62 / 138
三章 神、邂逅
四話 その服は、は、破廉恥だっ!
しおりを挟む
さて、一通り悔しがった直樹と翔と、同じく高笑いに満足した大輔は、真剣な様子でソファーに座り、三つの幻想具――オムニス・プラエセンス(劣化版も)と闇路の導灯、拓道の扉柄が乗ったローテーブルを囲む。
大輔が“収納庫”を発動して、異空間から青白く輝く拳大の鉱石を五つ取り出し、ローテーブルに置く。
「一週間でずいぶん溜まったな」
「ああ。ティーガンと白桃のお陰だ。……あと、エクスィナもだな」
青白く輝く拳大の鉱石は魔空結晶。空のように青く輝き、空のごとく果てしない魔力を溜める性質を持った結晶鉱石だ。神珠や天聖結晶といった特殊な効果はなく、魔力を溜める、その一点だけに特化した結晶であり、使い勝手がいいのだ。
そんな膨大な魔力を溜める魔空結晶が五つ、全て満タンである。一週間で満タンにしたのだ。
空気中の自然魔力が薄い地球でどうやってそれだけの魔力を一週間で集めたか。
一番大きな理由として挙げられるのは、エクスィナの幻喰みの力だ。
エクスィナの幻喰みはあらゆる存在を喰らう。そして喰らった存在を魔力に変換する事ができる。
実を言えば、エクスィナの幻喰みも混沌の妄執に寄生していた黒の心臓も同じ仕組みだったりする。
それそのものが世界に定められた天然のエネルギー魔力変換装置なのだ。
ただ、黒の心臓は受動的にゆっくり周りのエネルギーを吸収し魔力に変換するのに対し、エクスィナの幻喰みは能動的に膨大なエネルギーを喰らい魔力に変換する事ができる。
しかも、その対象は物体や物質、果てには実体のない存在、例えば影までもが含まれる。この世界に存在するだけでエネルギーを持つという特殊な考えを絶対とみなしているのだ。
そのため、黒の心臓の再現ならば兎も角、エクスィナの幻喰みは大抵の物ならば作れると自負する大輔であっても作れないのだ。
閑話休題。
つまるところ、ティーガンは吸血する事によって強大な血力を得る。だから、直樹と雪の血をティーガンに吸血させ、血力を得て、それをエクスィナの幻喰みで魔力に変換しているのだ。
しかし、それには大きな負担がある。直樹や雪は失った血を作り出す肉体的な負担を。そして吸血する行為そのものを嫌がっているティーガンには精神的負担を。
もちろん、最初はその負担もあってその案を見送ろうとしたのだが、ティーガンの方から提案してきたのだ。
けれど、だからこそ直樹は大輔に尋ねる。
「吸血の方は再現できないのか?」
「……まだだね。吸血鬼の構造自体はある程度分かってきたんだけど、血力自体にどうもプロテクトが掛かってるんだよ。血から血力への変換がまだ」
「確かに。喰らったときのイメージが分かりづらかったし、プロテクトか……」
翔が頷く。
エクスィナの幻喰みには副次効果として、喰らった対象物の情報を読み取る事ができる。そしてその情報を解析するのだが……
「正直、エクスィナの幻喰みよりも大輔の眼の方が解析能力があるからな。僕自身はそういうのに疎いし」
「まぁお前は直感派、いや脳筋だしな」
「そういう直樹は陰湿だよな」
「あ”あ”んっ?」
「やんのかっ?」
直樹と翔がメンチを切り合う。
大輔はそれを止める様子もなく、取り出した魔改造スマホと三つの異世界転移用幻想具を使って何かを作り出していく。
“収納庫”から幾つかの鉱石を取り出し、金茶色に輝かせては変形させていく。両眼に奇怪な模様を浮かべるのはもちろんのこと、丸眼鏡や空中にもそれを投影していく。
「……ほぁ」
幻想的なそれは、ちょうどお茶を飲みに降りてきた詩織が思わず感嘆を漏らすほどだった。
と、翔に「エクスィナが服を着れるように魂魄を調整してやった恩、忘れてないだろうなぁ?」と脅そうとしていた直樹が、詩織を見る。
「そうだ。詩織。写真を撮らせてくれないか?」
