日本と皇國の幻争正統記

坐久靈二

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第一章『脱出篇』

第七話『為動機神体』 破

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 ロボットの形は簡単に述べると、無骨なかっちゅうを身に着けた古代の武人が雷神の鼓を背負った様な姿をしていた。
 両手にはそれぞれ、砲口の様な大筒を備えたこしらえられており、また左腰には太刀の様な装備が見える。
 他にも、頭部や胸部、脚部にも何らかの攻撃、防御機能が備わっているように思える。

 まさしく、ロボットアニメから飛び出してきた様な威容に圧倒されたわたるは、柵につかまったまま言葉を失っていた。
 荒ぶる武威をまとった巨大な武人に見下ろされ、すくめられたような気分だった。
 しかし、決して悪い気はしない。

 そんなわたるに対し、がロボットについて解説する。

「全高二十八メートルちょうきゅうどうしんたい・ミロクサーヌ改』で御座います。正規軍にいて主力機として運用されております二大機、高機動型のミロクサーヌと重火装型のガルバケーヌのうち、前者をかくして独自に改造を加えたもののようですね」

 わたるも、こうこくが大小様々なロボットを兵器として運用していることは知っていた。
 ニュースの映像で、高校の頃に戦った二足歩行ロボットをほう彿ふつとさせる型のものを見た時は驚いた。
 だが、かつて米国をじゅうりんした最大級のロボットを、自らの眼で見た衝撃は比較にならないものだった。

わたくしはこの『どうしんたい』と呼ばれる機械の操縦技能を軍の訓練で体得しておりまして、定期的な整備を任されているのですよ。主に、試運転機動状態で不具合が無いか確認するといった程度ですがね」

 の解説は巨大ロボットにを奪われたわたるの耳にあまり入っていない。
 それを悟ったのか、ためいき吐いた。

よろしければ、この後わたくしと御同乗いたしますか?」
「良いんですか!?」

 わたるが少し身を引く程の勢いで反応した。
 満天の星空の様に眼を輝かせるわたるに、は薄目であきれている。

「どうやら、男性がような物をお好きなのはめいひのもとでも変わらない様ですね。結構なことです。何せ、いずれは貴方あなた御自身で操縦して頂かなければなりませんので」
「マジか……。マジか……! マジですか? マジですか!?」

 わたるは興奮を抑えられず、巨大ロボット――ちょうきゅうどうしんたい・ミロクサーヌ改と、の引いた顔を交互に見た。
 わたるは今、精神的には小学生時代へ回帰していた。

ぼくにも操縦出来るんですか!?」
「今すぐに、という訳には参りませんが、条件さえ整えば訓練次第で自在に操れるようになりますよ」
「条件?」
「『どうしんたい』の『どう』とは、しんって動かすことを意味します。『しんたい』とは機械仕掛けの神の体。すなわち、己が体の深遠におわす内なる神に対して、己自身が内なる神となり威力を振るうための、外なるたいとでも言いましょうか。操縦するには、しんを自身の内から外の機体へと滞りなく届けなくてはなりません。これにはそれなりのしんを発揮して頂く必要があるのです。現状のさきもり様ではまず不可能ですね」

 つまり、今日よりわたりりんろうから課せられるはずだった訓練を進め、必要最低限のしんを発揮出来るようにならなければ話にならないということだろう。
 わたるは一転、気が重くなった。

「マジか……マジか……。」
貴方あなた達のお気持ちを鑑みますと、今すぐにでもここから自由になりたい、というのも充分理解出来ます。しかし、わたくしと致しましても何の見返りも無く協力しろと言われましても出来かねます。その為の準備期間として、なにとぞ、御勘弁を」

 びられて、わたるは彼女に対する見返りの話を思い出した。
 そういえば「わたりを追い落とす計画」の話は途中だった。
 そうせんたいおおかみきばしゅかいである「しゅりょうДデー」なる人物に近付く為、わたりにその男へ何の言い訳も出来ない失態を演じさせる、といく狙いがあるのだった。

ただ単に盗んで脱出するだけじゃ駄目ってことですよね?」
ようで御座います。その為にはいくつかのぜんてをしなくてはなりません。ず、わたりの判断で貴方あなたにこのミロクサーヌ改を操縦させること」
「それ、ちゃちゃ厳しくないですか……?」

 目の前にたたずむ兵器の脅威は一目でわかる。
 そんなものを、自身に反感を持つ人間に任せるなど、まとな思考が出来ればまずあり得ないだろう。
 しかし、には自信があるようだ。

「先程、わたくしが『試運転起動状態で整備を任されている』とお話しした事を覚えていますか?」
「え? あ……」
「やはり、お聴き頂けておりませんでしたか」

 に溜息を吐かれ、わたるは申し訳無い気分になった。
 巨大ロボットを目の当たりにして子供の様にはしゃいで、自分の問題をないがしろにしていたことがたまらなく恥ずかしい。

「すみません……」
「簡単に説明いたしますと、どうしんたいには安全装置が備わっているのです。ただ搭乗しただけでは『試運転起動状態』といって、真面に性能を発揮出来ない制限が掛かる仕様になっているのですよ。そこから更に強いしんで『実戦起動状態』に持って行かなくては、わたり程の実力者にとって脅威にならないのです。ですから、さきもり様にどうしんたいをお任せしても安心だ、と思わせれば良いのです」
「成程……。ん?」

