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【番外編】
ORIENT EXPRESS No,1
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「わァ…ッ、…前に本やパンフで見て、憧れていたものと同じだァ…ッ!」
アタシは乗務員さんに案内された室内に感嘆のため息を吐いたのだった。
こんな素敵な処で、貴志さんの誕生日と結婚記念日を過ごせるなんて…っ!!
※ ※ ※
トルコ絨毯の床、総絹張りの壁、全てマホガニー材のインテリアに呼吸を飲み。
豪奢な車内に感嘆のため息しか出ない気分である。
ソファーのクッションも『座席』とは思えない快適な乗り心地だ。
専属の乗務員さんがウェルカム・シャンパンを開けてくれる。
ミュシャの描いたラベルが嬉しい。
「貴志さんが産まれて来てくれた日を祝って。」
シャンパンのグラスを掲げると。
「最愛の女性と結婚出来た記念すべき日に。」
と、貴志さんがウィンクなんぞをよこして。
ヴェネツィアン・グラスでの乾杯をした。
『オリエント急行の旅を、ごゆっくりお楽しみ下さい。』
乗務員さんはそう挨拶して、とっくに消えている。
二人っきりだ。
アタシは今まで旅行に『寝台特急』というものを利用した事がない。
初の寝台特急がオリエント急行なんて、メッチャ贅沢だ!!
流れる異国の車窓を眺め、シャンパンのグラスを傾けながら貴志さんとおしゃべりしていると。ノックの音が聞こえて、翠君が顔を覗かせた。
「サロン・カーにどうぞ。みんな、集まってるよ。」
と。
※ ※ ※
「よお、貴志! お前は二人っきりの方が良かったんだろうがな。
(こんな茶番に巻き込まれた)俺達の事を忘れるなよ。」
京牙さんの言葉に含まれた副音声には気付かない振りをして。
「そんな言い方ないだろ、京兄! 貴志さん、気にしないでね。
でも僕、真唯さんともっとおしゃべりしたかったから。」
と、素直な翠君。
「僕も真唯さんと、もっと色々な神社仏閣のお話したいんで!」
と、嬉しい事を言ってくれたのは龍樹さん。
その言葉にすかさず乗っかるのは優里ちゃん。
「嫁さん達が仲良くしている間に、俺らも色んな話しよーぜ!
色ーーーんな、なっ!!」
と、何だか意味深な言葉を吐くのは、深水さん。
そうして、『嫁グループ』と『旦那グループ』に分かれて、お話する事になったのだった。
サロン・カーも華麗なアール・ヌーヴォーの内装だ。
それぞれお好みのドリンクを片手におしゃべりを楽しむ。
アタシを囲んでの四席は、翠君と龍樹さんと優里ちゃん。
隣の四席には香月さんと伊倉さん、紫さんとトーシロー。
トーシローが興奮気味に“取材”しているのを横目に、アタシ達は神社仏閣トークに花を咲かせた。あんまりディープな内容になると翠君がついてこれないので、適当なところで他の話も振る。翠君がパリが好きなのは知っていたけど、ルーヴル美術館に詳しくて。そうして、何とあの【洗礼者 聖ヨハネ】が一番好きだと言うのだから驚いた! 二人で手を取り合って喜びあってしまった♪ そうして、ダ・ヴィンチ談義で盛り上がったのだった。いつの日にか二人でルーヴル美術館を回ろうと約束をして(勿論、それぞれの旦那さまが付いてくるのはお約束である/笑)。
ある程度の時間が経ったらオブザーバーのリザさんの意見に従い、おしゃべりのメンバーをシャッフルした。今度は紫さんと伊倉さんと、そうしてまた翠君とだ。伊倉さんはワインに造詣が深く、フランスやイタリアのワイナリーのお話はとても面白かった。そうしてまたもやダ・ヴィンチの【洗礼者 聖ヨハネ】の話で再び盛り上がった! 紫さんもあの絵の大ファンだったのだ!! ただ詳しく話を聞けば、旦那さまである深水さんに洗礼者を重ねていたようで。思いきり盛大に惚気られてしまった! それも本人は無自覚なままで!!(照) 今頃、ウェルカム・シャンパンが効いてきたような気分である(赤面)。
そうしてアッという間に晩餐の時間になってしまって。
一旦解散して、正装に着替える事となったのであった。
※ ※ ※
食堂車に再び集まった時には、まるで綺麗で華麗な花が咲き誇っている様だった。
男性陣は黒のタキシードだからあまり代わり映えはない。
ただあくまでも、旦那さま側の男性陣は、だ。
そのパートナーである男性陣は違う。
同じタキシードでも遊び心がある。
若い翠君は白いタキシードで、ベストと蝶ネクタイが名前の通りの翡翠色だ。