詩織はギヌロと直樹を見る。嫌悪感マシマシな目つきだが、別に直樹を嫌っているわけではない。思春期の妹とはそういうものなのだ。
「……なんで」
「いや、今から向こうにメッセージを送るんだがな、ミラやノアはお前の顔を知らないんだ。勝彦義父さんや彩音義母さんの写真は転移した際にスマホに入ってたんだがな、詩織や澪義姉さん、隼人義兄の写真は無くてな。口頭でしか伝えられてないんだ」
「……澪姉や隼人兄のは?」
「澪義姉さんは昨日。隼人義兄は結構前に写真を貰ってる。ほら」
直樹がスマホを取り出して写真を二枚見せる。
「……これでいいの?」
「まぁいいんじゃないか?」
そこには何本もの酒瓶と共に顔を真っ赤にしながらジョジョ立ちする澪と、牛に囲まれて土だらけになった童顔で背の低い隼人が写っていた。
どっちも家族紹介で使う写真ではないと思うのだが、そこらへんが適当な直樹に詩織は溜息を吐く。
スマホを取り出して操作する。ピロリんと直樹のスマホが鳴った。
「……送るならそれにして」
「あ、あぁ。分かった」
直樹以外の家族全員が写っている写真が送られたのだ。
翔が覗き込む。
「なんで写ってないんだ?」
「確か、こっちで半年……俺からすれば七年前くらいだが、春休みだな。まぁつまるところ拗らせたんだ」
「ああ、例の自分なんて……、ってやつだったか。中二病乙」
「うるせぇ」
バツが悪そうにそっぽを向き、大輔の魔改造スマホに写真を送る直樹を見て、詩織は思う。
(……変わった。あんなにふさぎこんで暗かったのに)
嬉しいやら寂しいやら、何とも言えない気持ちを抱き、詩織は顔をブンブンと振る。さっきまでアホをやっていた兄なのだ。どうでもよくはないけど、どうでもいい。
詩織はバタンっとリビングを出る。
それと同時に、
「できた」
大輔はそう呟き、はぁぁぁぁぁ、と脱力する。
「お疲れさん」
「お疲れ」
直樹と翔はすかさず大輔を労う。ものづくりに関しては、ある一定を超えれば労う以外はできないので。
「ああ、うん」
脱力していた大輔は背伸びをした後、姿勢をただしローテーブルの上を見た。
そこには拓道の扉柄とオムニス・プラエセンスを雑に接着させたアンテナと、劣化版オムニス・プラエセンスが嵌った闇路の導灯、魔改造スマホを中心に歯車が折り重なった物体があった。
そしてそれらは全て金属の黒の線で繋がっており、アンテナ~闇路の導灯~スマホといった感じに繋がっていた。
大輔が説明する。
「対象は灯さんのスマホにしたよ。で、問題なのはここからで、送れるのはメールだけ。写真はギリギリ……三枚くらいかな、それで動画は無理。そして文字数は百文字」
「……予定書いて終わりじゃねぇか」
「そうなんだよね。あと一ヵ月くらいあれば安定した送信ができると思うんだけど、今は無理かな」
「まぁないものねだりしても仕方ないし、灯たちには待ってるように伝えたし、僕はそこまで伝える事はないかな?」
「俺も写真を送るだけで大丈夫だ」
「……じゃあ、こっちでの簡単な近況報告と予定を伝えるでいいかな?」
「ああ、もん――」
「それでいい――」
ポチポチと送る文を打っていた大輔に、直樹と翔は頷こうとしたが、
「いや、ミラとノアに愛してると伝えたい。ヘレナには待ってくれ、と」
「僕もだな」
「……それは僕もだね。最後に付け加えるかな」
幾つかの言葉を消して、無理やり甘く優しい言葉を打ち込む。それから三枚の写真も付与して、
「これでいい?」
「ああ、問題ない」
「それで頼む。大輔」
文面を確認し、そして大輔は魔空結晶の一つを手に持ちながら、
「送信っと」
送信した。
そして次の瞬間、
「直樹は詩織ちゃんをっ!」
「分かってる!」
狐や犬、狸、虎、亀、蟹、ネズミに蛇、百足、多種多様な動物の容をした青白い存在たちが直樹たちの周りに溢れ、
