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第三夜 嫉妬に濡れた尋問(上)
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出向を告げる貝の音は、薄雲の広がる空に甲高く響き渡る。何か憑き物が落ちたように晴れ晴れとした武将を筆頭に、志路家の軍が侵攻したのは日が昇って間もない頃だった。
「雪乃っ!?」
バンっと部屋のふすまを壊す勢いで顔を見せた直江の姿に、雪乃の肩が大袈裟なほどビクリと大きく揺れ動く。
「なっ直江?」
「無事だったか」
ヘナヘナと安堵したように肩の力を抜いた直江に、雪乃の顔が苦笑にゆがむ。いつもどこか脱力していて、やる気のない直江からは想像できない焦りように、雪乃は内心驚きを隠せなかった。
「いやだ、直江ったらまさか眠れなかったの?」
クスクスとした笑いが込み上げてくるのは仕方がない。
師弟の関係になってからというもの、優位な立場にある指南役がここまで崩れた姿は見たことがなかったのだから、変な感情が湧いてくる。
「笑ってんじゃねぇよ」
がしがしと頭をかいた後で、ふすまを閉め、大きな足取りで距離を縮めてくる直江を雪乃はじっと眺めていた。
「だって、直江が慌てて駆け込んでくるなんて今までなかったものだから」
「いいから、顔見せろ」
「んっ」
髪を梳くように頬を撫でる直江の手が大きくて心地よい。
「直江?」
帰ってきたのだという安心感は、直江の腕の中で得られるものらしい。すりすりと懐かしむように撫でる直江の手に、頬を摺り寄せて甘えながら、雪乃は立ったままそっと直江を覗き込んだ。
たった一晩。
その一夜は、とても長いものだった。
「そんなに心配してくれていたの?」
思わず安直に聞いてみた。そこで自分の言動にようやく気が付いたのか、直江はハッと顔をあげてわざとらしい咳ばらいをひとつこぼす。
「バカ言え。教え子の初陣が気にならない師がどこにいるっつんだよ」
「気にしてくれてたんだ」
「揚げ足ばっかとってんじゃねぇ」
「ありがとう、直江」
たった一晩。それでも一晩。
笑う月の下で交わされた情事は、雪乃の運命を大きく変える役目を果たしていた。
「無事に戻ったんならそれでいい」
「うん。ただいま、直江」
八香の宿命は変えられない。昨晩、兼景から受けた求愛は、雪乃の心に憂いの気分を落としていた。正室になれるはずもなければ、なるつもりもないのに、兼景から注がれた求愛の証拠は今も足を伝って零れ落ちそうになっている。
「ッん」
気を緩めれば足を伝っていくほどの量に内心不安がよぎっていく。
早く掻き出してしまいたい気持ちと、それをどこか勿体ないと思う気持ちがないまぜになって、雪乃の心は乱れていた。
「直江、私、湯を浴びたいの」
一刻でも早く、ほっと一息ついてしまいたい。
なぜか体の芯から疼くような感覚は、兼景と離れても収まりをみせてくれそうにないうえに、たった一晩で淫乱に花開いた八香の血に、今もまだ侵されているような錯覚さえしてくる。
「ぁ…ッ…直江、聞いてる?」
兼景の欲望を拒むことも出来たはずなのに、拒むことは出来なかった。
幼いころからの顔馴染み。好きか嫌いかを問われれば、好きだと答えるしかなく、結果としてその場の情に流され八香の禁忌を破ることになってしまった。
だからこそ、通常に戻したい。それなのに、なぜか直江は離れようとはしてくれなかった。
おかしな気分に酔いそうになる。
「雪乃」
兼景の寝所から帰ったばかりの雪乃から、わずかな香の匂いが鼻をつく。離れようとした雪乃を抱き寄せながら、直江はその頭上に唇を寄せて、香の正体を探るように鼻を動かした。
「なにかされたか?」
「うっ、ううん」
ぎこちない返答に、勘が働いたらしい直江の眉間にしわが寄る。
なにかされたのかと聞かれれば、たしかに「なにか」はされた。体液がすべて兼景のものに入れ替わってしまったんじゃないかと思えるほど注ぎ込まれた正体は、指導者である直江には言えない。
「痛いことをされたか?」
「うっ、ううん」
今度は嘘ではない否定の返事。
