戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石

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第143話 ヒルダ・ノーム・ジークムント⑤

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「・・・我が生きていることを知ったら我を確実に殺すために刺客が来るやも知れぬのじゃぞ」

これは先の未来であり得る話。

ヒルダが何かを堪えるように俯きながらルークに問いかける。

「刺客ごとき問題ない。返り討ちにしてやる」

ルークがまたも淡々と答える。

「・・・我の所為でお主達がこの国に居られなくなるかも知れぬのじゃぞ」

敵国の王族と行動を共にしている。

それだけで反発にあう可能性は充分にある。

「俺は天涯孤独だ構わないさ。だが、そうなったらミリーナは困るな」

「あたしだって構わないわ!」

「・・・いやいや、流石に不味いだろう」

ルークがミリーナに向かって呆れ気味で言うが、

「だって、ルークが上手いことそうならないようにしてくれるんでしょう?」

ミリーナが全面的な信頼をぶつけてくる。

「ふっ。もちろんだ」

(やれやれ、ずいぶん信頼されたものだ)

「・・・我と一緒に居ても楽しくないぞ」

「まだ少ししかたってないけどヒルダちゃんといてあたしは楽しいわよ!」

「・・・しゃべり方もじじくさいし」

「別に気にしない」

「・・・体力もないし」

「それはつけてくれ」

「・・・良く食べるし」

「育ち盛りだから普通だろ」

「・・・」

「・・・」

聞くだけ聞いたあと、しばらくヒルダは沈黙する。

「・・・信じてよいのか」

やがてか細い声できいてきた。

「もちろんだ(よ)」

ポタ・・・ポタ・・・

俯いていたヒルダの足元の地面に雫が落ちる。

「・・・ヒルダちゃん」

ミリーナがそっとヒルダに近づき抱きしめる。

「ううぅ」

堪え切れなくなったヒルダはとうとう大きな声を上げてミリーナの胸に飛びつき泣き出した。

その様子を見たルークが微笑ましい光景に笑った後、そっとその場を離れた。





「あ、ルーク。お帰り」

しばらく時間をつぶしてから帰るとミリーナが笑顔で出迎えてくれる。

「ああ。ヒルダは・・・落ち着いたようだな」

ルークはちらりとヒルダを見ながらミリーナに答える。

ヒルダは泣きつかれたのか、ミリーナの膝を枕にして眠っていた。

「ええ。とても疲れていたんでしょうね。無理もないわ」

ミリーナが優しくヒルダの髪を撫でながら答える。

「その・・・すまなかったな。勝手に決めて」

「?ああ、ヒルダちゃんのこと?別にあたしも何とかしたかったからルークがそう言ってくれて良かったわ」

ミリーナは何ともないというようにあっけらかんと答える。

「ありがとう」

「どういたしまして」

ルークがミリーナの言葉に心が温まるのを感じながら礼を言った。

「そういえば、それは?」

ミリーナがルークが手に持っている皮袋について尋ねる。

「ああ。そろそろ夕飯だからな。せっかく川に来たからんで捕ってきた」

ルークが皮袋の中をミリーナに見せながら答える。

「わぁ、大漁ね!」

十数匹はいる魚を見ながらミリーナが喜ぶ。

「そっか、もう結構時間が経っていたのね」

ミリーナが今気づいたかのように太陽を眺めながら呟く。

「うーん。我は・・・そうかあのあと寝てしまったのだな」

そんな時、ヒルダが目を覚ました。

「起きたか」

「・・・恥ずかしいところを見せた」

ヒルダがルークがそばにいることに気づき顔を背けながら答える。

「気にするな。ミリーナ、夕飯の準備・・・と言っても魚を焼くだけだが・・・をしている間にヒルダの身体を洗ってやってくれないか?」

「ええ。もちろんよ。ヒルダちゃん行こっか」

「分かった。よろしく頼む」

ミリーナはルークに二つ返事で了承するとヒルダをともなって歩いていく。

「さて。始めるか」

そう言うと、ルークは魚を木の枝に刺し焼き始めた。
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