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13.そして国王は告げる
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シアとランディの婚姻が決まったのは6年前。
シアが居ない事を除けば父である王から漂う緊張感を始め、婚姻が決まったあの日と、とても似ているようだとランディは思い出す。
シアがランディを手にいれるために、国を跨ぎ多大な尽力をつくした事実を知る王子はおらず、ランディのみでなく兄弟達も “なぜ脆弱な人間の娘と婚姻を結ばせるのだ” と、当時は驚きと戸惑いを露わにし騒めいていた。
奪う事で生活をしていた彼等にとっての婚姻とは、強い自分達の血統を残すための行為でしかなかったから……。 シアを妻にすると言う事は、彼等にとって婚姻の意味を成すように思えなかったのだ。
それは雄としての欠落。
王位継承からだの脱落。
そう言う意味だと彼等は考えており、だからこそヴィズとセグの口に出たのは、中傷交じりで馬鹿にしたような声色での祝いの言葉。
「まぁ、頑張るといい……」
「僕は、お似合いだと思いますよ」
歪な口元で笑う兄弟に、ランディは屈辱で身がはちきれそうだった事を覚えている。
だが、今は違う!!
国を成立させ、街を作り、人を活かし、全ての人間に様々な恩恵を与えたシアは、周辺諸国からも羨望を向けられている。 今、彼等が戦う理由もまた、シア本人であり、彼女が与える恩恵である。
あの日の屈辱を、今なら晴らせるはずだった。
王子達の思惑をよそに、セグの妻であるセリアは、チラリとドロテアの表情を覗き見る。 彼女は戦場においてドロテアとは近い位置におり……シアとランディの婚姻が決定した後を良く知っていた。
怨嗟に満ちた日々を見続けるのはセリアにとっては苦痛で……、今日この場でシアとドロテアが顔を合わせると思い込んでいたセリアは、胃に穴があくような時間を送っていたものだった。
シアと言う人間を前にした……いえ、耳にしたドロテアの表情は何時だって怨嗟にまみれている。
それは激しい戦闘ですら感じた事のない……。
いや、最も近いのは、子を奪い殺された母だろうか? そんなドロテアを見ては、セリアは得体のしれない恐怖と不安に駆りたてられてる。
だから、セリアは安堵していた。
自分の安寧だけを考え、この場にシアが居ない事実に心から喜んでいた。
セリアがこの状況を喜んでいるように、シアが居ない状況に対してソレゾレが、ソレゾレの思いを抱いていた。
ヴィズは、シアとの間に友好関係を築きたいと考えていたため、不在を残念がると同時に……ランディとドロテアの関係を見せつける事ができず残念がっている。
セグは、婚約者であるセリアを心配し、シアが居なくて良かったと考えた。
ヴィズの婚約者アズは、シアとの関係に既に友好関係を築いており、出会えなかった事を心から残念がっていた。
そして……ドロテアは、
「そういえばシア様はどうなされたのかしら? 私、いつか彼女にはお礼を言いたいと思ってましたの。 あの方の強硬な態度が無ければ、ランディは独り身をこじらせアタシが一生面倒みなくてはいけないかと、心配していたから」
朗らかなドロテアの言葉に、セリアは一人冷や汗をかきうつむいた。
「自分の面倒ぐらい自分で見れる」
「あら、こうやって切り分けて上げないと、そのまま齧り付くアナタが? でも、シア様はお忙しい方ですもの。 今まで通り面倒を見るのは私の役目かもしれませんわよね」
