月が導く異世界道中

あずみ 圭

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終章 月と亜空落着編

そう言えば彼は商人である

 女神の神託。
 僕はほぼ縁が無い。
 こっちにきて……拉致紛いの時に言葉を交わしたくらいか。
 響先輩は稀に聞く事があるという。
 だがここでまさかの、衝撃的な事実だ。
 智樹は女神とかなり頻繁に連絡をしている。
 智樹自身はたまに、と言っていたが僕や先輩と比べればその回数は雲泥の差があった。
 
「ん、女神の神託? 大きな動きを求めるようなのはそんなにないな。三か月に一回くらいか」

 いや、多いだろうと。
 酒席を思っていた時間以上に長引かせつつも智樹に食い下がって女神の神託や関わりについて頑張って聞きだした。

「でもそれ以外のどうでもいいような世間話なら一月に一回か? そういや女神からお前や響の事はあんま聞かねえな。動きを揃える時とかに話に出るくらいだ」

 もうそれ神託じゃなくてメールとかSNSじゃね?
 なんて思うほどだ。
 神に最も近い勇者はこいつだったか。
 疑念を持っているとはいえ……先輩よりも智樹を気に入る理由なんてどこにあるんだ?
 どう考えても先輩一択だろうに。

「最初の頃は日本にいた頃の最新ファッションとか、化繊の新しいのの質感やら肌の触りやら、まあ女神とはいえオシャレに興味あるんだなってな感じだった。それからまあこっちでも使えそうな素材はどうだとか、帝国は寒い国だからまずはダウンジャケットからいこうとか、服とか流行の話が好きなヤツだよ」

 ……。
 だからお前の世界はこんなにしっちゃかめっちゃかになるんだよ。
 美容とヒューマン関係だけ異様に発展して、さ。
 神が実在するのに平和とは程遠いし。

「僕は生憎縁が無いんだけど……随分フランクな女神だな。大分印象が変わったよ、意外と面倒見が良いとは驚いた」

 最悪から横滑りする形だけどな。
 思わず酔えもしない酒をぐいとあおる。

「お節介ともいうけどな。女神は女神で神様のルールに縛られて大変らしくて、愚痴も聞かされるよ……堪ったもんじゃねえ」

「……なあ、智樹。聞いていいか」

「?」

「女神女神ってさ、お前、あいつの名前聞いてないの?」

 結局僕には名乗らなかった。
 先輩も知らなかった。
 これだけ親しくしてて智樹も聞いてないなら、名前を隠す事に意味がある、のか?

「そういや、聞いてないな。でも女神ってあいつ一人だし名前なんて必要か?」

「え?」

 ……。
 え?
 
「だって俺たちみたいに溢れるくらいいる人間じゃないだろ。神で、この世界には女神一人だけ。神殿も女神としか言ってないしその名を呼ぶのは憚られるとか不敬だとかで明らかにしてない。女神って唯一不変の存在だから識別もいらんくて名前が必要ないか……」

「か? なんだ?」

 ひとまず続き聞こう。
 親しく付き合って愚痴聞く仲で名前なんてどうでもいい、ってなるか?
 いやそれがリア充的な思考なのか、その場であだ名をつけ合ってうぇーいみたいな?
 一切関わりも興味もなかった世界だけに全くわからん。

「自分でも投げ捨てたいキラキラネームだから教えたくないとか。神様の名前って結構変なの多いだろ? なんたらのなんたら神とか、アマテランとかチュパカブラとかアブホースとか」

 最初のは多分日本の神社で祀られてる神道の神様、だろうな。
 アマテランはもしかしてアマテラス様、だろうか。モ〇ルスーツとかにいそうな語感で間違えるな。
 次のはUMAだろ。
 最後のは神様は神様でもラブクラフトさんの、いやラヴクラフトさんの神話に出てくる特殊枠。
 しかもまた微妙なとこのを……。
 偶然一致しただけか?

「キラキラ、ネームか。その発想はなかった」

「そうか? クラスで数人、学年なら普通にあったぜ。アダムとかマリオとかロミオとかプリンとかレモンとかよ」

 ……いや、いないよ?
 そんなにクラスでありふれてるの、そういう名前。
 智樹って、もしかして僕らよりもずっと後の時代から来た、とか?
 いやそれならキラキラネームなんて言わないか。
 普通になってるならそんな呼ばれ方しないだろう。

「そ、そんなもんか」

「んなもんだよ。大方……女神ハモハニャムニーとかだったりするんじゃねえの、知らんけど」

「っ!?」

「なんだよ」

「い、いや、今何かその名前を聞いて無性に物凄く恥ずかしくなった、ような?」

 どっかで聞いたか、ハモハニャムニー。
 知る限り知り合いにはいない、な。うん。

「ふぅん、お前にも弱点みたいなのがあるって事かね。お前、それに響も。力の構成が一対一に重きを置いてるよな。俺みたいに対多数を前提にしてる奴から見ると効率は悪くても、無敵にも見えて羨ましくもある」

「ならタイマン向きの装備を用意すればいい」

「!?」

 なんで驚いた様な顔つきになる。
 ごく普通の返答じゃないか。

「智樹は装備でタイプが変わる、力の構成、ってやつじゃないか。悪く言えば装備頼り、良く言えば装備次第で万能。ネトゲとかで課金の暴力の結果なれたりする最強型の一つじゃないか? 智樹の場合は女神の祝福と大国グリトニアの圧倒的な国力の結果可能になった、ってとこ?」

