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第二夜 遅咲きの初陣(下)

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「破丘の痛み。相手は直江なのだろう?」

「兼景さま…ッ痛…ぁ…だめぇ」


まだ十分に濡らされていない雪乃の乙女は、ぎちぎちと許容量を超えた物体の侵略を拒んでいた。無理もない。緊張と不安が入り混じった初夜から簡単に技巧を使いこなせるほど、場数も踏んでいないのだから。


「雪乃、やめてはやらんぞ」


それなのに、どこか高揚した兼景の力は増していくばかり。
嫌がる雪乃の足を持ち上げ、重力に従うように全体重を下半身に込めてくる。


「ッ!?」


ヌルっとした愛蜜の隙をついて、兼景の分身が雪乃の入口をこじあける。にやりと、兼景が笑った気がした。


「ぁ…ッ…ぁあ~~っ…ぁ」


徐々に内部に向かって挿入される圧迫感に、雪乃の腕は兼景の腕に爪痕を刻んでいく。橙色に揺れる穏やかな室内で、白い蚊帳に包まれた空間だけが異様な気配を運んでいた。


「はぁ…ッ…ぁ…はぁ」

「覚えておけ、雪乃」

「あっ…~~ッ、んァ…ぁん」

「お前の初めては俺がもらう」

「ッ!?」


根元まで一気に突き上げられて腰が浮く。意識まで一瞬飛んでしまったことは秘密にしておきたいが、腰を抱きしめ、上半身を折りたたむようにして真上に覗く兼景の瞳が余裕そうに笑っているのだから無理な相談に違いない。


「ァ…動かな…っ…で…ぁ」


具合を確認しているのか腰を抱えながらグルグルと腰を回す兼景の仕草に、雪乃の眉が苦しそうにハ文字に歪む。あまりの奇行に出遅れた雪乃は、体勢を整えようと体をひねってみるものの、全体重を真上からかけてくる男からは抜け出せない。


「ぁ…ッ…ぁ…ヤッ…ぁあ」


足を折り曲げ、密着させた腰の奥深くで確かめ合う。
兼景が何を探り当てようとしているのか。容易に想像のつく雪乃にとって、このなんでもない時間の経過が一番の恐怖ともいえた。


「イヤァ…っ…ぁ…ァアふっ…ぁ」


押しのけようと兼景の上半身に爪を立てたところで、かなう相手ではない。
漆黒の瞳は恍惚の光を宿して苦悶によがる雪乃の姿をうつし、形のいい唇は何度も柔らかな口づけを落としている。まるで甘い砂糖菓子に包まれているみたいに、真綿にくるまれた快感は、彼に抱かれた者の特権だろう。


「ほら、雪乃。もう痛くないだろう?」

「ッぁ…あ…~~ッ…ぁ」

「そう、いいこだ」

「ッ!?」


額に口づけられ、気を抜いた瞬間。それは突然、やってきた。
何を確認したのかはわからないが、すっかり兼景に握られた暴れ馬の手綱は雪乃の上で好きなように駆け始める。


「ァッ…ぁ…ヤッ…ぁ…めっ」


ダメだとか、嫌だとか、兼景を止めることの出来る言葉の一つでも吐き出したいのに、口から洩れるのは、女としての喜びだけ。


「はぁ…ぁ…ッ…はぁ…アアァ」


パンパンと滑らかに動く腰の動きに合わせて体が舞う。愛蜜が足を濡らし、布にシミを作り、吐息だけを混ざり合わせて高みへと連れて行く。
求めていた快感。
心のどこかで、志路家と交わるなら兼景がいいと思っていた。思っていても役目に生きなければならない時代の中で、そうなる確率への勝算は低い。


「兼景さ…まぁ…ァ…ァアッ」


単純にキモチイイ。
大事にしてきた壊れモノを自らの斧で壊すように、止まらない兼景のゆりかごに雪乃は意識を任せていく。
絡まる指先、求めあう唇。むさぼる舌と飲み込む快諾。何もかもが兼景と作り出す世界で、溶け合うように混ざり合う肌の温度が心地いい。


「ッ…ぁ…~ッ…止まって、くだ…さ…ぁ~~ッ」


役目を忘れるつもりか。
快楽で頭が白く染まろうとしている。
単純に男女の交わりをしに来たわけではないはずなのに、一瞬の雰囲気にのまれて気をやるなど、八香家の女にあるまじき行為。


「止まれと言われて止められるほど俺が優しいと思うのか?」

「あぁ…ッ…んっ、ぁ」

「八香の姫ならば、これくらいで根をあげはしないだろう?」

「ヒッ…ぁ、兼景さまの…ぃじ、わる」


たしかに、高みを目指して駆け上っていく武将相手に止まれという方がどうかしている。上下に揺れる世界の中で、どう君臨し続けるのか。大事なのはその過程ではなく結果。
交渉相手に気をやるのか、それともやらせるのか、やられるのか。


