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前編【Bad】

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「はあああぁ!?今日も!?セックスしない!?じゃあ俺何のために準備したんだよ!もうケツまんこ疼きすぎてやべぇんだけど!?媚薬入りスライム浣腸するだけでもやばかったのに、インキュバスの秘薬も使って、とろっとろになるまでケツまんこ解したんだぞ!?」
「何と言われようが、シませんよ。あなたはただのハメ穴なんですから、私が使いたい時に使います」
「そう言って、昨日も、一昨日も、俺のまんこ使わなかったじゃん。性欲強いって言ってた癖に……!」
「……はぁ。理解出来ませんか?あなたはハメ穴として、あまりに自我が強く煩さすぎるし品性に欠ける。私が望んだ時に穴を差し出すだけでいいものを、勝手なことまでして……。もう、あなたのことは使いません。返品です」
「はあぁ!?まだ一週間も経ってねぇだろ!ヤったのも一回きりだし!……お、俺のケツまんこの締まりが悪かったなら、頑張ってきつきつまんこにするし、なるべく煩くしないようにするからさぁ……!」
「しつこいですよ。それにもう、新しいハメ穴は決まっています。今日はこれから彼をハメる予定なので、あなたはどうぞ売り場に戻ってください」
「え……」

 立ち止まった俺の目の前で、長い角を持つ魔族は部屋の中へと入ってしまった。チラリと見えたベッドの上にいたのは、黒髪平凡な俺とは違って、小柄で愛らしい銀髪の少年の姿。
 媚薬で発情して堪らなくなっている俺を置いて、元主人はあっさりと新しいハメ穴に乗り換えてしまった。

「(あーあ、また返品された……)」

 折角準備したまんこから、物寂しくぽたぽたとローションが垂れていった。


*****


「アンタさぁ、何回目の返品か分かってる?9回目だよ、きゅ、う、か、い、め。どんなに緩いハメ穴でもせいぜい3回くらいなのにさぁ、何やってんだよバカ穴」
「お、俺はただ……っ、気持ちよくエッチがしたいだけで、悪いことなんて何もしてない……!」
「そこからなんだよなぁ。普通、魔族のハメ穴になった人間はノリノリで股を開かないんだよ。しかも、自分で穴を解すなんて真似、絶対にしないし魔族はそれを好まない。これ、アンタが返品される度に何度も言ったよな?」
「……言われました」
「あと、ハメ穴が自分から強請るなんてバカな真似をするなとも言ったよな」
「……言われました」
「アンタの耳は飾りか?あぁ?このまま取ってやろうか」
「いだっ、いたたたたっ!魔力で遠隔捻りするのやめて!それはマジでシャレになんないからっ!」

 ここは、魔族専用のハメ穴……人間を売る店だ。数年前、人間界から拉致られた俺は、魔族のハメ穴として生かされてきた。処女だった俺を開通したのが、ここの店主であるハヤテ。今、俺の耳をもぎ取らんとばかりに魔力で引っ張っている、長い金髪と紫目の九尾の狐だ。悪魔じゃなくて妖って種族らしいけど、詳しい話は忘れた。

 それから数年、俺はハメ穴としてそれはもう頑張った。魔族のチンポは長かったり二つあったりイボがあったりバリエーション豊富だったけど、元々そういう素質があったのか俺のケツまんは全部美味しくしゃぶってきた。それなのに、返品される。煩い、ハメ穴らしくない、余計なことをする、声が不快、嫌悪感が湧く、穴が不快、等々……、俺の心をべこべこにする言葉と一緒に、返品され続けて9回目。

 何かと気にかけてくれていたハヤテも、完全に諦めモードだ。

「あ゛ぁ……、痛かった……」
「その痛みを覚えとけよ。10回目になりたくないだろ?」
「はい……。…………あー、それより、ハヤテ。俺、スライムと秘薬でずっとケツまんこが疼いてて、……チンポ借りてもいい?」
「ハメ穴が強請るなつってんだろ。これでも使ってろ」
「いだっ!」

 投げられたのは極太ディルドだ。本当はチンポが欲しかったけど、もう我慢出来そうにない。
 せめてハヤテに嫌がらせしてやろうと、わざと見せつけるようにしてアナニーを始めた。ハヤテは嫌そうに眉を顰めただけで何も言わない。ぐっと握った拳に顎を乗せて、感情の見えない瞳を向けてくる。