 一つ、わたるの説明に引っ掛かりを覚えた。

一寸ちょっと待ってください。それって、要はぼくわたりめられているってことですか?」
「ええ。わたくしの見たところ、さきもり様が一番適任かと。わたくしの計画では、先ず貴方あなた達の誰かをわたりに見限らせる。それを見越して、その方を雑用係としてわたくしの下へ配置換えするように言い含めておく。そうすれば、わたくしわたりの指示でその方にどうしんたいの整備を教えられる、という訳です。十中八九、選ばれるとすればさきもり様でしょう。今日二人切りになれたのは渡りに船で御座いました」

 わたるは更に引っ掛かりを覚え、首をかしげる。

「あの、つまりぼくが一番わたりに見限られやすい、と?」
「はい。さきもり様に戦闘員としての見込みが無いことは明らかですので」

 とうとうはっきりと言われてしまった。

ぼくひぐま倒してるんですけど……」
「あの程度のけだものを相手に散々った挙げ句、止めを刺せませんでしたね。一撃の重さも、あぶ様や椿つばき様の方がはるかに上で御座いましたよ。お気付きになりませんでしたか?」

 確かに思い出してみると、わたるは連続攻撃で羆を圧倒していたかの様であったが、裏を返せば決定打に欠いていたということになる。
 最後に伸すことが出来たのは、その直前にあぶしん椿つばきようのコンビネーションが奇麗に決まったからだ。

「見込み無し、か……」
「戦闘員になりたかったのですか? おおかみきばの革命戦士に?」
「いや、それは全然、なんですが、やっぱり男としては面と向かって『戦いの才能が無い』って言われると一寸傷付くんですよね……」
「然様で御座いますか。では、第二の条件ですが……」

 は軽く流して話を続ける。
 振り向いて、入り口の傍らに掛けられた七曜表カレンダーを指差した。

「本日、六月十日。丁度三週間後に、しゅりょうДデーの視察予定が御座います。直近で目標として頂きたいのは、この日を脱出決行日の候補とすること」
「七月一日か……」

 わたる七曜表カレンダーに薄く記された日付を凝視した。
 今月だけ辛抱すれば良い、と考えればぎょうこうだが、不安要素もある。

「それまでの訓練で、必要最低限のしんは身に着けておかないといけませんね」
「はい。ですが、操縦の訓練は近い内に行えますので御安心ください」
「そうなのですか? さっき今のぼくに操縦は無理だとおっしゃってましたが」
「熟練者の補助があれば可能なのですよ。不足分のしんは補えますので」

 七曜表カレンダーの真下に備え付けられていたスイッチを押した。
 それは丁度エレベーターのボタンの役割を担っており、柵の向こうへ昇降機が降りて来る。

「本日は、わたくしが操縦いたします」
「先ずは感覚に慣れたいですしね」
「いいえ、本日の貴方あなたしんでは乏し過ぎて補助すら出来ませんので」

 またしてもの言葉の刃がわたるの心を刺した。

「言い直します。結構傷付きます」
「然様で御座いますか。心理的な要因ならば克服の見込みは御座いますので、そこまで気を落とされることも無いですよ」
「心理的な要因?」
しんを発揮するには己の中に神をみいさなければなりませんからね。卑しい心根や、極端な劣等感情をお持ちの場合は不利なのです。特にそれらが複合したとなると……」

 は続きをよどんだ。
 わたるが完全に落ち込み、床に手を付いていたからだ。
 幼馴染のうることに対する強い劣等感情に根差した度し難い性癖の持ち主であるわたるは、条件にぴたりとまっている。

「慰めたつもりでしたが、逆効果だったようですね。まあ、つまりますところ貴方あなたおおかみきばの革命戦士など到底似合わないということですよ。ここにられるべきかたではないのです」
「そう……ですか……」

 昇降機が到着した。

「では、搭乗しに行きますよ。三週間はあっという間です。気をお引き締めください」
「はい……」

 わたるは落胆した気持ちのままの後に続いて昇降機に乗った。

「何としても脱出してくださいませ。に美辞麗句を並べようと、おおかみきばは外道の組織です」
「それは……く解っていますよ」

 に言われるまでも無い。
 はらひなの犠牲がいの一番にそれを思い知らせてくれた。

「特にわたりは下衆の極みです。拉致の際、貴方あなたを相手に彼の部下が失態を演じたと聞き及んでおりますが、その後彼ら二人がどうなったか、ご存じですか?」
「え?」
「総括と呼ばれる制裁を受け、死体は羆の餌となりました。昨日最終試験として戦って頂いた、あの羆ですよ」

 の言葉に、わたるはやりきれない思いを抱いた。
 自分をひどい目に遭わせた連中の一味とはいえ、関わり合いになった人間が無残な死を遂げたと聞かされるのは胸に来るものがある。

「そういうことですので、これより三週間は死に物狂いで目標を達成してくださいませ」
「解りました」

 昇降機が二十数メートル上方の足場に到達した。
 丁度、壁伝いにミロクサーヌ改の首の後ろまで伸びている。

「では、参りましょうか」

 わたるに続き、機体の後までやってきた。
 が機体に手をかざすと、彼女の体と機体が光を帯び、ハッチとなっている首の後の装甲がゆっくりと開いた。
 二人はこの巨大なロボットの内部へと入っていく。
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