「我らに非があることを認めよう。されど――」
一番偉そうに佇む一体の長鳴鳥――鶏が、
「大人しくし給え」
厳かに嘶いた。
Φ
その集団は注目を集めていた。
「ウィオリナ。其方には才能があると思うぞち」
「さ、才能――あぁっ! な、なんでお尻を叩くんですっ!?」
「ティーガンさん。ちょっと貰っていいですか?」
「ゆ、ユキよ。どうして妾の胸を見――ぬぉ!?」
「そうです。そうです。杏様は可愛い系の服も似合うんです。では、次にこっちを着てもらいま――」
「ま、待てっ! その服は、は、破廉恥だっ!」
女三人寄れば姦しいとはいうが、ではその倍になるとどうなのか。
姦姦しいにでもなるのだろうか?
兎にも角にも、修学旅行で必要、服を入れる袋や鞄、旅行用のボトルの小さな化粧品、後は寝巻や下着を買いまわっていたのだが、脱線して普段着の着せ合い合戦に発展してしまった。
「やはり其方はゾチと同じぞち」
「あぅ――何がですっ!?」
スタイル抜群。尻と太ももムチムチのウィオリナをさらに強調させるようなニットワンピース。しかも三分丈どころか一分丈とすら思える程下が短く、その陶器の如く滑らかで真っ白の太ももが見せびらかされている。
そんな服を着せたエクスィナは、仲間仲間と言わんばかりにピッチピチに強調されているお尻を叩く。
ウィオリナが恥ずかしがりながらも、少しだけ高い声を上げる。
傍から見れば、ドエロい恰好をした茶髪赤茶眼美少女をイキリロリガキがおちょっくている感じである。
「なんでこれを薦めたんですかっ! 自慢なんですかっ! 私よりも背が低いのに自慢なんですかっ!?」
「つ、掴むでないっ! 落ち着くのじゃっ。店に迷惑がかかるじゃ――やめっ」
その近くでは、優雅に服を物色していたゴスロリ巨乳吸血鬼のティーガンを襲う雪。その身長にどう考えても似合わない胸を掴み、「体を変形して大きくしたんですかっ。なら私もしてくだいっ!」、と叫ぶ。
錯乱したような雪は、その服をティーガンに進められ、また自分もそれが気に入って試着したのだが、胸囲部分が合わなかったらしい。スカスカしていて、見っともないというかダサさがあった。ダボッとした感じもなく、微妙だった。
つまり、八つ当たりである。
「来るな。着せるなっ!」
「良いではないですか。良いではないですか」
そして冥土は杏専用のコーディネーターとして、様々な毛色の洋服を杏に着させてはべた褒めしていた。
というのも、杏は基本的に服装には無頓着に近く、着ている服はシャツにジーパンばかりだったらしい。可愛いものは好きなのだが、可愛い服を着るのは苦手とか。可愛い服は集めているのに。
なので、新たな魅力を磨くためにもということで、冥土は杏に色々な服を着させていたのだが、次に着させようとしていたのは、「それ何処にあったんだっ」と言いたくなるほどの露出の高い服だった。
つまり下乳が見えるTシャツに、ほぼビキニみたいなホットパンツ。
杏が顔を真っ赤に染めて冥土に怒鳴り散らす。無理やり着せようとしていた冥土は、あまりの杏の抵抗に諦める。
そして少し考える仕草をした後、「プレゼントしますね」と、買い物籠の中にその服を入れていた。
混沌だった。
冥土とティーガンがある程度の認識阻害をしても注目を集めてしまうほど、その美女美少女集団は異様であり、異質すぎた。
けれど、それ以上に試着室の前で騒ぎすぎたのがいけなかったのだろう。
なので、店員さんに苦言を呈され、追い出されてしまった。
当たり前である。
大輔が“収納庫”を発動して、異空間から青白く輝く拳大の鉱石を五つ取り出し、ローテーブルに置く。
「一週間でずいぶん溜まったな」
「ああ。ティーガンと白桃のお陰だ。……あと、エクスィナもだな」
