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第一章:ラファル・ウェントゥス
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足音のする方に視線を向ける。
部屋の大きな扉は開けっぱなしで、廊下の奥まで見える。そこに人影がちらついたかと思うとすぐに姿を現した。
「…ぅあ」
思わず変な声が漏れる。まるでどっかのゲームから飛び出してきたような騎士の青年。ただ私のプレイするジャンルではあまり見ないほど、綺麗な顔立ちをしていた。
耳までの紺碧色の髪。窓から入り込む陽射しを受けて肌が輝いて見える。加えて造りの深さ。目鼻立ちがしっかりしている。
その彼が私を見るなり、大きく目を見張った。反射的に私もビクッとする。
「……」
思わず動きを止める。互いに固まって数秒、とにかく何か話さないと、となんとか声を絞り出す。
「あの……」
けど直後、相手の方が弾かれたように動き出して、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「申し訳ありません! まさかこちらにいらしたとは存ぜぬ、失礼致しました」
言いながら跪いて頭を下げる。再び顔を上げたタイミングで澄んだ空色の瞳に見つめられる。
紺のマントがはためいて、肩から下げられた剣帯のようなベルトが見える。きっちり締められた首元や、フロントラインに入る刺繍。他の部分もずいぶん細かい装飾がされているから高位の軍服みたい。それなりの地位の人なのかな。
おまけにこの反応……私のことを知っているのかも。もしかしたらこの人が召喚した人だったりして。でもこのキャラクターには正直心当たりがない。こんな始まり方をするゲームも覚えがない。
とりあえず名前を聞けば思い出すかも、と訊く。
「ちなみに貴方はどちら様でしょう?」
つい首をかしげたら彼は一瞬きょとんとしながらも、すぐその空色の瞳を細めて柔らかく微笑んだ。
「─っ!」
モデルさんとかアイドル並の笑顔で息を飲む。知らずに頬が熱くなる。訳もなく居たたまれなくなる。
そんな私に気づくことなく彼は、そのまま恭しく胸元に手を添えて口を開く。
「私は、この国の騎士団長を務めておりますラファル・ウェントゥスと申します。ラファルとお呼びください」
「ラファル……?」
繰り返すと彼は小さく頷く。
名前を聞いて疑問が浮かぶ。どんなに記憶を辿ってもこのキャラのことが思い出せない。こんなにキャラ映えしててモブなわけない。
もしここが『最期の薊』の世界だと仮定して、あのゲームはサブシナリオこそ多いものの、ストーリーとしては一本道だった。
しかも私は大方コンプして今はラスボス手前の、レベル上げ兼武器強化素材の収集途中だったわけで。人物図鑑は全てそろえ終えていた。けど、彼の名前は見たことがない。
──嫌な予感がする。
実はここはゲームの中なんかじゃないとか。そもそも言葉が通じてる時点でおかしい。つまり私はどこかに不法侵入した可能性もあるってこと。しかも相手はさっき騎士団長なんて言っていた。騎士って言ったらやっぱり王制のある国なのかも。大使館とか。
しばらくムムムっと思案していると、ラファルが首を傾げた。
「漆黒の乙姫様、如何なさいました?」
「…………」
聞こえた言葉に思考が停止する。数回瞬きし問い返す。
「今なんて言いました?」
「あ、いえ、御気分が優れないのかと」
「いやいや、そうじゃなくて。私のことなんて呼びました?」
「漆黒の乙姫様と」
「ソティ……」
「その黒髪、黒い瞳はまさしく彼の者と」
「ぬぁ!?」
ハッと両手で自身の髪を掴む。そのあとベタベタ顔を触った。鏡がないから気づかなかったけど、私の姿は全く変わってなかったらしい。それはまあ、改めて安堵したけど。変な名前で呼ばれたし。
けどね、このボサボサ頭もよれよれパジャマも、つまりはそのままってことで。一気に恥ずかしくなる。
そんな私を見越してか、ラファルがおもむろに立ち上がる。無意識に目で追う。彼は自身の肩章の辺りに手を伸ばした。
