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五章 ローレル迷宮編
獣騎士と魔人
ほぉ、と巴が感嘆の情を込めて息を吐いた。
彼女は周囲を見渡している。
どこを見てもそこには先ほどまでいた場所の戦闘が映っていた。
アズノワールが長大な日本刀を振り抜いた直後、高嶺と六夜が頷いて両陣営にこの場所への移動を提案してきた。
始まりの冒険者も、ピクニックローズガーデンも味方からの提案だけに反対はない。
クズノハ商会サイドは巴と澪を顔を見合わせて数秒後に頷いた。
彼らが真とアズノワールの戦いに人質という愚策を用いる輩ではないと判断したのだ。
同時に、術に割いていた力が戻った巴と澪には彼ら全てを敵に回しても最悪亜空に皆を帰還させらせる自信があったという理由もある。
「なるほどのう、この迷宮の管理者というのは伊達でもはったりでもなかったか」
「……わかるんですか」
「環境の管理という点では儂らも似たような事をしとるでな。ここがどのような場で、どういう機能を持っているかは想像がつくとも」
「……それと」
「?」
巴の言葉の後に澪が続く。
高嶺は割り込んできた澪を意外そうに見つめている。
「この場に私たちを案内したという事は、停戦の意思を示す誠意である事も。迷宮の心臓部の一つですね、ここ。もし暴れたら致命的な損害も出るでしょう」
「……ご明察で。事実上の一騎討ちを呑んでもらった以上、この位は当然でしょう。正直こちらが不利でしたしね。今回の条件で本気で殺さずの決着を望むなんて今でも信じがたいですが……まあそいつを本当だと信じての誠意の一つと思ってくれたらありがたいですね」
『……』
高嶺の言葉に傭兵団から心底の同意を示す視線や吐息が溢れた。
中にはモニター越しに見える真に仄暗い敵意を向ける者もいる。
今回の戦いの主因であるピオーネについてはただ俯いて震えていた。
真の言葉が本当であれば、彼女は己の憎悪を捨て去るくらいに仲間の死を延々と経験し続けたのだから無理もない。
「確かにこれは手合わせというよりも一騎討ちじゃな。しかしあの男もよくやる。人の身で若とあそこまで渡り合うか」
巴の視線の先では大柄な騎士と魔力の塊に身を包んだ真が壮絶な戦いを繰り広げている。
始まりの冒険者と傭兵団は真に、クズノハ商会の面々はアズノワールに驚きの目を向けていた。
アズノワールの文字通りの大技、雨月一文字で壁に叩きつけられた真は盛大に降り注ぐ岩塊の雨を足場に体勢を整えてマシンガンの如くブリッドを連射。
真の姿を確認する前に巨大な金色に輝く猪に乗ったアズノワールが豪速をもって空を駆けて追撃を仕掛けてきていた。
小さく集中したブリッドの連射、対するは黄金の巨猪とそれを駆る騎士。
ブリッドの全てを巨猪が引き受けアズノワールはその背を蹴ってブリッドの発射点に突っ込んでいく。
だが辿り着く前に岩塊の群れから飛び出す赤い影が一つ。
真だ。
ブリッドを放ち続けながら弓を構え、猪ではなく正確にアズノワールに射線を通す。
先ほどまでより小ぶりになった魔力体もしっかり纏っている。
空を駆ける猪の突進をブリッドの連射で止めつつ、アズノワールにも同様の連射を浴びせ、かつアズサからの数射も射かけた。
猪は彼の狙い通り止まった。
しかし騎士は止まらない。
連射を浴びながらお構いなしに赤い影に突っ込んだ彼は、元のサイズに戻った愛剣をこれまでと変わる事なく豪快に振り下ろす。
魔力体で剣が数秒阻まれ、斬り裂かれる。