また、ぎこちない返答を繰り返した雪乃に、直江の顔が疑心に揺れていた。それに気づいた雪乃は慌てて直江に弁明をはかる。
「あッ、違うの。大丈夫よ、相手が兼景様だったことに驚きはしたけど、八香の役目はちゃんとしたわ。実は、休むことは出来なかったから腰が少しつらい程度で」
「いたむのか?」
「痛くはなくて、気持ちよかったっていうか、じゃなくて、最初は濡れていないのに入れられたから痛かったんだけど、それは最初だけで最後の方はもう何も考えられないくらいに感じてって、あれ。何言ってるんだろ」
「ほんとうにな」
「とっとにかく兼景様は優しかったわ」
自分の腕の中で照れたように真っ赤な顔になりながら、他の男との情事を語られる心境はいかほどのものか。それは直江にしか感じることの出来ないものだろうが、雪乃は居心地が悪そうに、抱きしめられる腕の強さに身をよじる。
「野菊様に何か言われたか?」
「母様には何も」
「まあ、あの人はそうだわな」
「今日はゆっくり休んでいいと言っていたくらいよ」
にこりと力なく微笑む雪乃は、やはりどことなく雰囲気に元気がない。
別段、元気だけが取り柄のはしゃぐような娘ではないが、生まれながらにして身についた華やかさが今日はなんだかしぼんで見える。
「ねぇ、直江?」
「ん?」
考えていても仕方がないかと、直江が初陣後の少女たちを思い返したところで、雪乃の声が直江の腕を止めさせた。
「なんだか頭がボーっとするの」
「ああ、初めてだから疲れが出たんだろ」
「そうなのかな。ずっと体がポカポカしていて、なんだか力があまり入らないの。初めて寝所に召された後は、みんなこんな風になるものなの?」
憂いの原因は中に出されたこと以外にもうひとつある。
実はあまり記憶がはっきりしていないのだ。情事を覚えていないということはないが、すべてどこか夢見心地で実感は薄い。
「なにか飲んだか?」
「ううん」
怪訝に覗き込んできた直江の瞳に、雪乃の顎は持ち上げられる。そのとき、ピクリと雪乃の肩が揺れたのを直江は見過ごさなかった。
「雪乃、こっち見ろ」
「っ…ぁ」
至近距離で口づけの助長のような仕草を見せる直江に、雪乃のうつろな瞳がそれにこたえる。
開いた瞳孔。合わない視線。緩い口元に荒い呼吸。思い当たるものはひとつしかない。
「香を嗅がされたな」
「香?」
「この匂いか、相変わらずだな、あのクソガキ」
なぜ直江が怒っているのかはわからない。ともかく、今は直江の傍にいるとなんだか変な気分になってくることに雪乃は戸惑い始めていた。
帰ったばかりのときは、ただの疲れだと思っていたのに、こうして密着した状態で抱きしめられていると八香の血が騒ぐのか、どうしても直江が欲しいと思えてくる。だけど、今ここで求めてしまえば、禁忌を許したことまで文字通り筒抜けになってしまうことだろう。
「なっ直江…ぁ…だめ」
右手であごを持ち上げ、左手で腰を抱きなおした直江の動作に雪乃は焦る。
布越しでも感じる下半身の存在に、知らずと腰がうねっていた。
「ダメっ…なぉ…ぇ」
いつもなら指導以外は気丈に跳ね返す雪乃が、今回ばかりはやはりおかしい。火照った顔で吐息を桃色に染め、体の芯を失ったかのように、ゆだねた体が男を求めて荒い呼吸に変わっている。
「どうしよ…ぅ…直江…ぁ」
「そんな顔で誘われて、のらねぇ男がいるのか?」
「なんだか変に…ぁ…なっ~~ぅ」
先ほどまではっきりしていた意識が、直江と密着している時間が長くなるほど欲情に染まっていく。怖いと感じた時にはもう遅かった。持ち上げられた顎の先、耳に吹きかけられる言葉にすら反応してしまう。
「兼景様にどこまで許した?」
「ッ!?」
低い声に理性が刺激されたのもつかの間。
「~~~ァッ!?」
ビリッと合わせ衣が避けそうなほどの勢いで、雪乃は直江の前に裸体をさらしていた。明るい室内であらわになったのは、唇型に何度も刻まれた赤い花。それだけならまだしも、不自然に足をこすり合わせる雪乃の様子に、直江の勘はさえわたる。
「直江!?」