龍樹さんはブルーグレーのタキシードで、アスコットタイをお洒落にキメて。
伊倉さんは白いタキシードだが、ポケットチーフの代わりにミニブーケのような物を入れていた。まるで彼自身が綺麗な花の精霊のようだ。
女性陣も負けてはいない。
香月さんはその名のような月の女神のような銀のドレスだし。
紫さんは紫紅色のシフォンの流麗なドレスだし。
トーシローも大人っぽいネイビーのドレスだし。
優里ちゃんは自身のお店の可憐な薄紅色の着物ドレスだ。
リザさんも着物ドレスなのだが、黒地に金の扇子が散りばめられた華麗な装いだ。
アタシも頑張って肩と腰にポイントのある深紅のワンショルダーに挑戦してみたのだが……肝心の今夜の主役が『お似合いです♪』と絶賛してくれていたのだから、堂々と胸を張ろう(苦笑)。
列車の中とは思えないソファーが並び、全員が着席すると。
澤木さんの音頭で乾杯だ。
「…みんな…今回は、私の可愛い義息子の為に集まってくれた事に感謝する…
…私の養女にと望んだ、特別な“お気に入り”の真唯ちゃんの大事な旦那だ…
…不可思議な縁で結ばれた特別な仲間だ…これからもよろしく頼むよ。」
そんな挨拶の後、「誕生日と結婚記念日を祝して、乾杯!」と声を張れば、サーヴされたこの列車のオリジナル・シャンパンのグラスが一斉に掲げられ。「乾杯!」の声が唱和され。一口含むと、後から後から祝福の拍手の音が鳴り止まなかったのだった。
アタシが感動で胸を熱くしていると、乗務員が特製のバースデー・ケーキを持って来てくれて。炎が揺れるロウソクはないけれど、自然と有名な誕生日を祝う歌が唄われ、やがては大合唱となり。歌が終わっての二度目の拍手の時には、アタシも貴志さんも立ち上がり皆にお礼のお辞儀を深々としてしまったのだった。
そうして始まった、特別な晩餐会。
フルコースのディナーは大分食べ慣れてきたけれど。
オリエント急行の特別なお皿で供されるお料理は、やはり特別だ。
それに壁にはゴブラン織りのタペストリー、窓にはビロードのカーテンが揺れて。
列車内とは思えない内装は、ルネ・ラリックが手掛けた至極優美で贅沢な空間だ。
こんな豪奢にして華麗な場所で特別な記念日を迎える事が出来たアタシは三国一、いや世界一の、いや宇宙一の果報者だ。横で微笑んでくれている夫の存在が何よりも嬉しく有り難い。リザさんを通じて澤木さんにお願い出来て、本当に良かった。素敵な仲間に囲まれて、まさかこんな夢のような旅行が出来るとは思わなかった。
しかし、オリエント急行の夜は、まだ始まったばかりなのであった。
アタシは乗務員さんに案内された室内に感嘆のため息を吐いたのだった。
こんな素敵な処で、貴志さんの誕生日と結婚記念日を過ごせるなんて…っ!!
※ ※ ※
トルコ絨毯の床、総絹張りの壁、全てマホガニー材のインテリアに呼吸を飲み。
豪奢な車内に感嘆のため息しか出ない気分である。
ソファーのクッションも『座席』とは思えない快適な乗り心地だ。
専属の乗務員さんがウェルカム・シャンパンを開けてくれる。
ミュシャの描いたラベルが嬉しい。
「貴志さんが産まれて来てくれた日を祝って。」
シャンパンのグラスを掲げると。
「最愛の女性と結婚出来た記念すべき日に。」
と、貴志さんがウィンクなんぞをよこして。
ヴェネツィアン・グラスでの乾杯をした。
『オリエント急行の旅を、ごゆっくりお楽しみ下さい。』
乗務員さんはそう挨拶して、とっくに消えている。
二人っきりだ。
アタシは今まで旅行に『寝台特急』というものを利用した事がない。
初の寝台特急がオリエント急行なんて、メッチャ贅沢だ!!
流れる異国の車窓を眺め、シャンパンのグラスを傾けながら貴志さんとおしゃべりしていると。ノックの音が聞こえて、翠君が顔を覗かせた。
「サロン・カーにどうぞ。みんな、集まってるよ。」
と。
※ ※ ※
「よお、貴志! お前は二人っきりの方が良かったんだろうがな。
(こんな茶番に巻き込まれた)俺達の事を忘れるなよ。」
京牙さんの言葉に含まれた副音声には気付かない振りをして。
「そんな言い方ないだろ、京兄! 貴志さん、気にしないでね。
でも僕、真唯さんともっとおしゃべりしたかったから。」
と、素直な翠君。
「僕も真唯さんと、もっと色々な神社仏閣のお話したいんで!」
と、嬉しい事を言ってくれたのは龍樹さん。
その言葉にすかさず乗っかるのは優里ちゃん。
「嫁さん達が仲良くしている間に、俺らも色んな話しよーぜ!