真は迫る斬撃を赤いコートの袖から流す様に受け止め、驚きながらも楽しそうな表情を浮かべたアズノワールを殴り飛ばした。
その後もびっくり箱の様に形状や性能を変えるアズノワールの剣を相手に、真は赤色のコートを纏って空中戦を受けて立っている。
「……魔術師でも弓手でも、アズさんとの相性は最悪なのに。なんであそこまで戦えるんだ」
傭兵団から漏れる言葉に巴がため息をつく。
「そりゃこっちの台詞じゃな。あの騎士、幻獣をいくつ従えとる。あの剣もわけがわからんし」
「あれは初めて見るタイプですわね。ただ、私とはかなり相性が良さそうですけど」
「お主ならな。片っ端から幻獣を食い尽くしていくつもりじゃろ、あの剣ごと」
「ええ、色んな味を楽しめそう。巴さんなら……有幻無実は弾きそうですけど五里霧でお仕舞じゃありません?」
「そんなとこじゃの。余裕がある状況なら剣での戦いを楽しみたい相手ではあるが……」
巴と澪はそんな会話をしている。
主を心配する気配は微塵もない。
他のクズノハ商会の面々はといえば、ベレンもシイもホクトも外の世界で見る自分よりも上手の相手に目を見開くばかりだ。
「高嶺君、ここって高嶺君が設定した拠点だよね? って事はアズさんの力って本当なら私たちと一緒で倍増してる訳でしょ? なんで素直にあれをカットしたの?」
緋綱がまだ優れない顔色ながら高嶺に尋ねる。
「……してないですよ」
「え?」
「アズさんは皆さんみたく強化されてます。地の利は戦闘の条件、アズさんルールらしいですよ」
「って事は、ライドウ君も弱体化したまんま?」
「ええ。だからアズさんは苦もなく幻獣を次々召喚して戦えるし治癒力も防御力も高まってます。そんで、あのライドウって人はとんでもない抵抗力はありますけど、全能力大雑把に三分の二程度には抑えられてる……はずですよ」
「うへえ。体力おばけと魔力おばけの戦いかあ。味気もくそもなくなりそうなのに見応えあるのがおっかないね~」
魔力切れの精神的な不快感も手伝って疲れた表情の緋綱が呟く。
「どういう訳かあの馬鹿はライドウ君を本気にさせたいようだがな。何を見極めるつもりか、相変わらず何を考えているのかわからんとこがある。地の利を使わんとそれを引き出せんとは見抜いたようだが……」
六夜がやれやれと呆れた様子で言葉を吐き出した。
「脳みそまで筋肉タイプですからねえ、アズさんは。その分はまると恐ろしい」
「ビアは本気になると戦い方はアズさんよりになるけど、考えはそのままだもんね。狡か……冷静」
「私は説法の為に仕方なく拳を使う事があるだけですー慈愛ですー」
「まあ、遅刻もしたんだ。あの位は戦ってくれんと困る。あの男は我々の中でも一番長く世界に関わってきたんだからな」
「……ですね。ローレルの外にもちょくちょく出てるみたいですし」
「困ったもんです、ギルマスながら」
「戦闘力しか成長しないのも考え物ですよ、まったく」
六夜の言葉に各々呆れた視線をアズノワールに向ける始まりの冒険者の面々。
時折真への賛辞や驚きも混ぜつつ彼らの会話も弾んでいる。
「……あんなのが、今は外で活躍してるわけか」
「とんでもないな。というか、あの実力で部下も申し分ないのが揃ってるのに何で俺達のとこに来る必要があるんだ?」
「興味……あるな」
「アニキ、なんだって?」
「興味があるといったんだヤマト。あの連中が俺たちに何を望んでるんだ? ピクニックローズガーデンを引っ張り出して何をさせたい?」
寡黙な男、アニキと呼ばれた彼がクズノハ商会への興味を口にし、そこからピクニックローズガーデン暗殺者チームでも話が始まっていた。