「あ゛あああああぁっっ♡♡チンポっ♡偽チンポでごりごり……っ♡♡♡ぎもちいっ、イぐっ♡ザーメン押し出されりゅっ♡♡♡おまんごっ、イ゛っっ、く、ぅ~~~っっ♡♡♡」

 汚く喘いで腰ヘコしながら射精して店を汚しても、ハヤテは何も言ってこなくて……、それが少し、切なかった。


*****


「ひっ……、ここ、どこ……?やだ、家に返して……!」

 新しいハメ穴として拉致された人間を眺めながら、普通のリアクションはこうだよなぁと独りごちた。
 商品である俺は、店から逃げられないよう呪いの首輪(店から出ると爆発するらしい)こそつけられているものの、店内なら自由に歩くことが出来る。俺の他にもハメ穴はいるけど、俺以外でこうやって呑気に出歩くハメ穴はいない。皆、個々に割り当てられた部屋に閉じこもってしまっている。
 多分、このプルプル震えきってしまっている青髪美少年も、同じように閉じこもるパターンだろう。だけど、せめて怖さが少しでもなくなるように、俺は声掛けをするようにしている。

「んな怖がんなって。ちょーっと始めは怖いかもだけど、慣れれば気持ちいい仕事をするだけだしさ!」
「ひっ!へ、変態……!」
「はぁ!?誰が変態……って、まあ、首輪と二プレスとピンクのゴムつけただけの奴は変態か。ま、このカッコも慣れれば楽だぜ?」
「…………」

 残念、完全に怪しまれてしまった。隣にきていたハヤテを見れば、軽く魔力で小突かれてしまう。この前の耳よりかは全然痛くないからいいけど。

「アンタ、人間が魔族に敗北したのは知ってるよな?魔族が決めた条約の一つに、『魔族は自由に人間をハメ穴に出来る』ってのがあるんだよ。そのハメ穴に、アンタは選ばれたってわけだ」
「は、はめ……、あな?僕、何のことかさっぱり……、い、家に帰してください……っ」
「……この様子だと処女か。ったく、仕込むのも面倒だってのに……」
「……っ、ハ、ハヤテが、その……抱くのか?」
「あぁ?当たり前だろ。アンタを仕込んだのが誰か忘れてないだろうな。これがオレの仕事なんだよ」
「あ……、そ、そうだよな。ごめん、変なこと聞いた。いつもの、ことなのにな……?…………うん、俺、部屋に戻ってる……」
「……?テンションが分からない奴だな」

 俺だって、分からない。
 ハヤテが処女を仕込むのは、今に始まったことじゃない。俺もされたし、他の処女の子もされてるし、さっきの子も、仕事だから抱くだけだ。

 ただ、それだけなのにモヤモヤが止まらない。
 ……このモヤモヤに気付いたのは、4回目に返品された時だっけ。鬼族の彼は激昂するとすぐに手が出てしまうタイプで、学習しない俺は頑張ろうとして手酷く背中を裂かれてしまった。自分で必死に止血して、どうにか血は止まったものの、治療もせずに放っておかれたら膿み出して、熱が出て。不良品だと返品された俺は碌に喋ることも出来ないまま、ハヤテから手当てをしてもらった。フラフラする意識の中で、頭を撫でられたような記憶もあるけど、夢だったのかもしれない。それから暫く養生して、元気になって、今日と同じように新しい処女のハメ穴が来たのを知って……。

「(嫌だな、この感じ……。すごく嫌だ。俺はハメ穴で、ただの穴なんだから。余計なことを考えたら、駄目なのに)」

 部屋に戻って布団に横になっても、こびりついたようなモヤモヤが晴れることはなかった。


*****


「ハヤテ様の毛並みはとても素晴らしいですね。いつまでも触りたくなってしまいます」
「アンタも物好きだな。オレに媚びたところで家に帰してはやらないぞ」
「媚びてなんか……!ただ、本当に手触りがよかっただけです!」
「くくっ、冗談だ」

 これは、一体、何だろう。
 昨日あれだけ怖がっていたハメ穴が、ハヤテのふさふさの尻尾をブラッシングしている。ハヤテもどこか気持ちよさそうで、二人の間には割り込めないような空気があった。

