『定年後、ゴミ屋敷から海へ』 ~65歳、人生をもう一度借りる~
『定年後、ゴミ屋敷から海へ』
~65歳、人生をもう一度借りる~
目覚ましは鳴らない。
鳴らないのに、六時に目が覚める。
体の奥に染みついた
三十何年分の朝。
スーツはもう要らない。
ネクタイも、会議も、
「お疲れ様でした」も。
俺の時間だ、と
声に出してみる。
思ったより
小さい声だった。
コンビニ弁当の蓋を開けると
湯気が立つ。
昼のビールは
自由の味がした。
だが自由は
甘いだけではない。
流しに置いた容器。
床に落ちた新聞。
脱ぎ捨てた靴下。
一枚、また一枚と
生活が剥がれ落ちていく。
誰にも叱られない。
誰にも呼ばれない。
誰も、待っていない。
静かだ。
静かすぎる。
気づけば部屋は
俺の沈黙を
積み重ねたかたちをしていた。
ゴミ袋がひとつ。
結ばれないままの一日。
俺は
窓を開ける代わりに
パソコンを開く。
「長期滞在 安い 海」
出てきた名前は
どこか軽くて
どこか遠い。
ラパンみはま。
ウサギみたいな名前だな、と
少し笑う。
逃げるのか?
いいや。
借りるんだ。
もう一度、
生活を。
海は
会社のチャイムを鳴らさない。
波は
評価をつけない。
ただ、
寄せては返す。
何度でも。
砂浜に立つと
風が頬を打つ。
潮の匂いが
胸の奥まで入ってくる。
「まだ、生きてるな」
声が
ちゃんと風に混じる。
朝、歩く。
昼、洗濯する。
夜、湯を沸かす。
それだけで
一日が形になる。
ゴミは
その日のうちに
袋に入れる。
袋を結ぶ。
外に出す。
小さなことだ。
だが小さなことが
俺を
もう一度、人間にする。
定年は
終わりではなかった。
それは
昼休みだった。
少し長い
昼休み。
人生を
もう一度借りる。
返すのは
まだ先でいい。
波は
今日も来る。
俺も
今日を迎えに行く。
~65歳、人生をもう一度借りる~
目覚ましは鳴らない。
鳴らないのに、六時に目が覚める。
体の奥に染みついた
三十何年分の朝。
スーツはもう要らない。
ネクタイも、会議も、
「お疲れ様でした」も。
俺の時間だ、と
声に出してみる。
思ったより
小さい声だった。
コンビニ弁当の蓋を開けると
湯気が立つ。
昼のビールは
自由の味がした。
だが自由は
甘いだけではない。
流しに置いた容器。
床に落ちた新聞。
脱ぎ捨てた靴下。
一枚、また一枚と
生活が剥がれ落ちていく。
誰にも叱られない。
誰にも呼ばれない。
誰も、待っていない。
静かだ。
静かすぎる。
気づけば部屋は
俺の沈黙を
積み重ねたかたちをしていた。
ゴミ袋がひとつ。
結ばれないままの一日。
俺は
窓を開ける代わりに
パソコンを開く。
「長期滞在 安い 海」
出てきた名前は
どこか軽くて
どこか遠い。
ラパンみはま。
ウサギみたいな名前だな、と
少し笑う。
逃げるのか?
いいや。
借りるんだ。
もう一度、
生活を。
海は
会社のチャイムを鳴らさない。
波は
評価をつけない。
ただ、
寄せては返す。
何度でも。
砂浜に立つと
風が頬を打つ。
潮の匂いが
胸の奥まで入ってくる。
「まだ、生きてるな」
声が
ちゃんと風に混じる。
朝、歩く。
昼、洗濯する。
夜、湯を沸かす。
それだけで
一日が形になる。
ゴミは
その日のうちに
袋に入れる。
袋を結ぶ。
外に出す。
小さなことだ。
だが小さなことが
俺を
もう一度、人間にする。
定年は
終わりではなかった。
それは
昼休みだった。
少し長い
昼休み。
人生を
もう一度借りる。
返すのは
まだ先でいい。
波は
今日も来る。
俺も
今日を迎えに行く。
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