「ヴィヴィ、どうすんの? あれが落ち着いたら勝っても負けてもクズノハ商会ってのと話をすることになると思うけど?」
「六夜さんとかもあっちにつきそうだよ。正直やった事は許せないけど……無下にもできないんじゃない?」
「アゲハ、クレミュ。ん、そだね。多分、アズさんは、あの子の、ライドウって子のやった事を気にしてくれてると思うんだ。その理由をね」
傭兵団をまとめるヴィヴィが神妙な様子で戦いを見守っている。
隣でうんうんと頷きつつ戦闘をチラ見しているのはノーマッド、通称ノマ。傭兵団の外交担当でもある。
プリーストチームのまとめ役であるクレミュと武闘家と前衛チームのまとめ役アゲハを傍に置いてヴィヴィはこの後の交渉にも思考を巡らせている。こちらはいわばピクニックローズガーデン首脳部か。
「理由ねえ。サイコなぶっ壊れ野郎だから、じゃないの?」
身も蓋もないアゲハの言葉。確かにピオーネへの仕打ちはその答えを導く。
「普通に考えたらね。でもそうじゃなさそう。アゲハの見立て通りただとんでもなく冷酷で手段を選ばない奴、ってならとっくに何人か殺されてる。やった事はえげつない癖に言ってる事はむしろ優しい。この恐怖な人物像の謎にアズさんは迫ってくれてるのかもってね」
「あそこまでなりふり構わず殺しにかかってるような戦い方で?」
「それで戦いになっちゃってるもの。有利の上で全力をぶつけないと本気を、素の彼を覗けないって考えてるんでしょ。きっとね」
「……はぁ。で、私らはこの自信を根こそぎ刈り取られるような戦いを見守らないといけないと」
ノマが苦笑する。一人軍隊と一人軍隊のぶつかり合いを見ている気分だった。
「はい、その通り。とりま、終わりまで見届けましょ」
どこか投げやりにも聞こえるヴィヴィの言葉。
「……ちなみに拠点の修復費用については?」
ひょっこりノマの横から顔を出して尋ねたのは商工部のトップであるドラセナ。
前衛チームにも参加しているが、本職はソロバンをはじく方だった。
「……クズノハ商会さんの財力に期待」
ヴィヴィは少しの間だけ思考を巡らせ、考えるのを止めた。
予想外の出費、真っ赤な数字の桁にはそれだけの威力があった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「開帳、雨月一文字ぃーー!!」
「それはもう、何度も食らった! 来い、銀腕!!」
赤色の武装なら防御も速度も、彼についていける。
そして、あのスクワイアと名乗ったアズノワールさんの戦い方が幻獣の特殊な召喚によるものだって事も把握した。
召喚直後を射抜こうにも、すぐに剣に入ってしまってあの猪と白い鴉以外の獣は的にさえ出来ないけど。
幻獣を剣に憑依させて戦う。
凄い発想、なによりそれを可能にするあの剣が凄い。
見た目はネタ全開だっていうのに性能は超一流。
ベレンは絶対後で触らせてくれってアズノワールさんに頼み込むだろうな。
……無事ならな。
「武具の召喚!?」
「大きいのは良い事!! ですよねえ!!」
馬鹿げたサイズも剣速も織り込み済み。
巨大な刃を二つの銀腕で、掴む。
そしてそのまま間髪入れずに腕に秘められた破壊の力を発動させる。
剣に宿る二種類の獣の気配もろとも、砕く!
「これ、はっ!! ちぃぃぃ!!」
「そこから、引き抜く!?」
アズノワールさんが軋む刃を手にしたまま後方に飛び退く。
剣は手にしたままで!
銀腕が捕えた刀身を無理やり、強引に引き抜いた……。
なんて、人だ。
「黄金猪、死渡鴉!」
あの猪を剣に吸い込んで使う!?
あの耐久力と突進力、どんな剣と技に化ける!?
