光の君と氷の王

佐倉さつき

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第3章 聖女への道

陰の聖女(1)

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「ああ、心が落ち着く。このまま眠れそうだ。」
僕の隣に座っているオスカル様が目を閉じて、気持ちよさそうな声をあげてくださる。

僕がこの世界に来てから十日が過ぎた。
僕は、ここ一週間くらいの間、午前中はオスカル様と剣術の稽古、午後はディルク様と魔法の稽古という毎日を過ごしている。
剣術の稽古では、基本的な斬り方を数種類教えてもらいながら素振りをしている。
最初は剣が重く、腕が疲れて痛くなっていたが、徐々に慣れてきて剣を振るのが苦にならなくなってきた。
魔法の稽古では、自分の中にある魔法力をコントロールできるようになるために、ディルク様とオスカル様に少しずつ魔法力を送る練習をしている。
オスカル様に魔法力を送ると、いつも喜んでくださる。
迷惑ばかりかけているので、少しでも役に立てることが見つかって嬉しい。

「魔法力を送るのにも慣れてきたね。明日からは、魔法を使う練習も始めよう。」
「本当ですか!?」
ディルク様の言葉に興奮してとびついた。
魔法が使えるようになったら、自分でできることや、みんなの役に立てることが増えるかもしれない。
「ええ、魔法力をコントロールすることができるようになってきたので、きっと安全に魔法を使うことができると思うよ。陛下にも許可をもらったので、明日は私の家に行って魔法を使う練習をしよう。」
「えっ!?この神殿から出てもいいのですか?」
僕は、これまでこの神殿からは出ないように言われていて、一度も神殿の外に出たことがなかった。
「陛下も許してくださったので大丈夫だよ。私の家には強力な結界が張ってあるので、王宮の次に安全な場所だと思うよ。それに王宮と違って、限られた人間しか出入りできないようになっているので、王宮の他の場所で練習するよりも人目につく心配がないんだ。」
僕の存在は、秘密のままらしい。
それなのにどうして神殿の外に出るのだろう?
「魔法を使うためには、精霊たちの力を借りなければならないからね。そのために精霊たちの気配を感じ取れるようになってほしいんだけど、精霊たちは神殿よりも自然の中にたくさんいる。だから、僕の家の庭園や馬術場で精霊たちの気配を感じ取ってほしいんだ。」
「はい。」

初めての外出、楽しみだ。
それにしても、家に庭園や馬術場があるなんて・・・やっぱりディルク様のおうちって普通の家とは違う。
毎日一緒にいて感覚が麻痺してきているけど、元の世界では、絶対に会うことがない身分の人たちと一緒にいるんだよな。
時々、その事実に気づき、愕然とする。
まあ、その最たるものが国王陛下と寝室を共にしていることなんだけど・・・何だかんだ言いつつも、しっかり寝てしまっている自分が怖ろしい。


「陛下、外出の許可をいただき、ありがとうございます。」
夜、僕は部屋で陛下にお礼を言った。
「いや、今まで中々外出をさせてやれなくてすまなかった。ディルクのところなら安心だから、のびのびと羽根をのばしてきたらいい。」
「はい、ありがとうございます。魔法の練習も頑張ります。」
「ああ、そうだな。だけど、あまり無理はしないように。」
「はい、気をつけます。」
僕が答えると、陛下は穏やかに微笑んでくださった。
陛下は自分のことを「冷たい人間」だと仰ったけど、僕は温かい人だと思う。
同学年だけど、僕にとっては親切でやさしいお兄さんというかんじだ。

「陛下、今日は疲れていらっしゃいますか?」
「疲れているように見えるか?」
「し、失礼なことを言ってしまったのなら、すみません。あの、もしお疲れだったら、僕の魔法力を送りたいと思ったんです。僕にできることは、それくらいしかないので。」
陛下にお礼の気持ちを伝えたかっただけなんだけど、言い方が難しい。
陛下に対して失礼にならないような言葉を探してみるけど、いい言葉が浮かばない。
でも、感謝の気持ちの押し売りの方が迷惑かもしれない。
僕の不安な気持ちが伝わってしまったのだろうか。
「ありがとう。じゃあ、お願いしようかな。」
そう言うと、陛下は僕の頭をくしゃっと撫でてくださった。
やっぱり陛下はやさしい。

長椅子に並んで座って、陛下の右手を握った。
目を瞑って指先に神経を集中させると、少しずつ僕の魔法力を陛下に送っていった。

何分間、そうしていただろうか?
二人とも話さないので、部屋の中を沈黙が支配していた。
沈黙が続くと、ほんの短い時間だったとしても長く感じてしまう。

陛下の疲れをとることができているだろうか?
心配になって顔を上げると、陛下と目が合った。
深い海を思い起こさせる紺碧の瞳が僕をじっと見つめていた。
じっと見つめられて恥ずかしいけど、陛下の真剣な表情に囚われてしまって目を逸らすことができない。
顔や体が熱を帯びていき、胸の鼓動が激しくなっていく。
居た堪れなくなって下を向くと、僕の頭の上にふわっと大きな手がのせられた。
「ありがとう。気持ちよかった。」
そう言うと、陛下が僕の頭をやさしく撫でてくださった。

僕の胸の鼓動は収まる気配がなく、陛下が立ち上がってベッドに向かわれる様子をぼんやりと眺めていた。
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