青白く輝く拳大の鉱石は魔空結晶。空のように青く輝き、空のごとく果てしない魔力を溜める性質を持った結晶鉱石だ。神珠や天聖結晶といった特殊な効果はなく、魔力を溜める、その一点だけに特化した結晶であり、使い勝手がいいのだ。
そんな膨大な魔力を溜める魔空結晶が五つ、全て満タンである。一週間で満タンにしたのだ。
空気中の自然魔力が薄い地球でどうやってそれだけの魔力を一週間で集めたか。
一番大きな理由として挙げられるのは、エクスィナの幻喰みの力だ。
エクスィナの幻喰みはあらゆる存在を喰らう。そして喰らった存在を魔力に変換する事ができる。
実を言えば、エクスィナの幻喰みも混沌の妄執に寄生していた黒の心臓も同じ仕組みだったりする。
それそのものが世界に定められた天然のエネルギー魔力変換装置なのだ。
ただ、黒の心臓は受動的にゆっくり周りのエネルギーを吸収し魔力に変換するのに対し、エクスィナの幻喰みは能動的に膨大なエネルギーを喰らい魔力に変換する事ができる。
しかも、その対象は物体や物質、果てには実体のない存在、例えば影までもが含まれる。この世界に存在するだけでエネルギーを持つという特殊な考えを絶対とみなしているのだ。
そのため、黒の心臓の再現ならば兎も角、エクスィナの幻喰みは大抵の物ならば作れると自負する大輔であっても作れないのだ。
閑話休題。
つまるところ、ティーガンは吸血する事によって強大な血力を得る。だから、直樹と雪の血をティーガンに吸血させ、血力を得て、それをエクスィナの幻喰みで魔力に変換しているのだ。
しかし、それには大きな負担がある。直樹や雪は失った血を作り出す肉体的な負担を。そして吸血する行為そのものを嫌がっているティーガンには精神的負担を。
もちろん、最初はその負担もあってその案を見送ろうとしたのだが、ティーガンの方から提案してきたのだ。
けれど、だからこそ直樹は大輔に尋ねる。
「吸血の方は再現できないのか?」
「……まだだね。吸血鬼の構造自体はある程度分かってきたんだけど、血力自体にどうもプロテクトが掛かってるんだよ。血から血力への変換がまだ」
「確かに。喰らったときのイメージが分かりづらかったし、プロテクトか……」
翔が頷く。
エクスィナの幻喰みには副次効果として、喰らった対象物の情報を読み取る事ができる。そしてその情報を解析するのだが……
「正直、エクスィナの幻喰みよりも大輔の眼の方が解析能力があるからな。僕自身はそういうのに疎いし」
「まぁお前は直感派、いや脳筋だしな」
「そういう直樹は陰湿だよな」
「あ”あ”んっ?」
「やんのかっ?」
直樹と翔がメンチを切り合う。
大輔はそれを止める様子もなく、取り出した魔改造スマホと三つの異世界転移用幻想具を使って何かを作り出していく。
“収納庫”から幾つかの鉱石を取り出し、金茶色に輝かせては変形させていく。両眼に奇怪な模様を浮かべるのはもちろんのこと、丸眼鏡や空中にもそれを投影していく。
「……ほぁ」
幻想的なそれは、ちょうどお茶を飲みに降りてきた詩織が思わず感嘆を漏らすほどだった。
と、翔に「エクスィナが服を着れるように魂魄を調整してやった恩、忘れてないだろうなぁ?」と脅そうとしていた直樹が、詩織を見る。
「そうだ。詩織。写真を撮らせてくれないか?」
詩織はギヌロと直樹を見る。嫌悪感マシマシな目つきだが、別に直樹を嫌っているわけではない。思春期の妹とはそういうものなのだ。
「……なんで」
「いや、今から向こうにメッセージを送るんだがな、ミラやノアはお前の顔を知らないんだ。勝彦義父さんや彩音義母さんの写真は転移した際にスマホに入ってたんだがな、詩織や澪義姉さん、隼人義兄の写真は無くてな。口頭でしか伝えられてないんだ」
「……澪姉や隼人兄のは?」
「澪義姉さんは昨日。隼人義兄は結構前に写真を貰ってる。ほら」
直樹がスマホを取り出して写真を二枚見せる。
「……これでいいの?」
「まぁいいんじゃないか?」
