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私、ギルドの受付係になります!

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(まだ、寝ているのかな……)

 右手に寝室に繋がる扉があるけれど、さすがに寝室にまでは入ったことがない。寝室の扉を開くのははばかられる。
 その時、窓の外から剣を打ち合わせる音が響いてきた。レミリアはそっと窓により、そこから外の様子を見てみる。
 窓の外では、二人の男性が剣を打ち合わせていた。一人は知らないが、もう一人はレミリアはよく知っていた。

(ライムント様……! いた!)

 出会った頃の彼より、いくぶん幼い。ということは、禁呪は完全な失敗というわけではなかったのだろうか。

(女神様、ありがとうございます……!)

 思わずその場に膝をつき、心の中で女神に感謝の祈りを捧げる。
 もちろん、外で剣を打ち合わせているのが、レミリアの知るライムントではないことくらいわかっている。彼はあの時死んだ。
 でも――それでも。かつて愛したライムントがそこにいる。それだけで、胸が熱くなった。胸の奥から込み上げてくる、なんとも言えない高揚感。
 彼が生きているというだけで、こんなにも世界が明るく見えるとは驚きだ。ひとしきり感謝を女神に捧げてから立ち上がる。
 レミリアは女神を感じることはできないけれど、女神の方はレミリアを感じ取っているはずだ。
 立ち上がり、ライムントの方にもう一度目をやる。
 レミリアと知り合ったことが、彼の死の原因になったのだろうから。二度目の人生は、彼に関わるつもりはなかった。

(……さようなら)

 最後にライムントの姿を目に焼き付けようとしたら、ライムントがこちらを見上げる。彼はレミリアが見えていないはずなのに、真正面からレミリアを見つめていた。

(気づかれてない、よね……?)

 もう一度、転移魔術を使用して、その場を離れる。次の瞬間には、自室に戻っていた。

「シスター・グレース、おはようございます」

 階段を下りていくと、厨房からは包丁を使う音が聞こえてくる。

「少し、今日は遅かったみたいね?」
「ごめんなさい、シスター・グレース。寝坊しちゃったみたい」

 シスター・グレースはレミリアの育ての親だ。併設する孤児院で、子供達を育てている。
 レミリアもここの孤児院で育てられ、今はシスターの手伝いをしながら、町で仕事をし、賃金を生活の足しにしている。
 シスター・グレースはもう七十近いだろうか。彼女の顔は皺だらけだが、微笑みは孤児院で暮らしている子供達を安心させるかのように優しかった。

「……あら?」

 レミリアを見て、シスター・グレースは目を瞬かせた。それから、わずかにこちらに身を乗り出し、じぃっとレミリアの顔を見つめてくる。

「何か」
「いえ、いつものあなたと違うような気がして。いえ、気のせいね」
「気のせいだと思う」

 それから、レミリアはグレースと並んで、朝食の準備を行う。
 ここで暮らす以上、自分にできることはどんどん手を出していくべきなのだ。

「グレース様、今日って何年の何月何日でしたっけ?」

 朝食用のパンを切り分けながら、レミリアは聞いてみた。
 先ほど、鏡で確認した自分の顔は、最後に見た顔よりいくぶん幼かった。
 城で見てきたライムントも幼かったから逆行はしたのだろうが、今がいつのことなのかがわからない。

「やぁね、ヴァルート歴62年、5月29日でしょ。まだ寝ぼけてるの?」
「えへへ、なんだか夢見が悪かったみたいで」

 ヴァルート歴62年ということは、レミリアは十四歳。聖女としての力が芽生えるちょっと前、ということになるだろう。

(……となると、早く行動した方がいい。私とライムントを殺したあいつらが動き始める前に)

 王太子ベルナルドと、その恋人であり侯爵令嬢であるマルセリナ。おそらく、マルセリナに"聖女"の地位を与えようというのだろう。
  ――許してはならない。彼らだけは。
  でも、今はまだ動けない。もっと、力を蓄えなくては。
 シスター・グレースは、レミリアのやりたいことに反対なんてしないだろう。パンを籠に盛りつけながら、レミリアは口を開いた。

「シスター・グレース。私、決めた。冒険者ギルドの受付係になろうと思うの」
「……冒険者ギルドの受付係?」

 レミリアの発言は、突拍子のないもののようにシスター・グレースには思えたのだろう。彼女は、スープをかき回す手を止め、ぽかんとした。


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