた兵はどうした?」
サニヤはガラナイと一緒に突撃騎兵の先陣を切っているが、最初に連れていた兵達の姿が見えないので、その指揮をしなくて良いのかと聞く。
「あいつら? 還ったわ」
「帰った?」
「うん。多分、還ったわ。そんな気がする」
魔物は土より出でて土に還るのだと、どういうわけかサニヤは直感したのである。
そして、現にあの魔物達は、ルーガ軍の突撃の混乱の中、地面へ潜って土くれへ還っていた。
地面を掘り返せば、彼らの着ていた衣服が出てくるかも知れない。
もちろん、サニヤは彼らが土へ還った事を知らないし、見たことも無かったし、よく分からないが、だがそんな感じがした。
ガラナイは全くもって、兵達は帰ったとは何を言っているのか分からず混乱してしまう。
よく分からなかったが、きっと原隊に復帰したという意味だろうと、無理矢理納得した。
そんな二人に、一人の騎士が走ってきた。
口元が開けている面甲から、白いヒゲを覗かせている老将だ。
彼は槍をしごき、「よくもサナリー様を!」と言うのである。
敵将である。
ガラナイとサニヤ、二人がかりで彼へ挑むも、中々の手練れ。
恐らくはルーガと同じくらいの強さであろうか。二人の攻撃を、その槍で見事にしのぐのだ。
なんで当たらないんだとやきもきする二人を、いつの間にやら敵兵が槍を向けて四方八方に立っていた。
つまり、敵陣に深く食い込んだ二人が足を止めれば、それすなわち、敵兵に包囲された形となる。
油断するなと言いながら、全く二人は油断したと言わざる得まい。
後方から騎馬突撃隊が来ているが、振り向けば彼らと離れている。
突撃隊が追いつくまでしのがねばならないが、しのげるとは思えない。
完全にやってまった。
戦いはあまりに優勢で、敵軍が混乱していたため、サニヤとガラナイはついつい足並みを揃えるという基本を忘れていたのだ。
が、その時、無数の槍衾(やりぶすま)が横合いから敵軍を突き刺した。
白い髭の敵将は横からの攻撃に恐れ戦いた。
次の瞬間、青い甲冑に身を包んだ騎士にその隙を突かれて、首を斬られる。
青い甲冑の騎士は声を張り上げて「ルーガ軍の手助けありがたし。このまま包囲殲滅でもって決着をつけよう!」と言うのだ。
サニヤはその声をよく覚えている。
彼は愛すべき父、カイエンだ!
サニヤとガラナイでさえ手こずった敵将を一瞬で殺害せしめるとは、こういう乱戦混戦でこそ、カイエンはその観察力と機転を用いた実力を発揮出来るのだ。
が、そのカイエンはサニヤがフルフェイスの兜を被っていたので、サニヤに気づかず、そのまま部隊を指揮して前進していった。
サニヤは今すぐにでも、お父様! 私だよ! と駆け寄りたかったが、サニヤももう子供では無い。
さすがにそこは分別くらいつく。
「ガラナイ、行こう」
「おう。俺達はもっと敵軍を混乱させるために、こっちへ行くぞ」
感情をグッとこらえて、ガラナイと共に再び敵軍へ攻撃をしかけた。
激しい乱戦に、とうとうカイエンとサニヤは出会う事が出来ないのである。
それからこの戦いが終わるのに幾ばくも無く。
結局、サリオン軍は包囲された味方を助けること無く王都へ撤退。
包囲されていた兵達も、サリオンに見捨てられたと分かると続々と投降したため終局となった。
ノバーダ率いる反乱軍の別動隊も、サリオン軍が撤退したと知り、いつの間にやら撤退していた。
ルカオット軍の勝利だ。
まさかまさかの勝利に……しかも大勝に兵達は歓声にわいた。
振り返って見れば、殆ど被害が無い状態である。
カイエンはルカオットに、兵達が一日中宴会の出来るよう酒を解放させる指示を出すように言った。
それから、勝利の演説も一つと伝えたが、ルカオットは、多数の兵の前に立つと、萎縮して演説なんぞ出来なかったのである。
仕方ないので、カイエンがルカオットの代弁として勝利の演説を行うのであった。
演説というものは大事だ。
勝利の高揚感。満たされる射幸心。動物として持ちうる生存欲求。
これらの多幸感が演説によって、組織と結びつき、ひいてはマルダーク国王たるルカオットの忠誠心にも繋がるのである。
カイエンが手短に勝利の宣言を行い、鬨の声を上げれば、兵達も大きな声で鬨の声を上げるのであった。
こうして兵達は勝利の余韻と酒に酔い痴れて、飲めや歌えの大騒ぎを始めた。
しかし、カイエンやルカオットはそんな兵達の声を聞きながら、幕舎の中へ戻ると、重い顔をした。
幕舎の中にはハリバーとラキーニがルカオットの横に立ち、ロイバックやシュエン、キュレイン等も剣の柄に手を掛けて立っていた。
実を言うと、ルカオット軍はルーガへ使者を出しているのである。
なぜ、唐突に裏切ったのか、その真意を確かめるため、出向するように。と。
ルーガもさすがにいきなり殺しに来る事も無いだろうが、コロコロと掌を返す相手だという印象もあるため、護衛として幕舎にいるシュエンや騎士達は警戒の色が強まった。
特に、シュエンはルーガの事を身の保身の為に陣営を変えるとんだコウモリ野郎だ。と言うほどで、個人的な嫌悪もあってか表情は硬い。
外の歓声と打って変わって重い幕舎の空気。
幕舎の中に聞こえる音は、シュエンのぶつくさとした文句だけだ。
すると、兵が一人入ってきて「ルカオット様。カイエン様。ルーガが来ました」と言う。
来たか……。
カイエンが「通せ」と言った瞬間、入り口の垂れ幕がそよぐ。
直後、黒い影が疾風の如く幕舎へ入ってきた。
――速い!
誰もが反応できず、その黒い影は跳躍し、カイエンへと飛び掛かったのである。
「お父様!」
直後、サニヤがカイエンの首へ思いっきり抱き付いたので、カイエンは首を絞められる事になった。
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