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1章

07.その危機は想定外です

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「どうしてオマエはそんなに生意気なのよ!! もっと親に敬意を持ちなさい。 あぁああああ、もう良いわ!! 何時でも馬車から出られるように準備をしておきなさい。 何時ものような生意気は控えなさい、コレはアナタのための忠告よ!! 王族なんてのは……気に入らない者の命を簡単に奪う権利があるんだから。 それに……命を直接奪われなくても……。 いいえ、気に入られればオマエの人生も、私達の人生も大きく変化するんだから、頑張りなさいよ」

「むっ」

「文句でも?」

 待機場には馬車番の御者さんや、今来たばかりの貴族の人がいて、母は大声を出すのを耐えながらそれでも勢いは叫んでいた。

 器用な人……。

「いえ……このような立派な場所に来られた事で取り乱してしまいました。 すみません」

 正直言えば『無計画もいい加減にしろ!!』と言いたいところだったけど、必死に耐えた。何とかする自信があった訳ではないし、どうせすぐに見つかるだろうと思っていた。 何しろ私は眠っている時間が長くて運動は得意ではないので……。

 そして私は悠々と建国祭の会場へと大きな箱を持って向かう両親を見送り、馬車の中でボンヤリと薄汚れた天井を眺め……外を眺め……。

 巨大な箱に入った貢物は、怪しいと言って呼び止められ別室に連れていかれていくのを眺め……でも、まぁ、私が気に掛ける事はないでしょうと、日が暮れるのを待つ。

 そして私は、雲が月を隠す瞬間を狙い外へと出た。

 別に両親の作戦に乗った訳ではなく、窓から覗き見える庭園の景色に興味を持ったから。

 見回りの警備員が去っていくのを見て、そっと、そっと馬車の扉を開ける。 周辺にとまる馬車は、うちが使っている馬車と同じように古びた大きいだけの馬車。

「うちのような家が沢山あるのかしら?」

 ソレはソレで、両親も気楽だろうと考えた。
 うちと変わらないと思ったから、ソレがオカシイと思わなかった。 例え、馬車の中に大勢の人の気配があったとしても、そこにザワリとした恐怖を覚えたとしても、そんなものを知らない私には、そう言うものだと判断するしかなかった。

 無かったけど……。

 窓からコチラを覗き見る視線に、私は走り出す。
 そして人影の一つが追って来た。

 大きな身体をした男は、客人だと言われてもオカシクなかった。 両親の方が余程オカシイ……だけど、怖いと思った。 捕まったら放り出され、両親が怒るから? 違う……両親が怒り出すのは想定済だ。

 私は、走った。

 庭園の木々の脇を抜け、道を無視して走る。

 アレが異常だと言うなら、いっそ人に見つかった方がいい。

 そう思ったから、王宮の明かりに向かって走っていた。

 ここは、もう王宮内。
 怪しい人なんて要る訳がない。

 そう思う反面、自分達が中に入るのに何かチェックを受けただろうか? そう思った。


「なに……あれ……」

 私は走りだす。

 走って、走って、走って……逃げて……追うものの歓喜、狂気が背に伝わる。

 怖い、怖い、怖い……。

 両親の子に対する無関心も狂気だと恐怖だと思っていたけど違う……。

 追いかけてくる者は、私を捕らえない。
 逃げて、恐怖におびえる様子を楽しんでいた。

『あはっ……柔らかそうな、肉』

 たどたどしい言語は聞きなれないけど、理解は出来た。 知ったのは私自身の経験ではなく『夢渡り』による記憶。

『ほら、逃げろ逃げろ』

 小さな身体が、足が、上手く動かない。
 助けまで、届きそうにない……。

 それでも、逃げなきゃ、逃げなきゃ……集中すれば、周囲が良く見えた。 足を動かせ……。 木々が手足を打ち付け、服を破り、髪に巻きつき、引き抜き……それでも走った。

 声が……聞こえるような気がした。

「た、すけ……て……」

 上手く出せない声は枯れていて、人に届きそうもないけれど……ソレで良かったとおもった。 聞こえる声が泣き声だったから。





 声が聞こえた気がした。

 小さな……それでも大きな僕の耳には、よく聞こえた。
 甘い花の蜜のような声。

 たすけて。

 心が締め付けられる。

 だから、僕は立ち上がる。

 大きな瞳から涙を溢れさせ、白い毛並みに赤黒いものをしみこませた大きな獣がムックリと身体を起こし、そして駆けだした。
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