「とにかく、こちらでは身体を冷やしてしまいます。部屋を用意させますので場所を変えましょう」
言うや否や外したマントをバサッと開いて、私の後ろからくるむようかけて流れるように体を持ち上げられる。
「わっ!?」
気付いたら横抱きにされていて言葉を失う。あっという間の出来事にあわあわすることしかできない。その間にもう彼は颯爽と歩き出した。
人一人抱えているなんて思わせないほど軽やかに進んでいく。
同時にまた響き始める足音。わずかに上下する心地よい揺れ、反して私は内心激しく動揺していた。
結局この人は誰なんだろうとか、このままどこに行くんだろう、とか。詰まるところソティラスってなんなのか、とか。
たしかそのフレーズだけは、どこかで聞いた気がする。だけどさっぱり思い出せない。
最後にはモヤモヤした気持ちだけ残って気分が悪い。ついでに言えばこの状況もマズかったりする。
今まで交際経験はないし、もちろんお姫様抱っこなんて初めて。さっきから胸がうるさいくらいドキドキしてる。腕がマントに包まれてて手を出せないのがせめてもの慰めだと思う。荷物に徹することが出来るから。
「……──」
赤面しきったままの顔を隠すように、俯きギュッと目を瞑る。悪あがきみたいに彼はゲームのキャラクターだ、と繰り返す。けれど早鐘を打つ胸の鼓動はまったく治まるそぶりがない。
いつまでもこのままじゃ身が持たない。少しでも耐性をつけようと恐る恐るラファルの顔を見上げる。
艶やかな紺碧の髪が歩くたびにさらさらと揺れている。こうして見るとやっぱり綺麗か顔立ちをしている。日差しに照らされるとまるでと思った瞬間、私は声を上げていた。
「あっ」
「はい?」
咄嗟に口を閉じたものの時すでに遅し。すぐさまラファルが反応してしまう。急いでひきつった笑いで誤魔化したら何かを察して彼も一度笑みを浮かべて、また歩き始めた。
ラファルのこの横顔、私は最近幾度となく見ていた。動画の中で。好きなアニメのまとめで間に流れる広告だった。
数日後にリリースされる予定の乙女ゲーム。
タイトルは確か、
『舞い降りて漆黒の乙姫』
そんな名前だった。
部屋の大きな扉は開けっぱなしで、廊下の奥まで見える。そこに人影がちらついたかと思うとすぐに姿を現した。
「…ぅあ」
思わず変な声が漏れる。まるでどっかのゲームから飛び出してきたような騎士の青年。ただ私のプレイするジャンルではあまり見ないほど、綺麗な顔立ちをしていた。
耳までの紺碧色の髪。窓から入り込む陽射しを受けて肌が輝いて見える。加えて造りの深さ。目鼻立ちがしっかりしている。
その彼が私を見るなり、大きく目を見張った。反射的に私もビクッとする。
「……」
思わず動きを止める。互いに固まって数秒、とにかく何か話さないと、となんとか声を絞り出す。
「あの……」
けど直後、相手の方が弾かれたように動き出して、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「申し訳ありません! まさかこちらにいらしたとは存ぜぬ、失礼致しました」
言いながら跪いて頭を下げる。再び顔を上げたタイミングで澄んだ空色の瞳に見つめられる。
紺のマントがはためいて、肩から下げられた剣帯のようなベルトが見える。きっちり締められた首元や、フロントラインに入る刺繍。他の部分もずいぶん細かい装飾がされているから高位の軍服みたい。それなりの地位の人なのかな。
おまけにこの反応……私のことを知っているのかも。もしかしたらこの人が召喚した人だったりして。でもこのキャラクターには正直心当たりがない。こんな始まり方をするゲームも覚えがない。
とりあえず名前を聞けば思い出すかも、と訊く。
「ちなみに貴方はどちら様でしょう?」
つい首をかしげたら彼は一瞬きょとんとしながらも、すぐその空色の瞳を細めて柔らかく微笑んだ。
「─っ!」
モデルさんとかアイドル並の笑顔で息を飲む。知らずに頬が熱くなる。訳もなく居たたまれなくなる。
そんな私に気づくことなく彼は、そのまま恭しく胸元に手を添えて口を開く。
