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第二章:グラッド・ディーガスト
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「…これは……思っていた以上に……」
呟くような微かな声が聞こえる。まどろむような、ふわふわした感じがして視線だけ上げる。目が合うと、彼は何かを堪えるように、眉間に皺を寄せた。
「その顔は止めてください。ボクだって限界に近いんですから」
「限、界……?」
「っ!」
言葉を詰まらせて、ランリスは思い切り顔を背ける。けど、今なら声が届きそうな気がして、先程まで考えていた問いを投げかける。
「これが、私の力……?」
気づいた彼が、視線を戻し見つめる。少しして、フッと笑みを浮かべた。
「そうですよ」
その肯定とともに続ける。
「これが、貴女の……漆黒の乙姫の力を示す反動。副産物ともいえるものなんです。まさか本当にお持ちとは思いませんでした。貴女は王族以外に、その心を触れさせればその者を魅了する。この力一つでも十分危ういもの。その効果を知っていたボクでさえ、抗うことが出来ないのだから」
頭が上手く働かなくて、オウム返しのように同じ言葉を繰り返す。
「抗うことが出来ない?」
「ええ。今はもう、一つのことしか考えられないんです」
一瞬の沈黙の後、再び顔を寄せてくる。思わず、ぎゅっと目を瞑ると彼は、耳許に唇を寄せた。
「貴女を手に入れたい、と」
間近で聞こえた低い声。ランリスは、軽く耳を舐め、その耳たぶに甘噛みをする。瞬間、全身に甘い痺れが奔った。
「…ぁ…っ!」
声が漏れそうになり、思わず目を瞑り、慌てて口を片手で押さえた。すると、クスリと笑う小さな声が耳に届く。恐る恐る目を開けると、ランリスが柔らかく瞳を細めた。
彼は、魅了という能力のせいで、こういう事態も有り得ると教えてくれた。それは理解できたと思う。
だからこそ、もう大丈夫だと訴える。
「ランリス…もういいよ。わかったから、お願い。手を離して……」
でも、私の言葉は届かない。フフッと声を出して笑うランリスが、繋いだ手をさらにぎゅっと握り締めてきた。
「それは出来ません。先程も言いましたが、ボクは貴女が欲しい。もう、止められないんです」
「ランリス!?」
呼ぶ声も虚しく、彼には届かない。ランリスが肩口に顔を埋め、舌を首筋に伝わせる。それに、ぞわぞわと身体が反応してしまった。必死に口を押えるものの、昂る感情に声が溢れそうになる。
かろうじて残る力を振り絞り、彼の体を押しのける。
「……ま、待ってランリス! …お願い、やめて!」
けど伸ばした手を掴まれて、すぐに押し戻される。そのまま両手を頭上で、まとめ上げられてしまった。
「ランリス…!」
彼は今までの雰囲気を変えて、片手で髪をかきあげながら、妖艶に笑みを浮かべる。
「そのくらいじゃ、ボクを止められませんよ?」
頭を傾けると、薄翠の髪がさらりと揺れる。どうしたら止められるのだろう、と一生懸命頭を巡らす。気が逸れた一瞬、ランリスが私の腕の方へ顔を寄せた。無防備に晒したままの二の腕。その内側を舐めあげられ、声がわずかに漏れてしまった。
「…んぁ……ん!」
自身の声に恥ずかしさを覚えて、必死で抑えていると、彼は不意に首元へと手を伸ばしてくる。
「そういえば、着替えの途中でしたね。どうせ脱ぐなら、ボクが脱がしても構わないでしょう?」
「!」
それはダメだと大きく首を左右に振るものの、ランリスの手がリボンを引いていく。
ホルターネックのドレスなのに、そのリボンをほどかれたら更に肌を露出させることになってしまう。涙目の私の反応を楽しむかのように、彼はゆっくり手を動かした。
懇願するように声を出す。
「ランリス! もうやめよう?! …っ!」
けど、その言葉もキスで遮られる。そのまま、間を置かずにスルリとほどける気配がして、私の心にも諦めが芽生えてしまった。
……私に、彼は止められない。
知らずに溢れる涙を、彼が舐めとっていく。握っていたリボンを離して、肩口に触れる。優しく撫でるように。そしてランリスはドレスに手をかけた。
けどその寸前、抑えのきいた声が室内に響く。
「そこまでにしておけ、ランリス」