「っ!」
「開帳、無名不語!!」
アズノワールさんが技の名を宣言して構える。
突きか。
剣のサイズは変わってないけど……。
「速っ!?」
赤コートの僕よりも速い速度でこちらに一直線に突っ込んでくるアズノワールさん。
大柄で筋肉物凄い男が大剣を両手に構えて僕よりも速く。
「はぁぁぁ!!」
裂帛の気合。
銀腕がなければ受けるしかなかった。
ダメージは覚悟して。
だけど、使っても大丈夫だとわかった。
なら、迎え撃つ。
「もう一仕事してもらうよ、銀腕!」
あの人の性格はわかりやすい。
絶対に正面からくる。
他の動きはフェイント。
アズサを構える。
これまでより深く集中して。
……アズさんの眉間を、狙う。
彼はこれでも止まるか、負けを宣言するか怪しい。
不死らしいけど、死への恐れも痛みも、感じないんだろうか。
いや、余計な事を考えるな。
狙う。
「さあ、どう受ける!? その禍々しい腕でか!」
目前にアズノワールさん。
見せるさ、これから。
銀腕で突きを挟むように包み、止める。
そして潰して、あの人を射抜く!!
「伸びろおお!!」
「……」
突きが伸びる。
刀身が爆発的な勢いで伸びてきた。
……そして僕の背は岩壁に近い。
ははは、もう驚くのも飽きたな。
言葉もないとはこの事だろう。
押し込まれる。
けれど銀腕も頑張ってくれている。
刃先が徐々に潰れ、刀身も細まっていく。
どちらが勝つかはどうでもいい。
それは勝負を決めない。
時間さえ出来れば……射てる!!
「冷たく断固たる覚悟を宿した目。ようやく本気になってくれたかな!?」
アズノワールさん自身の加速も、刀身の伸長も勢いは増すばかり。
気を緩めれば一瞬で持っていかれる。
ああ、そんなのはずっとか。
緩めなければ良いだけだ。
不死だろうが、頭をやれば多少は堪える。
元が人ならそれは、確実だ。
「……っ」
せめぎ合う刀と腕。
その間隙に矢を放つ。
見定め、確信した敵の眉間への射線を淀みなく矢が走る。
僕が見守る中、わずかに頭を逸らそうとしたアズノワールさんの動きを読んだように……彼の額に矢が吸い込まれた。
命中。
同時に彼の勢いも、刀身の突きのエネルギーも急激に弱まり、そして止まった。
いくらか伸長し、先が潰れた剣が元の包丁正宗に戻る。
僕の背は壁に押し付けられてた。
アズノワールさんが静かに膝を突いた。
思わず、口内に溜まった唾液を呑み込む。
しばらくぶりに場に訪れた静寂。
ずっとプレッシャーに圧されていた中、ほんの少しの安心が僕の中に生まれた。
「俺は不死だと六夜辺りから聞いてなかったか、ライドウ君!?」
「!?!?」
眉間を射抜かれたままのアズノワールさんがうつむき加減になっていた顔を勢いよく起こし、剣を下段から逆袈裟に斬り上げてきた。
ゾ、ゾンビかよ!?
不死って、不死!?
何を言ってるか自分でももう!
