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3章

44.運命共同体

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 カインヴェルがご飯を食べている最中も顔を緩めたクリスティアがモフモフと撫で続け、それだけでは収まらず子犬の身体は抱き上げられた。

 抱きしめ毛皮に顔を埋め、嬉しそうに甘えた声を上げるクリスティア。

「むぅ~~」

「ぁうぁう」

 力強く抱きしめられたカインヴェルはじたばたと落としそうになるパンを両手で支える、諦める事無く食べ続けるカインヴェル。

「おチビ、食べろと言いながら食べる邪魔をしてどうする。 物凄く食べにくそうだぞ?」

 ダニエルは苦笑しながら言えば、クリスティアは甘えを残した反抗のまま不貞腐れて見せ、膝の上にカインヴェルを下ろした。

「何時も私がヴェルの背中に乗っていたから、交代したかっただけだもの」

 そう言いながら肩に担いで見せるが、戯れるのが楽しくてならないと言うようにクリスティアは笑うのだ。

「そりゃぁ、背に乗るのはおチビがしたくてしているんだろう」

「でも、嫌がってないし……多分、嫌じゃないよね?」

 食べ終われば膝の上でバターロールに挟まった揚げ物系惣菜パンがぽんっと現れる。

「嫌ではない……コレも悪くない……」

 もふっと身体が持ち上げられ、顔と顔が寄せられ、カインヴェルはクリスティアの鼻をペロリと舐め、クスクス笑いあいながら鼻同士がペタッとくっつける。 甘い触れ合いにドキドキするカイルヴェルだが、徐々にクリスティアの視線が座りだし別のドキドキに変わりだす。

 しばらくにらめっこが続き、焦った様子を見せるカインヴェル。

「何か、怒っているか? 僕、今なにかした?」

「その、王宮で世話になっているエリナって人の膝にも乗せられてご飯食べてたりしたの?!」

 ジトッと明らかに腹立たしさを表すクリスティアの表情は、3年間一緒にいたカインヴェルも見た事の無い表情で……逃がすものかと言う強い意思を感じられた。 物理的にも感じられた。 身体を掴んでいる手の力が強い。

 カインヴェルは焦った。

 焦り過ぎて理由を考える余裕もなくし……ポロリともらした。

「それは無い!! むしろ部屋の片隅にエサ入れを置かれて、今だって腐った生肉が部屋に放り込まれるだけだ!!」

「何、ソレ!! 私からヴェルを取って行って!! 何ソレ!! 何ソレ!! 何ソレ!! どうして大事にしてくれないの!! 潰す!!」

「ちょ、腹を掴んでる手!! ギリギリしてる!!」

「コラコラ、カイン様を潰すな」

 ダニエルが唖然としてそして笑いだし、反してドナは真面目に反応する。

「お嬢様の力でどうやって潰すと言うのですか? 計画は完璧にしないと、その手の事を得意な者を集めましょう」

「どうって、闇夜に隠れて空中の超重い岩を出現させてドスンッと。 腕力はないけど、コレならいけるわ」

 ふんっとガッツポーズをして見せれば、ドナはニッコリと笑った。

「それは……良い手段かもしれませんね。 どうやって敵にヒッソリ近づくかが問題です。 王宮も公爵家も警備が厳しいでしょうから……情報を売ってくれる味方を作りましょう。 それと、公爵家と戦うためには別の公爵家を味方につけるのがイイかもしれません」

「オマエ等は……」

「だって!! 悔しいもの!!」

「お嬢様は不幸にする者は滅びてしまえばいいんです」

「ティア、ソレでも国を管理する者が必要だ」

「だからって、ヴェルが不幸になって良い訳じゃない!!」

「僕は……不幸にならない……。 ティアがいてくれるなら。 だから大丈夫」

「大丈夫じゃないもん!! だって、どうしてこんなに小さくなってしまったの? 腐った肉でお腹を壊したから?!」

「へっ? ここのご飯と比べれば、きっと何処の飯も美味しいとは思わないと思うけど、腐ったものは食べないって」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、こんなに小さくなるくらいなら、ご飯をちゃんと食べるべきだと思うわ。 わざわざ手間をかけて作ってくれるだろう人にも失礼だと思うの」

