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第三章 魔王様、中学時代をお過ごしになる

86 魔王様、部活の先輩たちと語り合う。

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学校生活は授業もそれなりに面白く、新しく知る事も多かった。
オル・ディールの世界では絶対に教わらない未知の領域とは中々に感慨深い。
あの世界に居る者たちが此れだけの知識を得て生活していたら、随分と人間は発展し、魔族とて無事では済まなかっただろう。

だが、この異世界でも必ずと言っていい程、あちらこちらで戦争や紛争と言うものは起きている。知識が無い故なのか、知識があってこそなのかは分からないが、虚しいだけだというのに、戦争を始める時は大抵一番上のトップが狂っている時だと我は思う。

人と言うのは暴走を始めると止められない生き物でもあり、脳内麻薬によってまともな思考が出来なくなる場合がある。
脳科学と言うものも面白い分野だ。
人間の脳はまだまだ未知の領域であり、人間自信がどれだけ自分で脳内麻薬を作れるのか、どれだけの薬を発生させることが出来るのかはまだ分かっていないのだという。
長い人類の歴史がっても解明されていない謎――と言うのは、我の心も擽る物だ。

趣味でその手の本を集め始めたのは中学に上がる前からだが、そっちの分野に進むのも楽しいかもしれない。

放課後は皆で部活に向かい、土曜に買う最低限の物を選んでいく。
テント、寝袋、ランタン、キャンプ用品は一言で言っても種類も豊富にある。
人が生きていくうえで、人が必要最低限の物を持って生活する上で大事な物だと分かれば、キャンプも中々に面白い。


「今の時代、松明等使えないでしょうから、明かりと言うのは大事になりますね」
「松明って、時代が違うんだから」
「でも、人間が辛うじて生きていくために必要な道具と言うのはあると思うし、テントだって自分だけのパーソナルスペースだ。人間一人の時間と言うのは大事だし、一人になって初めて分る事もある。良い事も悪い事もね」
「部長のいう言葉は理解できますね。私も一人の時間、一人用の個室と言うのは大事ですから」
「お寺ならでわだねぇ……。今の時代、小さいマンションや小さいアパートで個室なんてあるようでないような生活が普通だというのに」
「でもさ、自分だけのスペースって大事じゃないかな? だからキャンプする人は本当に必要最低限の物を持って行くわけでしょ?」
「特に男児にしてみれば、一人だけの時間と言うのはとても大切だ。下半身的な意味でも」
「「「「あ――……」」」」」


部長の言葉に納得する男性陣。とは言っても、この部活には女性は所属していない為、大っぴらな男子トークが可能な訳だが。


「もし無人島に一つだけ持って行けるものがあったら何を持って行きますかって聞かれたら、俺は女っていうね」
「女ですか」
「ものじゃないじゃん」
「でも、女性が一人いるだけで食べるモノも色々大変になりますよ?」
「でも、夜は一人で寂しく寝なくても済むじゃないか。青空の下で抱き合い、もしかしたらその先も出来るかもしれない」
「副部長は下半身で生きてる人間なんですかー?」
「恵ちゃんを連れて行けるなら恵ちゃんを連れていくよ?」
「お断りしまーす。僕は連れて行けるなら祐一郎が良いです。サバイバルで生き残れそうなので」
「生き残りを掛けますか」
「確かに生き残る為に必要な人材と言うのは大事だよね」
「それなら俺も祐一郎だなぁ……切れ味のいい木刀作ってくれそう」
「夏休みのいい思い出でしたね」


そんな話をしつつ、取り敢えず買う物として、テントに寝袋、ランタンの三つは必須だという事になった。その他のモノは値段が高いという事もあり、後日またお金を貯めながら集めることになったのだ。
無論、使う時だけレンタルすればいいという事もあるのだが……レンタルではキャンプ部として楽しむには一味足りない気がした。

また、ランタンもLEDの物から昔ながらの蝋燭を使うものまで幅広く、それらは一長一短はあるものの、個人の好みに合わせることになった様だ。
我としては、もしもの時にでも使える蝋燭を選びたい。


「寝袋を買うお金が足りない時は、銀のレジャーシートとかも使い勝手が良いよ」
「ああ、防災で良く見るアレですか」
「テント用品と言っても、使い方次第では防災グッズにもなるんだし、あって損はないからね」
「最近の防災グッズはダンボールトイレとかあるんだ」
「キャンプ地でもトイレが遠い場合は買う人がいるらしいよ」
「「「「へ――」」」」
「特に女子には死活問題じゃないかな? その辺で立って出来る男とは違うんだし」
「確かに」
「小雪を連れていくならあったほうがいいよな」
「おやおや? 杉本君彼女持ちですか?」
「はい、祐一郎の妹と付き合ってます。滅茶苦茶可愛いですよ」
「確かに東君も整った顔をしているし、妹ちゃんはさぞかし可愛いだろうねぇ」
「部長、副部長が変な想像してます」
「コイツ、こんな事言ってるけど女子を前にすると何もできない奴だから」
「「「あ―――……」」」