「剣気……」
完全に不意を突かれた。
あまりに想像していなかった展開だった。
「暴走!」
赤のコートに食い込んだ斬撃が、包丁正宗が。
アズノワールさんの叫びと同時に爆裂した。
久しく感じていなかった激しい「痛み」が、僕の全身を打った。
ああ、この人は。
コノヒトハ、キケンダ。
彼女は周囲を見渡している。
どこを見てもそこには先ほどまでいた場所の戦闘が映っていた。
アズノワールが長大な日本刀を振り抜いた直後、高嶺と六夜が頷いて両陣営にこの場所への移動を提案してきた。
始まりの冒険者も、ピクニックローズガーデンも味方からの提案だけに反対はない。
クズノハ商会サイドは巴と澪を顔を見合わせて数秒後に頷いた。
彼らが真とアズノワールの戦いに人質という愚策を用いる輩ではないと判断したのだ。
同時に、術に割いていた力が戻った巴と澪には彼ら全てを敵に回しても最悪亜空に皆を帰還させらせる自信があったという理由もある。
「なるほどのう、この迷宮の管理者というのは伊達でもはったりでもなかったか」
「……わかるんですか」
「環境の管理という点では儂らも似たような事をしとるでな。ここがどのような場で、どういう機能を持っているかは想像がつくとも」
「……それと」
「?」
巴の言葉の後に澪が続く。
高嶺は割り込んできた澪を意外そうに見つめている。
「この場に私たちを案内したという事は、停戦の意思を示す誠意である事も。迷宮の心臓部の一つですね、ここ。もし暴れたら致命的な損害も出るでしょう」
「……ご明察で。事実上の一騎討ちを呑んでもらった以上、この位は当然でしょう。正直こちらが不利でしたしね。今回の条件で本気で殺さずの決着を望むなんて今でも信じがたいですが……まあそいつを本当だと信じての誠意の一つと思ってくれたらありがたいですね」
『……』
高嶺の言葉に傭兵団から心底の同意を示す視線や吐息が溢れた。
中にはモニター越しに見える真に仄暗い敵意を向ける者もいる。
今回の戦いの主因であるピオーネについてはただ俯いて震えていた。
真の言葉が本当であれば、彼女は己の憎悪を捨て去るくらいに仲間の死を延々と経験し続けたのだから無理もない。
「確かにこれは手合わせというよりも一騎討ちじゃな。しかしあの男もよくやる。人の身で若とあそこまで渡り合うか」
巴の視線の先では大柄な騎士と魔力の塊に身を包んだ真が壮絶な戦いを繰り広げている。
始まりの冒険者と傭兵団は真に、クズノハ商会の面々はアズノワールに驚きの目を向けていた。
アズノワールの文字通りの大技、雨月一文字で壁に叩きつけられた真は盛大に降り注ぐ岩塊の雨を足場に体勢を整えてマシンガンの如くブリッドを連射。
真の姿を確認する前に巨大な金色に輝く猪に乗ったアズノワールが豪速をもって空を駆けて追撃を仕掛けてきていた。
小さく集中したブリッドの連射、対するは黄金の巨猪とそれを駆る騎士。
ブリッドの全てを巨猪が引き受けアズノワールはその背を蹴ってブリッドの発射点に突っ込んでいく。
だが辿り着く前に岩塊の群れから飛び出す赤い影が一つ。
真だ。
ブリッドを放ち続けながら弓を構え、猪ではなく正確にアズノワールに射線を通す。
先ほどまでより小ぶりになった魔力体もしっかり纏っている。
空を駆ける猪の突進をブリッドの連射で止めつつ、アズノワールにも同様の連射を浴びせ、かつアズサからの数射も射かけた。
猪は彼の狙い通り止まった。
しかし騎士は止まらない。
連射を浴びながらお構いなしに赤い影に突っ込んだ彼は、元のサイズに戻った愛剣をこれまでと変わる事なく豪快に振り下ろす。
魔力体で剣が数秒阻まれ、斬り裂かれる。
真は迫る斬撃を赤いコートの袖から流す様に受け止め、驚きながらも楽しそうな表情を浮かべたアズノワールを殴り飛ばした。
その後もびっくり箱の様に形状や性能を変えるアズノワールの剣を相手に、真は赤色のコートを纏って空中戦を受けて立っている。
「……魔術師でも弓手でも、アズさんとの相性は最悪なのに。なんであそこまで戦えるんだ」
