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光り物だらけで売れない道化師…しかし、大事にはされている
想像していた光景
しおりを挟む沼地の奥には不気味に育った木々が並ぶ。
沼地という通常の土ではない環境下で育ったためか、どうしても根や木々の一部が歪な形になるらしいが…
森規模ではないとはいえ、夜には絶対来たくないな。
迷子になる自信しかない。
「…確かぁ…ここらへんよぉ」
先導していたマリーナが足を止める。
どうやら、探索もとい死体探しの結果、反応があったのはこの辺りらしい。
周りはさっきよりより沼地になっただけ…
とはいかなかった。
「………こりゃひどいな…」
「…ッ…」
エリナは息を呑み、俺達は予想していた“見たくもない”光景に頭が痛くなる。
なんせ、そこらじゅうに死体があるからだ。
死屍累々は言い過ぎかもしれないが…
これだけの、人間の死体の群れはそうそう見れるもんじゃない。
「…グラムパーティーは壊滅…だな…」
苦々しく言葉にする俺。
グラムのパーティー全員覚えているかと言われたらわからないが…何かと因縁をつけて絡んできた奴らだからこそ、顔を覚えている奴もいる。
…横たわっている死体の中には当然見慣れた顔が多い…
「…生きてる者たちを探そう」
エバンスの指示で俺たちは息がある者を探す。
もちろんそんなに距離を取るつもりはないが、リメルダとエリナには少し離れた位置に移動してもらった。
なぜならば、幼いエリナにこの光景を見せ続けるのは良くないと感じたからだ。
生存者がいればそいつをエリナ達の元に運ぶ。
動けないほど重傷なら…その時は目隠しでもさせるかね…
「……てか、またピエロの目が役に立つとは思わなかったな…」
ピエロの目によって、生命力の循環を観察する。
死した肉体からは生命力が無くなるが、生きてるならまだ生命力が残っているため、何とか生きている対象を見分けることができたからだ。
…正直、ピエロの目にこんな価値があるとは思わなかった…
見えて当然だと考えてたからな…
救護隊とかそんなチームに道化師を1人配置させてもいいんじゃないかとも思える。
これは道化師クラスにとって嬉しい発見だ。
ある意味、新しい道を見出したようなもんだからな…
だが、やはり目の前の事実にその喜びは薄くされ、虚しい気持ちで上書きされていく。
1人…また1人と生きている人間を集めていくうちにようやく“大物”が見つかった。
「…よぉ」
俺は声をかけた。
まだコイツは生きてるからな…
返事くらいはできるかと思ったからだ。
「…ぅ……そのこ…えは…」
やっぱり生きてたか…
だが、かなり弱ってはいるんだな…あのグラムが…
「喋るな…毒がじわじわ効いてんだろ?」
「…っ…」
このパーティーのリーダーたるグラム。
他のメンバーの中にも毒に侵された者達が数人いたが、グラムが1番感染度が高い。
ピエロの目で見ると脇腹や太ももなどいろんな箇所で食われているのが見えた。
…だが、あの子に比べれば屁でもないくらいだが…
…よし、とりあえず生命力の残量は問題なさそうだな…まったく…大した生命力だよ
俺は手を伸ばし、肩を貸した。
普段こんなことをしようもんなら、雑魚道化師が何のつもりだとか言われそうだが…どうやら言い返すほどの力も残ってないらしい。
「しかし、随分とこっぴどくやられたもんだなぁ…何年ぶりなんだろうな、お前さんがそんな状態になるなんてよ」
「……」
「…まったく……中規模とはいえ、それなり名が売れたパーティーリーダーが無茶したもんだな…よっと」
「…どうし…て…きやがっ」
擦れた声…
いつものゲハゲハ笑うグラムからは予想できないレベルの弱りようだな…
「第一声がそれかよ……まぁあれだ。色々重なってな……結論を言えば、お前らんとこの新人が助けてくれってギルドまで帰ってきたんだ」
「…ッ!!…ぐッ…クーナッ…!!クーナは無事かッ!!?」
「うぉっ…!?おッおいっ、おちつけって!?」
突然活力を取り戻したかのように叫ぶグラム。
…そうか…あの子はクーナと言うのか…
あの虫の息状態からここまで高ぶるなんて…よほど気にしていたんだな。
「…今ギルドで保護されて看病中だ。重傷だが…命はある」
「…そうか…」
嬉しそうに涙目になりながら笑みを浮かべるグラム。
大事なメンバー…しかも自慢の新人が生きていたことに安堵したのだろう…
だから伝えるのに戸惑った。
だから言葉を濁す…いや、一片の事実しか伝えなかった。
本来ならば、伝えるべきなのかもしれない。
命の代償に片腕を失ったことについて…
「……なぁグラム……」
「…な…んだ?」
いつもなら鬱陶しそうに最弱野郎って言うのに…
そんな余裕もない…相手にか…
「…いや、何でもない」
…話せるわけがない。
いずれわかる真実でも、今じゃない。
今伝えたら最悪の場合、グラムの生命力を弱めちまう結果になるかもしれない…
…少なくともエリナの治療を受けてからだ。
…卑怯だな…俺は…
自分自身がどれだけ情けなく、臆病なのか嫌になりながら、グラムを引きずってみんなの元に戻った。
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