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3章 罪、罰、お仕置き、そして恩賞
59.ルンダール公爵家の罪と罰 02
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公爵令嬢エミリア・ルンダールは完璧だった。
彼女の中では……。
世間と本人の認識に差があると言う事は、決して珍しい事ではない。 これはただソレだけの事が、彼女の人生を狂わせたと言うだけの話に他ならない。
「ルンダール公爵、お時間をお取りいただきありがとうございます」
「いやいや、アナタ様のためであれば、何時如何なる時であろうと馳せ参じる所存でございますぞ」
機嫌よく笑う公爵の側には、エミリアを少しばかりキツクした金茶色の髪をした女性が控えており、公爵とは一転して不機嫌な様子の公爵夫人は、セシルが望めば曲芸の一つや二つ披露しそうな勢いの公爵を肘で突いていた。
「アナタ、みっともない」
「王子の来訪を喜ぶ事の何が悪い」
とうとうこの日が来たか……。
感慨深く、涙が出そうなのを堪え笑う公爵と一転、不機嫌そうな公爵夫人は声に出さず『野良犬の子が』と口にし、舌打ちをしていた。 女系家族のルンダール公爵家では、長い歴史のあるルンダール公爵家は王家以上の王家だと代々子へと伝えられた結果としての態度である。
だがセシルは、全く気にした様子無く静かに笑みを浮かべていた。
「明日から長い休暇を取られているとか、今日から我が家でユックリと過ごされると良かろう。 王子の来訪に備え、我が娘エミリアは、王都でも一流とされる職人を揃え、持て成しの準備をしていたのですぞ」
「とても、美味しいお茶ですね」
「おぉ、よく気付かれた。 王子のためにエミリアが、一流のブレンド職人を招いてきたのです」
「セシル様が、美味しいと言っていらしたので、頑張りました」
「そうなのですか」
単調なセシルの返事に公爵は不満そうな表情を浮かべそうになるのを、堪え愛想笑いを続ける。
公爵を一言で評価するなら無難で凡庸。
公爵家という地位の世間的な評価を考え、先代の婿殿公爵が望み、次期公爵として、娘の夫として迎えられたのが、今セシルが対峙している現公爵である。 現公爵が婿入りして来た頃の価値観であったなら、今のルンド国に必要な人物として要職に就く可能性もあっただろう。
だが、今は違ったのだ……。
「アナタいい加減にしてくださいませ!! 我が家は長い歴史を支えた公爵家。 王子とは言え、流れの娘から生まれた子、そんな野良犬の子相手に、ルンダール公爵家当主ともあろうものが、易々と頭を下げ、機嫌を取るものではありません! だからアナタは……」
「おぃ、止めないか!! 王子の前だぞ、いやいや申し訳ない……」
「でも、あなた!! 母親のいない子だからこそ、真実を伝える事、礼儀を教える事が大切なのよ。 このような礼儀知らずに国の外交を任せている等、ルンド国の将来が不安になると言うものです。 ここは義母となる私が、嫌われ役を演じたとしても、伝えなければ彼が……いいえ、国が大恥をかくと言うものです」
そんな言葉にも、セシルは怒りだすでもなく、ニコニコと眺めていた。
「このような不躾な来訪、今後は決して行う事は無いと誓いましょう」
「いやいや、そのような大層な事では……」
「アナタ!! 残念ながらアナタよりも王子の方が、公爵家の格というものを理解していてくださるようね。 全く……アナタも少しは王子を見習ってくださいませ。 では、謝罪もいただけた所で、今日このような突然の来訪に至った理由をお聞かせいただけるかしら?」
「ぉい!! オマエ……」
「お黙りなさい!! だから、男爵家から婿を迎えるなど……」
「お母様、セシル様の前でお止めください」
「あら、でも、家族になるのなら、お互いの腹の内を隠さない方が、良い関係を築けると思いますのよ。 例え、王子が夫の味方をするとしてもね。 父様も婿入りして来たこの人に甘い方で、母様とよくぶつかっておりましたわ。 だからこそ上手くやっていけたと私は思っておりますのよ」
「やだ、家族だなんて」
エミリアが照れながら、セシルの腕に手を伸ばそうとすれば、ニッコリ微笑みソレを手で遮られた。 ショックと苛立ちが顔に出ていた。
彼女の中では一分一秒、時が進むごとに交わしても無い婚約が、約束したことも無い婚姻が事実となっているのだ。
「大事な話があるのだと、伝えましたよね?」
甘い囁きのような声に、エミリアは頬を染めた。
「はい……そ、そうですわ……儀礼的なものは大切よね」
ヤレヤレと公爵は安堵の息をついた。
「それで、今日はどのような話があって、突然に来訪されたのですかな」
「陛下への報告が後回しになってしまうのですが、今日コチラの御令嬢と町で出会った際に、早々に決着をつけてしまわなければならないと、私は思ったのです」
「奇妙な言い回しですね……。 そのように相手を弄ぶ行為を嫌がる者は多い。 玉座を狙うなら、会話をする相手がどう思うか、そういう外交的なもの、社交的なものをもう少し学んだ方がよいんじゃないかな?」
穏やかな口ぶりで公爵がセシルに告げる。
「それも、そうですね。 では、結論から言わせて頂きます。 私の配下である赤銅の名を関するグループで預かっている、ルンダール公爵家の一族、関係者はその末端に至るまで、今日この場を持ってグループから解任し、伝達を行います。 二度と私と、私に関わる存在に近づかないで下さい」
「「「はっ?」」」」
彼女の中では……。
世間と本人の認識に差があると言う事は、決して珍しい事ではない。 これはただソレだけの事が、彼女の人生を狂わせたと言うだけの話に他ならない。
「ルンダール公爵、お時間をお取りいただきありがとうございます」
「いやいや、アナタ様のためであれば、何時如何なる時であろうと馳せ参じる所存でございますぞ」
機嫌よく笑う公爵の側には、エミリアを少しばかりキツクした金茶色の髪をした女性が控えており、公爵とは一転して不機嫌な様子の公爵夫人は、セシルが望めば曲芸の一つや二つ披露しそうな勢いの公爵を肘で突いていた。
「アナタ、みっともない」
「王子の来訪を喜ぶ事の何が悪い」
とうとうこの日が来たか……。
感慨深く、涙が出そうなのを堪え笑う公爵と一転、不機嫌そうな公爵夫人は声に出さず『野良犬の子が』と口にし、舌打ちをしていた。 女系家族のルンダール公爵家では、長い歴史のあるルンダール公爵家は王家以上の王家だと代々子へと伝えられた結果としての態度である。
だがセシルは、全く気にした様子無く静かに笑みを浮かべていた。
「明日から長い休暇を取られているとか、今日から我が家でユックリと過ごされると良かろう。 王子の来訪に備え、我が娘エミリアは、王都でも一流とされる職人を揃え、持て成しの準備をしていたのですぞ」
「とても、美味しいお茶ですね」
「おぉ、よく気付かれた。 王子のためにエミリアが、一流のブレンド職人を招いてきたのです」
「セシル様が、美味しいと言っていらしたので、頑張りました」
「そうなのですか」
単調なセシルの返事に公爵は不満そうな表情を浮かべそうになるのを、堪え愛想笑いを続ける。
公爵を一言で評価するなら無難で凡庸。
公爵家という地位の世間的な評価を考え、先代の婿殿公爵が望み、次期公爵として、娘の夫として迎えられたのが、今セシルが対峙している現公爵である。 現公爵が婿入りして来た頃の価値観であったなら、今のルンド国に必要な人物として要職に就く可能性もあっただろう。
だが、今は違ったのだ……。
「アナタいい加減にしてくださいませ!! 我が家は長い歴史を支えた公爵家。 王子とは言え、流れの娘から生まれた子、そんな野良犬の子相手に、ルンダール公爵家当主ともあろうものが、易々と頭を下げ、機嫌を取るものではありません! だからアナタは……」
「おぃ、止めないか!! 王子の前だぞ、いやいや申し訳ない……」
「でも、あなた!! 母親のいない子だからこそ、真実を伝える事、礼儀を教える事が大切なのよ。 このような礼儀知らずに国の外交を任せている等、ルンド国の将来が不安になると言うものです。 ここは義母となる私が、嫌われ役を演じたとしても、伝えなければ彼が……いいえ、国が大恥をかくと言うものです」
そんな言葉にも、セシルは怒りだすでもなく、ニコニコと眺めていた。
「このような不躾な来訪、今後は決して行う事は無いと誓いましょう」
「いやいや、そのような大層な事では……」
「アナタ!! 残念ながらアナタよりも王子の方が、公爵家の格というものを理解していてくださるようね。 全く……アナタも少しは王子を見習ってくださいませ。 では、謝罪もいただけた所で、今日このような突然の来訪に至った理由をお聞かせいただけるかしら?」
「ぉい!! オマエ……」
「お黙りなさい!! だから、男爵家から婿を迎えるなど……」
「お母様、セシル様の前でお止めください」
「あら、でも、家族になるのなら、お互いの腹の内を隠さない方が、良い関係を築けると思いますのよ。 例え、王子が夫の味方をするとしてもね。 父様も婿入りして来たこの人に甘い方で、母様とよくぶつかっておりましたわ。 だからこそ上手くやっていけたと私は思っておりますのよ」
「やだ、家族だなんて」
エミリアが照れながら、セシルの腕に手を伸ばそうとすれば、ニッコリ微笑みソレを手で遮られた。 ショックと苛立ちが顔に出ていた。
彼女の中では一分一秒、時が進むごとに交わしても無い婚約が、約束したことも無い婚姻が事実となっているのだ。
「大事な話があるのだと、伝えましたよね?」
甘い囁きのような声に、エミリアは頬を染めた。
「はい……そ、そうですわ……儀礼的なものは大切よね」
ヤレヤレと公爵は安堵の息をついた。
「それで、今日はどのような話があって、突然に来訪されたのですかな」
「陛下への報告が後回しになってしまうのですが、今日コチラの御令嬢と町で出会った際に、早々に決着をつけてしまわなければならないと、私は思ったのです」
「奇妙な言い回しですね……。 そのように相手を弄ぶ行為を嫌がる者は多い。 玉座を狙うなら、会話をする相手がどう思うか、そういう外交的なもの、社交的なものをもう少し学んだ方がよいんじゃないかな?」
穏やかな口ぶりで公爵がセシルに告げる。
「それも、そうですね。 では、結論から言わせて頂きます。 私の配下である赤銅の名を関するグループで預かっている、ルンダール公爵家の一族、関係者はその末端に至るまで、今日この場を持ってグループから解任し、伝達を行います。 二度と私と、私に関わる存在に近づかないで下さい」
「「「はっ?」」」」
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