傭兵団から漏れる言葉に巴がため息をつく。
「そりゃこっちの台詞じゃな。あの騎士、幻獣をいくつ従えとる。あの剣もわけがわからんし」
「あれは初めて見るタイプですわね。ただ、私とはかなり相性が良さそうですけど」
「お主ならな。片っ端から幻獣を食い尽くしていくつもりじゃろ、あの剣ごと」
「ええ、色んな味を楽しめそう。巴さんなら……有幻無実は弾きそうですけど五里霧でお仕舞じゃありません?」
「そんなとこじゃの。余裕がある状況なら剣での戦いを楽しみたい相手ではあるが……」
巴と澪はそんな会話をしている。
主を心配する気配は微塵もない。
他のクズノハ商会の面々はといえば、ベレンもシイもホクトも外の世界で見る自分よりも上手の相手に目を見開くばかりだ。
「高嶺君、ここって高嶺君が設定した拠点だよね? って事はアズさんの力って本当なら私たちと一緒で倍増してる訳でしょ? なんで素直にあれをカットしたの?」
緋綱がまだ優れない顔色ながら高嶺に尋ねる。
「……してないですよ」
「え?」
「アズさんは皆さんみたく強化されてます。地の利は戦闘の条件、アズさんルールらしいですよ」
「って事は、ライドウ君も弱体化したまんま?」
「ええ。だからアズさんは苦もなく幻獣を次々召喚して戦えるし治癒力も防御力も高まってます。そんで、あのライドウって人はとんでもない抵抗力はありますけど、全能力大雑把に三分の二程度には抑えられてる……はずですよ」
「うへえ。体力おばけと魔力おばけの戦いかあ。味気もくそもなくなりそうなのに見応えあるのがおっかないね~」
魔力切れの精神的な不快感も手伝って疲れた表情の緋綱が呟く。
「どういう訳かあの馬鹿はライドウ君を本気にさせたいようだがな。何を見極めるつもりか、相変わらず何を考えているのかわからんとこがある。地の利を使わんとそれを引き出せんとは見抜いたようだが……」
六夜がやれやれと呆れた様子で言葉を吐き出した。
「脳みそまで筋肉タイプですからねえ、アズさんは。その分はまると恐ろしい」
「ビアは本気になると戦い方はアズさんよりになるけど、考えはそのままだもんね。狡か……冷静」
「私は説法の為に仕方なく拳を使う事があるだけですー慈愛ですー」
「まあ、遅刻もしたんだ。あの位は戦ってくれんと困る。あの男は我々の中でも一番長く世界に関わってきたんだからな」
「……ですね。ローレルの外にもちょくちょく出てるみたいですし」
「困ったもんです、ギルマスながら」
「戦闘力しか成長しないのも考え物ですよ、まったく」
六夜の言葉に各々呆れた視線をアズノワールに向ける始まりの冒険者の面々。
時折真への賛辞や驚きも混ぜつつ彼らの会話も弾んでいる。
「……あんなのが、今は外で活躍してるわけか」
「とんでもないな。というか、あの実力で部下も申し分ないのが揃ってるのに何で俺達のとこに来る必要があるんだ?」
「興味……あるな」
「アニキ、なんだって?」
「興味があるといったんだヤマト。あの連中が俺たちに何を望んでるんだ? ピクニックローズガーデンを引っ張り出して何をさせたい?」
寡黙な男、アニキと呼ばれた彼がクズノハ商会への興味を口にし、そこからピクニックローズガーデン暗殺者チームでも話が始まっていた。
「ヴィヴィ、どうすんの? あれが落ち着いたら勝っても負けてもクズノハ商会ってのと話をすることになると思うけど?」
「六夜さんとかもあっちにつきそうだよ。正直やった事は許せないけど……無下にもできないんじゃない?」
「アゲハ、クレミュ。ん、そだね。多分、アズさんは、あの子の、ライドウって子のやった事を気にしてくれてると思うんだ。その理由をね」
傭兵団をまとめるヴィヴィが神妙な様子で戦いを見守っている。
隣でうんうんと頷きつつ戦闘をチラ見しているのはノーマッド、通称ノマ。傭兵団の外交担当でもある。
プリーストチームのまとめ役であるクレミュと武闘家と前衛チームのまとめ役アゲハを傍に置いてヴィヴィはこの後の交渉にも思考を巡らせている。こちらはいわばピクニックローズガーデン首脳部か。