 智樹はどう考えてもあり得ない魔道具への適性を持ってる。
 女神の祝福とか加護かもしれない。
 それはつまりアイテムボックスがあるこの世界では……あらゆる装備を持ち込んでの臨機応変な戦闘が可能になるって事だ。
 そして元々の身体能力は日本人だけあってかなり高い。
 僕が知る限りの智樹は飛竜に騎乗して空中からの高火力連射で敵を掃討、が定番のスタイルだけど軍を相手にする戦闘ではそれが最適だと智樹が判断したから。
 空からなら先行すれば味方も巻き込みにくいし。
 なら、対個人を前提にした最適装備ってのを智樹が考えない筈がない。
 そういう強力な魔道具やアーティファクトを持っていけばいいだけだ。
 幸い、多分智樹は何でも力を引き出して使えるんだろうから。
 まさか無機物まで魅了してる訳じゃないだろうな、と少し怖くなるよ。

「おい、帝国の宝物庫を覗いた事でもあるのか?」

「ないよ。帝国では白い砂漠で観光した思い出しかない」

 おばさん事件、あれは不幸な誤解と無謀な悪意が導いた悲しい事件だった……。

「やだねえ、勇者で露出は隠せないとはいえ大して親しくもないお前にそこまで知られてるってのは」

「勇者様の宿命だ、諦めろ」

「……へいへい。で、俺はまだ数日はこの街にいる。石探し、協力してくれたら魅了は一切ここでは使わない。女神と勇者の名において誓う。どうする?」

 試すような目で僕を見る智樹。
 答えはとうに決まってる。
 女神が指示し、智樹が先輩を待つ間の時間の有効利用だったとしても戦場を離れてまで手に入れにきたもの。
 興味がある。
 それに、僕はこれでも荒野とこの街を拠点にする商会の代表、商人だ。
 ここに客がいて、品を探してる。
 やる事は一つだ。

「もちろん、先生は生徒を魔の手から守るもんだ。人知れずでも、キモイと蔑まれてもね……」

「……蔑まれるくらいなら辞めて商人一本でいきゃあいいのに。テイムと、あの異様な力があれば荒野とかいう危険地域も散歩だろうに」

「で、とりあえずの指針がいる。石と言ってたな。含まれる条件とか、逆に全く含まれない条件はあるか?」

 恰好を付けてみたところで、実際ただ石と言われても困るのは事実。
 魔力を含むとかサイズとか色とか、装飾品にはまってるなら装飾品の方の外観とか。
 何か少しでもいいからとっかかりは欲しい。

「俺が触ればわかるんだそうだが……ああ!」

 良かった。
 智樹は何か心当たりがあるみたいだ。
 ……正直なところ、石系のアイテムは多い。
 片っ端から集めるのも不可能じゃないけど、数日でというのは流石に無理だ。

「教えてくれ」

「魔力を持たない宝石、だ」

「そ、それだけ?」

「ああ。いや……そういえば、確か大切なのは波長だって言ってたな」

「波長」

 波長、なにそれ?
 ……あちょ、と、自重しよう。

「世界のどっかに俺専用の何かがある訳じゃなく、パワーストーン? みたいな感じだそうだ」

「パワーストーン、か」

「俺はパワーストーンみたいなものとか言われても全く興味無かったしイマイチわからん。ヒントになるか? 学園の貴重品やら博物館の展示品にありゃあ、楽なのによ」

 なるほど。
 姉と妹に挟まれた僕を舐めるなよ。
 パワーストーンね。多少はわかるとも。
 で波長。
 多分、相性ってやつだと思う。
 勇者専用の物じゃない。
 つまり……智樹に適応する、或いは智樹が適応できる相性の良い種類の宝石があるのか。
 質の良し悪しはそれ相応に見るとして、大事なのは種類を揃える事とみた。
 なら荒野から日本でも見かけた宝石やらこっちにしかない宝石やらをかき集めてみるか。
 魔力がなくそれなりの質があるの、だな。
 大きさは……。

「大きさに指定はないのか?」

「身につけられるサイズじゃないと困る」

「装備品にするか。とはいえ大事なのは石なんだよな」

「ああ。最悪石だけでも見つかれば身に着ける為の台座やヘッド、チェーンなんかの装飾はこっちでやれる」

「わかった。じゃあ、三日後だ」

「良いね。そういう自信は好きだ。なるほどなぁ、あんた、本当に商人なんだな」

 僕の言葉を聞いて、顔を見て、智樹は口角を上げてニヤッと笑って言った。
 自信がある表情をしてただろうか。
 だったとしても当然だ。
 僕はこれでもクズノハ商会の代表、商人のライドウですよ。

「……あ」

「?」

「いや、何でもない。じゃ三日後、そうだな、昼にでもクズノハ商会の店に来てくれ」

 ……。
 普通の商人としての仕事って実はかなり久々じゃなかろうかと、ふと思ってしまった。
 こんな風に直にお客さんに接して商談をするとか本当に久しぶりだ。
 智樹に少しばかり感謝してしまった僕だった。

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