ヴィズとセグは笑いドロテアの言葉に頷いた。
「シアはこの国には大切な人だ、余り面倒をかけるんじゃないぞ」
「兄さんを恐れる者は同族にも多いのですから、人間の娘相手には慎重にならなければいけませんよ」
「分かっている!!」
そこに居ないのにどうすればいいんだと不満気に思っていれば、ドロテアは肘でつつき笑いかけた。
「ちゃんと、誤解のないように彼女にアタシのことは伝えるのよ。 自分以外の女性が好きな相手の隣にいつもいるなんて言うのは女性にとっては、大きな問題なんだからね」
「それは男にとっても大問題だと思うがな」
ヴィズは言えば、そうねとドロテアは笑顔で応じた。
「確かに、いつもランディのせいで恋人に振られてしまうのよね。 でも、アタシが背中を預けられる人なんて、ランディくらいだし……こればかりはどうしようもないわ」
そう言って苦笑交じりに肩をすくめれば、セグは笑いながら言う。
「ドロテア姉にも、きっといい人が現れ……」
ドロテアと視線のあったセグは、慌てて口を閉ざした。
物凄い視線で睨まれ、セリアに肘で強烈に突かれたからだ。
「父上、シアは何処にいるのですか……せめて城に戻ったと挨拶ぐらいしたいのですが……」
「必要ない。 ランディとシアの婚姻は無かった事とした」
「なんと?」
唖然とし、ランディは聞き返す。
「だから、ランディとシアの婚姻は無かった事になったと言っておるのだ」
「どういう事ですか!!」
「何を憤る。 今まで良好な関係を築かなかったのは其方だろう」
「オレにはやる事がある!!」
「戦場を離れ、天使殿と共に国を回れと連絡したはずだろう」
「オレは……」
知らないと言う言葉を飲み込みドロテアを見れば、無邪気な笑みと共に料理を食べていた。
「なぁに、コレとても美味しいわよ。 はい、あ~ん」
「止めろ!!」
「何よ、別に好きでも無かった癖に」
ドロテアは拗ねたふりをし言えば、ランディは口を閉ざしたが、兄弟とその婚約者は突然の発言に騒めいた。
そして、王は改めて全員へと視線を送る。
「私から、一言良いだろうか?」
王が言えば、騒めきは収まり全員の視線が王へと向けられる。
そして王は静かに、だが力強い声と、揺るがない思いで息子達に改めて告げた。
「シアとランディの婚姻関係は解消し、今後、シアがパートナーに選んだ人物を王位継承第一位とする。 天使殿がどんな相手を選ぶかは分からないが……お前達は、次期王となる者と天使殿、そしてこの国をこれまで同様に支えるように」
シアが居ない事を除けば父である王から漂う緊張感を始め、婚姻が決まったあの日と、とても似ているようだとランディは思い出す。
シアがランディを手にいれるために、国を跨ぎ多大な尽力をつくした事実を知る王子はおらず、ランディのみでなく兄弟達も “なぜ脆弱な人間の娘と婚姻を結ばせるのだ” と、当時は驚きと戸惑いを露わにし騒めいていた。
奪う事で生活をしていた彼等にとっての婚姻とは、強い自分達の血統を残すための行為でしかなかったから……。 シアを妻にすると言う事は、彼等にとって婚姻の意味を成すように思えなかったのだ。
それは雄としての欠落。
王位継承からだの脱落。
そう言う意味だと彼等は考えており、だからこそヴィズとセグの口に出たのは、中傷交じりで馬鹿にしたような声色での祝いの言葉。
「まぁ、頑張るといい……」
「僕は、お似合いだと思いますよ」
歪な口元で笑う兄弟に、ランディは屈辱で身がはちきれそうだった事を覚えている。
だが、今は違う!!