「理由ねえ。サイコなぶっ壊れ野郎だから、じゃないの?」
身も蓋もないアゲハの言葉。確かにピオーネへの仕打ちはその答えを導く。
「普通に考えたらね。でもそうじゃなさそう。アゲハの見立て通りただとんでもなく冷酷で手段を選ばない奴、ってならとっくに何人か殺されてる。やった事はえげつない癖に言ってる事はむしろ優しい。この恐怖な人物像の謎にアズさんは迫ってくれてるのかもってね」
「あそこまでなりふり構わず殺しにかかってるような戦い方で?」
「それで戦いになっちゃってるもの。有利の上で全力をぶつけないと本気を、素の彼を覗けないって考えてるんでしょ。きっとね」
「……はぁ。で、私らはこの自信を根こそぎ刈り取られるような戦いを見守らないといけないと」
ノマが苦笑する。一人軍隊と一人軍隊のぶつかり合いを見ている気分だった。
「はい、その通り。とりま、終わりまで見届けましょ」
どこか投げやりにも聞こえるヴィヴィの言葉。
「……ちなみに拠点の修復費用については?」
ひょっこりノマの横から顔を出して尋ねたのは商工部のトップであるドラセナ。
前衛チームにも参加しているが、本職はソロバンをはじく方だった。
「……クズノハ商会さんの財力に期待」
ヴィヴィは少しの間だけ思考を巡らせ、考えるのを止めた。
予想外の出費、真っ赤な数字の桁にはそれだけの威力があった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「開帳、雨月一文字ぃーー!!」
「それはもう、何度も食らった! 来い、銀腕!!」
赤色の武装なら防御も速度も、彼についていける。
そして、あのスクワイアと名乗ったアズノワールさんの戦い方が幻獣の特殊な召喚によるものだって事も把握した。
召喚直後を射抜こうにも、すぐに剣に入ってしまってあの猪と白い鴉以外の獣は的にさえ出来ないけど。
幻獣を剣に憑依させて戦う。
凄い発想、なによりそれを可能にするあの剣が凄い。
見た目はネタ全開だっていうのに性能は超一流。
ベレンは絶対後で触らせてくれってアズノワールさんに頼み込むだろうな。
……無事ならな。
「武具の召喚!?」
「大きいのは良い事!! ですよねえ!!」
馬鹿げたサイズも剣速も織り込み済み。
巨大な刃を二つの銀腕で、掴む。
そしてそのまま間髪入れずに腕に秘められた破壊の力を発動させる。
剣に宿る二種類の獣の気配もろとも、砕く!
「これ、はっ!! ちぃぃぃ!!」
「そこから、引き抜く!?」
アズノワールさんが軋む刃を手にしたまま後方に飛び退く。
剣は手にしたままで!
銀腕が捕えた刀身を無理やり、強引に引き抜いた……。
なんて、人だ。
「黄金猪、死渡鴉!」
あの猪を剣に吸い込んで使う!?
あの耐久力と突進力、どんな剣と技に化ける!?
「っ!」
「開帳、無名不語!!」
アズノワールさんが技の名を宣言して構える。
突きか。
剣のサイズは変わってないけど……。
「速っ!?」
赤コートの僕よりも速い速度でこちらに一直線に突っ込んでくるアズノワールさん。
大柄で筋肉物凄い男が大剣を両手に構えて僕よりも速く。
「はぁぁぁ!!」
裂帛の気合。
銀腕がなければ受けるしかなかった。
ダメージは覚悟して。
だけど、使っても大丈夫だとわかった。
なら、迎え撃つ。
「もう一仕事してもらうよ、銀腕!」
あの人の性格はわかりやすい。
絶対に正面からくる。
他の動きはフェイント。
アズサを構える。
これまでより深く集中して。
……アズさんの眉間を、狙う。
彼はこれでも止まるか、負けを宣言するか怪しい。
不死らしいけど、死への恐れも痛みも、感じないんだろうか。
いや、余計な事を考えるな。
狙う。
「さあ、どう受ける!? その禍々しい腕でか!」
目前にアズノワールさん。
見せるさ、これから。
銀腕で突きを挟むように包み、止める。
そして潰して、あの人を射抜く!!