弾かれたように、名を呼ばれた彼が体を起こす。視線をゆっくり辿ると、グラッドが部屋に入ってくるところだった。
呟くような微かな声が聞こえる。まどろむような、ふわふわした感じがして視線だけ上げる。目が合うと、彼は何かを堪えるように、眉間に皺を寄せた。
「その顔は止めてください。ボクだって限界に近いんですから」
「限、界……?」
「っ!」
言葉を詰まらせて、ランリスは思い切り顔を背ける。けど、今なら声が届きそうな気がして、先程まで考えていた問いを投げかける。
「これが、私の力……?」
気づいた彼が、視線を戻し見つめる。少しして、フッと笑みを浮かべた。
「そうですよ」
その肯定とともに続ける。
「これが、貴女の……漆黒の乙姫の力を示す反動。副産物ともいえるものなんです。まさか本当にお持ちとは思いませんでした。貴女は王族以外に、その心を触れさせればその者を魅了する。この力一つでも十分危ういもの。その効果を知っていたボクでさえ、抗うことが出来ないのだから」
頭が上手く働かなくて、オウム返しのように同じ言葉を繰り返す。
「抗うことが出来ない?」
「ええ。今はもう、一つのことしか考えられないんです」
一瞬の沈黙の後、再び顔を寄せてくる。思わず、ぎゅっと目を瞑ると彼は、耳許に唇を寄せた。
「貴女を手に入れたい、と」
間近で聞こえた低い声。ランリスは、軽く耳を舐め、その耳たぶに甘噛みをする。瞬間、全身に甘い痺れが奔った。
「…ぁ…っ!」
声が漏れそうになり、思わず目を瞑り、慌てて口を片手で押さえた。すると、クスリと笑う小さな声が耳に届く。恐る恐る目を開けると、ランリスが柔らかく瞳を細めた。
彼は、魅了という能力のせいで、こういう事態も有り得ると教えてくれた。それは理解できたと思う。
だからこそ、もう大丈夫だと訴える。
「ランリス…もういいよ。わかったから、お願い。手を離して……」
でも、私の言葉は届かない。フフッと声を出して笑うランリスが、繋いだ手をさらにぎゅっと握り締めてきた。
「それは出来ません。先程も言いましたが、ボクは貴女が欲しい。もう、止められないんです」
「ランリス!?」
呼ぶ声も虚しく、彼には届かない。ランリスが肩口に顔を埋め、舌を首筋に伝わせる。それに、ぞわぞわと身体が反応してしまった。必死に口を押えるものの、昂る感情に声が溢れそうになる。
かろうじて残る力を振り絞り、彼の体を押しのける。
「……ま、待ってランリス! …お願い、やめて!」
けど伸ばした手を掴まれて、すぐに押し戻される。そのまま両手を頭上で、まとめ上げられてしまった。
「ランリス…!」
彼は今までの雰囲気を変えて、片手で髪をかきあげながら、妖艶に笑みを浮かべる。
「そのくらいじゃ、ボクを止められませんよ?」
頭を傾けると、薄翠の髪がさらりと揺れる。どうしたら止められるのだろう、と一生懸命頭を巡らす。気が逸れた一瞬、ランリスが私の腕の方へ顔を寄せた。無防備に晒したままの二の腕。その内側を舐めあげられ、声がわずかに漏れてしまった。
「…んぁ……ん!」
自身の声に恥ずかしさを覚えて、必死で抑えていると、彼は不意に首元へと手を伸ばしてくる。
「そういえば、着替えの途中でしたね。どうせ脱ぐなら、ボクが脱がしても構わないでしょう?」
「!」
それはダメだと大きく首を左右に振るものの、ランリスの手がリボンを引いていく。
ホルターネックのドレスなのに、そのリボンをほどかれたら更に肌を露出させることになってしまう。涙目の私の反応を楽しむかのように、彼はゆっくり手を動かした。
懇願するように声を出す。
「ランリス! もうやめよう?! …っ!」
けど、その言葉もキスで遮られる。そのまま、間を置かずにスルリとほどける気配がして、私の心にも諦めが芽生えてしまった。
……私に、彼は止められない。
知らずに溢れる涙を、彼が舐めとっていく。握っていたリボンを離して、肩口に触れる。優しく撫でるように。そしてランリスはドレスに手をかけた。
けどその寸前、抑えのきいた声が室内に響く。
「そこまでにしておけ、ランリス」
弾かれたように、名を呼ばれた彼が体を起こす。視線をゆっくり辿ると、グラッドが部屋に入ってくるところだった。
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