「私は、この国の騎士団長を務めておりますラファル・ウェントゥスと申します。ラファルとお呼びください」
「ラファル……?」
繰り返すと彼は小さく頷く。
名前を聞いて疑問が浮かぶ。どんなに記憶を辿ってもこのキャラのことが思い出せない。こんなにキャラ映えしててモブなわけない。
もしここが『最期の薊』の世界だと仮定して、あのゲームはサブシナリオこそ多いものの、ストーリーとしては一本道だった。
しかも私は大方コンプして今はラスボス手前の、レベル上げ兼武器強化素材の収集途中だったわけで。人物図鑑は全てそろえ終えていた。けど、彼の名前は見たことがない。
──嫌な予感がする。
実はここはゲームの中なんかじゃないとか。そもそも言葉が通じてる時点でおかしい。つまり私はどこかに不法侵入した可能性もあるってこと。しかも相手はさっき騎士団長なんて言っていた。騎士って言ったらやっぱり王制のある国なのかも。大使館とか。
しばらくムムムっと思案していると、ラファルが首を傾げた。
「漆黒の乙姫様、如何なさいました?」
「…………」
聞こえた言葉に思考が停止する。数回瞬きし問い返す。
「今なんて言いました?」
「あ、いえ、御気分が優れないのかと」
「いやいや、そうじゃなくて。私のことなんて呼びました?」
「漆黒の乙姫様と」
「ソティ……」
「その黒髪、黒い瞳はまさしく彼の者と」
「ぬぁ!?」
ハッと両手で自身の髪を掴む。そのあとベタベタ顔を触った。鏡がないから気づかなかったけど、私の姿は全く変わってなかったらしい。それはまあ、改めて安堵したけど。変な名前で呼ばれたし。
けどね、このボサボサ頭もよれよれパジャマも、つまりはそのままってことで。一気に恥ずかしくなる。
そんな私を見越してか、ラファルがおもむろに立ち上がる。無意識に目で追う。彼は自身の肩章の辺りに手を伸ばした。
「とにかく、こちらでは身体を冷やしてしまいます。部屋を用意させますので場所を変えましょう」
言うや否や外したマントをバサッと開いて、私の後ろからくるむようかけて流れるように体を持ち上げられる。
「わっ!?」
気付いたら横抱きにされていて言葉を失う。あっという間の出来事にあわあわすることしかできない。その間にもう彼は颯爽と歩き出した。
人一人抱えているなんて思わせないほど軽やかに進んでいく。
同時にまた響き始める足音。わずかに上下する心地よい揺れ、反して私は内心激しく動揺していた。
結局この人は誰なんだろうとか、このままどこに行くんだろう、とか。詰まるところソティラスってなんなのか、とか。
たしかそのフレーズだけは、どこかで聞いた気がする。だけどさっぱり思い出せない。
最後にはモヤモヤした気持ちだけ残って気分が悪い。ついでに言えばこの状況もマズかったりする。
今まで交際経験はないし、もちろんお姫様抱っこなんて初めて。さっきから胸がうるさいくらいドキドキしてる。腕がマントに包まれてて手を出せないのがせめてもの慰めだと思う。荷物に徹することが出来るから。
「……──」
赤面しきったままの顔を隠すように、俯きギュッと目を瞑る。悪あがきみたいに彼はゲームのキャラクターだ、と繰り返す。けれど早鐘を打つ胸の鼓動はまったく治まるそぶりがない。
いつまでもこのままじゃ身が持たない。少しでも耐性をつけようと恐る恐るラファルの顔を見上げる。
艶やかな紺碧の髪が歩くたびにさらさらと揺れている。こうして見るとやっぱり綺麗か顔立ちをしている。日差しに照らされるとまるでと思った瞬間、私は声を上げていた。
「あっ」
「はい?」
咄嗟に口を閉じたものの時すでに遅し。すぐさまラファルが反応してしまう。急いでひきつった笑いで誤魔化したら何かを察して彼も一度笑みを浮かべて、また歩き始めた。
ラファルのこの横顔、私は最近幾度となく見ていた。動画の中で。好きなアニメのまとめで間に流れる広告だった。
数日後にリリースされる予定の乙女ゲーム。
タイトルは確か、
『舞い降りて漆黒の乙姫』
そんな名前だった。
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