色ーーーんな、なっ!!」
と、何だか意味深な言葉を吐くのは、深水さん。
そうして、『嫁グループ』と『旦那グループ』に分かれて、お話する事になったのだった。
サロン・カーも華麗なアール・ヌーヴォーの内装だ。
それぞれお好みのドリンクを片手におしゃべりを楽しむ。
アタシを囲んでの四席は、翠君と龍樹さんと優里ちゃん。
隣の四席には香月さんと伊倉さん、紫さんとトーシロー。
トーシローが興奮気味に“取材”しているのを横目に、アタシ達は神社仏閣トークに花を咲かせた。あんまりディープな内容になると翠君がついてこれないので、適当なところで他の話も振る。翠君がパリが好きなのは知っていたけど、ルーヴル美術館に詳しくて。そうして、何とあの【洗礼者 聖ヨハネ】が一番好きだと言うのだから驚いた! 二人で手を取り合って喜びあってしまった♪ そうして、ダ・ヴィンチ談義で盛り上がったのだった。いつの日にか二人でルーヴル美術館を回ろうと約束をして(勿論、それぞれの旦那さまが付いてくるのはお約束である/笑)。
ある程度の時間が経ったらオブザーバーのリザさんの意見に従い、おしゃべりのメンバーをシャッフルした。今度は紫さんと伊倉さんと、そうしてまた翠君とだ。伊倉さんはワインに造詣が深く、フランスやイタリアのワイナリーのお話はとても面白かった。そうしてまたもやダ・ヴィンチの【洗礼者 聖ヨハネ】の話で再び盛り上がった! 紫さんもあの絵の大ファンだったのだ!! ただ詳しく話を聞けば、旦那さまである深水さんに洗礼者を重ねていたようで。思いきり盛大に惚気られてしまった! それも本人は無自覚なままで!!(照) 今頃、ウェルカム・シャンパンが効いてきたような気分である(赤面)。
そうしてアッという間に晩餐の時間になってしまって。
一旦解散して、正装に着替える事となったのであった。
※ ※ ※
食堂車に再び集まった時には、まるで綺麗で華麗な花が咲き誇っている様だった。
男性陣は黒のタキシードだからあまり代わり映えはない。
ただあくまでも、旦那さま側の男性陣は、だ。
そのパートナーである男性陣は違う。
同じタキシードでも遊び心がある。
若い翠君は白いタキシードで、ベストと蝶ネクタイが名前の通りの翡翠色だ。
龍樹さんはブルーグレーのタキシードで、アスコットタイをお洒落にキメて。
伊倉さんは白いタキシードだが、ポケットチーフの代わりにミニブーケのような物を入れていた。まるで彼自身が綺麗な花の精霊のようだ。
女性陣も負けてはいない。
香月さんはその名のような月の女神のような銀のドレスだし。
紫さんは紫紅色のシフォンの流麗なドレスだし。
トーシローも大人っぽいネイビーのドレスだし。
優里ちゃんは自身のお店の可憐な薄紅色の着物ドレスだ。
リザさんも着物ドレスなのだが、黒地に金の扇子が散りばめられた華麗な装いだ。
アタシも頑張って肩と腰にポイントのある深紅のワンショルダーに挑戦してみたのだが……肝心の今夜の主役が『お似合いです♪』と絶賛してくれていたのだから、堂々と胸を張ろう(苦笑)。
列車の中とは思えないソファーが並び、全員が着席すると。
澤木さんの音頭で乾杯だ。
「…みんな…今回は、私の可愛い義息子の為に集まってくれた事に感謝する…
…私の養女にと望んだ、特別な“お気に入り”の真唯ちゃんの大事な旦那だ…
…不可思議な縁で結ばれた特別な仲間だ…これからもよろしく頼むよ。」
そんな挨拶の後、「誕生日と結婚記念日を祝して、乾杯!」と声を張れば、サーヴされたこの列車のオリジナル・シャンパンのグラスが一斉に掲げられ。「乾杯!」の声が唱和され。一口含むと、後から後から祝福の拍手の音が鳴り止まなかったのだった。
アタシが感動で胸を熱くしていると、乗務員が特製のバースデー・ケーキを持って来てくれて。炎が揺れるロウソクはないけれど、自然と有名な誕生日を祝う歌が唄われ、やがては大合唱となり。歌が終わっての二度目の拍手の時には、アタシも貴志さんも立ち上がり皆にお礼のお辞儀を深々としてしまったのだった。
そうして始まった、特別な晩餐会。
フルコースのディナーは大分食べ慣れてきたけれど。
オリエント急行の特別なお皿で供されるお料理は、やはり特別だ。
それに壁にはゴブラン織りのタペストリー、窓にはビロードのカーテンが揺れて。
列車内とは思えない内装は、ルネ・ラリックが手掛けた至極優美で贅沢な空間だ。
こんな豪奢にして華麗な場所で特別な記念日を迎える事が出来たアタシは三国一、いや世界一の、いや宇宙一の果報者だ。横で微笑んでくれている夫の存在が何よりも嬉しく有り難い。リザさんを通じて澤木さんにお願い出来て、本当に良かった。素敵な仲間に囲まれて、まさかこんな夢のような旅行が出来るとは思わなかった。
しかし、オリエント急行の夜は、まだ始まったばかりなのであった。
応援ありがとうございます!
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