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第四幕*伸ばした手に、触れた光

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 先ほどまでの痛みは一瞬でどこかに消え去った。熱く感じるのは変わらない。頭が痺れるほどの刺激は今も感じ続けている。
 だが、それは痛みではなかった。
 怖いと感じていたことすらも、すぐに忘れてしまうほどの―――淫靡な刺激。それに置き換わっていた。

「ん、ぁ゛あ、……ひ、ぐ……ぁ゛……あぁ……」

 涎をだらだらとこぼしながら、エランはよがり鳴いた。
 あり得ない場所を侵入されているのに、硬く張り詰めた陰茎は先端からとぷりと透明の雫をこぼす。
 明らかに体が快楽に歓喜している反応だった。
 乳首から侵入され犯されることに悦びを感じるなんて、信じたくはなかった。だが、エランが信じまいと、送り込まれる刺激が快楽であることに変わりはない。
 
「ひ、……、ぅ……ッ、ぁ゛、ぁあッ」

 胸の中が熱い。ずるずると這いまわられているのがわかる。どこまで入られているのか、自分の内側で触手が蠢いているのがわかる。
 じくじくとした疼きに答えるように刺激を与えられる。
 その度にじんわりと胸全体が熱を持ち、乳首が張り詰め硬くなっていくのが感覚でわかる。それは陰茎の反応に似ていた。
 どくどくと乳首が脈打っている。そこから何かが飛び出しそうな感覚がする。

 ―――いやだ。それだけは。

 そんなエランの意思など関係なく、ただ高められ、押し上げられる。
 ゆるゆるとした刺激だけを与え続けられていた陰茎のほうも限界だった。でもそれよりもエランの頭を支配しているのはそちらではない。
 触手によって変化させられ、ありえない反応をしている胸の方だ。

「ぁ、あ…………出る、……なん、か……でちゃう、も……や、ぁ……ッ」

 エランのその言葉に、ずっと胸の先端を覆っていた触手が離れた。
 胸を侵入おかしていた触手も一気にずるんと引き抜かれる。もう限界だった場所を一際強く刺激されれば、堪えることなんてできるはずもなかった。
 全身の毛穴がぶわりと開くような感覚と共に、熱い何かがエランの胸の中から先端に向かって移動する。
 ぐん、と胸を突き出すように背中を反らせ、エランは悲鳴を上げた。

「あ……ぁ゛、ッ、……ぁ゛ああああああ!!」

 ぷしゅ、とエランの乳首から液体が噴き出した。
 量はさほどではなかったが、びゅ、びゅ、と噴き出すたびに頭の芯が蕩けてしまいそうなほどの快楽がエランを襲う。
 同時に陰茎も再び達していた。一度目と同じように、勢いのない白濁をだらだらとこぼしている。
 二か所一緒に達したエランは放心状態だった。表情をだらしなく緩ませて「あ、あ……」と意味のない言葉を繰り返す。
 触手がエランのこぼした体液に集まってきた。胸や腹に飛び散ったそれを舐めとるように動く。
 ぐねりぐねりと体をくねらせるように蠢き、敏感になったエランの肌を刺激する。エランはその刺激にただびくびくと、体を震わせるしかない。

「ン……っ、く……ぁ…………?」

 快楽に喘いでいると、エランの視界の端で何かが光った。身悶えながらも、エランはその光の方に視線を向ける。
 光っているのは、触手の根元にいるあの金色の塊だった。淡い光があの塊を包んでいる。
 数瞬後、エランを襲っていた全て触手が消えた。
 いきなり放り出されたエランは、何が起こったのか理解ができない。驚きの表情のまま、光る金色の塊を見つめる。

 光が消えると、金色の塊は形を変えていた。
 その姿はまるで一本の太くて長い触手のようだ。頭のない蛇のようにも見えた。
 触手はぐねりと体を器用に動かし前進する。向かう先はこちらではなく、ルチアの方だった。
 ルチアの足先に近づいたかと思えば、その脚へとよじ登る。その上をずるずると這うように移動しはじめた。

 ―――……なに、を。

 エランは頭をどうにか動かし、ルチアの方を見た。
 触手は真っ直ぐと何かを目指すように、ルチアの体を這い上がっていく。
 腹を通り過ぎ、胸の上に辿り着いたところで、にょろりとその体を半分持ち上げた。蛇が体を起こす動作と同じ動きだ。
 起こした体の胴体部分から二本細い触手を生やすと、それをルチアの顔に向かって伸ばした。

「やめ、……ろ」

 何をしようとしているのかわからない。だが、それがいいことのようには到底思えなかった。
 エランは声を振り絞ったが、あれを生んだことで消耗し、更には無理やり高められ、精を搾り取られたその体では触手の動きを制止することは叶わない。
 必死で腕を伸ばそうとして、体はもどかしいほどに動かなかった。
 触手はその細い二本を腕のように器用に使い、ルチアの口を開く。そして本体である触手の頭を、ルチアの口に無理やり捻じ込んだ。
 強引に押し入る姿はまるで、ルチアの体を乗っ取ろうとしているようにも見える。

「だめ、だ……っ、やめろ…………ッ」

 エランの制止の声は届かない。
 触手はどんどんその体をルチアの体に侵入させていく。
 ルチアの喉を触手が通っていくのが目で見てわかった。外からもぼこぼこと皮膚が蠢く様子が見えるからだ。
 それでもルチアは動かない。ピクリともせず、触手に侵入されるがままだ。

 あっという間に、触手は全てルチアの中へと消えていった。体の奥まで入っていったのか、喉のあたりももう動いていない。
 動くものがエラン以外いなくなり、部屋にしんとした静寂が訪れる。
 エランは茫然とルチアの姿を見つめていた。
 これから何かが起こるのか―――それがすぐに起こる変化なのかはわからなかったが、視線は釘付けになったままだ。

「…………ルチア」

 無意識にその名を呼んでいた。
 その声に反応したかのように、だらりとベッドに投げ出されていたルチアの手が……その指先がぴくりと動く。
 エランは驚きに目を見開いた。
 動いたのは指先だけではなかった。頭が小さく動き、瞼がひくりと震える。


 あの日に閉ざされたまま、ずっと開くことのなかったルチアの瞼が―――ゆっくりと開いた。

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