「伸びろおお!!」
「……」
突きが伸びる。
刀身が爆発的な勢いで伸びてきた。
……そして僕の背は岩壁に近い。
ははは、もう驚くのも飽きたな。
言葉もないとはこの事だろう。
押し込まれる。
けれど銀腕も頑張ってくれている。
刃先が徐々に潰れ、刀身も細まっていく。
どちらが勝つかはどうでもいい。
それは勝負を決めない。
時間さえ出来れば……射てる!!
「冷たく断固たる覚悟を宿した目。ようやく本気になってくれたかな!?」
アズノワールさん自身の加速も、刀身の伸長も勢いは増すばかり。
気を緩めれば一瞬で持っていかれる。
ああ、そんなのはずっとか。
緩めなければ良いだけだ。
不死だろうが、頭をやれば多少は堪える。
元が人ならそれは、確実だ。
「……っ」
せめぎ合う刀と腕。
その間隙に矢を放つ。
見定め、確信した敵の眉間への射線を淀みなく矢が走る。
僕が見守る中、わずかに頭を逸らそうとしたアズノワールさんの動きを読んだように……彼の額に矢が吸い込まれた。
命中。
同時に彼の勢いも、刀身の突きのエネルギーも急激に弱まり、そして止まった。
いくらか伸長し、先が潰れた剣が元の包丁正宗に戻る。
僕の背は壁に押し付けられてた。
アズノワールさんが静かに膝を突いた。
思わず、口内に溜まった唾液を呑み込む。
しばらくぶりに場に訪れた静寂。
ずっとプレッシャーに圧されていた中、ほんの少しの安心が僕の中に生まれた。
「俺は不死だと六夜辺りから聞いてなかったか、ライドウ君!?」
「!?!?」
眉間を射抜かれたままのアズノワールさんがうつむき加減になっていた顔を勢いよく起こし、剣を下段から逆袈裟に斬り上げてきた。
ゾ、ゾンビかよ!?
不死って、不死!?
何を言ってるか自分でももう!
「剣気……」
完全に不意を突かれた。
あまりに想像していなかった展開だった。
「暴走!」
赤のコートに食い込んだ斬撃が、包丁正宗が。
アズノワールさんの叫びと同時に爆裂した。
久しく感じていなかった激しい「痛み」が、僕の全身を打った。
ああ、この人は。
コノヒトハ、キケンダ。
感想 3,666
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あずみ 圭 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
「お姉様の刺繍は素人ね」と笑った義妹の婚礼衣装——裏地を見た女官十二人が、一斉に針を置いた
歩人(あゆと)「お姉様の刺繍は、素人の手習いに見えますわね」――王太子妃となる異母妹アデリーナは、王宮女官たちの前で姉ローゼを笑った。翌週の婚礼の朝。式典装の最終確認のため、十二人の女官が衣装の裏地を検めた瞬間――一人、また一人と、針を置いた。裏地に縫い込まれていたのは、女官たちが十二年間ずっと探していた一筆の銀糸。即位式の絹外套、二人の王女の婚礼ドレス、亡き王太后の弔意の喪服。王家儀礼衣装のすべての裏地に、同じ手で、同じ糸で、同じ銀の花が縫い込まれていた。「アデリーナ様、これは――あなた様の手では、ございません」縫い手は、ずっと一人だった。それを十二年間、誰の名でも呼べなかっただけのこと。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさんパーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
婚約破棄されたので、王家の死亡通知を先に出しました
くるみ婚約破棄を告げられたセレスティアは、静かに微笑んだ。
「では、王家の救命措置を終了いたします」
その一言で、王国は大混乱。役目を終えたセレスティアは、晴れやかに旅立つ。