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1章 幼少期

12.当たり前を知らない子の非常識を守りたい

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 ソファにサーシャを座らせたセシルは、その足元に膝をつき水を溜めた洗面器でサーシャの小さな足を洗いだす。

「殿下、あの……」

 俯くサーシャの視線には戸惑いが見え隠れする。

「大人しくしていてください」

 サーシャの足の指の間まで丁寧に洗えば、くすぐったくてモゾモゾしている。 お互いの立場を考えれば落ち着かない事は理解できるが、今、サーシャに触れる事を辞めてしまえば、トラウマを抱えてしまう事になりかねない。 セシルはそう考え、どこまでも優しく労わりながらサーシャに触れていた。

 手の平の上に足を乗せ、執拗なまでに足に触れ撫でる。

「あの……」

「可愛い足ですね。 ケガが無くて良かった」

 サーシャの足を手の平に乗せたセシルは、濡れたサーシャの足の甲に口づける。 ひぃいいと声にならぬ声を出し、身をよじらせ、ソファの上でのたうつサーシャにセシルが笑えば、サーシャは顔を真っ赤にしながら訴える。

「な、何をするんですか!!」

「可愛くてつい、衝動的な行動です。 はい、綺麗になりましたよ」

 汚れた水を退かし、サーシャに寄り添うようにソファに座ったセシルは、涙ぐむサーシャの目元に口づけた。 サーシャは恥ずかしそうに顔を背け、身体を傾けて背中を向けてくる。

 セシルが、小振りなサーシャの頭を撫でれば後ろ姿から見る耳が赤く、セシルはソレが可愛らしいと自然と微笑んでしまう。

 幼い交流が甘く続く。



 やがてノック音が響き、偵察に出ていたセシルの秘書クロムと、侍女アルマが共に戻って来た。

「戻りました。 サーシャ様の発言が事実であったことを確認いたしました」

「騎士、侍女達の中にも同様の行為に耽るものが見られました」

「流石にソレは想定外です」

 唖然としてセシルが言えばサーシャはセシルの顔を見ており、セシルは誤魔化すように笑って見せた。

 事実確認だけで終わらせるつもりではありませんが、やり方が問題になりますねぇ……そうセシルは考えていた。 情事だけでは責められないのが、この世界である。 だから、ケント以外の騎士や侍女に対する事は、気付かなかったふりを通す事とした。

「サーシャ」

「なんでしょうか?」

「婚約者を奪われた可哀そうな子になって下さい。 そうお願いしたら、貴方の尊厳は傷つきますか?」

「えっと……」

 良く分からないとその表情は訴えてきた。 出会った頃から彼女は感情よりも理論的に物事を考えようとする変わった子だった。 それは戦いで欲しいものを獲得すると言う世界では、余りにも非現実的で夢見がちな乙女のようですらあるとセシルは思った。

 この世界は、もっと、ずっと汚いと言うのに……。

 もし、一定の教育を受けた者が、サーシャと同じような理想を掲げ、暴力行為を責めたなら誰もが『コイツは馬鹿だ』と白い目で見ただろう。 だが、サーシャは幼かった、世間を知らずに綺麗な理想を語る姿が愛おしいとセシルは思ってしまったのだ。

 どうせ、年若く、後ろ盾も無い、第四王子だと軽んじられた。 王宮での立場は弱く、未完成な肉体は脆弱で、訓練と称して大ケガを負わせられる事も少なくは無かった。 なら、サーシャの計画に乗って各国を巡るのもいいよね。 程度の考えだった。

 だけど、今となれば……せっかくの計画を成功させたいと言う思いが強くなっていた。 そして、セシルの知る乱暴で凶悪で身勝手な世界を、当たり前としないサーシャを守りたいと思った。

「貴方の状況を利用することで、傷つくと言うなら止めます」

「いえ、大丈夫です。 私は、もう負けています。 だって……胸もくびれもお尻もないですし。 なら、せめて仕事ぐらいは勝ちたいです。 完勝したいです。 利用できるなら利用してください」

 見つめる視線は真剣で、そんな真摯な様子も可愛らしく思いセシルは穏やかに笑い、頭をクシャリと撫でる。

「胸もくびれもお尻も、豊かなサーシャは怖いですよ。 今のサーシャは、今この時が一番可愛いですよ」



 そして



 イルモ国側もルンド国側も、その時、その瞬間、集められる人間を全て集め、サーシャに与えられた部屋の前に集まった。 大勢の人が部屋に雪崩れ込めば、天蓋付きベッドで快楽に乱れる男女の姿があった。

「止めてくださいと言いましたよね。 コレはどういう事です?」

 セシルの怒りを含んだ声に、イルモ国側の者達はツバを飲み顔面を青白く染め、そして……ケントの悲鳴が轟き、カロリーネはヒッソリと舌打ちをした。
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