国を成立させ、街を作り、人を活かし、全ての人間に様々な恩恵を与えたシアは、周辺諸国からも羨望を向けられている。 今、彼等が戦う理由もまた、シア本人であり、彼女が与える恩恵である。
あの日の屈辱を、今なら晴らせるはずだった。
王子達の思惑をよそに、セグの妻であるセリアは、チラリとドロテアの表情を覗き見る。 彼女は戦場においてドロテアとは近い位置におり……シアとランディの婚姻が決定した後を良く知っていた。
怨嗟に満ちた日々を見続けるのはセリアにとっては苦痛で……、今日この場でシアとドロテアが顔を合わせると思い込んでいたセリアは、胃に穴があくような時間を送っていたものだった。
シアと言う人間を前にした……いえ、耳にしたドロテアの表情は何時だって怨嗟にまみれている。
それは激しい戦闘ですら感じた事のない……。
いや、最も近いのは、子を奪い殺された母だろうか? そんなドロテアを見ては、セリアは得体のしれない恐怖と不安に駆りたてられてる。
だから、セリアは安堵していた。
自分の安寧だけを考え、この場にシアが居ない事実に心から喜んでいた。
セリアがこの状況を喜んでいるように、シアが居ない状況に対してソレゾレが、ソレゾレの思いを抱いていた。
ヴィズは、シアとの間に友好関係を築きたいと考えていたため、不在を残念がると同時に……ランディとドロテアの関係を見せつける事ができず残念がっている。
セグは、婚約者であるセリアを心配し、シアが居なくて良かったと考えた。
ヴィズの婚約者アズは、シアとの関係に既に友好関係を築いており、出会えなかった事を心から残念がっていた。
そして……ドロテアは、
「そういえばシア様はどうなされたのかしら? 私、いつか彼女にはお礼を言いたいと思ってましたの。 あの方の強硬な態度が無ければ、ランディは独り身をこじらせアタシが一生面倒みなくてはいけないかと、心配していたから」
朗らかなドロテアの言葉に、セリアは一人冷や汗をかきうつむいた。
「自分の面倒ぐらい自分で見れる」
「あら、こうやって切り分けて上げないと、そのまま齧り付くアナタが? でも、シア様はお忙しい方ですもの。 今まで通り面倒を見るのは私の役目かもしれませんわよね」
ヴィズとセグは笑いドロテアの言葉に頷いた。
「シアはこの国には大切な人だ、余り面倒をかけるんじゃないぞ」
「兄さんを恐れる者は同族にも多いのですから、人間の娘相手には慎重にならなければいけませんよ」
「分かっている!!」
そこに居ないのにどうすればいいんだと不満気に思っていれば、ドロテアは肘でつつき笑いかけた。
「ちゃんと、誤解のないように彼女にアタシのことは伝えるのよ。 自分以外の女性が好きな相手の隣にいつもいるなんて言うのは女性にとっては、大きな問題なんだからね」
「それは男にとっても大問題だと思うがな」
ヴィズは言えば、そうねとドロテアは笑顔で応じた。
「確かに、いつもランディのせいで恋人に振られてしまうのよね。 でも、アタシが背中を預けられる人なんて、ランディくらいだし……こればかりはどうしようもないわ」
そう言って苦笑交じりに肩をすくめれば、セグは笑いながら言う。
「ドロテア姉にも、きっといい人が現れ……」
ドロテアと視線のあったセグは、慌てて口を閉ざした。
物凄い視線で睨まれ、セリアに肘で強烈に突かれたからだ。
「父上、シアは何処にいるのですか……せめて城に戻ったと挨拶ぐらいしたいのですが……」
「必要ない。 ランディとシアの婚姻は無かった事とした」
「なんと?」
唖然とし、ランディは聞き返す。
「だから、ランディとシアの婚姻は無かった事になったと言っておるのだ」
「どういう事ですか!!」
「何を憤る。 今まで良好な関係を築かなかったのは其方だろう」
「オレにはやる事がある!!」
「戦場を離れ、天使殿と共に国を回れと連絡したはずだろう」
「オレは……」
知らないと言う言葉を飲み込みドロテアを見れば、無邪気な笑みと共に料理を食べていた。
「なぁに、コレとても美味しいわよ。 はい、あ~ん」
「止めろ!!」
「何よ、別に好きでも無かった癖に」
ドロテアは拗ねたふりをし言えば、ランディは口を閉ざしたが、兄弟とその婚約者は突然の発言に騒めいた。
そして、王は改めて全員へと視線を送る。
「私から、一言良いだろうか?」
王が言えば、騒めきは収まり全員の視線が王へと向けられる。
そして王は静かに、だが力強い声と、揺るがない思いで息子達に改めて告げた。
「シアとランディの婚姻関係は解消し、今後、シアがパートナーに選んだ人物を王位継承第一位とする。 天使殿がどんな相手を選ぶかは分からないが……お前達は、次期王となる者と天使殿、そしてこの国をこれまで同様に支えるように」
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