頭上に合った直江の顔が瞬時にしゃがみこみ、足を抱え込むように持たれて体幹がぐらついた雪乃は、思わず直江の肩をつかんで体制を整えた。おかげで後ろに倒れはしなかったが、直江の鼻先に秘部を押し付けるという痴態は実現し、それが何よりも雪乃の羞恥を煽っていた。
「ッ~~ふっ…ぁ…ヤッ」
息を吹きかけられるだけで敏感な芽がヒクヒクと震えてしまう。
腰を引いて逃げたいのに、直江は奥まで見透かしたような鋭い眼光で秘部をにらんでくる。
「んっ…な…ぉえ…ッ」
ただ見られているだけなのに、腰が疼くような欲情があがってくるのは何故なのか。掴んだ直江の肩にこもる力が、時間を経過するごとに増していくような気がする。
「ちっ、あの変態が」
上半身を崩した直江の舌打ちが、腰のあたりから聞こえてくる。その内容に心当たりがある雪乃は、直江から逃げるように体を離そうと体をひねった。しかし、それを見逃してくれるほど、目の前の男は甘くない。
「野菊様は知っているのか?」
「母様には何も言ってな…ッ…ひぁっ!?」
仁王立ちで立つように足の間に体をすべらせた直江には、兼景との密約がすべて知られてしまったことだろう。白い内ももに伝う白濁の液体は、どろりと粘液を帯びて怪しい色合いに濡れている。
「なぁ、雪乃?」
「ヒッ…~~~ぅ」
前から太ももを抱きかかえるように雪乃を支えていた直江の手のひらが、ゆっくりと臀部まで這い上がり、指先だけが割れ目にそって力を込めてくる。
「ぁ…っ~はぁ~ッぁ…アぁ」
直に触れられているわけではないのに、もどかしさと微弱な息遣いに反応した雪乃の足が震えていく。その敏感な体の無神経さに、直江は隠しもしない苛立ちを滲ませていた。
「ッ!?」
直江の肩をつかんだまま、びくりと上半身をのけぞらした雪乃は、直後漏れ出る声を抑えるように右の手首を噛み締めた。歯形がついてしまったが、そんなことにかまっている余裕はない。
仁王立ちのまま直江の技巧を受け止める下半身に意識を集中していなければ、意識自体がどこかへ飛んで行ってしまいそうだった。
「ァっアアァ直江…ッぁ…くっ~~イクッ」
そこでピタリと止まる直江の指。
「誰も許してねぇだろ」
「ぅ…ぁあ…~~っぁ」
「うまそうに三本も加えこんで、禁忌を犯した奴がそう簡単に許してもらえると思ってんのか?」
「ッひぁ…ぁ…~っぅ」
「雪乃っ!?」
バンっと部屋のふすまを壊す勢いで顔を見せた直江の姿に、雪乃の肩が大袈裟なほどビクリと大きく揺れ動く。
「なっ直江?」
「無事だったか」
ヘナヘナと安堵したように肩の力を抜いた直江に、雪乃の顔が苦笑にゆがむ。いつもどこか脱力していて、やる気のない直江からは想像できない焦りように、雪乃は内心驚きを隠せなかった。
「いやだ、直江ったらまさか眠れなかったの?」
クスクスとした笑いが込み上げてくるのは仕方がない。
師弟の関係になってからというもの、優位な立場にある指南役がここまで崩れた姿は見たことがなかったのだから、変な感情が湧いてくる。
「笑ってんじゃねぇよ」
がしがしと頭をかいた後で、ふすまを閉め、大きな足取りで距離を縮めてくる直江を雪乃はじっと眺めていた。
「だって、直江が慌てて駆け込んでくるなんて今までなかったものだから」
「いいから、顔見せろ」
「んっ」
髪を梳くように頬を撫でる直江の手が大きくて心地よい。
「直江?」
帰ってきたのだという安心感は、直江の腕の中で得られるものらしい。すりすりと懐かしむように撫でる直江の手に、頬を摺り寄せて甘えながら、雪乃は立ったままそっと直江を覗き込んだ。
たった一晩。
その一夜は、とても長いものだった。
「そんなに心配してくれていたの?」
思わず安直に聞いてみた。そこで自分の言動にようやく気が付いたのか、直江はハッと顔をあげてわざとらしい咳ばらいをひとつこぼす。
「バカ言え。教え子の初陣が気にならない師がどこにいるっつんだよ」
「気にしてくれてたんだ」
「揚げ足ばっかとってんじゃねぇ」
「ありがとう、直江」
たった一晩。それでも一晩。
笑う月の下で交わされた情事は、雪乃の運命を大きく変える役目を果たしていた。
「無事に戻ったんならそれでいい」
「うん。ただいま、直江」