「(俺が頼んだ時は、嫌がったのに)」

 2回目に返品された時、一度だけ尻尾を触りたいと頼んだことがある。2回目のウェアウルフの彼がやたらと自分の毛並みを自慢するタイプで、俺はハヤテの方がふわふわなんじゃないかと思ったからだ。だけど、ハヤテからはすげなく断られた。ハメ穴が自分から動こうとするな、って。
 それなのに、どうして。

「あ……、昨日の……」
「……っ」
「昨日はごめんなさい、変態だなんて言ってしまって……」
「……別に、いいよ」
「本当ですか?よかったぁ。この格好、恥ずかしいですけれど、ハヤテ様が可愛いって言ってくれたので頑張れそうです」
「…………。……はぁ?俺にはそんなこと一言も言ってくれたことないじゃん!ハヤテ、俺も可愛いだろ?」
「アンタは何を着ていても変わんねぇよ」
「そこは頷くとこだろ普通!」

 いつものノリ、いつもの調子。大丈夫、出来てる。心臓は煩いくらいにバクバク鳴っていて、手の平が冷たくなってきたけど。大丈夫、誤魔化せてる。

「そ、れよりさ、俺にもブラッシングやらせてよ。ハヤテの尻尾、俺だって触ってみたいんだけど?」
「はぁ……。おい、何度も言うが、ハメ穴だという自覚を持て」
「じゃあ何で……、新人君には触らせてんの?」
「オレが頼んだからだ。ルークが暴れてくれたおかげでだいぶ乱れてしまったからな」
「あ、暴れただなんて……。否定は出来ませんけど……」
「…………」
「……?おい、どうした?顔が真っ青だぞ。体調が悪いのなら自室で……、っおい!店の中を走るな!」

 俺は拒否されたのに、彼は望まれた。
 俺の名前は呼んでくれないのに、彼の名前は事も無げに口にした。
 俺じゃなくて、彼なんだ。

「う゛……っ」

 決壊した涙がぼたぼたと落ちていく。最悪だ。誰のハメ穴になっても、泣くことなんてなかったのに。

 そうだ、俺は別にエッチが好きなわけじゃない。好きなフリをして、乗り切っていただけだ。勿論、全部が全部演技ってわけじゃなかったけど。ああやって振る舞えば、返品されると思ったから。……ハヤテの所に戻れると、思ったから。

「う、ぁ……っ、ひっく、ん゛……」

 ……ずっと、気づかないようにしていたけど。

 初めてハヤテに抱かれた時に、俺の心は全部彼に傾いてしまった。初めてだったのに、気持ちよくて優しくて、嬉しくて。少なくともあの時のハヤテは俺のことを穴じゃなくて、人として見てくれていた。色んな魔族のハメ穴になって、その違いはすぐに分かった。

 また、彼に抱かれたくて。媚薬で発情したまま返品されてみたけど、結果は惨敗。いい加減そこできちんと自覚して、諦めればよかったんだ。そうすれば、まだこんなに、泣くことはなかったはず。

「ひぐっ……う、うぅ……、す、き……、すき、だったんだ……、はやて……」

 どう足掻いても叶うことがない告白は、涙と一緒に白いシーツに吸い込まれていった。


*****


 それから、俺は他のハメ穴と同じように閉じこもることにした。また、あんな光景を目にしてしまったら、何を口走るか分からない。静かな部屋の中、横になって目を瞑る。
 思い出したのは、8回目に返品された猫の獣人だった。彼は他の魔族と違って、エッチそのものを嫌っていた。ずっと部屋に閉じこもっていたかったのに、兄が勝手に俺を購入したせいで迷惑だとも。流石に俺も無理強いは出来ないから、ハメられる代わりに人間界のボードゲームもどきで一緒に遊んだ。手作りの、ぺらぺらしたトランプや、ひっくり返しにくいリバーシやチェス。彼はどれも喜んで楽しそうにしてくれたけど、結局、ハメてないことが彼の兄にバレて俺は返品された。主人となった中で唯一、何の罵倒もしてこなかった魔族だ。あれからどうなったのかは分からないけど、彼が幸せになっていればいいな。
 ……彼も、きっと何か理由があって閉じこもっていたかったんだろう。

