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お披露目されます2

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本を抱えたミーアが帰ってくると、レオは私とミーアを覆うように遮音結界を張った。私達の声が外に聞こえないだけで、外の声は聞こえてくる。

クッションをいくつか置いて、私とミーアは床に座って本を広げた。

「さあ、何を読みましょうか。なるべく簡単なものを持ってきたのですが…人間の国のような絵本などは魔族は読みませんので…」
「じゃあ魔族の子供は何読んでるの?」
「魔族に子供時代はございません。生まれた時からこの姿なのです。知能も高いまま生まれますので、生まれた瞬間から一人で生きていけますよ。」
「ふわあ…魔族すごい。」
「ふふ、ありがとうございます。こちらの魔導書入門編などはいかがでしょう?魔法のことがわかりやすく説明されていますよ。」
「じゃあそれにする!」

「始めろ。」
「かしこまりました。一人目はキール侯爵です。」

レオ達もお仕事開始らしい。赤い絨毯の両脇には騎士達が並び、警護も威厳も充分だ。私は本を読むのをやめて、謁見がどういうものなのか少し観察することにした。
馬鹿みたいにでかい扉がゆっくりと開き、おじさんと女の人が入室した。親子かな。娘の方はゴージャスでセクシーなドレスを着ている。魔王様に会うんだもん、気合入れてるんだね。
おじさん、キール侯爵は一瞬私を視界に入れたけどすぐにレオに視線を戻した。人間には興味ないという感じだ。娘の方にはめちゃくちゃ睨まれた。多分踏み潰す系の人だ。侯爵は領地の情勢とかいろいろ話してたけど、本題は娘を妃にってとこだな。

「魔王様もそろそろ身を固められては…」
「いらん。」
「そういえば私の娘が魔王様に憧れておりまして…今度是非娘と話でも…」
「いらん。」
「し、しかしですな…」
「いらんと言っている。リナ、こっちに来い。」
「はい。」

呼ばれたのですぐに駆け寄る。レオは私を膝に乗せた。すると娘の方から、素人の私でもわかるくらいの殺気がブワリと広がった。

「ひえ」

私は思わず魔王の首にすがりついた。

「俺のペットに殺気を飛ばすような女と結婚する気はない。下がれ。次から娘は連れてくるな。リナが怯えている。」
「…大変申し訳ありません。それでは失礼いたします。」

娘の方は終始無言だったけど、去り際に私をひと睨みして去って行った。怖い怖い。私を断る理由にしないでくれ。暗殺対象になっちゃう。

彼らが去った後、私はレオの膝から降りてミーアの元に戻った。もう巻き込まれたくないし、関係ないふりしよう。本を読もう、そうしよう。ミーアが読んでくれた本はとても面白くて、私はあっという間に本の世界に引き込まれた。何故ならそれは魔法以前に、とても衝撃的な話だったからだ。


「魔法には火、水、風、土、光、闇、無、の七属性あります。大抵の者は三、四属性に適性を持ち、稀に光を除く六属性全て使いこなす天才もいます。魔王様が最たる例ですね。」
「光を使える人はいないの?」
「魔族は光属性を使えません。」
「え?じゃあ、誰が使うの?」
「人間です。」
「でも人間は魔力がないって…」
「異世界から呼ばれた人間は別なのです。この世界の人間とは違い、異世界人は魔力があります。そして扱えるのは、光属性の魔法のみです。」
「…い、異世界人って、何…?」
「魔力を持たない人間が魔族に対抗するために編み出した召喚術により、この世界ではない何処かから呼び出された人間のことを言います。魔力を持たない人間は己の命を対価に、勇者や聖女などといった存在を召喚したという歴史があります。」
「魔族と人間が争っていた時代ではその異世界人達が戦ってたの?」
「その通りです。確かに光属性の魔法というのは魔族にとって相性の悪い魔法です。しかし魔力を持っていると言っても所詮は人間。彼らも我々の脅威とはなりませんでした。」
「その異世界人達はどうなったの?」
「魔族に剣を向けたのですから大抵のものは殺されました。しかし中には話のわかる人間もおり、そういう者達は特に殺す必要もありませんし、今はこの城で働いていますね。」
「え!?」
「どうかされましたか?」
「い、いや、このお城に私以外に人間がいたんだーって思って…」
「ふふ。彼らは裏方として働いていますからね。リナ様のお食事も、その異世界人の一人が作っているのですよ。」
「どええー!」

私がびっくり仰天していると、レオが声をかけてきた。

「リナ。」
「リナ様、呼ばれておりますよ。」
「…!は、はい。」
「こっちに来い。」
「はい。」

遮音結界から出て、レオのもとに向かう。また殺気の標的にされるんだろうかとビクビクしていたが、今は誰も謁見していないようだった。私は安心してレオの膝に肘を置いて寄りかかった。

「どうしたの?」
「なんの話をしていた。」
「魔法の本読んでもらってた。」
「何を驚いていた。」
「異世界から来た人間がこのお城で働いてるって聞いたから。」
「何を驚くことがある。」
「人間もお城で働けるんだなって…」
「お前も働きたいのか。」
「絶対に働きたくないです。」
「そうだろうな。」

「魔王様、そろそろ次の者を。」
「うむ。」
「戻っていい?」
「ああ。」

また巻き込まれてはたまらないので、ミーアの元に戻り、続きを促す。あまり異世界人にばかりこだわっていると怪しまれそうなので、そろそろ魔法の話題に戻そう。

「えーっと、話がそれちゃったから続き読んで。」
「かしこまりました。魔法を使うには「魔力供給能」と「魔力タンク」が必要となります。魔力供給能とは自身で魔力を作り出す能力であり、その作り上げた魔力を貯蔵するのが魔力タンクです。魔力供給能が低ければ魔法を連発できませんし、魔力タンクの容量が小さければ大きな魔法は使用できません。」

ふむふむ。MP回復量と総MPってとこかな。

「一般的には魔力タンクの大きさが重視されますね。供給スピードが遅くても、ゆっくり貯めていけば膨大な魔力になるのですから。」
「魔力タンクの大きさはどうやったらわかるの?」
「魔力水晶というものがありまして、そこに手をかざして、光の強さで測ります。光が強ければ強いほど、魔力タンクが大きいということになります。魔王様の時は太陽の様に光り輝いていましたね。」
「すごーい。」
「ええ、悪魔族は魔力タンクの大きいものが多い種族ですが、魔王様は飛び抜けていらっしゃいます。」
「悪魔族ってなに?」
「魔王様のように角の生えている種族のことです。」
「ミーアは?」
「私は獣人族です。獣人族は魔法はあまり得意ではありませんね。魔力タンクも小さいです。」
「サムエルは?」
「宰相様は竜族です。悪魔族の次に魔法に秀でています。」
「異世界人の魔力タンクはどれくらいなの?」
「そうですね…獣人族の十分の一程度でしょうか。」
「それじゃあ勝てないね。」
「そうなのです。」




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