言うは易しと言う奴である。


「まぁ、色々買いそろえるのは後ででも良いんだよ。それより歓迎お泊り会じゃないが、結束力を高めるために二泊三日の泊りがけが夏休み前にあるだろう? あれ、地獄だから、日焼け止めは沢山買って行った方が良いよ。あと叩けばひんやりする持ち運びのアイスノンね。火傷に使うから」
「え――……そんなに地獄なんですか?」
「毎年10人以上は救急車で運ばれるよ。炎天下で水補給も殆ど無し、延々と行進と学校の校歌を歌わされるし、無意味なイベントだよね」
「根性を備えつけさせるって言えば聞こえはいいけど、ただの軍隊行動だからアレ」
「「「「軍隊行動」」」」
「懐かしいな、ボクもそれで顔と両腕と首を日焼けで火傷して高熱出して救急車で運ばれたよ。アレは痛かったなぁ」
「それ、毎年あるんですか?」
「恒例だね」
「そそ、通過儀礼」
「そこを2年生と3年生は賭けるのさ。今年は何人救急車で運ばれるかってね」
「無論暴力による入院もあるから気を付けるように」
「「「「………」」」」


中学、結構危険な場所だったんだな。
そんな通過儀礼があるとは誰も教えなかったぞ。
人間の貧弱な身体では到底耐えれそうにないギリギリまでを責めるということか。


「ちなみに、それで不登校になる子もそれなりにいる。それも通過儀礼だ」
「何が楽しくてそんな行事を学校側はするんですか?」
「恒例行事って言う名のただの名目さ。あと、学校の行事なんかは市からお金が出てるんだよ。それをやる事で毎年市からお金を貰い、学校の運営費にもあてられる。運動会だってそうだし、音楽祭だってそうだ。だから辞められないんだよ」
「最悪」
「利権やお金がらみですか」
「まぁ、そうなるね。小学校や幼稚園や保育園だって同じだよ? 市からお金が出るからやるし、やらなければ来年度のお金を減らされる。だから否応なしでもやるんだよ」
「世知辛い世の中ですね」
「いつの世も上が莫迦なだけさ。でもお金が無いと首も回らないのも世の常だ」
「そう言うのを忘れて、キャンプで身も心もリフレッシュっていうのが大事だね」
「そうそう」


そう言う先輩たちの言葉に我たちは思わず遠い目をした。
そうか、そうでなければ面倒くさい運動会だのなんだのと言われないだろうし、卒業式や入学式でお偉いさんたちのお言葉があるのも頷ける。
上が金を配っているからこそのシステムなのだと。
それが脈々と受け継がれて、今の古臭いシステムが残っているという事だろう。


「学校って面倒くさいんですね」
「面倒くさいよ?」
「ただ、それが日本人の基を作っているというのだから面白いけれどね」
「最近はそう言うのも薄れてきたと思いましたが?」
「時代と共に薄れる人間だっているさ」
「そそ、何事も時代と共にだよ。緩和されたものもあれば、締め付けられるモノもある」
「九州なんていい例じゃないか、女子は乙女の日があろうがなかろうが、下着は全て白って校則で決まってるらしいじゃないか」
「アレは頂けないよ。古い云々じゃなく男尊女卑の塊だよ」
「学校と言う名の暴力を女子が受けてるようなものだよな」


場所が変われば色々あるのか……。


「では、男子も白だけなんですかね?」
「男子は自由らしいよ」
「うわ、男尊女卑のいい例だねそれ」
「それがまかり通るんだろうね。こわいねぇこわいねぇ」


そんな話をしながら、我たちは土曜に向けたミーティングを終え帰路についた訳だが――。
帰宅後丁度勇者と出くわしたので話を振ってみると。


「え? 校則で下着の色が白だけ? 頭湧いてんじゃないの? 大丈夫なのそういう学校。上が頭可笑しいんじゃないの?」


そう言ってドン引きしていた。
流石に下着の色までは許せなかったようだ。
男尊女卑が今もまかり通るような校則が当たり前とは――住む地域が違って良かったと心底思ったが……中学からは、何かと自由の利かない人生になったのだろうなと思った夜の事。

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