八香の宿命は変えられない。昨晩、兼景から受けた求愛は、雪乃の心に憂いの気分を落としていた。正室になれるはずもなければ、なるつもりもないのに、兼景から注がれた求愛の証拠は今も足を伝って零れ落ちそうになっている。
「ッん」
気を緩めれば足を伝っていくほどの量に内心不安がよぎっていく。
早く掻き出してしまいたい気持ちと、それをどこか勿体ないと思う気持ちがないまぜになって、雪乃の心は乱れていた。
「直江、私、湯を浴びたいの」
一刻でも早く、ほっと一息ついてしまいたい。
なぜか体の芯から疼くような感覚は、兼景と離れても収まりをみせてくれそうにないうえに、たった一晩で淫乱に花開いた八香の血に、今もまだ侵されているような錯覚さえしてくる。
「ぁ…ッ…直江、聞いてる?」
兼景の欲望を拒むことも出来たはずなのに、拒むことは出来なかった。
幼いころからの顔馴染み。好きか嫌いかを問われれば、好きだと答えるしかなく、結果としてその場の情に流され八香の禁忌を破ることになってしまった。
だからこそ、通常に戻したい。それなのに、なぜか直江は離れようとはしてくれなかった。
おかしな気分に酔いそうになる。
「雪乃」
兼景の寝所から帰ったばかりの雪乃から、わずかな香の匂いが鼻をつく。離れようとした雪乃を抱き寄せながら、直江はその頭上に唇を寄せて、香の正体を探るように鼻を動かした。
「なにかされたか?」
「うっ、ううん」
ぎこちない返答に、勘が働いたらしい直江の眉間にしわが寄る。
なにかされたのかと聞かれれば、たしかに「なにか」はされた。体液がすべて兼景のものに入れ替わってしまったんじゃないかと思えるほど注ぎ込まれた正体は、指導者である直江には言えない。
「痛いことをされたか?」
「うっ、ううん」
今度は嘘ではない否定の返事。
また、ぎこちない返答を繰り返した雪乃に、直江の顔が疑心に揺れていた。それに気づいた雪乃は慌てて直江に弁明をはかる。
「あッ、違うの。大丈夫よ、相手が兼景様だったことに驚きはしたけど、八香の役目はちゃんとしたわ。実は、休むことは出来なかったから腰が少しつらい程度で」
「いたむのか?」
「痛くはなくて、気持ちよかったっていうか、じゃなくて、最初は濡れていないのに入れられたから痛かったんだけど、それは最初だけで最後の方はもう何も考えられないくらいに感じてって、あれ。何言ってるんだろ」
「ほんとうにな」
「とっとにかく兼景様は優しかったわ」
自分の腕の中で照れたように真っ赤な顔になりながら、他の男との情事を語られる心境はいかほどのものか。それは直江にしか感じることの出来ないものだろうが、雪乃は居心地が悪そうに、抱きしめられる腕の強さに身をよじる。
「野菊様に何か言われたか?」
「母様には何も」
「まあ、あの人はそうだわな」
「今日はゆっくり休んでいいと言っていたくらいよ」
にこりと力なく微笑む雪乃は、やはりどことなく雰囲気に元気がない。
別段、元気だけが取り柄のはしゃぐような娘ではないが、生まれながらにして身についた華やかさが今日はなんだかしぼんで見える。
「ねぇ、直江?」
「ん?」
考えていても仕方がないかと、直江が初陣後の少女たちを思い返したところで、雪乃の声が直江の腕を止めさせた。
「なんだか頭がボーっとするの」
「ああ、初めてだから疲れが出たんだろ」
「そうなのかな。ずっと体がポカポカしていて、なんだか力があまり入らないの。初めて寝所に召された後は、みんなこんな風になるものなの?」
憂いの原因は中に出されたこと以外にもうひとつある。
実はあまり記憶がはっきりしていないのだ。情事を覚えていないということはないが、すべてどこか夢見心地で実感は薄い。
「なにか飲んだか?」
「ううん」
怪訝に覗き込んできた直江の瞳に、雪乃の顎は持ち上げられる。そのとき、ピクリと雪乃の肩が揺れたのを直江は見過ごさなかった。
「雪乃、こっち見ろ」
「っ…ぁ」
至近距離で口づけの助長のような仕草を見せる直江に、雪乃のうつろな瞳がそれにこたえる。
開いた瞳孔。合わない視線。緩い口元に荒い呼吸。思い当たるものはひとつしかない。
「香を嗅がされたな」
「香?」
