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17.元王位継承権第一位だった者の婚約者は憂鬱

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 シアとランディの離縁。

 そして……、シアの選んだツガイを次の王とする事は、告知する事も無く広く広がって行った。

 今までシアを殺す事だけを視野に入れていた反文明派は、

「いますぐ暗殺を止めさせろ!! いや、そのまま警護に回り、恩を売るんだ!!」

 シアを狙っていた王族・貴族達も、結局のところは下級市民ばかりが豊かになって行く様子に嫉妬していたに過ぎず、自らがその恩恵を受ける事が出来るのであれば、こぞって方針を変え戦争を他所に血統1の雄に王都へと戻れと命じた。

 時をかけた後、他国からは “国が違えばどうなる?” と書状がポツリポツリと届きだす。

 王はシアに決して見せる事ない顔で高らかに笑った後にこう言った。

「私の天使殿が選ぶなら構わんさ。 だが、あの子が守り育て慈しむ、民と大地を荒らす者を、あの子が愛するかな? と、書状を返して置け」

 そう王が告げれば、文明への嫉妬により侵略を行おうと考えた近隣諸国は軍隊を撤退させ始める事となる。

 庶民の中にもソワソワする者が居ないでもなかったが、実際にシアと共に仕事をしていた者達は、姫様のツガイになろう等と罰当たりな事を考えるな!! そんな風潮が強かった。



【第一王子ヴィズと婚約者アズの場合】



「俺の今までの苦労は!! 全て無駄と言う事か!!」

 ヴィズに与えられた清潔な部屋には、美しい家具が揃えられ、芸術品とも言える茶器が置かれ、果物だけではなく加工された菓子が置かれている。 それら全て婚約者であるアズのコダワリだ。

 だが今のヴィズにとっては嫌味でしかない。

「ヴィズ、ここで考え込んでいるよりも、街を見て回りませんこと?」

「なぜ? そんな事をせねばならん!!」

 牙を剥く獣のような有様をヴィズは見せる。

 争いとは無関係の場で生きてきたアズと2人に付き従う侍女達を怯え震えた。 弱いと言っても最強である王の子であり、兄弟の中で一番弱いと言うだけの事、ヴィズは十分に力ある獣だった。

 アズは怯える侍女に命じる。

「貴方達は下がりなさい」

 そして精神を安定させるお茶をアズは淹れ始めた。

 ソレ等のお茶の効果はシアによってアズが学んだもの。 アズは将来の義兄嫁として義弟嫁となるシアと良い関係を結んでいた。

 今のアズの実家は下級市民を使い農園を開き、薬効のあるお茶を栽培し近隣に輸出する等の商売をしている。

「例え、王になれなくとも良いではありませんか。 我が家はシア様のお陰で財を築いております」

 いっそ、婿入りをすればいい。

 そう思っていたが、流石に今のヴィズにはそこまで告げる事は出来なかった。

「それに何の意味があると言うんだ!! 俺は、俺は、弟達のように武芸に長けている訳ではない。 それでも王となるため、多くの努力をしてきた。 全てが王になるためだ!!」

「今のギルモアは、アナタのような方こそが力を発揮できる場です。 今こそアナタのような柔軟に知恵を巡らせる方を民は望んでいる事でしょう。 ですから(王で無くとも)」

 最後の言葉は、かき消された。

「そうだ!!」

 急に嬉々として顔を上げたヴィズにアズは安堵できなかった。 生まれた時から婚約者であるアズだからこそ知っている。

次に来る言葉を予想すれば鳥肌が立った。

「良い事を思いついた」

 どのようなお考えでしょう。

 そんな言葉をアズは言葉にしない。 アズはヴィズのすらりとして知的にも見える容姿が好きだったし、同年代の誰よりも早く文字や計算を覚え、大人と共に作戦会議に混ざっている知的に見えるところが好ましいと思った。

 だけど……彼がこんな顔をするときは大抵ろくなことはないのだ。

「オマエは、シアと仲が良いそうじゃないか。 彼女が俺の妻となるよう話をつけてはくれないだろうか? オマエは側室と言う形になるが……理解してくれるよな?」

 そう嬉しそうに告げられれば、長年の情よりもおぞましさを感じる。

「何を不安そうな顔をする。 決してオマエを蔑ろにする事はしない。 シアには名だけの妻の座を与えるだけだ。 今まで通り俺のツガイはオマエだけ……オマエならシアと仲良くできるよな? あの……ドロテアの馬鹿と違って」

 ヴィズはソファに座るアズの腕を乱暴につかみ引き上げ抱き寄せた。

「愛しているのはアズ、オマエだけだ……」

 甘い囁きに、アズの心が凍る。

 今までも彼が言う良い考えは、ろくでもない事ばかりだったが、コレは最悪だと腕の中で拒絶しようとした。

「そういう事ではありません!! きゃぁ!!」

 いくらヴィズが戦士として劣ると言え、アズには抵抗するだけの力は無く。 抱きしめられ、抱き上げられ、ベッドの上に下ろされる。

「それではシア様が余りにも不憫でございます!!」

 ベッドの上で横になり、ヴィズを見上げたアズは涙を浮かべ訴えた。 だが……。

「では、俺の今までの人生を無駄にしろと言うのか? 愛している。 俺が愛しているのはアズ、オマエだけだ……」

 だから安心しろとでも言う風に、ヴィズは静かな声で耳元に囁き、その証とばかりに人獣の割に柔らかな太腿を撫で、戦慄くような唇にキスを落とした……。
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