「それは……」

 食事提供口から逃げるためだったり、人目を避けやすいサイズだったり……あぁ、どんな言い訳も良くはない……だって、望んで招かれたのに、ソレに喜んでついて行ったのに、結局大切にされる事無く、その愛も何かが違っていた。

 だけど、カインヴェルが言い訳を言えば、同情を求めるかのようだと思った。 だから、カインヴェルが案じるような事を想像にもしていないのだろう、実際クリスティアの質問は終わる事はない。

「どうしたの?」

「ぇ、いや、コレは……」

 言い難いが……実際には魔力が多い時には長時間小さくなることは難しくて、今は大きくなるのが難しい……魔力が減っている……。 自分の魔力は増加し続ける者だと思っていた。 魔力を補充するために惣菜パンをもくもくと食べ続ければ、良い感じで戻って来る。

「ティア、ティア……」

 抱っこを求めるように子犬姿のカインヴェルが両前足を向ければ、

「ぇ、なになに? 甘えん坊だなぁ~」

 鼻キスと軽い口づけ。
 魔力の交流が行われる。

 ささやかな魔力循環……だけど、循環を繰り返せば魔力が増えていた。

 決して大きな増加量ではないけれど、減るばかりの日々とは違い身体も心も安定する。

「やっぱり……僕にはティアが必要だ」

「ようやく私の偉大さが分かりましたか」

 良く分かっていないティアとの会話は余り意味がない。 だけどそれが嬉しくてカインヴェルは尻尾をパタパタ振りながら、鼻と鼻をピタリとくっつけ、ペロリと唇を舐めた。

「どうしたの? 魔力を直接食べちゃうほどお腹がすいているの?」

「いや、ティアと一緒に居ない日々が寂しかっただけ」

「そっか……えっと、その、恥ずかしい言葉禁止!! それより、ご飯だよ、ご飯!! 大きくなったら、もっと沢山食べられると思うんだけど、大きくならないの?」

「そうだね」

 言えばクリスティアがカインヴェルを床に置く。 霞のように曖昧な存在へと変化したカインヴェルは次の瞬間には、大きな狼姿になっていた。

「じゃぁ、食事の続きだね」

 大きくなって食事をすれば、身体全体を触れ合わせるように抱き着いて来た。 背に触れると言うか乗っかられる感触……行儀は悪いけど……コレは好きだ。

「ティアは、少し大きくなったか?」

「成長期ですから。 大きくなっているよ。 それに、美人になったでしょう?」

「ティアは以前からカワイイ」

「……ヴェルは、カッコよくてカワイイよ。 あの時、逃げる隙を作ってくれてありがとう。 私は、すぐ側にいたのに……何も、出来なかった」

 嘆く姿を見れば、王宮に戻り王位につく事を考えるべきかもしれない。 そう思ってしまったのだ。

「大した事じゃない。 当たり前のことだし、本当はもっとちゃんと助けたかった。 ティア、僕は、この国をティアが暮らしやすい国にしたい」

「ぇ……」

「例え、王であっても間違っていると……言えるようにしたい……から、また王宮に行く事にした。 ティア、それでも僕の側にいて欲しい」

「良いけど……私が勝手に王宮に居る訳には行けないと思うの」

「いや、そこは後で話すとして。 今はYesかNoで答えてやれ」

「兄さんは、ロマンチストすぎるのよね」

 ボソリと呟くドナの声を聞こえていないクリスティアは、拗ねたような表情に頬を赤らめながら短く答える。

「いいわ。 私達は運命共同体ね!!」
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