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2.カゼひきサラマンダー

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「げほっ、ごほっ、すごい煙……!」
 わたしは思わずせきこんだ。やっぱり、火事じゃん!
 黒い煙が視界をさえぎって、ドアの向こうは何も見えない。
「おら、中行くぞ、エート」
 そう言って、ヴァンは先にドアの内側に入って行ってしまった。わたしはあわてて後へ続く。
「え?」
 足元から伝わる、じゃり、という感触。見ると、下は地面だった。
 さっきまでは、木の板の廊下だったのに。
「あれ?」
 おかしいな、天井がものすごく高い。しかも、岩だ。ごつごつしてて、岩のつららがいくつもある。
 そして、暑い。なんという暑さだろう。まるで、真夏のような、いや、それ以上だ。
 肌がヒリつくくらい、じわっとした暑さが襲ってくる。
 燃えていたのは、どうやらそこかしこに生えている、ススキのような長い草のようだった。乾いているからよく燃えたのだろう。
 ん? 建物に、草?
 煙が少しずつ晴れていって……。
 目の前に見えたのは、広い、広い石づくりの空間。
「……ええーー⁉」
 ここ、完全に洞窟じゃん! 部屋じゃないじゃん!
 後ろを見ると、何もない空間にいきなりドアが浮かんでいた。
 ドアの向こうには、さっきまでいたマンションの廊下が見える。
 何これ⁉
「ヴァン、ここ、どこなの⁉」
「あー、うるせーな。ぎゃーぎゃー騒ぐな。ここは、『お試しダンジョン』の地下二階だ」
「はあ?」
 何言ってるの?
 本来なら、ここは路地裏にあるボロいマンションの、地上二階の部屋になっているハズ……。
 たった今、階段をのぼってきて、二階にあるドアから入ったんだもの。
 それが、なんでいきなりダンジョンの地下二階になるワケ?
「……まさか、空間魔法?」
「そういうこと」
 ヴァンはかる~く言ってみせた。
「ウソでしょ! だって、こんなドア一枚へだてて別の場所に空間をつなげるなんて、聞いたことないよ。空間魔法って、まず自分の魔力を移動先にきざんでないと、座標が……」
「それ以上わめいたら、失格とみなす」
 ぐっ……! 
 うう、黙るしか、ないか。
 それにしても、ダンジョンって……。
 冒険者たちがみんなで集まって行って、モンスターを倒して賞金を稼いだり、お宝をゲットしたりする、あのダンジョンだよね?
 一番奥には、ダンジョンの主である、おそろしい魔王がいるっていうヤツ。
 ヴァンが言うには、ここは、「お試しダンジョン」の地下二階……。
 お試しダンジョンは、このラクシューリカ王国を出てすぐ近くの荒れ地にある、洞窟型の初心者向け練習用ダンジョンだ。

☆☆☆

  初心者ニコニコ大丈夫~♪
  安心の遭難捜索対応! まずはお試しで力をつけよう! 
  ひとり一回百アウィン!
  ニコニコお試しダンジョンへ~♪ 
  お得な回数券もあるよ!

☆☆☆

 って歌、聞いたことあるもん。
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