「この匂いか、相変わらずだな、あのクソガキ」
なぜ直江が怒っているのかはわからない。ともかく、今は直江の傍にいるとなんだか変な気分になってくることに雪乃は戸惑い始めていた。
帰ったばかりのときは、ただの疲れだと思っていたのに、こうして密着した状態で抱きしめられていると八香の血が騒ぐのか、どうしても直江が欲しいと思えてくる。だけど、今ここで求めてしまえば、禁忌を許したことまで文字通り筒抜けになってしまうことだろう。
「なっ直江…ぁ…だめ」
右手であごを持ち上げ、左手で腰を抱きなおした直江の動作に雪乃は焦る。
布越しでも感じる下半身の存在に、知らずと腰がうねっていた。
「ダメっ…なぉ…ぇ」
いつもなら指導以外は気丈に跳ね返す雪乃が、今回ばかりはやはりおかしい。火照った顔で吐息を桃色に染め、体の芯を失ったかのように、ゆだねた体が男を求めて荒い呼吸に変わっている。
「どうしよ…ぅ…直江…ぁ」
「そんな顔で誘われて、のらねぇ男がいるのか?」
「なんだか変に…ぁ…なっ~~ぅ」
先ほどまではっきりしていた意識が、直江と密着している時間が長くなるほど欲情に染まっていく。怖いと感じた時にはもう遅かった。持ち上げられた顎の先、耳に吹きかけられる言葉にすら反応してしまう。
「兼景様にどこまで許した?」
「ッ!?」
低い声に理性が刺激されたのもつかの間。
「~~~ァッ!?」
ビリッと合わせ衣が避けそうなほどの勢いで、雪乃は直江の前に裸体をさらしていた。明るい室内であらわになったのは、唇型に何度も刻まれた赤い花。それだけならまだしも、不自然に足をこすり合わせる雪乃の様子に、直江の勘はさえわたる。
「直江!?」
頭上に合った直江の顔が瞬時にしゃがみこみ、足を抱え込むように持たれて体幹がぐらついた雪乃は、思わず直江の肩をつかんで体制を整えた。おかげで後ろに倒れはしなかったが、直江の鼻先に秘部を押し付けるという痴態は実現し、それが何よりも雪乃の羞恥を煽っていた。
「ッ~~ふっ…ぁ…ヤッ」
息を吹きかけられるだけで敏感な芽がヒクヒクと震えてしまう。
腰を引いて逃げたいのに、直江は奥まで見透かしたような鋭い眼光で秘部をにらんでくる。
「んっ…な…ぉえ…ッ」
ただ見られているだけなのに、腰が疼くような欲情があがってくるのは何故なのか。掴んだ直江の肩にこもる力が、時間を経過するごとに増していくような気がする。
「ちっ、あの変態が」
上半身を崩した直江の舌打ちが、腰のあたりから聞こえてくる。その内容に心当たりがある雪乃は、直江から逃げるように体を離そうと体をひねった。しかし、それを見逃してくれるほど、目の前の男は甘くない。
「野菊様は知っているのか?」
「母様には何も言ってな…ッ…ひぁっ!?」
仁王立ちで立つように足の間に体をすべらせた直江には、兼景との密約がすべて知られてしまったことだろう。白い内ももに伝う白濁の液体は、どろりと粘液を帯びて怪しい色合いに濡れている。
「なぁ、雪乃?」
「ヒッ…~~~ぅ」
前から太ももを抱きかかえるように雪乃を支えていた直江の手のひらが、ゆっくりと臀部まで這い上がり、指先だけが割れ目にそって力を込めてくる。
「ぁ…っ~はぁ~ッぁ…アぁ」
直に触れられているわけではないのに、もどかしさと微弱な息遣いに反応した雪乃の足が震えていく。その敏感な体の無神経さに、直江は隠しもしない苛立ちを滲ませていた。
「ッ!?」
直江の肩をつかんだまま、びくりと上半身をのけぞらした雪乃は、直後漏れ出る声を抑えるように右の手首を噛み締めた。歯形がついてしまったが、そんなことにかまっている余裕はない。
仁王立ちのまま直江の技巧を受け止める下半身に意識を集中していなければ、意識自体がどこかへ飛んで行ってしまいそうだった。
「ァっアアァ直江…ッぁ…くっ~~イクッ」
そこでピタリと止まる直江の指。
「誰も許してねぇだろ」
「ぅ…ぁあ…~~っぁ」
「うまそうに三本も加えこんで、禁忌を犯した奴がそう簡単に許してもらえると思ってんのか?」
「ッひぁ…ぁ…~っぅ」
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