「…くっ」


ギュッと引き締まった内部に驚いて、兼景が一瞬苦しそうな声を上げて腰を止める。
そして、その一瞬のスキをついて出来た力の差に、男女の影が逆転していた。


「これは、なかなかに見ごたえはある」

「ッ…ぁ…はぁ」


パサリと音を立てた雪乃の黒い髪が半円を描いて揺れ落ち、上半身に赤い花を咲かせた半裸の妖が、兼景のうえにまたがっている。


「私も八香の女です」

「それで?」


余裕の笑みを向けてくるその姿が勘にさわる。


「兼景様は戦で負け知らずかもしれませんが、床の上では私が勝利をおさめます」

「ゆずれというのか?」

「譲ってほしいのではありませ、んっァア」

「では、どうする?」


くすくすとあざけるように、腰を突き上げてきた男を打ち負かしてやりたいのに、すっかりほぐされた花弁は兼景の動作ひとつに反応してしまう。けれど、それではいけないのだ。
他の女と違い、八香家の女が大事な局面で寝所に召される意味を思えば、こんなところで主導権をとられたままにしておくことなど出来やしない。


「兼景様…っ…ぁ」


求めるままに男根の上に腰を落ち着け、開いた股の奥まで迎え入れていく内壁の動きだけが女の武器。


「高ぶった気を落ち着けてくれるのか?」

「ッ…ぅ…んっ…ぁ」

「敏感に感じているのはお前の方だぞ」


自ら腰を動かし、なまめかしく貪る女の欲望に兼景の手のひらが伸びてくる。


「ッ…はぁ…ァッぁ」

「雪乃、休んでいては話にならん」

「ひっ…ぁ…ァア…っ」


上半身を起こしてきた兼景に結局抱きしめられた雪乃は、その胸の先で固くとがる蕾を口に含まれ、いやいやと弱々しい首を横に振った。


「足を曲げ、そのまましっかり座っていろ」

「ッぁ…あ」

「それくらいは仕込まれているだろう?」


どれくらいの年月をかけて鍛錬を積んできたと思っているのか。雪乃は成果を披露するように、兼景の上で優美に腰をねだる。


「~~ッ…ぁ…ふぁ」


後ろに抜けないように抱き留めてくれる兼景の腕が優しくて、ただ微睡むように溺れる空気の密度だけに支配されていく。
淑化淫女。それは、しとやかで美しい女こそが淫乱に化けることが出来るというもの。その教えの通り、寝所の雪乃は昼に見せる顔とは別の顔で男を誘いにやってくる。


「妬けるな」

「んっ…ぁ~~はぁ、ぁ」

「女としての悦びを教える役目は俺がよかった」


欲望のまま、互いに貪る行為に終わりが見えかけた頃。突如、それまで微笑ましいほど穏やかだった兼景の雰囲気が変貌の兆しを見せ始めた。


「ぁ…ッ…かね、かげさ、ま?」


敏感に察知した雪乃が、うつろな瞳で兼景を覗き込み、そして咄嗟に目覚めるように腰を引く。


「ァッ…ぁ…だめ」

「気が変わった」

「ダメ…かね…ッん~ンッ」


熱い口づけに腰に突き刺さる男根の脈拍が強くきしむ。再び濃厚な酸素不足に襲われて意識が思考を放棄しそうになるが、ここは是が非でも阻止しなければならない局面だった。
八香の暗黙の掟。


「やはり無理矢理にでも正室に召し上げよう」


逃れられない口実を残して帰ることは禁忌。正室でも側室でもない、特別な地位に君臨する八香家として、安易に受け入れてはならないもの。


「ァァア…ッひ…ぁ…だめ…ァいやぁ」


主従関係ではない特別な存在として認識されなければならない。
傀儡(カイライ)になり下がりたくなければ、言いなりに染まってはいけない。
何度も頭の中に叩き込まれてきた教訓が今になって雪乃の目の前をちらついてくる。けれど、本気になった武将相手に一介の女が何を阻止できるというのだろうか。


「雪乃、俺の名をその内に刻め」

「ッ?!」


息をのんで腰を引こうとしたところで後の祭り。


「ダメです…兼景さ…ッぁ…なかは、中はだ…だめぇえぇ」


情を沸かして、欲に溺れぬように。
そう注意されてきたのに、雪乃は自分の内部に解き放たれた白濁の波動を感じながら小さな痙攣を繰り返していた。


「ぁ…ァ…はぁ…ッ…ぁ」


腰を抱きしめて離さない兼景の腕の中で、一気に駆け上った山頂の息切れが心臓を破ろうとけしかけてくる。それなのに疲れ知らずの戦人は、まだ物足りないという風に、荒い息を吐き出す雪乃の肌に吸い付いていた。
意識が記憶を刻むことを放棄しそうになってくる。


「雪乃、今夜の勝ちは俺に譲っておけ」


そう嬉しそうに笑う兼景の欲望に飲み込まれるようにして、雪乃の声は再び甲高い嬌声を上げていく。嵐の中を舞う木の葉のように溺れていく。
敏感にうねる快楽の渦には逆らえない。
ろうそくの明かりが消えるまで、その影はひとつに重なったまま離れようとはしなかった。
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