 ──リンッ、リーン

「あ……」

 涼やかに響いた鐘の音は、売れた合図。9回も返品された不良品を、求める魔族がいるなんてびっくりだ。

 身を起こして鏡を見ると、痩せていて魅力のない男が映っていた。食事は取っていたけど、少しやつれてしまっている。慌てて簡単な化粧で顔色を誤魔化して、笑顔を作った。鏡から見返してくる俺は、ちゃんと笑えているだろうか。

 二プレスとゴムだけという酷い格好の上に、薄い羽織を纏った。前の紐を軽く縛ったところで、ちんこが完全に隠れるわけでもない。この羽織は、ラッピングのようなものだ。どうせすぐに剥がされるから、乱れていようが気にしない。

 久しぶりに部屋の外に出て、どんどん重くなりそうな足を無理矢理動かして、階下に向かう。

 いつものように、振る舞おう。
 笑って、お買い上げありがとうございますと。エッチなことが大好きなので嬉しいと。毎日ハメ穴として使ってほしいと。ハヤテの前で、今日から主人となる魔族に。

「やっと来たのかよ。遅ぇぞ」
「……」
「おい、どうした?」
「あらあら、緊張しちゃってるのかしら。大丈夫よ、アタシ、ハメ穴相手でもとびきり優しくするから」

 女性のように喋る黒髪ポニテの男の魔族は、どうやら吸血鬼のようだ。美人で、牙が鋭くて、黒いローブ。多分、間違いない。赤い花の髪飾りが妙に似合っている。
 でも、俺はそれよりも、ハヤテの隣にいるハメ穴の存在で頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。いや、もう、あれは、彼は、ハメ穴じゃない。だって普通に、服を着ている。簡素な物だけど、人間らしい服を。ハメ穴にしろ何にしろ、人間がちゃんとした服を着れるのは、魔族の嫁になった時だけ。つまり、彼等は──。

「…………っ」
「おい、いい加減喋れ。アンタを買ってくれた主人の前だぞ。ハメ穴といえど最低限の挨拶はしろって教えたよな」
「いいのよ、気にしないで。アタシは吸血鬼のレイラ。姉がたくさんいるからこんな口調になっちゃったけど、気にしないでね」
「あの、差し出がましいかもですが、大丈夫ですか……?最近部屋に籠ってばかりでしたし、もし気分が悪いようでしたら、こちらの丸薬を飲んでくださいね」
「ルーク、また勝手に薬を持ち出しやがって……、まあいいけどよ。おい、アンタはいい加減喋れ。主人に気を使わせてどうする」

 ──俺の名前は、『おい』じゃない。

 喉まで出かかったそれを飲み込んで、俺は笑った。

「初めまして、主人様。俺のことはただのハメ穴としてお使いください。それ以上でもそれ以下でもありません。もし、不要になった際には、返品ではなく処分をお願いします」
「……は?」

 珍しく、ハヤテの呆けた声が聞こえた気がしたけど、多分気のせいだ。

「あら、そう?でも、その辺のことは追々考えましょ」
「分かりました。よろしくお願いします、主人様。主人様が望まれるまで、俺は口を一切開きません。ハメ穴として従事いたします」
「あらあら!9回も返品されたって聞いたけど、素直でいい子なハメ穴じゃない。アタシと同じ髪色なのも気に入ったわ。さぁ、アタシの屋敷に帰りましょ」

 口を閉じた俺はこくりと頷いて、吸血鬼の後ろに続く。だけど、数歩進んだところで腕を掴まれた。彼に直接触られたのは、それこそ抱かれた時以来だ。
 振り向くと、何かを我慢しているような顔をしたハヤテがいた。嫌だな、泣いてしまう前にさっさといなくなりたいのに。

「……訂正しろ」
「……?」
「処分はなしだ。アンタが勝手に死ぬなんて、オレが許さない」
「……」

 それに関して決めるのは、もうハヤテじゃない。主人になった吸血鬼だ。
 首を横に振って、腕も払った。少なくとも、処分はされてほしくないって思ってくれていたのなら、もうそれで充分だ。

 また捕まってしまう前に、小走りで吸血鬼の後を追った。

 俺が処分を望んだ理由を、ハヤテは多分分からないだろうな。

 ──ハヤテには、ルークがいる。
 俺が返品される理由は、もう、なくなったのだから。
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