そこには何本もの酒瓶と共に顔を真っ赤にしながらジョジョ立ちする澪と、牛に囲まれて土だらけになった童顔で背の低い隼人が写っていた。
どっちも家族紹介で使う写真ではないと思うのだが、そこらへんが適当な直樹に詩織は溜息を吐く。
スマホを取り出して操作する。ピロリんと直樹のスマホが鳴った。
「……送るならそれにして」
「あ、あぁ。分かった」
直樹以外の家族全員が写っている写真が送られたのだ。
翔が覗き込む。
「なんで写ってないんだ?」
「確か、こっちで半年……俺からすれば七年前くらいだが、春休みだな。まぁつまるところ拗らせたんだ」
「ああ、例の自分なんて……、ってやつだったか。中二病乙」
「うるせぇ」
バツが悪そうにそっぽを向き、大輔の魔改造スマホに写真を送る直樹を見て、詩織は思う。
(……変わった。あんなにふさぎこんで暗かったのに)
嬉しいやら寂しいやら、何とも言えない気持ちを抱き、詩織は顔をブンブンと振る。さっきまでアホをやっていた兄なのだ。どうでもよくはないけど、どうでもいい。
詩織はバタンっとリビングを出る。
それと同時に、
「できた」
大輔はそう呟き、はぁぁぁぁぁ、と脱力する。
「お疲れさん」
「お疲れ」
直樹と翔はすかさず大輔を労う。ものづくりに関しては、ある一定を超えれば労う以外はできないので。
「ああ、うん」
脱力していた大輔は背伸びをした後、姿勢をただしローテーブルの上を見た。
そこには拓道の扉柄とオムニス・プラエセンスを雑に接着させたアンテナと、劣化版オムニス・プラエセンスが嵌った闇路の導灯、魔改造スマホを中心に歯車が折り重なった物体があった。
そしてそれらは全て金属の黒の線で繋がっており、アンテナ~闇路の導灯~スマホといった感じに繋がっていた。
大輔が説明する。
「対象は灯さんのスマホにしたよ。で、問題なのはここからで、送れるのはメールだけ。写真はギリギリ……三枚くらいかな、それで動画は無理。そして文字数は百文字」
「……予定書いて終わりじゃねぇか」
「そうなんだよね。あと一ヵ月くらいあれば安定した送信ができると思うんだけど、今は無理かな」
「まぁないものねだりしても仕方ないし、灯たちには待ってるように伝えたし、僕はそこまで伝える事はないかな?」
「俺も写真を送るだけで大丈夫だ」
「……じゃあ、こっちでの簡単な近況報告と予定を伝えるでいいかな?」
「ああ、もん――」
「それでいい――」
ポチポチと送る文を打っていた大輔に、直樹と翔は頷こうとしたが、
「いや、ミラとノアに愛してると伝えたい。ヘレナには待ってくれ、と」
「僕もだな」
「……それは僕もだね。最後に付け加えるかな」
幾つかの言葉を消して、無理やり甘く優しい言葉を打ち込む。それから三枚の写真も付与して、
「これでいい?」
「ああ、問題ない」
「それで頼む。大輔」
文面を確認し、そして大輔は魔空結晶の一つを手に持ちながら、
「送信っと」
送信した。
そして次の瞬間、
「直樹は詩織ちゃんをっ!」
「分かってる!」
狐や犬、狸、虎、亀、蟹、ネズミに蛇、百足、多種多様な動物の容をした青白い存在たちが直樹たちの周りに溢れ、
「我らに非があることを認めよう。されど――」
一番偉そうに佇む一体の長鳴鳥――鶏が、
「大人しくし給え」
厳かに嘶いた。
Φ
その集団は注目を集めていた。
「ウィオリナ。其方には才能があると思うぞち」
「さ、才能――あぁっ! な、なんでお尻を叩くんですっ!?」
「ティーガンさん。ちょっと貰っていいですか?」
「ゆ、ユキよ。どうして妾の胸を見――ぬぉ!?」
「そうです。そうです。杏様は可愛い系の服も似合うんです。では、次にこっちを着てもらいま――」
「ま、待てっ! その服は、は、破廉恥だっ!」
女三人寄れば姦しいとはいうが、ではその倍になるとどうなのか。
姦姦しいにでもなるのだろうか?
兎にも角にも、修学旅行で必要、服を入れる袋や鞄、旅行用のボトルの小さな化粧品、後は寝巻や下着を買いまわっていたのだが、脱線して普段着の着せ合い合戦に発展してしまった。
「やはり其方はゾチと同じぞち」
「あぅ――何がですっ!?」
スタイル抜群。尻と太ももムチムチのウィオリナをさらに強調させるようなニットワンピース。しかも三分丈どころか一分丈とすら思える程下が短く、その陶器の如く滑らかで真っ白の太ももが見せびらかされている。
そんな服を着せたエクスィナは、仲間仲間と言わんばかりにピッチピチに強調されているお尻を叩く。
ウィオリナが恥ずかしがりながらも、少しだけ高い声を上げる。
傍から見れば、ドエロい恰好をした茶髪赤茶眼美少女をイキリロリガキがおちょっくている感じである。
「なんでこれを薦めたんですかっ! 自慢なんですかっ! 私よりも背が低いのに自慢なんですかっ!?」
「つ、掴むでないっ! 落ち着くのじゃっ。店に迷惑がかかるじゃ――やめっ」
その近くでは、優雅に服を物色していたゴスロリ巨乳吸血鬼のティーガンを襲う雪。その身長にどう考えても似合わない胸を掴み、「体を変形して大きくしたんですかっ。なら私もしてくだいっ!」、と叫ぶ。
錯乱したような雪は、その服をティーガンに進められ、また自分もそれが気に入って試着したのだが、胸囲部分が合わなかったらしい。スカスカしていて、見っともないというかダサさがあった。ダボッとした感じもなく、微妙だった。
つまり、八つ当たりである。
「来るな。着せるなっ!」
「良いではないですか。良いではないですか」
そして冥土は杏専用のコーディネーターとして、様々な毛色の洋服を杏に着させてはべた褒めしていた。
というのも、杏は基本的に服装には無頓着に近く、着ている服はシャツにジーパンばかりだったらしい。可愛いものは好きなのだが、可愛い服を着るのは苦手とか。可愛い服は集めているのに。
なので、新たな魅力を磨くためにもということで、冥土は杏に色々な服を着させていたのだが、次に着させようとしていたのは、「それ何処にあったんだっ」と言いたくなるほどの露出の高い服だった。
つまり下乳が見えるTシャツに、ほぼビキニみたいなホットパンツ。
杏が顔を真っ赤に染めて冥土に怒鳴り散らす。無理やり着せようとしていた冥土は、あまりの杏の抵抗に諦める。
そして少し考える仕草をした後、「プレゼントしますね」と、買い物籠の中にその服を入れていた。
混沌だった。
冥土とティーガンがある程度の認識阻害をしても注目を集めてしまうほど、その美女美少女集団は異様であり、異質すぎた。
けれど、それ以上に試着室の前で騒ぎすぎたのがいけなかったのだろう。
なので、店員さんに苦言を呈され、追い出されてしまった。
当たり前である。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
150
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる